Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
何回鉄パイプでドツいてもロボットは死なない。
錆びた鉄パイプが折れた。
だから殴った。
手から血が流れても殴った。
なのに、何回殴っても、蹴っても、ブン投げても、ロボットは壊れない。
どうして壊れてくれないんだ。
辺りの人々は静かになった。
死んだのだろう。
誰かが無念を抱いて死んだ。
誰かが世界を呪って死んだ。
誰かが志半ばで死んだ。
どうして
ロボットは瓦礫に腰掛けている。
さっきまでとなんら変わらない。
景色も変わらない。
どこまでも赤い空。
燃える世界。
廃墟と化した誰かの家。
ヒビ割れた道路。
ロボットは、静かに俺を見つめている。
「心が迷ったなら………
…………!?
「
後ろから、声が聞こえた。
振り返る。
誰もいない。
瓦礫と燃える車しかない。
何だ……!?
今のは……!?
今、後ろに……幻覚か……!?
確かに今、背後に
幻覚とは何かが違う。
息遣いとか体温があった。
男がいた。
ビグッ……ビグッビグッ………
しかも、俺の
こんな事なんか今まで一度もなかった………
今の男は
注意深く辺りを見渡す。
もう人々はいない。
俺とロボットだけだ。
もうどうしようもないのかもしれない。
あっ。
ふと、目についたものがあった。
これ、木刀だ。
懐かしいな。
確か中学生の時、修学旅行で買ったんだ。
慎二のヤツが意外そうにしてた。
『こうゆうの買うタイプかよ』って……
どうゆう意味なのか今でもわからんが。
この四つ葉のクローバーの栞。
誕生日の時、クラスメートの女の子からもらったやつだ。
女の子とクラスが変わってから、もうどこへ行ったのかさえ覚えていない……捨てたかったわけじゃあなかったけど……
目の前のものは…きっと『捨て』たもの。
『
なら、このロボットは……ッ!?
「いっさいのことを、愛をもって行いなさい*1」
!?
「だ…誰だ………?」
ロボットは、
何を言ってるか自分でもわからないが……
とにかく、目を離した瞬間、視線を戻すとそこには瓦礫に男が腰掛けていた。
細身の男だ。
無精髭が生えていて、髪は長い。
男の右頬は腫れている。
俺が何度も殴りつけてしまったからなのか…?
だが、俺が殴っていたのは
この男では……ない……
男は俺の目を見つめて、そっと
「な……殴れない……アンタを………」
さっきまで抱いていた怒りが消える。
目の前の男は、何も言わない。
もし、今まで殴っていたロボットがこの男なのだとしたら、普通俺に対してブチギレるだろうに……
目の前の男が手で十字を切る。
その所作は美しい。
キリスト教徒ではない俺から見ても。
そこに、芸術的な美しさを見出せる。
俺は瞬きをした。
目の前に、男はいない。
『
髪は白く、目は黄金の輝きがある。
俺であって、俺ではない。
だがそれは紛れもなく俺だった。
そこで全てを思い出した。
俺の名前は『衛宮士郎』だ。
そして目の前にいるのは『正義の味方』を目指した俺だ。
『
だがもう迷っちゃあいない。
もうわかった……!
『倒すべき相手』が………
「うおおおおおぉぉぉああッ!!」
自分を倒す。
これはその為の『試練』だと受けとったッ!
だから武器が必要だ。
自身の中に、一筋の稲妻を走らせる。
「
イメージするものは『槍』だ。
それがベスト。
そう本能で感じた。
双剣も思い浮かべたが、さっき見た男から、なにかインスピレーションのようなものを共感した。
槍。
無銘の槍。
無骨で装飾はない。
一本の木の棒に刃を付けただけ。
それは槍と呼べるのかも怪しい。
だが、それは槍だ。
そして、名付けるなら、これは…………
『
この言葉が不思議と浮かんできた。
「覚悟はいいか?俺はできてる………」
目の前の俺が呟く。
こっちのセリフだ。
イメージするのは常に最強の自分。
目の前の『
闘志が湧いてくる。
誰かに植えつけられた動きではなく………
そうだ…………
誰かに負けるのはいい。
けど、自分には負けられないッ!
