Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

43 / 82
???「感想を書いてもらうのは射精の百倍は気持ちよかったぜ!?お前も書いてみろよォ!!」


#43 左腕を移植しよう

変わっていく。

得体の知れないモノに変わっていく。

入ってくる。

知るはずのない知識が入ってくる。

 

人(・)体(・)に(・)は(・)八(・)点(・)も(・)急(・)所(・)が(・)あ(・)る(・)。

 

上腕。

鎖骨。

喉笛。

脳天。

鳩尾。

肋骨。

睾丸。

大腿。

これらを『一足』で、『一振り』で粉砕する。

どう振るうべきか。

何を武具とすべきか。

踏み込みは。

握りは。

呼吸は。

 

文字が浮かぶ。こんな文字知らない。

声が聴こえる。こんな声聴いた事がない。

身体が覚えさせられている。こんなの知らない。

これがヤツの戦闘経験。

これがヤツの戦闘情報。

これがヤツの積み上げられた痕跡。

 

俺(・)に(・)最(・)も(・)適(・)し(・)て(・)い(・)る(・)の(・)は(・)投(・)影(・)魔(・)術(・)。

 

古の名工が作り上げた宝剣。武具。

数本の剣。或いは槍、或いは弓。

そのどれもが、ピカピカに美しく…………荘厳で、もはや芸術の領域に踏み入れている。

それら全てに物語(ストーリー)があり、伝説があり、意味があり、意義がある。

そして、『力(パワー)』がある。

 

だから作る。

 

目に見たもの、理解したものならばいくらでも複製する。

否。

それは複製ではなく投影。

術者の創造理念が真作を再現する特殊な魔術。

それを……使いこなせと、心を燃やす熱が言った。

 

冗談じゃない。

できるわけがない。

無理だ。

できるわけがない。

投影なんて知らない。

できるわけがない。

俺はまだその域に達していない。

できるわけがない。

そんな近道は必ずこの身を破滅させる。

 

だいたい、俺は俺だけで手一杯なんだ。熱い。そんな他所のモノを見せ付けられても覚えられないし使いこなせない。できるわけがない。なによりそれだけの力がない。熱い。おまえと俺は赤の他人で何の接点もないんだから身体が馴染む筈がない。熱い。いや、仮に馴染んだところでどうなるか耐えられる筈がない。できるわけがないッ。時間を狂わせてはいけない。熱い。秩序を乱してはいけない。熱い。おまえが俺に手を貸すなんて、そんな事をされても俺にはできるわけがないッ!

 

熱い。

 

熱い。

 

熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。

 

肩の付け根から侵入する熱。

それは、熱されてドロドロになった鉄。

身体を焼き、心を焼き、遺伝子を焼き、熱は強く慎重に広がっていく。

穴が空いている。

穴とは肩だ。

その穴を入り口として、ナニかが無遠慮に身体の中に入ってくる。

 

声が聴こえる。

 

『光は闇の中で輝いている*1』

 

…………………なんだ。

なんだこれは。

一体なんなんだこれは。

俺はどうなってしまうんだ。

 

声が聴こえる。

 

『油断することなく、あなたの心を守れ、命の泉は、これから流れ出るから*2』

 

…………もう熱くない。

熱は急激に冷えていく。

だから、とても心地いい。

そして、いつまでも此処にいたいとも思う。

 

声が聴こえる。

 

『求めよ、そうすれば、与えられるであろう。捜せ、そうすれば見いだすであろう。門をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう*3』

 

声が聴こえる。

優しい声が聴こえる。

まるで子に語りかけるような、まるで誰かを慈しむような、そんな優しい声が。

 

 

◆

 

 

人類が初めて『腕』の移植に成功したのは………

2020年1月。

 

移植された人は、31歳の男性であり、2016年に労働災難で左手と腕の3分の1を失う。

この人に左手と腕を提供した人は、同じ労働災難で左腕全てを切断せざるを得なかったが、手と腕の3分の1の部分は残っていた。

ドナーからの切断手術と、移植手術は午前10時から午後18時までの8時間にわたって軍医病院で同時に行われた。

 

つまり、2002年の時点では、『腕』を他者に移植するなど、夢のまた夢であり、人類がまだ踏み入れていない領域だった。

 

