Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#44 レイジ・アゲインスト・ザ・マシン その①

これは「呪い」を解く物語でもある──

 

その始まり──

 

『呪い』とは…ある人に言わせると自分の知らない遠い先祖の犯した罪から続く『穢れ』と説明する。

 

あるいは────

 

坂上田村麻呂が行った蝦夷征伐から続いている……『恨み』と説明する者もいる。

 

また、違う解釈だと……人類が誕生し物事の『白』と『黒』をはっきり区別した時にその間に生まれる『摩擦』と説明する者もいる。

 

だが、とにかくいずれのことだが『呪い』は解かなくてはならない。

 

さもなくば『呪い』に負けてしまうか………

 

 

 

 

俺の名前は………………

誰なのか………わからない………

この場所はどこなのか…………?

俺はどこから来たのか?

それも思い出せない。

 

あれは知っているぞ……

『対流式ストーブ』だ。

たしかメーカーは『トヨトミ』……

職員室とか生徒会室とかに置いてある。

 

あれも知っている……

錆びてしまっているが、あれは『スパナ』だ。

『スパナ』と『レンチ』の違いもわかる。

先端部が閉じているのが『レンチ』で、U字になっているのが『スパナ』だ。

 

そしてこのポスターは『仁義なき戦い』だ。

いわゆるヤクザ映画。結構グロい。

これは古い映画だから、最近リメイクされた。

2年前に公開された『新・仁義なき戦い。』には、あの『BOØWY』の元ギタリスト……『布袋寅泰』が出演していたらしい。

観ていないから詳しくはわからないけど………

 

算数とか『日本語』はわかる。

靴のヒモも結べる。

徳川家康とかエジソンとかも知ってる……

 

でも自分のことは何もわからない………

名前も、好きな花も、自分が何歳なのかも、まったく見当もつかない。

 

そして目の前で座っている『ロボット』……

意味不明だ。

関連性を感じない。

異質な存在。

まるで夢。それも悪夢寄り。

そいつは瓦礫に腰掛けて動かない。

ガシャガシャと駆動音がする。

頭部は縦にした『ディスク』をまとめた様な感じで身体はプラモデルの骨組みみたいだ。

 

「人は何かを『捨て』なくては前へ進めない………それとも………『拾って』帰るか………?」

 

?…………何を言ってんだ……?……こいつ………

それは男の声だ。

くぐもって聞こえる。

今のところ唯一、話せる相手。

だが不愉快だ。

無性に腹が立つ。

なにか、言いようのない不思議な苛立ちが、心の奥底から湧き上がってくる。

どうしてだろうか……?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

近くにはひしゃげた鉄パイプ。

錆びているが、それなりに硬いだろう。

武器になるはずだ。

 

「うりゃあッ!!」ドグシャアアッ‼︎

 

それで力任せにブン殴る。

甲高い金属音。

ロボットの部品がバラバラになってぶっ飛んでいく。

スッキリはしない。

どちらかと言うと、気分が悪い。

空が赤い。

辺りは燃えている。

その炎は……勢いこそ弱いが、確かに燃えている。

 

「た………助けてくれェ……………お願いだ………そっちへ引っぱり出してくれェェ………」

 

!?

 

「何でこんな目に遭わなきゃならねぇんだ…………オレはただの月手取り14万のサラリーマンだぁ……お願いだ……()()()へオレを引っぱってくれよォォォ〜〜〜〜ッ」

 

ひ、人だ……ッ

男の声だ……!

()()()()()()()()()()()()

 

「何でだよォォォ〜〜〜〜〜〜……何でオレが……こんな目に遭うんだよォ?関係ないのによォ………給料安いんだッ!!」

 

瓦礫の下にいるということは、脚とかの骨はもう潰れている筈………動けないだろうから、火が燃え移ればそのまま火炙りだ……

 

()()()()()()

 

姿は見えない……声だけが聴こえる……

俺以外に『生き残り』がいる。

助けなくては。

 

「おいッ!何処だッ!!」

 

いない。

そこらの瓦礫をどけても、誰もいない。

どういうことだ…?

