Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#46 7日で一週間

冬木教会。

言峰教会とも言う。

新都郊外の丘の上にある教会で、広大な敷地を持つ。

以前は在住外国人が多かったこともあり、本格的な造りをしている。

その中、礼拝堂………

神父はただ一人偶像を見上げる。

 

「どうした?餌を与えられた野良犬のように、聖職者ならありがたがると思っていたのだが……」

 

その声は背後から。

今まで何処に潜んでいたのか、金髪の青年は愉しむように神父に問い掛ける。

 

「かまわん…初めから執着があった訳ではない」

 

(オレ)にとってのそれは、所詮は大工の倅…その骸……微塵も興味はないが……それを持つお前の『眼』は面白い……」

 

くつくつと青年は笑う。

神父の言葉。

構わない、と告げた言葉をからかうように。

 

無論、それは偽りではない。

金髪の青年には理解できぬだけで、もとよりこの男に『期待』などない。

彼にとってそれは、ただの象徴(シンボル)であり、それは言ってしまえばただの骸に過ぎなかった。

 

「言峰………ならば(オレ)が『それ』の()()()使()()()を伝授してやろう」

 

もし、少しでも『主』への信仰を持つものが、この会話を聞くとするならば、一体どれほどまでに怒り狂うだろう……?

金髪の青年は、不遜にも……よりにもよって聖職者の目の前で『いと尊き御方』を指差した。

より正確には『いと尊きご遺体』を。

 

しかし神父の表情は変わらない。

その鉄面皮に『怒り』の感情は一切ない。

黄金の蛇が唄う。

冒涜の方法を。

禁忌の行いを。

そうして、神父は禁断の果実の在処を識る。

やがて、その鉄面皮は歪んだ微笑みに変わる。

 

それは背信者の眼。

飽くなき渇望はどこまでも不敬な『疑問』を抱いてしまった。

やがてそれは『欲望』となる。

神前において、主さえ問い殺さんとばかりに。

 

 

 

 

魔術師という『生き物』は孤独な生き物だ。

群れることはなく、ただ一人で『根源』に至る道を探求する。

ただそれだけの生き物。

生き物というべきか……?

システムに近いのかもしれない。

他の魔術師とは互いに『利用』し合う事はあるのかもしれないが……そこに『信頼』はない。

『信用』はあるだろうけれども。

 

ここに5人の魔術師がいる。

(ライダーは霊体化している…気まずそうに)

このクソだだっ広い武家屋敷の中に。

衛宮。

遠坂。

桜。

ぼく。

イリヤスフィール(銀髪のガキ)。

 

衛宮と桜は魔術師と言っていいのかは疑問だけどね。

ま、それはぼくも同じか………

 

聖杯戦争に参加したマスターが勢揃いだ。

だが現存するマスターは、ぼくだけ。

ライダーのマスターである、この間桐慎二だけ……

 

そして、今……全く可笑しな状況だ。

何が可笑しいって?

 

だって魔術師たちが雁首揃えて………

 

蕎麦食ってんだから。

 

マジクソ意味不明。

キッカケは遠坂が「晩飯作る」とか言い出して、勝手に衛宮の台所で飯作り始めた。

こっちは食欲全くゼロなので、まだスルスルと食える蕎麦なのはありがたかったがね………

でも半分くらい残してしまった。

残りは寝起きの牛みたいに、ボーッとしている桜のお椀にブチ込んでやった。

しっかりバレなかった。

ボケッとしてるからだ。マヌケが。

 

飯食い終わったら、遠坂は……

 

「じゃ、わたし準備があるから」

 

とか言って、さっさと部屋に帰って行った。

それに銀髪のガキもテクテク着いて行く。

 

イリヤスフィール。

クソガキだ。

可愛げがない。

初対面の時に何て言われたと思う?

 

「よろしくしなくてもいいわシンジ…一応シロウのお友達らしいけど…マキリの息子だもの……」

 

どういう教育受けてんだ。

家庭教師がレイシストだったのか?

