Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
寝る前は基本的にカモミールティーを淹れる。
心がリラックスする作用があるし、消化促進の効果だってある。
(たぶん)ライダーはコーヒー党だが、ぼくは名誉イギリス人なんでね…やっぱり
この洋館はバリアフリーもクソもないので、階段を降りてキッチンを使ってお茶淹れるのも一苦労。
自室の電気ポットでお湯沸かしてそれで淹れる。
文明だね。
「『聖杯』ってよォー『なんでも』願いが叶うんだろ?おたく…願いは『無い』って言ってたけども」
霊体化を解いて急に質問してきた……
羨ましいな…暇そうで……
こっちは息してるだけでどこかしら痛いってのに。
「なんか勝手にミス・トオサカと
「だろうな……でも、ああでも言わなきゃ交渉出来なそうだったんでな………無論あっちも分かってるだろうが……霊体化解かずに黙ってくれてて助かったよ」
「おたくもどーせならなんかないワケ?ブレゲ社製の時計とかビルの権利書とかよォ」
「……そうだな、『個人的』な願望はある」
「6000万円とか?」
「もう一度『脚』が動くようになることだ」
窓に貼り付いて(意味もなく)望遠鏡で外を眺めていたライダーが、初めてこっちを見た。視線は動かない脚に向けられる…それはどこか懐かしむような顔をしていた。
「でもよォー…オマエのおじいちゃんが『聖杯』持ってっちまうんだろ?」
「『脚』を治すくらいなら勘弁して貰えるさ……『聖杯』さえ手に入れれば『ぼく』も『桜』も用済みだから解放する…何処へなりとも行けってさ」
熱々のお茶を啜りながら、なるべくライダーの目をじっくりと
ウネウネ……ウネウネ……
ここで一つ…注意しなくてはいけない……
『修行』を始めて間もない頃……一回だけ『殺蟲』の呪いをかけた『魔術礼装』を作ろうとした。
なるべくバレないように立ち回っていたつもりだったが、この館の中は全て監視されているのだろう……すぐにバレて蟲蔵に呼び出された。
そして、一瞬でも刃向かおうとした『罰』として、一晩中『拷問』された。
クソジジイの『拷問用』の使い魔(蟲)にそこら中刺されまくったお陰で、しばらくの間…顔から下がブツブツ腫れまくったし、顔中の穴という穴に燃えているマッチ棒を突っ込まれているような感覚がして……痛みだとか不快感だとか、そんなチャチな表現では収まらないほどの仕打ちを受けまくって、思い知らされた。
『今は無理だ』……と。
なるべくこっそりと魔術回路を開く。
この際、身体の中にある『拍車』の様なものが回り始め、回転が始まる……そんな
拍車はゆっくりと回転し始める……音を立てないようにゆっくりと……
この部屋は盗聴されている…そしてこれはあくまで予想だが…
ウネウネ……コソコソ……
なのでライダーから目線は外さない。
ゆっくり…ゆっくりと……海の中を歩くように…アリに似た蟲を軍隊の集団行動のように…ぼくの背後の壁に動かしていく。
『セイハイ ワタサナイ カナラズ コロス』
ぼくからの
ライダーはニヤリと笑って…そのクソ趣味の悪い『GO!GO!ZEPELLI』と刻まれた金歯を覗かせた。
「兄さん…起きてますか?」
控えめなノック。蚊の鳴くようなちっせぇ声。
珍しい来客だ。
いつの間にかライダーは霊体化している。
気を遣ってくれたのかもしれない。
「……なに?」
「あの……先輩の事なんですけど……」
こいつが『先輩』とだけ言う時は十中八九、衛宮の事だ。
あのアホがどうかしたのだろう…?
「…左手に…『令呪』がありました…」
ッ!?
こいつ…マジに言ってんの…?
なぜ…なんで
「兄さん…お願いします…何でもします…私はどうなってもいいです…だから先輩
「……桜…部屋に帰れ……」
「っ……お願いします……どうか…」
手が震える。
怒りだとか、驚愕だとか、一言で言い表せない感情が
「帰れって言ってるのが聴こえないのか…?」
「兄さん……」
俯いた顔から、次第にエネルギーが消えていく。
桜は泣かない。
それはぼくがこの家に帰って来てからもそうだし…おそらくこの家に養子に来てから数日後には、既にそうなっていたのだろう。
そんなヤツが、今は泣きそうな顔をしている。
一体どれだけアイツが大切なのか…?
