Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
ぼくは『無条件で幸せな空気』が大嫌いなのだが、『うわっ面の仲良しこよし』程、気持ちが悪いものはない。
これはアディショナル・タイムに過ぎない。
ほんのチョッピリだけ足掻こうとも思ったが、ここまで来ると逆に開き直ってきた。
何かして頭のリソースを割かないと恐怖で気がトチ狂っちまいそうだから、なんかゴチャゴチャやってたが、いよいよ来ると全部どうでもよくなってくる。
笑けてくるね、全く………
朝メシ食って鉄球回して、昼メシ食って蟲イジって、そして気がつくと夕方だ。
時刻は六時前。
時間が経つのは早いものだ…………
ここ数日で『回転』以外にも器用な事をできるようになってきた。
まず『痛覚』をシャットアウト。
感覚の遮断だ。
独学じゃあ中々ムズイのだが、こちとら人体改造が毎度お馴染みの『間桐の魔術師』であり、最近習得した肉体操作の『
常々嚥下力が弱まってきたから、そこはなんとか『遮断』しないようにしないとね。
色々げろげろ吐いちまう。
ゲロだけじゃあないんだぜ。
マジ『色々』だ。
まぁ……こうやって一回コツさえ掴めば、一人でも『肉体』をガチャガチャ弄れる。
プラモデルみたいなもんサ。
それにしたって…………
ぼく、まるで人間辞めちまったみたいだ。
だからせめて、人間らしい事をしよう。
例えば……『
夕方なんで、居間に行く。
衛宮は急に部屋から出てきたぼくに対してまるで、『長年引きこもりのニートやってた息子がいきなりリビングにやってきた様子を見た母親』、みたいな反応していたので、すごくウザかった。
というかキモかった。
遠坂は『別に……』といった感じ。
別にマゾヒストってワケじゃあないが、それくらいドライな方がいいもんだ。
イリヤスフィールについては、知らないねぇ。
この銀髪のガキについて話すことはなにもない。
桜は晩メシ作ってるらしい。
ライダーにも食わそうかと思ったが、あの感じだと、もう五人前で確定しているようだし、そもそも律儀にメシ食ってる『
そんなワケで、テレビ見たり雑誌読んでたら、いつのまにやら食卓にやたら凝った料理が並んでいた。
「はい、長らくお待たせしましたー!」
無駄に明るい声が食卓に響く。
どれどれ、今日のメニューは…………
主食:アサリの炊き込みご飯
主菜:エビの包み蒸し
副菜:イカのエスニック風
イリヤ対策:ハンバーグ
ほー、凝ってるじゃん。
えっへんと、と胸を張っている。
そんなドヤ顔されても、こっちは『そっすか』って顔しかできんがね。
「「「おー」」」
パチパチパチパチ。
拍手する
なにが「おー」だ。
なぜ桜がメシ作ったぐらいで拍手するのか意味わからんし、それでいて無駄に和やかムードなのもワケわからん。
まぁ別になんでもいいけどね………食うか。
「………………………………………………」
…………わーお。
思わず箸が止まってしまった。
チラリと見ると、全員の箸も止まっている。
気まずい沈黙。
この食卓に並んでいる色とりどりの料理は、そのどれもがチグハグだった。
はっきり言ってマズイ。
バランス悪い味付けだ。
塩加減は辛すぎるし、胡椒も入れすぎてる。
米はベチャベチャだし、アサリは砂抜きしてないし挙句の果てには殻の破片も混じってた。
いつもの100倍酷いデキだ。
こんなの衛宮に比べたらカスも同然だね。
そして戦犯である桜はというと、箸ポロポロ落としたり、一口食べては首を傾げたりと、それはまぁ酷いモンだった。
こりゃあマズイね。二重の意味で。
「オイオイオイオイオイオイオイオイオイ」
「え…………兄さん……?」
「お前さ、まじナメるなよ………調子悪い癖に台所にしゃしゃり出て人様にこんなメシ食わせておいて、何を『わたくし何でもございません』なんて顔してるワケ?」
「おい慎二ッ!」
てめーは黙ってろよアホの衛宮がよォ〜!!
遠坂と銀髪のガキみてーに黙ってろ………
「そ…そんなコト…わたし、どこも悪くなんか…」
「ならテメーはポケモンみてーに『1、2のポカン』で忘れたか、ぼくたちにクソマズイ晩飯食わせようとしたかの二択になるんだよボケが〜〜〜ッ」
あぁ〜〜〜ッ!
まじムカつくなぁ〜〜〜ッ!
なんでかなァ〜〜〜!?えぇ!?
空気のせいかなぁ………?
この空気のせいかも…………
こーいう『うわっ面だけの仲良しこよし』がマジでキライなんだよ………
誰もナニも言わねーから気づいてないとでも思ってんのか…?
特に遠坂……テメーが『特に』だ………
銀髪のガキはクソどうでもいいがな………
そして桜…………………
あぁクソッ……『状況証拠』が多すぎる…………
そこも含めてだ………含めてなんだ…………
なんでか知らんし興味もないが…………
遠坂の『目』が変わった。
元から
あいつ、マジの『魔術師』になった。
そして
とっくに気づいてやがる………………
アホの衛宮はまだかもしれんが、時間の問題だ。
そして、ぼくは衛宮の『結論』がどうなるかについて、『答え』を知る事にビビってしまってもいる。
そうだ、このぼくがだ…………………
もし、コイツの『結論』が、ぼくの期待を裏切るモノだったとしたら、なんて………………
『恐怖』してしまっている………………
そしてそれが一番ムカつくのだ………!