ま、そもそもコイツは衛宮をブッ殺そうとしていた頭のイカれたクソガキだ。

これで愛想よく「ご機嫌よう」なんて挨拶されたら、逆にビビっちまうね。

それにしても、あの野郎…アホの衛宮、クソガキをどうやってここまで手懐けたんだ…?全く……

将来は動物園でライオンを担当するといい。

年間労災件数が激減するだろうサ。

 

なんとなく隣を見ると、まだモクモクと蕎麦食っている我が愚妹。

その姿にほんのチョッピリ違和感を覚えた。

 

「おまえ……耳飾りどうした?」

 

「?………あれ、落としちゃったのかな……」

 

正直ぼくとしては、いつまで付けてんの?ってカンジだったから、別にどうという事はない。

 

ただ何となく、あの時は違和感があった。

それは、耳飾りのせいだろう。

………きっと。

 

「兄さん?……お茶取って欲しいんですか……?」

 

こうして見ると、今は特に違和感はない。

うん、やっぱり耳飾りのせいか*1

 

 

 

 

夜。

寝苦しさで目が覚めた。

冬なのに、真夏の熱帯夜にいるみたいだ。

だから庭に出た。

とにかく、この身体を冷ましたかった。

もう今夜は土蔵で眠ろう。

あそこならとりあえず寒い。

 

「ぐっ……!」

 

不意の痛覚に串刺しにされ、目が覚めた。

熱と痛みの元凶は……左腕。

痛みは激痛という訳じゃあない。

骨折レベルの痛みではない。

せいぜい打ち身ぐらいと言ったところか。

聖骸布(遠坂がそう呼んでいた)は巻かれたまま。

がっちりと腕を拘束する赤い布。

俺が気絶している間に、ライダーと遠坂によって処置され、アーチャーの腕を移植してくれた。

 

そして、そこに……慎二が持っていた………

『聖なる遺体の左腕』も宿っているらしい。

別に直接見た訳じゃあない。

だが、聞いたところによると、ライダーから少しの間だけ借りたあの『右眼』のように、俺の左腕の中に埋まっていったらしい。

 

俺、いよいよビックリ人間だ。

英霊の腕と遺体の腕のダブルコンボ。

どんな身体だよ……全く……

 

それでふと、この聖骸布が気になってきた。

 

「案外、布を取れば元通りだったりしてな」

 

口にした妄想は、ひどく魅力的だった。

()()()()()()()()()、左手をグッパーしてみても、()()()()()()

つまり……実感がないんだ。

ホントは俺の腕はなんともなっていない気もする。

 

コレを解いてしまっても…きっと………

 

「……………………フゥ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」

 

肺にたまった憂鬱を全部吐き出す。

丸ごと全部、吐き出す。

そんな馬鹿な話はない。

自分に都合のいい妄想を信じてどうする。

こんなとこ、遠坂に見られたら笑い飛ばされる前に本気で怒られそうだ。

それだけじゃあない。

そこに慎二も加わって、正論でネチネチ説教されるだろう。

アイツの説教、長いんだ。

しかも正論しか言わないから、反論もできない。

中学生の時、無茶ばかりしてたから、その時に毎回こってり絞られていた。

イヤな思い出だ。

 

そんな過去の話は一旦置いておく。

そして今一度、言われた言葉を思い出す。

 

『腕はなるべく動かすな』

『魔術を使うな』

『遺体の事は考えるな』

 

俺の中の『遺体の左腕』には()()()()()()という。

ライダーの予想では、癒す力は『魔力由来』ならかなり効くらしい。

つまり、このまましばらく安静にしていれば、徐々に俺の本来の腕に『治っていく』との事。

眉唾だが、ライダーは仲間たちの中で一番『遺体』に詳しいのだ……それに、ポジティブな情報なら信じた方がいい。

 

最後の遺体の事は考えるなってのは……

たぶん『スタンド能力』についてだろう。

『あの右眼』を借りた時と、また同じ能力が使える様になるのか?

それとも、別の能力か………

そうゆう事を考えるなって言われた。

たぶん、それでヘタに強力な能力を手にすれば、俺が前線に出てきてしまうから、だろう。

それはマズイ。

左腕はあくまで、今は安定している。

だが、この状態で魔術とかスタンド能力を使ってしまえば、不安定になり、誰にも予測がつかなくなる。

だったら、最初からスタンド能力なんて考えない方がいい。

 

今はとりあえず、別のことを考えるべきだ。

桜と慎二の事を………

 

「…………!」ムッ

 

足音を聞いて体を立たせる。

後ろにいる相手……やってきた相手が誰なのかは振り返らなくても判っていた。

カウボーイの様な装束の英霊(サーヴァント)は、いつもより一際真剣そうな表情をしている。

その真剣な顔を、何度か見たことがある。

その時は決まって夜だ。

昼間に見せる陽気で人懐っこい生来の姿ではない。

夜という……『戦闘が近くなる』時は、ライダーはいつだって真剣だった。

もちろん今も……そしてこれからも………

目の前までやってきたライダーは、やはりデカい。

英雄と呼ばれる男たちって、ガタイがデカくないとなれないのかな。

身体がデカいヤツが無表情で黙っていると、やっぱり威圧感がある。

何を言われるのだろう……?