だが、助けなくては。

誰かが死にかけているのだ。

俺が助けなくっちゃあいけないのだ。

こんな、こんな事で……人が死んでいい筈が……

 

「誰でもいいから妻と娘を……お願いだから……」

 

「ママァ〜〜〜〜〜〜〜……う、ううぅ………」

 

「俺は高校を出たら『警察官』になるんだ………『命をかけて人々を守る』……そうなりたい……」

 

「ァ……ァハ!……アァ……お金欲しいィ………『シュウウエムラ』で化粧品買えるくらい……ァ……カレシにカワイイって言われたい……」

 

「痛でェ……い、痛でェよォ………ぅぅう……」

 

「『青い珊瑚礁』…そこに行けたらいいなぁ………オレの夢なんだ……」

 

「ぼく……マジでプロサッカー選手になりたい……セリエA(アー)のスター選手に………」

 

「どうせこのまま死ぬなら、最後にテキトウに(オンナ)犯せばよかった……どうせ死ぬならさァ……」

 

「ァ……ァア……熱いィ〜〜〜……」

 

「大丈夫よ……必ず守ってあげるから……どんな炎からも…お母さんが……」

 

「まだローンが30年も残ってんだ……俺何のために上司に毎日頭ペコペコ…」

 

「痛でぇよォ〜〜……クソがァ〜〜〜〜ッ!………オレがこんな目に遭ってイイ筈がねェんだよォ……オレは藤村組の『ヤクザ』だぞォ……ッ!」

 

「あたし死にたくない……こんな所でこのまま死ぬのはイヤ……まだ幸せになれていないのに……」

 

「そうだな…『ジワタネホ』に行きたい……小さなホテルを経営して……仲間と共に……」

 

「死にたくない、死にたくない、死にたくない…」

 

「今……一匹……スズメ蜂が…いたんだが……」

 

「ぅ〜う… あァ…ァんまりだァァ…アァ……」

 

「うおあああッ!誰かァッ!ッ!ゥクソババァ!!この際誰でもいいからさっさとこの火を消しやがれェェェェッ!!」

 

「み、水を…誰か…水……喉が…渇いたんだ……」

 

人がいる。

 

人々がいる。

 

焼け爛れた人がいる。

顔が潰れた人がいる。

身体が潰れた人がいる。

脚が潰れた人がいる。

その誰もが炎で燃えていて、のたうちまわっていて、苦しんでいて、死にかけていて………

いや、おかしい。

()()()()()()()()()()()()

死んでなくっちゃあおかしい。

 

この人たち……()()()()()()()()()

 

ああ、そうか。

俺、何で死んでいないんだろう。

この人たちも死にかけているんだ。

 

()()()()()()()()()()()

 

「人は何かを『捨て』なくては前へ進めない………それとも………『拾って』帰るか………?」ウィーン

 

うるさい。

コイツ……ロボット野郎が……

そうだ、コイツも、何で死んでいないんだ。

コイツも死ななきゃあダメだ。

ブッ壊さないと。

 

ボムギッ!

 

「人は何かを『捨て』なくては前へ進めない………それとも………『拾って』帰るか………?」ガシャッ

 

うるさい。

コイツ、どうして壊れないんだ。

早くブッ壊さないと。

 

メギャアッ!

 

「人は何かを『捨て』なくては前へ進めない………それとも………『拾って』帰るか………?」ウィウィーン

 

ふざけるな。

壊さなくっちゃあいけないんだ。

こんな事を、コイツが見せたのか。

だとするなら、絶対に壊さなきゃダメだ。

 

メメタァアッ!

 

「人は何かを『捨て』なくては前へ進めない………それとも………『拾って』帰るか………?」ガシャシャッ

 

人が……死んでるんだぞ。

いっぱい人が死んだんだぞ。

みんな……夢とか…やりたい事とかあったのに……いいヤツばかりじゃあないかもしれないけれど……悪いヤツばかりでもないのに……

誰かの母親とか、父親とか……立派な人とか……

色んな人が、ただ生きていただけなのに。

それなのに。

それなのにッ!!