分かっているとも…未だにこの妹は……
自分がどれだけ残酷な運命に囚われているかも分かっちゃあいないクセに…この期に及んでこのぼくを
そしてアイツは…いつも『正しいことの白』の中にいて…一緒に居るだけで『勇気』をくれる存在ってのもな…
分かっているとも…
かつては
いざそれが自分にとって
自分が救われようと望めば望むほど…
宿命が雁字搦めに縛りつけてくる。
「お前は誰かを生贄にするのか?」と…
何かを差し出せと…宿命が忍び寄ってくる…
『助けて欲しかった』
『だからと言って犠牲になるのは見てられない』
『
フンッ…血の繋がりなんて無いのに全く同じだよ。
それで今度は、そんな
ぼくから言わしてみればオマエの方が可哀想だ…
だがな、マジなめるなよ……
ぼくは
ジジイをブチ殺して、衛宮も生き残らせて、聖杯ブン取って、ついでに遠坂の
……やれやれだね。
これが『兄貴』の辛い所だな。
いつもなら睨みをきかしてやれば、すぐに蜘蛛の子散らすようにどっか行くのに、強情にこっちを見ている。睨むとまではいかないにしても、たしかな意思の強さを感じる。
「いいからもう部屋に帰れ…考えといてやるよ」
しばらく睨み合いが続く。
目に涙を溜めて、悲痛に歪む顔が映る。
それでもぼくは目を逸らさない。
「……おやすみなさい…兄さん」
とうとう観念したようだ。
トボトボ部屋に帰っていく愚妹。
廊下から足音が聞こえなくなった。
…………………フ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ライダーァァァーーーーッ!!!!ぼくを乗せて
刹那、視界が一回転する。
グルウウゥ〜ッン
どこから現れたのか…?突如栗毛の若馬が空間転移の様に現れ、ぼくは瞬く間にライダーと2ケツしていた。そしてそのまま窓(無駄にデカかったお陰で助かった)を突き破って高速で駆け抜けていく。
馬のスピードじゃあない。
高速道路でアクセルベタ踏みしているスポーツカーなんて比じゃない程のスピードを、ライダーの背中越しでも感じる。
これが
「我が
マジどういう理屈だッ……訳が分からんぞッ!
なんで今まで現界してなかった馬が会ったこともないヤツの匂いを嗅ぎ分けられるんだッ!?とか色々言いたい事があったが、
日本の歩道は狭い。それが住宅街なら尚更だ。
しかし、そんなことは
稲妻のように駆け抜けるその馬は、正確無比に道を辿る。
数秒が経った。
激流のような景色が色を変える。と同時に…
大地を揺るがすほどの、膨大な魔力を感じた。
肌を刺すような殺気の暴風。
暴力的なまでの威圧感。
カスの魔術師でも
それはまだ距離のあるここからでも感じてしまう。
間違いなく
チラリと見ると、ライダーが冷や汗をかいている。
こんな格好しているのだ…魔術なんて関わりのない英霊なのだろう……そんなヤツでも
それにしても、大した馬だ…この子は……
確かに怯えている……それは
だがそれでも、
迷いはない。
ぼくの予感が当たっていれば…
あの『
「覚悟は出来ているかァーーーッ!」
見えたッ!敵は数m先ッ!
巌のような巨体!!
鉄柱の様な斧剣!!
狂気を纏う
側には
間違いない……
そしてどちらも背を向けている!
「行くぞッ!
それは身体の中の拍車だ。
火花を散らしトップギアで回転するそれによって、内臓を振り絞るような圧迫感と、ドロドロの溶岩の様な熱を感じる。
内部の骨を伝ってキイキイと金切り音が聴こえる。
それを全部無視して、『強化』の魔術を己に使う。
腕だけの
視界に映る世界はスローモーションだ。
ライダーは未だに馬上。
『敵』とはまだまだ距離が開いている。
ゆっくりと動く腕が懐に入っていく。
それは『武器』を取り出す為だ。
ニューナンブM60。
日本の警察用拳銃。
38口径。装弾数5発。
必死こいて作った暗示効果の霊薬を用いて、警察からパクった、ぼくにとって唯一の『武器』。
銃をパクられた警官は懲戒処分になったと次の日のニュースでやっていたっけかな…
どうでもいいことだが……
この拳銃自体には何も工夫出来なかったが、『弾』には細工をしてある。
同じく拝借した.38スペシャル弾には、ぼくの『血液』が
ドォンッ!ドォンッ!ドォン!
引き金を引いた。またもや『拍車』を回す。
血を卵とし、鉛の繭を喰らい破り、蟲が
血と弾丸を糧に一瞬で顕現したその蟲は、弾丸なんか遥かに凌駕する硬度と、着弾した場所に張り付いて肉に噛み付く獰猛さを併せ持つ。
放たれた3発。
螺旋を描く。
終点は、あの化け物の側に立つ、白銀の少女。
「オラアアア!!!!」
前方、馬の鞍を踏み台に飛び上がったライダーが、いつもぶら下げているあの『鉄球』を全力で投擲する。
拳銃の弾丸をも置き去りにする超高速の『鉄球』が、山の岩肌の様な巨体に吸い込まれていく。
『このまま再起不能には出来なくとも、ダメージは間違いなく与えられる筈だッ!』
そんな淡い期待は…………
「ふぅーん……この程度?」
天使のように透き通る…
悪魔のような嘲笑によって…