やはり『左腕』についての『警告』とか?

それともこれから先についての『覚悟』とか………

 

「ところでいつ、サクラと結婚すんだ?」ニョホッ

 

「は?」

 

前言撤回。

もしかしたら、ライダーふざけてるかも。

 

「だってよォ〜〜〜おまえさん、もう17だろ?立派な家だってあるし…ガッコー出たら働くワケだ」

 

「いやいやいや、いきなり何言って……」

 

「じゃあサクラと結婚しないのか?」

 

結婚。

桜と結婚か。

イヤな訳じゃあない。

寧ろ良い。すごく良い。

だからって今、しかも何でライダーに。

 

何でさ。

……………いや、ホントに何でさ。

 

「結婚は……そりゃ……桜と………したいけど…

 

「これはおやじの受け売りだがな……」

 

人の幸福とは……家族の中にこそあるのだ。

 

家族を守ることが、国を守ることにつながり、家族がバラバラになるという事は先祖を…そして未来の子孫を軽蔑することにつながるのだ。

 

ライダーはそう……どこか懐かしそうに言った。

 

俺は………騎兵(ライダー)の真名を知らない。

どんな英雄だったのか………

どんな偉業を成し遂げたのか………

けど、そんなの知らなくても判る。

 

ライダーは、信頼できる男だ。

 

最初はチョッピリだけ、ふざけてるのか?と思ったけど……このアドバイスには『説得力』があった。

やっぱり、ライダーは間違いなくイイ奴だ。

それだけは判る。

それだけ判っていればいいかもしれない。

 

「シンジはサクラの幸せを願っている…おまえさんはすでに…それを半分やりとげてるんだぜ……」

 

「……………………だったら、後もう半分だな」

 

「ニョホッ」

 

いつの間にか左腕の痛みが消えていた。

もしかしたら『遺体の左腕』が、俺とライダーを引き合わせる為に、痛みを齎したのか……?

それは流石に考え過ぎか………

けど、結局、こういうのは気の持ち様か。

 

「ところでシロウ……話は変わるが」

 

「?」

 

「オレの鉄板ギャグあんだけど……観る?」

 

「えっ」

 

「タイトル…『これがオレの一週間』」

 

いや、まだ返事してないんだけど。

 

「『月曜日』からァ『日曜日』までの『曜日』をイタリア語でいいます………ただしィ『水曜日』でバカになって……『木曜日』にエスプレッソコーヒーをいれてェ……『金曜日』にスプーンで砂糖かきまぜてェ……『土曜日』に飲み干します…『日曜日』は安息日です」

 

……………マジどういうことだ?

 

「じゃあさっそくいくぜ」

 

さっそくいくらしい。

 

「『ルネディ』月曜日!Lunedi」

 

ライダーはスゴク真面目な顔をして言う。

 

「『マルテディ』火曜日!Martedi」

 

やはり真面目な顔をして言う。

 

「 メェ──────ェ…なんだっけ忘れたァァァ!ワハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

唐突に自身の髪の毛を引っ張りながら凄まじい変顔をかます。

 

「なんだっけなんだっけェェ…へへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

 

その顔のまま髪の毛でエスプレッソコーヒーを淹れる仕草をする。

 

「えっとなんだっけェェ…へへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

 

顔を保ったまま髪の毛でコーヒーをかき混ぜる仕草をする。

 

「ぜんぜん忘れたァァ…へへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

 

髪の毛で模ったコーヒーをグビッと飲む仕草をする。もちろん顔はそのまま。

 

「『ドメニカ』日曜日」

 

今までの狂乱がウソのように安らかな表情をし、手を合わせて顔の横に当てる "眠る" の仕草をする。

 

─────────おわり─────────

 

「どうよ?オレの鉄板ギャグ」

 

「………………………………」

 

ライダーは自信たっぷりに返答を待っている。

ここで俺は─────────

 

 正直面白くない 

 

 すごくいいよ!超イケてる  

 

無難にヨイショしといた。

思いつく限りの言葉で絶賛する。

うまく感情は出せただろうか…?

 

「だろッ!……パクんなよ?」

 

気分よさそうだ。

俺の演技力も捨てたもんじゃないらしい。

ライダーはこれで満足したのか…鼻歌を歌いながらゴキゲンで部屋に帰って行った。

………………これ、何の時間だったんだ?

*1
もしあなたが…4年間も毎日大事に身につけていた耳飾りを無くしてしまったとしたら、一体どうする…?

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