Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

45 / 82
#45 レイジ・アゲインスト・ザ・マシン その②

何回鉄パイプでドツいてもロボットは死なない。

錆びた鉄パイプが折れた。

だから殴った。

手から血が流れても殴った。

なのに、何回殴っても、蹴っても、ブン投げても、ロボットは壊れない。

 

()()()()()()()

 

どうして壊れてくれないんだ。

辺りの人々は静かになった。

死んだのだろう。

誰かが無念を抱いて死んだ。

誰かが世界を呪って死んだ。

誰かが志半ばで死んだ。

 

どうして壊れてくれないんだ(俺は死んでいないんだ)

 

ロボットは瓦礫に腰掛けている。

さっきまでとなんら変わらない。

景色も変わらない。

どこまでも赤い空。

燃える世界。

廃墟と化した誰かの家。

ヒビ割れた道路。

 

ロボットは、静かに俺を見つめている。

 

「心が迷ったなら………()つのはやめなさい」

 

…………!?

 

()()()…心が迷ったらだ… ()つのはやめなさい…『新しい道』への扉が開かれるだろう………」

 

後ろから、声が聞こえた。

振り返る。

誰もいない。

瓦礫と燃える車しかない。

 

何だ……!?

今のは……!?

 

今、後ろに……幻覚か……!?

確かに今、背後に()()()()

幻覚とは何かが違う。

息遣いとか体温があった。

男がいた。

 

ビグッ……ビグッビグッ………

 

しかも、俺の()()がケイレンしている。

こんな事なんか今まで一度もなかった………

今の男は()()()()()()()()()()

 

注意深く辺りを見渡す。

もう人々はいない。

俺とロボットだけだ。

 

もうどうしようもないのかもしれない。

 

あっ。

ふと、目についたものがあった。

 

これ、木刀だ。

懐かしいな。

確か中学生の時、修学旅行で買ったんだ。

慎二のヤツが意外そうにしてた。

『こうゆうの買うタイプかよ』って……

どうゆう意味なのか今でもわからんが。

 

この四つ葉のクローバーの栞。

誕生日の時、クラスメートの女の子からもらったやつだ。

女の子とクラスが変わってから、もうどこへ行ったのかさえ覚えていない……捨てたかったわけじゃあなかったけど……

 

目の前のものは…きっと『捨て』たもの。

()()()()()()()()()』なのか。

なら、このロボットは……ッ!?

 

「いっさいのことを、愛をもって行いなさい*1

 

!?

 

「だ…誰だ………?」

 

ロボットは、()()()()()()()

何を言ってるか自分でもわからないが……

とにかく、目を離した瞬間、視線を戻すとそこには瓦礫に男が腰掛けていた。

 

細身の男だ。

無精髭が生えていて、髪は長い。

()()()()()()()()()

男の右頬は腫れている。

俺が何度も殴りつけてしまったからなのか…?

だが、俺が殴っていたのは()()()()()()()

この男では……ない……

 

男は俺の目を見つめて、そっと()()()()()()()()

 

「な……殴れない……アンタを………」

 

さっきまで抱いていた怒りが消える。

目の前の男は、何も言わない。

もし、今まで殴っていたロボットがこの男なのだとしたら、普通俺に対してブチギレるだろうに……

 

目の前の男が手で十字を切る。

その所作は美しい。

キリスト教徒ではない俺から見ても。

そこに、芸術的な美しさを見出せる。

 

俺は瞬きをした。

 

目の前に、男はいない。

 

()()()()()()()()()()()

 

髪は白く、目は黄金の輝きがある。

俺であって、俺ではない。

だがそれは紛れもなく俺だった。

 

そこで全てを思い出した。

俺の名前は『衛宮士郎』だ。

そして目の前にいるのは『正義の味方』を目指した俺だ。

 

()()()()()()()』か…………

 

だがもう迷っちゃあいない。

もうわかった……!

『倒すべき相手』が………

 

「うおおおおおぉぉぉああッ!!」

 

自分を倒す。

これはその為の『試練』だと受けとったッ!