しかし、『奇跡』というものは存外誰もあずかり知らぬ場所で発生する現象である。

 

左腕を失った衛宮士郎だが、心強い味方が2人いた。

 

1人は騎兵(ライダー)。

その真名、ジャイロ・ツェペリ*4。

ツェペリ一族380年の歴史を背負う継承者。

その『回転』の技術は、『鉄球』を媒介とし、さまざまな現象を引き起こす。

ツェペリ一族の『家業』は『死刑執行人』だが、それ以外にもう一つの『生業』を持つ。

それは『医師』という、生命を司る神聖な職業。

 

ツェペリ一族の中でも飛び抜けて優秀で、目覚ましい才覚を持ち、応用を思いつきで実行できてしまう彼の『回転』は、現代医療を凌駕する。

 

【例】(これらもまた一部かもしれない)

・肉体から水分を除去する。

・シリコンも挿入せずに(一時的に)豊胸する。

・両脚をペッタンコにする。

・腕をグルリと曲(・)げ(・)さ(・)せ(・)る(・)。

・体表を硬化(銃弾も通さない)させる。

・肉体の衝撃(ダメージ)を伝導させ別の箇所で肩代わりする。

 

これらは全て『回転』によるもので、つまり…人間の肉体をほぼ自由自在に『操作(コントロール)』できると言っても過言ではないだろう。

 

もう1人は遠坂凛。

穂群原学園2年A組。

冬木を預かる魔術師の家系、遠坂家の6代目頭首。

特性は『転換』の他、『強化』も習得している。

『転換』の特性を活かし、宝石魔術を専門とする。

宝石の中で魔力を流転させ、本来保存できないはずの魔力をストックしておき、宝石に宿った念に乗せてそのまま魔力を解放することにより魔弾として戦闘に転用する。

魔術回路はメインが40、サブが二つあり、それぞれ30。

魔力容量の半分程度なら1日ちょいで回復する。

属性を2つ持てば優秀とされる魔術師にあって、5つの属性全てを兼ね備えた『五大元素使い(アベレージ・ワン)』

午前2時に絶好調を迎える。

 

凛は遠坂家の中でも天才の部類に入る。

割れた窓ガラスの修復や、ちょっとしたケガの治癒も、サラリとやってのけてしまう。

それが器用貧乏になる危険性もあるが、彼女はまだ17歳。

伸び代は十分で、万能の魔術師になる可能性は高い。

その証拠に、遠坂の魔術師が代々魔力をこめてきた最上級の宝石(ペンダント)を用いて、実質的に『死者蘇生*5』さえ実行してしまった。

 

さらに、彼女は『遠坂家』の現頭首だ。

彼女の邸宅には多種多様の『魔術礼装』がある。

その中には、兄弟子である言峰綺礼のコネで手に入れた『聖なるもの』もある。

 

それの名は『マルティーンの聖骸布』と言う。

これは厳密にはレプリカであり……オリジナルは『マルティヌスの聖骸布』というらしい。

マルティーンという名称は、おそらくオリジナルとの差別化の為に名付けられたのかもしれない。

 

少し長くなるが、この聖骸布について紹介しよう。

 

『トゥールのマルティヌス』

キリスト教の聖人。

殉教をせずに列聖された初めての人物で、ヨーロッパ初の聖人でもある。

西暦316年ごろ、ローマ帝国領パンノニア州*6サバリアに生まれる。

ローマ帝国軍の将校であった父の転任で、子供の頃パヴィーア*7へ移住し、後にローマ軍に入隊した。

所属する連隊が、しばらくしてアミアン*8に派遣された時、『マントの伝説』が起こる。

 

ある非常に寒い日、アミアンの城門で、マルティヌスは半裸で震えている物乞いを見た。

彼を気の毒に思ったマルティヌスは、マントを2つに引き裂いて、半分を物乞いに与えた。

この物乞いは『イエス・キリスト』であったといわれ、これが受洗のきっかけとなり、その後ローマ軍を除隊した。

マルティヌスが持っていたほうの半分は……

『聖マルティヌスの聖骸布』として、フランク王国の歴代国王の礼拝堂に保管された。

 

これのオリジナル……

つまり『マルティヌスの聖骸布』の現在の保管場所は『マルムティエ修道院*9』で保管されている。

 

当たり前だが、この『聖骸布』は現在進行形で……『聖堂教会』によって、管理されている。

なぜなら…これが持つ神秘は聖(・)杯(・)並(・)み(・)だからだ。

 

だってそうだろう?

