Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#60 ラン・ラン・ラン その③

走れ。

走れ。

走れ。

ただひたすらに。

ただガムシャラに。

過剰なまでの筋肉増強剤。

それが『左腕』から身体に流れ込む。

戦闘経験だけではない。

肉体的な機能まで、(衛宮士郎)に流れ込んでくる。

だがそれでいい。

仮にそれが『猛毒』であったとしても。

かつてより速く走れるのならば。

 

『馬』に乗るライダーとイリヤ。

この森の中、馬はブレる事なく疾走する。

流石は『騎兵(ライダー)』の相棒。

倒れている大木や木の根を軽々と躱していく。

 

刹那。

ギチン、と左腕が疼いた。

 

「っ…!」

 

白い髑髏が見えた。

スライド写真のように流れていく木々の隙間………間桐臓硯のアサシンが逃げる俺たちを嘲笑うように併走している…!

 

「ま……」

 

ずい、思った時には手遅れだった。

 

高速ですり抜けていく木々の向こう、アサシンは僅かに左腕を振りかぶり………

 

ギャルギャルギャルギャルッ!!!

 

「!?」

 

俺の眉間に突き刺さる前に、『回転』しながら馬と併走する二つの『鉄球』が、光る短剣を弾き飛ばしていた。

 

息を呑む。

これはライダーの『鉄球』だ。

馬上から投げられたそれは、自由自在に馬の周りを飛んでいる。

それはまるで『衛星』のようだ。

加速したり減速したり。

自由自在に動きながら、馬上の『護衛対象(イリヤ)』を守護している。

………ライダーは不快そうに眉を曇らせたまま、併走する黒い暗殺者を一瞥する。

 

「お嬢ちゃんは任せたぜ、かわりに『アレ』はオレがブッ飛ばすッ!」

 

「なッ…………本気か!?」

 

ライダーの馬は減速し始めている。

コイツ、マジだ。

本気で俺にイリヤを託すつもりだッ!

 

「甘ったれんなッ!!誓いを立てたのなら『家族』のために守り続けろォーッ!!」

 

ッ!!

そうだ。

確かにライダーの馬は(はや)い。

そしてライダーも強い英霊(サーヴァント)だ。

だが、それではイリヤはどうなる?

流れ弾に当たるかもしれない。

ライダーがイリヤを守る事に専念するあまり、不覚を取る可能性だってある。

ライダーはアサシンを相手取るつもりだ。

ならば『()()()()()()()()()()()()()

馬は限界まで減速した。

俺が追いつけるギリギリの速度。

しかし、イリヤは怯えている。

当たり前だ。

俺だって、初めて馬に乗った時は予想よりもずっと地面から離れている事にビックリしたんだ。

それがまだ、身長の低い少女なら、尚更怖い筈だ。

だが、もういよいよヤバいんだッ!

馬の脚を止めるワケにはいかないッ!!

 

「イリヤァーーーッ!!跳べェーーーッ!!!」

 

「う…………うう…………うううううッ!」

 

銀の少女が飛ぶ。

その白い髪が宙に線を描く。

イリヤは跳んだ。

勇気を出して跳んだ。

怖かっただろう。

こんなことは初めてだったに違いない。

なら、俺はどうするべきだ?

『妹』の……まだ小さい『妹』の勇気ッ!

それを全力で、全身全霊で受け止めるッ!

もしそれが出来ないというのなら、俺は…『兄貴』なんかじゃないッ!!

『カッコいい兄貴』なんかじゃあないッ!!

 

「うおおおおおおおおおッ!!」

 

ガッバァッ!!

 

抱き止める。

馬から跳んだ勢いは凄まじい。

立って受け流せない。

だから転がった。

みっともなく地面に転がった。

それでも決してイリヤを離さない。

離してたまるものか。

ギュッと全身を抱きしめて、なるべく俺の肩と背中で衝撃を受け流す。

そして、すぐに立ち上がり、背負って走る。

イリヤが何か言っている。

けれど、聞こえない。

今の俺にそんな余裕はない。

 

…………もう殺気は感じない。

背中の向こう。

おそらくライダーはアサシンと戦っている。

『誓いを立てたのなら』

ライダーは、確かにそう言った。

()()()()……………

アンタの言う通りだ。

 

 

 

 

その馬の名前は『ヴァルキリー』という。

年齢は4歳。

性別は雌。

品種はストックホース。

8呼吸ごと一度、体を左にぶらしながら走るクセがある。

 