たとえ、俺自身が間違っていたとしても……
それを信じた事に、後悔だけはしないように……
目の前の俺は双剣を構える。
一拍の間。
その後に激突。
動きに迷いも綻びもない。
どこまでも計算され、検算され、鍛錬され尽くした戦闘方法。
だからこそ、越えるべき相手。
越えるべき試練。
剣の舞。
そこに一寸の隙も無い。
故に、行うべきは活路を抉じ開ける事。
一点の矛先。
集中された力の終着点。
向かうべきは脇腹。
ほんの僅かな隙を狙う。
剣の舞は必ず途切れる。
『
ならば、次にイメージするべきは………
あの運命の夜……刺客によって無様に斃れた夜。
あの時に見た……最高速の槍撃。
命を穿つ必殺の技。
それを再現する。
あの夜に見た忌まわしき命を穿つ槍を……
「そこだッ!!」
受け継いだ戦闘経験だけでは、俺は生長できない。
飢えなくては………
『
もっと…騎士のように『気高く』飢えなくてはッ!
槍が突き刺さる。
人体の弱点たるその一つ、脇腹に。
故に、それは必殺の槍撃。
目の前に光が広がる。
どこまでも白い光。
その眩しさ中に俺は………
一人の男の背中を見た。
紅く、大きな…………
赤銅を連想させる、一人の男を。
◆
互に忍びあい、もし互いに責むべきことがあれば、赦し合いなさい。
主もあなたがたを赦して下さったのだから、そのように、あなたがたも赦し合いなさい*2。
これらいっさいのものの上に、愛を加えなさい。
愛は、すべてを完全に結ぶ帯である*3。
◆
愛している。
心の底から愛している。
穏やかな陽だまりの中で笑っていて欲しい。
どんな顔でも、どんなカラダでも、どんな行動でも、どんな考えであっても受け入れる事ができる。
やりたい事が沢山ある。
一緒に映画を観たい。
できれば名作に値する映画が良いけれど、駄作であっても構わない。
そして二人で「金返せ!」なんて……プリプリ怒りながら叫んで、ちょっとしてから顔を見合わせて、「なんだかおかしいね」なんて言えたら最高かもしれない。
ホラー映画はどうだろう。
わたしは結構好きだけど、先輩は好きかな。
怖がって手を握ってくれるのかな。
それとも、わたしの前だからって強がるのかな。
案外、ホラー映画が平気だったりして。
どちらであっても嬉しい。
怖がっていたらカワイイって思うし、平気な顔していたらカッコいいって思う。
一緒に音楽を聴きたい。
どんなバンドを聴くのだろう……?
男の子は、やっぱりロックが好きなのかな…?
わたしはロックよりも、バラードの方が好きかもしれない。
洋楽が好きなのか、邦楽が好きなのか………
昔は音楽に対して、あんまり興味はなかったけれど、兄さんの影響かな……
一緒にCDをジャケ写だけで選んで、それで「思ってたのと違う!」なんて言いながら、でも意外とこういう音楽も案外いいかもって…二人で笑い合って……それから、ライブとか行ってみたりとか……そんな日があったらいいな。
一緒に料理してみたい。
わたしは洋食が得意だから、ピザとか作ろうかな。
アツアツのマルゲリータ。ボルチーニ茸は最近高いけれど、たまにならいいかな。
デザートも作れる。昔教えてもらったから。
ロマノフにイチゴも乗っけちゃおう。
そして、次の日は和食を作ってもらって、お互いに教えあいっこして、日に日に料理が美味しくなっていったら嬉しいな。
一緒に楽器もやりたい。
わたしはピアノ、兄さんはギター。
先輩は何が似合うだろう……?