あぁ!そうさ!ビビってんのさッ!!
衛宮にも遠坂にも………………
そして何より………………
『桜』にも……ビビってるのだ……………
この、ぼくが………よりにもよって………
◆
時刻は夜の十時。
夜の巡回をする時間だ。
昨日、俺たちは『攻撃』された。
たぶん影の仕業だろう…………
動きは緩慢で、遠坂だけで対処できるレベルの『敵』だったが、それが一般人だとしたら……?
もしもの時の為に、巡回は必要だ。
一応俺もそれなりに戦える。
もしかしたら足手まといになるかもしれないが………
それでも、またボケッと突っ立って遠坂に全部『おっかぶせる』のは御免だ……!
巡回の準備前………
桜を部屋まで連れて行って、ほんのちょっとだけ『お説教』して、一応寝かしつけた。
なんだかんだ言って疲れてたのか、ベッドで横になった途端、丸太みたいになってすぐ眠った。
そして俺は、その様子を手を握って見守った。
今日の鍛錬で、俺は『投影』に成功した。
成功率は今のところ『
尤も、俺が投影に成功したのは『無銘の剣』だけ。
それ以外の……例えば『短剣』とか『槍』とかはまだ投影に成功していない。
鍛錬中……アーチャーの記憶と技能を垣間見たが、アイツの投影魔術は決して『無銘の武具』を創るだけじゃあない。
『英雄たちの武具』を創るのだ。
目指すべきは『宝具レベル』の投影。
判りきってはいるが、困難な道だ。
だが、やらなくてはならない。
出来るか出来ないかではない。
『
色々考えながら、無言で歩く。
いつもの街並み。いつものルート。いつもの寒さ。
………その異常さに気づいたのは、町中に下りてからだった。
「………静かね………いや、
傍らで小さく、遠坂が呟く。
そう。
彼女の言う通り、ここは静かだ。
ここ数日、夜になれば町は大きな廃墟そのものだ。
家の明かりがない。
街灯すら真っ暗だ。
新都とは正反対になる、郊外一歩手前の町並み。
そこは一切の明かりがなく、ここから見ると黒い壁そのものだった。
気分が悪い。
具体的にどこが悪いか…?
それすらもわからない。
吐きそうな気もするし、頭痛がする気がする。
眩暈とか耳鳴りとかあるわけじゃない。
なのに、なんだか気持ちが悪い。
胸焼けに似ている感覚と、首元がチリチリとする感覚が、町に下りてからずっとしている。
それが、とても気持ち悪かった。
「そこの家、入ってみましょう」
そう提案されたから、手袋はめて身近な家屋に侵入する。
表札を通り過ぎ、開いていた玄関を抜け、一応靴を脱いで、廊下を歩く。
一階のリビングの電気を点ける。
誰もいない。
冷蔵庫には、まぁまぁ中身があった。
飲みかけの牛乳パック。
ラップされた大皿。
卵は甘酢じょうゆ漬けになってタッパーに入っている。
食卓は少しだけ油汚れがあった。
流しには皿が溜まっている。
一階はもう回った。
二階に上がる。
子どもの部屋なのか……?
青いインテリアを基調とした部屋だ。
青い壁紙、青いカーテン、青い布団。
勉強机はゴチャついている。
教科書はクタクタで、黒いランドセルが乱暴に投げ捨てられていた。
ピカピカのサッカーボールが、部屋の片隅に転がっている。
壁には『マンチェスター・シティ』のポスター。
この部屋の少年はサッカー好きなのだろうか。
家屋の中は大体見た。
誰もいない。
生活感はあったのに。
まるで『営み』から『人だけ抜いた』みたいだ。
それも全て『影』によるもの……………
影はこの町の住民を平らげようとしている。
それに昨日『少年』が言っていた、不可解な言葉。
『黒い服のお姉ちゃん』
心当たりがある。
ヘルター・スケルター。
それが名前。
追跡者を『厄災』で妨害する存在。
おそらくは『スタンド能力』だ。
だから『少年』はああなったのだ。
つまり……………………………
この『影』の正体は……………
彼女しかありえない。
この『影』の正体を……………
俺はもうとっくに気づいている。
よせ。
状況証拠がありすぎる。
やめろ。
寧ろここまであからさまな事があるのか。
ありえない。
どう考えてもそうとしか思えない。
考えるな。
だって確証がない。
理由がない。
動機がない。
そんな筈はない。
あってはいけない。
認めるわけにはいかない。
だが、そう思えば思うほど…………
あまりにも確証がないから、その直感が真実なのだと思ってしまう。
止めろ。馬鹿な事は考えるな。
頭を振って、目蓋を閉じる。
あの影の残り香にあてられたのか?
そんなんじゃあダメだ。
俺がしっかりしなくてどうする?
こんなザマじゃ遠坂に笑われる。
いや……怒られるかな。
あいつの叱咤激励はだいぶ『クる』だろう。
逆に調子崩しちまいそうだ。
頬を叩いて、目をかっ開く。
「悪い遠坂、ちょっ………と………………」
いない。
誰もいない。
俺の傍らには、確かに遠坂がいたのに。
俺は歩いていた。
走っていない。
そして走り去った音も聴いていない。
突然だ。
突如だ。
唐突にだ。
遠坂が消え、俺は一人ぼっちになった。
あいつがイタズラするとは思えない。
あいつが急に席を外すとも思えない。
ならば……ならばこれは…………