『ストックホース』とは…………

原産はオーストラリア。

性格は穏やか。従順で勇敢。

強靭な脚とバランス感覚。

急な方向転換や加速減速もなんのその。

長時間の移動にも耐えうる豊富なスタミナ。

それが、ストックホースという馬なのだ。

 

『ヴァルキリー』は騎兵(ライダー)の愛馬である。

 

彼女は『ジャイロ・ツェペリ』を信じている。

彼女には言葉がわからぬ。

それでも、この『騎手』を信じている。

この『(ストックホース)』が人間と信頼関係を築きやすい品種だからではない。

ただ、これまで過ごした『時間』と『経験』

それまでの『道のり』を共に歩んできたから。

たったそれだけの事。

 

彼女たちはとある『レース』に出場した。

それはそれは、長い、長い、レースだった。

海岸を走った。

荒野を走った。

砂漠を走った。

山岳を走った。

森中を走った。

湖畔を走った。

雪原を走った。

街道を走った。

 

長かった。

とにかく長かった。

そして険しかった。

とにかく険しかった。

ケガもした。

死にかけたりもした。

辛い道のりだった。

眠りにつく前、ぬるーくしてくれたコーヒーを飲みながら『レース』に思いを馳せた事すらあった。

 

そして『レース』の最後。

最も愛した人間。

共にこれまでを歩んできた相棒。

たった一人だけの騎手。

『ジャイロ・ツェペリ』は死んだ。

 

彼女には言葉もわからぬ。

ただ、死んだ事は判った。

そこで彼女の『レース』は終わった。

 

それから、彼女は牧場の中で生涯を終えた。

 

かつては『駿馬』として大地を駆けた。

それが『馬』の『生き甲斐』だから。

それが『馬』の『使命』なのだから。

それが『馬』の『宿命』なのだから。

 

()()()()()()二十一年後。

彼女は老いた。

もう走れない。

草もうまく食べられない。

水も飲めない。

日に日に衰弱していくだけの生活。

その最期。

薄れゆく意識の中。

彼女はかつての『荒野』を思い出す。

 

相棒。

愛した人。

最期まで『わたし』の『騎手』だった人。

 

彼女は想う。

『もう一度だけ彼を背に乗せたい』と。

 

もし、それが叶うのなら……………

 

そうして、彼女は眠った。

永い間。

ほんとうに、永い間。

 

かつての『夢』を見ながら。

 

眠り続け、眠り続け、ようやく目が覚めた時。

目の前には、かつて愛した『人』がいた。

 

未だ忘れない『誓い』

決して忘れぬ『使命』

 

走る事。

ただひたすらに。

 

それしか出来なくてもいい。

それしか知らなくてもいい。

言葉がわからなくても。

全てを知らなくても。

 

彼女は走る。

最愛の人を乗せて。

 

彼女は思う。

 

森の中。

薄暗い森の中。

大木を避け、木の根を躱す。

なにか、光るモノが飛んできている。

それでも走る。

大丈夫。

『彼』は、わたしを守ってくれる。

ずっと、これからも、守ってくれている。

 

だから、わたしは走る。

 

 

 

 

イリヤを抱えたまま森を走る。

背後には振り向けない。

そんな余裕はない。

 

足がもげそうだ。

いくらイリヤが軽くても、キツイ。

キツイもんはキツイ。

足場が悪い。

それがどうした。

心臓が爆発しそうだ。

それがどうした。

 

追いつかれたら、死ぬ。

それだけが『真実』

 

速く。速く。速く。速く。

今よりもっと。もっと。もっと。

背後の気配は刻一刻と近づいてくる。

もっと速く……走らないといけないのに……!

 

「▇▇▇▇▆▆▆▅▂」

 

クソッ!!

だというのに離れないッ!!

追いつかれる。

追いつかれるッ!

追いつかれるッ!!

追いつかれるぞッ!!!

 

「だめ、止まってシロウ…………!!!!」

 

!?

 

イリヤが叫ぶ。

その、全身全霊をこめた忠告に、心より身体が反応した。

 

「バ」

 

両足を止める。

土を抉りながら身体を止め、背負っていたイリヤを地面に降ろす。

 

旋風は真横から。

木々を蹴散らしながら『追手』は俺たちの真横から殴りつけてきたのだ……!