だから武器が必要だ。

自身の中に、一筋の稲妻を走らせる。

 

投影(トレース)開始(オン)ッ!」

 

イメージするものは『槍』だ。

それがベスト。

そう本能で感じた。

双剣も思い浮かべたが、さっき見た男から、なにかインスピレーションのようなものを共感した。

 

槍。

無銘の槍。

無骨で装飾はない。

一本の木の棒に刃を付けただけ。

それは槍と呼べるのかも怪しい。

だが、それは槍だ。

 

そして、名付けるなら、これは…………

()()()()()()()

この言葉が不思議と浮かんできた。

 

「覚悟はいいか?俺はできてる………」

 

目の前の俺が呟く。

こっちのセリフだ。

イメージするのは常に最強の自分。

目の前の『コイツ()』じゃあない。

闘志が湧いてくる。

誰かに植えつけられた動きではなく………

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そうだ…………

お前()には負けない。

誰かに負けるのはいい。

けど、自分には負けられないッ!

 

たとえ、俺自身が間違っていたとしても……

それを信じた事に、後悔だけはしないように……

 

目の前の俺は双剣を構える。

一拍の間。

その後に激突。

動きに迷いも綻びもない。

どこまでも計算され、検算され、鍛錬され尽くした戦闘方法。

だからこそ、越えるべき相手。

越えるべき試練。

 

剣の舞。

そこに一寸の隙も無い。

故に、行うべきは活路を抉じ開ける事。

一点の矛先。

集中された力の終着点。

向かうべきは脇腹。

ほんの僅かな隙を狙う。

 

剣の舞は必ず途切れる。

()()()()()()()()()()()()

ならば、次にイメージするべきは………

 

()()()()()()()()()

あの運命の夜……刺客によって無様に斃れた夜。

あの時に見た……最高速の槍撃。

命を穿つ必殺の技。

それを再現する。

あの夜に見た忌まわしき命を穿つ槍を……

 

「そこだッ!!」

 

受け継いだ戦闘経験だけでは、俺は生長できない。

飢えなくては………

機械(マシン)』のような、ただ無機質な戦闘情報だけじゃあダメだ。

もっと…騎士のように『気高く』飢えなくてはッ!

 

槍が突き刺さる。

人体の弱点たるその一つ、脇腹に。

故に、それは必殺の槍撃。

目の前に光が広がる。

どこまでも白い光。

 

その眩しさ中に俺は………

一人の男の背中を見た。

 

紅く、大きな…………

赤銅を連想させる、一人の男を。

 

 

 

 

互に忍びあい、もし互いに責むべきことがあれば、赦し合いなさい。

主もあなたがたを赦して下さったのだから、そのように、あなたがたも赦し合いなさい*2

 

これらいっさいのものの上に、愛を加えなさい。

愛は、すべてを完全に結ぶ帯である*3

 

 

 

 

愛している。

心の底から愛している。

穏やかな陽だまりの中で笑っていて欲しい。

どんな顔でも、どんなカラダでも、どんな行動でも、どんな考えであっても受け入れる事ができる。

 

やりたい事が沢山ある。

 

一緒に映画を観たい。

できれば名作に値する映画が良いけれど、駄作であっても構わない。

そして二人で「金返せ!」なんて……プリプリ怒りながら叫んで、ちょっとしてから顔を見合わせて、「なんだかおかしいね」なんて言えたら最高かもしれない。

ホラー映画はどうだろう。

わたしは結構好きだけど、先輩は好きかな。

怖がって手を握ってくれるのかな。

それとも、わたしの前だからって強がるのかな。

案外、ホラー映画が平気だったりして。

どちらであっても嬉しい。

怖がっていたらカワイイって思うし、平気な顔していたらカッコいいって思う。

 

一緒に音楽を聴きたい。

どんなバンドを聴くのだろう……?

男の子は、やっぱりロックが好きなのかな…?

わたしはロックよりも、バラードの方が好きかもしれない。

洋楽が好きなのか、邦楽が好きなのか………

昔は音楽に対して、あんまり興味はなかったけれど、兄さんの影響かな……

一緒にCDをジャケ写だけで選んで、それで「思ってたのと違う!」なんて言いながら、でも意外とこういう音楽も案外いいかもって…二人で笑い合って……それから、ライブとか行ってみたりとか……そんな日があったらいいな。

 

一緒に料理してみたい。

わたしは洋食が得意だから、ピザとか作ろうかな。

アツアツのマルゲリータ。ボルチーニ茸は最近高いけれど、たまにならいいかな。

デザートも作れる。昔教えてもらったから。

ロマノフにイチゴも乗っけちゃおう。

そして、次の日は和食を作ってもらって、お互いに教えあいっこして、日に日に料理が美味しくなっていったら嬉しいな。

 

一緒に楽器もやりたい。

わたしはピアノ、兄さんはギター。

先輩は何が似合うだろう……?