力持ちだからドラムとか似合うかもしれない。
でもベースもいい。
先輩の手って、男の子らしくて、ゴツゴツとしていて、だから、逞しい指がスルスルと動いていたら、キュンとしちゃうかも。
ピアノを弾けると、女の子としてレベルが高い気がする。
別にライブしたいわけじゃあないけれど。
まぁ、兄さんは目立ちたがり屋さんだから、どこかの小さなステージで演奏する機会を容易くもぎ取ってきそうだ。
一緒に花を植えたりしたい。
一緒に買い物に行きたい。
一緒に散歩したい。
一緒に旅行に行きたい。
一緒に住みたい。
一緒に寝たい。
できれば結婚したい。
色んな人たちに『祝福』されたい。
藤村先生とか、美綴先輩とか……
結婚には『祝福』が必要なんです。
親しい人たちからの祝福が………
でも、できなくてもいい。
ただそばにいるだけでもいい。
アレもしたい。
コレもしたい。
もっと。もっと。もっと。
したい事がもっとある。
愛している。
心の底から愛している。
ずっと……ずぅーっと………………………
わたし、バカじゃないの。
愛する人が、わたしのために傷ついてまで戦ってくれている。
それが、どれだけ悦ばしい事か。
それが、どれだけ自分勝手な悦びか。
穏やかな陽だまりの中で笑っていて欲しい…?
バカじゃないの。
わたしがやっている事は、その真逆。
こんな自分なんかを『人質』にして、地獄に突き落として、戦いを強いている。
その癖、うわっ面では心配そうにしている。
まるで『わたしはただそばにいて欲しいだけなんです』みたいな顔をして。
悲劇のヒロインみたいに。
自分の中の影を覗く。
心の深淵で、渦巻いている欲望。
本当は戦ってほしい。
自分を助けてほしい。
今まで振り向いてもらえなかった分、何倍も応えてほしい。
その為なら……彼が傷ついてもいい、と。
どこまで『恥知らず』なんだろう。
愛しているなんて、嘘なのかもしれない。
だって、わたしはただ求めているだけだ。
求められたら喜んで全てを差し出すつもりだけれど、そんな事を望む人とは思えない。
窘められたり、叱られたりするのかな。
そうして、自分の心の中を覗き見て、イヤな気分になった。
死体に群がる蛆虫よりも醜い…わたしの心。
ただ求めるばかりの強欲さ。
あっ。
わたし、最低だ。
兄さんは、わたしの為に戦ってくれているのに、兄さんの事、全然考えてない。
でも、いいんです。
こんなわたしも、兄さんは許してくれるから。
だけど許してくれるだけ。
受け入れてくれるだけ。
『家族』がいる。
それがどれだけありがたい事なのか、わかっているつもりだけど。
家族以外にも、誰かを愛したり、わたしを愛してくれる人を探すことは『普通』の事でしょう?
それに、実は兄さんにムカつく時もあるんです。
靴下とか裏っ返しにしたままだし、イタリアンヴォーグを読み捨てするし、聴き終わったCDをそのまんまにしていました。
普通1枚のCDを聞き終わったら、キチッとケースにしまってから次のCDを聞くものでしょう?
誰だってそーする。わたしもそーする。
なんだかムカっ腹が立ってきました。
兄さん、意外とダメな所もあるんです。
しょうがないと思います。
脚が動かないんですもの。
可哀想………わたしのせいで………
本当に可哀想。
だから、好きなんです。
わたし、本当に……兄さんも好きなんです。
あぁ。
一体どうしちゃったんだろう。
最近わたし、おかしいんです。
ムカつくんです。
たまに、全部ブッ壊したくなるんです。
一度くらい、兄さんに怒ってみたいんです。
何で怒りたいのかわかりませんけど。
でも、きっと許してくれます。
だって兄さん、