 

身体が弾け飛ぶ。

気がつけば、俺は宙を舞っている。

咄嗟の防御。

手に持っていた『無銘の剣』

それは持ってきたヤツじゃあない。

『その剣』はとっくに何処かで捨てた。

だから、この一撃で粉砕された『剣』は、俺が、このコンマ数秒の間に、直観的判断で投影したもの。

咄嗟の防御の時……………

俺はそれを強化して、ダイヤモンド並みの硬度にまで仕上げた。

にも関わらず、今では焼けた飴のようにひしゃげている。

 

相手に、ならない。

まるで相手にならない。

衛宮士郎では、あの怪物を止める事さえ不可能。

 

「が……ッ………!」

 

咄嗟に腕を伸ばす。

果てしなく飛ばされる筈の距離を、自分から木の幹にぶつかる事で停止させた。

 

背中から堕ちた。

全身に激痛が走る。

鋭い痛みが、ゆっくりと全身を駆け回る。

だがそれでも身体は動く。

 

「ねぇ、どうしたの……バーサーカー……?わたしだよ、わからないの?」

 

イリヤの声。

泣いている。

愕然としている。

弱々しい声。

今にも消えてしまいそうだ。

 

…………………見ると、目の前には黒い敵。

もう目も鼻も口もない。

目の位置で赤く光る双眸。

あれは、もはや『眼』と呼べるのだろうか。

全身は黒い泥に侵食されている。

それが胎動している。

それが蠢いている。

その魔力の波動は黒い。

目に見えている。

本来は見えないものなのに。

見える筈もないのに。

規格外。

とても人間では到達し得ない領域。

 

「▇▇▇▇▆▆▆▅▂」

 

咆哮。

『アレ』が………咆哮だと…?

ただ吠えただけ。

にも関わらず、それは、まるで………!

『爆発』だッ!!

爆弾による『大爆発』そのものじゃあないか…!

 

走る。

飛ばされた距離は十メートルほど。

この距離。

ダメだ。

間に合わない。

フツーなら間に合わない。

時間が止まっている。

俺は『選択』をしなければならない。

時間が止まっている。

全てが灰色に見える。

 

仮に()()()彼処(あそこ)に突っ込んで………

それで、どうなる?

死体が二つに増えるだけだ。

 

俺は『選択』をしなければならない。

 

踏み込む。

身体は軽い。

時間はスローモーション。

身体は間に合う。

必ず間に合う。

 

ならば。

 

()()()()()()()()……!

 

だから。

 

模索し検索し創造する。

ヤツに勝てるモノ。

この場でヤツに太刀打ちできるモノは。

 

明瞭だ。

 

即ち、ヤツが持つ斧剣以外有り得ない……!

 

「うおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」

 

メギャンッ!!!!

 

このジャマな布を外す。

最後の『切り札』

もしかすると、最期の『切り札』

今、切らなくてどうする。

 

「▇▇▇▇▆▆▆▅▂▇▇▇▇▆▆▆▅▂!!!」

 

 

 

 

 

──────────────────防いだ。

 

『投影』は当然のように成功した。

巨人の斧剣を受け止めた。

 

「          あ」

 

亀裂が入る。

投影で作り上げた斧剣に亀裂が入る。

それは、同時に………

 

「▇▇▇▆▆▆▅▂▇▇▆▆▆▂!!!」

 

「うおああああああああああああああァッ!!」

 

使ってはならないモノを使った俺への、死に近い反動だった。

 

弾かれる。

巨人の第二撃を防いだ斧剣は粉々に砕かれ、俺の身体も、ゴミのように地面に転げ滑っていく。

 

亀裂が入る。

意識に亀裂が入る。

考えられない。

散らばっていく。

自分が散らばっていく。

それを必死にかき集める。

 

左腕が反乱する。

血液が氾濫する。

手の甲の『歯車』が回る。

ギャルギャルギャルギャルッ!』と回る。

それは、悲鳴に似ている。

 

「─────────────、あ」

 

強い風の中にいる。

強い光の中にいる。

見失いそうだ。

なにを?

わからない。

あまりの痛みでわからない。

探している。

見失いそうだから。

それだけは、ダメだ。

見失ってはいけない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!

 

「シロウ!しっかりして!自分を見つけなさい!」

 

イリヤがいる。

俺は倒れている。

黒い巨人から十メートルほど離れている。

 

「─────────────!」

 

意識が戻った。

悠長に倒れている場合じゃあない。

身体、身体はまだ動く。

 

それだけだ。

 

肝心なのは中身。

俺は、まだ戦えるッ!