力持ちだからドラムとか似合うかもしれない。

でもベースもいい。

先輩の手って、男の子らしくて、ゴツゴツとしていて、だから、逞しい指がスルスルと動いていたら、キュンとしちゃうかも。

ピアノを弾けると、女の子としてレベルが高い気がする。

別にライブしたいわけじゃあないけれど。

まぁ、兄さんは目立ちたがり屋さんだから、どこかの小さなステージで演奏する機会を容易くもぎ取ってきそうだ。

 

一緒に花を植えたりしたい。

一緒に買い物に行きたい。

一緒に散歩したい。

一緒に旅行に行きたい。

一緒に住みたい。

一緒に寝たい。

 

できれば結婚したい。

色んな人たちに『祝福』されたい。

藤村先生とか、美綴先輩とか……

結婚には『祝福』が必要なんです。

親しい人たちからの祝福が………

でも、できなくてもいい。

ただそばにいるだけでもいい。

 

アレもしたい。

コレもしたい。

もっと。もっと。もっと。

したい事がもっとある。

 

愛している。

心の底から愛している。

ずっと……ずぅーっと………………………

 

わたし、バカじゃないの。

 

愛する人が、わたしのために傷ついてまで戦ってくれている。

それが、どれだけ悦ばしい事か。

それが、どれだけ自分勝手な悦びか。

 

穏やかな陽だまりの中で笑っていて欲しい…?

バカじゃないの。

わたしがやっている事は、その真逆。

こんな自分なんかを『人質』にして、地獄に突き落として、戦いを強いている。

その癖、うわっ面では心配そうにしている。

まるで『わたしはただそばにいて欲しいだけなんです』みたいな顔をして。

悲劇のヒロインみたいに。

 

自分の中の影を覗く。

心の深淵で、渦巻いている欲望。

 

本当は戦ってほしい。

自分を助けてほしい。

今まで振り向いてもらえなかった分、何倍も応えてほしい。

 

その為なら……彼が傷ついてもいい、と。

 

どこまで『恥知らず』なんだろう。

愛しているなんて、嘘なのかもしれない。

だって、わたしはただ求めているだけだ。

求められたら喜んで全てを差し出すつもりだけれど、そんな事を望む人とは思えない。

窘められたり、叱られたりするのかな。

 

そうして、自分の心の中を覗き見て、イヤな気分になった。

死体に群がる蛆虫よりも醜い…わたしの心。

ただ求めるばかりの強欲さ。

 

あっ。

わたし、最低だ。

兄さんは、わたしの為に戦ってくれているのに、兄さんの事、全然考えてない。

 

でも、いいんです。

こんなわたしも、兄さんは許してくれるから。

だけど許してくれるだけ。

受け入れてくれるだけ。

 

『家族』がいる。

それがどれだけありがたい事なのか、わかっているつもりだけど。

 

家族以外にも、誰かを愛したり、わたしを愛してくれる人を探すことは『普通』の事でしょう?

 

それに、実は兄さんにムカつく時もあるんです。

靴下とか裏っ返しにしたままだし、イタリアンヴォーグを読み捨てするし、聴き終わったCDをそのまんまにしていました。

普通1枚のCDを聞き終わったら、キチッとケースにしまってから次のCDを聞くものでしょう?

誰だってそーする。わたしもそーする。

 

なんだかムカっ腹が立ってきました。

 

兄さん、意外とダメな所もあるんです。

しょうがないと思います。

脚が動かないんですもの。

可哀想………わたしのせいで………

本当に可哀想。

だから、好きなんです。

 

わたし、本当に……兄さんも好きなんです。

 

あぁ。

一体どうしちゃったんだろう。

最近わたし、おかしいんです。

ムカつくんです。

たまに、全部ブッ壊したくなるんです。

 

一度くらい、兄さんに怒ってみたいんです。

何で怒りたいのかわかりませんけど。

 

でも、きっと許してくれます。

だって兄さん、()()()()()()()()()()()

*1
コリント人への手紙 第一16章14節

*2
コロサイの信徒への手紙 第3章 13節

*3
コロサイの信徒への手紙 第3章 14節

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。