 

「くそォォォ!この『敵』ッ!!絶対にブッ殺してやるぅぅぅぅッッーーーーーーッ!!!」

 

頭がどうにかなりそうだ。

俺はどうして、こんなにキレてんだ。

俺は……誰なんだ………

 

 

 

 

止まった……指の回転が………

もう回せない……消えた…ぼくの『能力』が……

 

そしてこの状況……

衛宮は『左腕』を失い、遠坂は『弓兵(アーチャー)』を………

手元に残った『リターン』は銀髪のガキだけ。

狂戦士(バーサーカー)』は消えた筈の…バージョン違いになった黒いセイバーにブッ殺された。

 

()()()()()()()

 

うまくいけば、あの………袋にしても敵わなかったバーサーカーを味方に引き込めただろうに……

 

衛宮は『左腕』を失い、代わりにアーチャーの左腕を移植した。

意味不明だ。まるでわけがわからない。

イカれているのか……?

だが、ライダーの『医術』と遠坂の『治療魔術』によって……雑巾みてぇな赤いボロ布でグルグル巻きにした事で、左腕の移植は成功した。

コイツら…現代医学にケンカを売ってやがる。

 

移植には成功した……だがこのままじゃあ、衛宮は左腕から『魔力』が流れ込み、水を目一杯ブチ込んだ風船みたいに弾けブッ飛んで死ぬらしい。

 

だから、ぼくは『左腕』を差し出した。

『遺体の左腕』を…………

気絶している衛宮の左腕。

赤いボロ布でグルグル巻きになっている左腕。

そこに『遺体』を触れさせれば、ボロ布をお構いなしに、ズルズルと中にメリ込んでいく。

物理現象もクソもない奇妙な光景だった。

 

ぼくの『銀甲蟲(シルヴァー・ビートルズ)』は失われた……

おそらく二度とは使用できない。

『遺体』の力は偉大だ……ぼくの予想が正しければ、この遺体は『ぼくたちが求めているもの』よりも、ずっとずっと偉大だ。

だからこそ、衛宮は生き長らえるだろう。

 

()()()()()()()()………

 

吐き気がする。

だから、洗面台に来た。

だけども、台がないから、届かない。

仕方なく、風呂場に入った。

服を着ながら入るのは、何だかヘンな感じだ。

 

「うげェ!ぉおえええええええええぇ」ウエエエアアア

 

ゴボ…ガボゴボ…ゴポッ…ポ……ッ

 

蟲だ。

蟲を吐き出した。

大中小さまざまな蟲が。

身体の何処で育ったんだ……?

ゴキブリみたいな甲虫から、糸みたいな線虫も……

 

ウネウネ………ウネウネ………カササ…ッ……ブーン……

 

クソが。

恐怖で頭がどうにかなりそうだ。

最近タルんでたんだ……こんな思いするなんて……修行始めた時から何回もあったじゃあないか………

 

『ぼくはおまえの優しい兄なんだ』

『他の誰よりも頼れる、ただ一人の兄なんだぞ』

 

そう思って……いや、そう()()()()()()()()

 

だから耐えられるんだ。

こんな、蟲に身体を苛まれる日々も。

長らくこの感覚を忘れられていれたのは、きっと『遺体』のお陰だろう。

 

この、刹那の道標を………魔道という暗闇の荒野に、進むべき道を切り開いてくれていたのは。

 

死神の鎌は、もう首元に添えられている。

衛宮はどうなるのか。

ぼくと同じ……『力』を得るのか。

 

そして、この『命』はいつまで持つのか……

 

風呂場の床タイルで、裏っ返しになった蟲が、クルクルと回り始める。

その回転に美しさはない。

そこに知性はなく、品性はなく、ただどこまでも惨めに踠く蟲だった。

まるで、ぼくのように…………

 

地を這う蟲の一匹が、飢えた獣のように、その鋭い顎で、ぼくの手に牙を突き立てる。

手の甲に穴が開いた。

だが……そこから血は流れない……

痛みも感じない。

 

ただ真っ黒な『穴』だけが開いている………

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