 

「イリヤ、一旦離れるぞ……!」

 

イリヤの手を握って立ち上がる。

 

「もういい……もういいから逃げて……!」

 

うるさい。

駄々を捏ねるな。

こんな状況で。

頭が回らない。

回らないから、完全に頭にきた。

 

「今はそんな場合じゃあないだろッ!」

 

「あっ………!」

 

イリヤの腕を引っ張る。

小さい。

小さい身体。

まだ小さい身体。

なのに、俺を助けようとしている。

その心が、ひどく、尊いものに感じられた。

 

だから、戦う。

『理由』はそれだけで充分だ。

 

「いいか?『兄貴』は『妹』を守るもんだ………!本当に『カッコいい兄貴』ってのは『家族』の為に『覚悟』を決めて戦えるんだッ!」

 

「はあ!?ばっかじゃないの、わたしはシロウの『妹』なんかじゃあないもんッ」

 

「いいんだよ!一度でも『お兄ちゃん』なんて呼ばれたら兄貴は兄貴だ!たとえ血が繋がってなくてもイリヤは俺の『妹』だろうがッ!」

 

そうだ。

俺は知っている。

本当に『カッコいい兄貴』ってヤツを。

そいつも『妹』の為に戦っている。

()()()()()()()()()()()戦っている。

大したヤツだ。

本当に、おまえはスゴイ奴だよ。

 

()()()()()()()()()()

 

俺だって『兄貴』をしなくっちゃあな……!

カッコ悪くてあの世に行けねーぜ。

 

「─────────────シロウ」

 

黒い巨人がこちらに向き直る。

 

考えるのは後だ。

イリヤを抱えて走る。

─────少し、異常だった。

自分の知っている脚力じゃあない。

遥かに凌駕している。

それがどうした。

むしろ好都合だ。

 

見覚えのある広場に出る。

 

「ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ…」

 

イリヤの呼吸が荒い。

当たり前だ。

イリヤの『設計』には、はじめから…人間のような運動など想定されていないからだ。

 

「─────────────」

 

頭痛がする。

吐き気もだ。

知りもしない知識が頭に入ってくる。

雑念は邪魔だ。

辺りを見回す。

捩じ切れるくらい首を振る。

目ん玉をピンボールみたいに動かす。

 

「─────────────しめた」

 

幸運。

たった一つだけの。

広場には地割れのような窪みがある。

 

「イリヤ、こっちだ………!」

 

イリヤの手をとって窪みに飛び込む。

そこは塹壕じみた穴。

人間二人分くらいのスペース。

剥き出しの土に背中を預けるイリヤ。

その呼吸は荒い。

まるで萎んでいく風船のようだ。

見ているだけで心が痛い。

この子は、こんなにも、か弱い。

ただの、か弱い女の子。

この子は、最強の魔術師なんかじゃあない。

アインツベルンの最高傑作でもない。

ただの、か弱い女の子。

 

深々と呼吸する。

ほんのチョッピリだけ、頭が冴える。

 

限界だ。

これ以上は逃げられない。

そして我慢もできない。

 

『左腕』を見る。

『歯車』は未だに回っている。

スゴイ速度で回っている。

うまく噛み合っていないのか…?

時々、火花が飛び散っている。

 

「─────────────」

 

『覚悟』を決めろ。

これはまだ……ほんのチョッピリに過ぎない。

()()()()じゃあない。

それが判る。

そういうモノ。

そういう『仕組み(メカニズム)』だ。

 

聖骸布を引っ剥がした。

そして『投影』に成功した。

だが『型だけ真似た』だけだった。

ただの『三流の贋作』だった。

 

これは、おそらくだが………

この『左腕』は『フィルタ回路』だ。

入力された戦闘経験(電気信号)に帯域制限をかけたり、特定の戦闘情報(周波数成分)を取り出すための濾波器(電気回路)

そういうのと同じ『仕組み(メカニズム)

 

昔、慎二に頼まれて……エレキギターとかに使う『エフェクター』の修理をした。

 

その中にあった『フィルター』という種類。

『ハイパスフィルター』

『ローパスフィルター』

または『ノイズ・ゲート』

 

もしかしたら…………………

『それら』みたいな役割なのかもしれない。

 

ならば………………

もし、この『左腕』が、こんな俺のことを、守ってくれているのなら。

 

すまない。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

本当にすまない。

いつか、必ず代償は払う。

一生をかけても払い続ける。

だから、頼む。

 

イリヤに『奇跡』を見せてくれ。

『キミは生きてもいいんだ』

『キミは存在してもいいんだ』と。

 

そうしたら、後は俺が守るから。

絶対、俺が守るから。

作中の小ネタやサブタイトルの元ネタについて解説は必要?

  • どちらも必要。
  • 小ネタだけ必要。
  • サブタイトルのみ必要。
  • どちらも必要なし。
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