血を受けた食器が万能の願望器と化すのだ。

『あの御方』の身を包んだ布もまた………

ひるいなき神聖なものだ。

 

だから、所詮レプリカと言えども、『マルティーンの聖骸布』も中々の効能を持っている。

 

例えば…………魔(・)力(・)を(・)打(・)ち(・)消(・)す(・)力(・)と(・)か(・)。

 

ここまで長々と語ってしまったが、実はもう一つ重要な事がある。

この二人(ライダーと遠坂凛)がいれば、左腕を失った衛宮士郎にアーチャーの左腕を移植しても、たぶん『生存』するだけなら可能だろう。

 

だが、幾つかの『ハンデ』を抱える事にもなる。

もちろん左腕は動かせないし、常に聖骸布を巻いて魔力を失効させ続けなければならない。

 

だが、幸か不幸か、衛宮士郎の近くには……

『とんでもなく神聖なもの』がある。

 

ライダーと遠坂凛の判断は、果たして、許されるのだろうか?

もし、聖堂教会の敬虔な神父がこ(・)れ(・)を見るとどうなるだろう。

 

『不敬』だと言って罵るのか。

『冒涜』だと言って憤るのか。

或いは、何も言わずに『神罰の代行』をするかもしれない。

私的な怒りではなく、聖職者の『義務』として。

 

 

◆

 

 

気が付けば、焼け野原にいた。

大きな火事が起きたのだろう。

見慣れた町は一面の廃墟に変わっていて、映画で見る戦場跡のようだった。

……その中で、原形を留めているのが自分だけ、というのは不思議な気分だった。

この周辺で、生きているのは自分だけ。

よほど運が良かったのか、それとも運の良い場所に家が建っていたのか。

 

どちらかは判らないけれど、ともかく、自分だけが生きていた。

生きのびたからには生きなくちゃ、と思った。

いつまでもココにいては危ないからと、あてもなく歩き出した。

まわりに転がっている人たちのように、黒焦げになるのがイヤだった訳じゃあない。

 

……きっと、ああはなりたくない、という気持ちより、もっと強い気持ちで、心がくくられていたからだろう。

 

まぁ、でも……まず助からないだろう。

何をしたって、この赤い世界から出られまい。

 

空を仰ぎ見る。

鈍色。どこまでも。

曇り空だ。

そのうち雨が降るだろう。

 

まわりには、黒焦げになって動かなくなってしまった人たちの姿がある。

そして、壊れたストーブ。

折れた竹刀。

穴があいたスニーカー。

錆びたスパナ。

ナメたネジ。

『仁義なき戦い』のポスター。

…このポスター、藤ねぇが置いていったんだっけ。

 

「……………………………は?」

 

藤(・)ね(・)ぇ(・)っ(・)て(・)誰(・)だ(・)?

 

おい、待て……ッ

なにか、なにかおかしいぞ。

そもそも、ここは何処なんだ。

ここは俺(・)の(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)場(・)所(・)な(・)の(・)か(・)ッ(・)!?

 

『人ハ何カヲ捨テテ前ヘ進ム』ガシャガシャ

 

「ソレトモ」ウィーン

 

『拾ッテ帰ルカ?』ガッシャン

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ…

 

な、何だ?こいつは!?

敵か!?

…………敵…?

なぜ、『敵』なのかって疑ったんだ。

いや待て……そもそもここは何処なんだ……?

 

『俺(・)は(・)誰(・)な(・)ん(・)だ(・)!?』

*1:
ヨハネによる福音書1章5節。

*2:
箴言4章23節。

*3:
ルカによる福音書11章。

*4:
マジの本名はユリウス・カエサル・ツェペリであり、実は『ジャイロ』はあだ名。

*5:
夜の学校でランサーに刺殺された衛宮士郎を蘇生した。

*6:
現ハンガリー。

*7:
現イタリア共和国ロンバルディア州パヴィーア県の県都。

*8:
現フランスのオー=ド=フランス地域圏のソンム県の県庁所在地。

*9:
フランス、イル=エ=ロワール県トゥール市、ロワール川の北岸に位置する古いベネディクト会修道院。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。