Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#61 オーバードライブ

贖いはここに。

己を裏切り、多くの命を犠牲にした。

譲れないモノは変わらず。

その為に在り続ける。

 

左手の甲の『歯車』に触れる。

生きるか死ぬか。

立ち向かうための深呼吸。

たったの一度だけ。

もう時間がない。

『覚悟』を決めろ。

 

『歯車』を回す。

更に回す。

もっと、もっと、もっと。

俺は『歯車』を回した。

 

瞬間。

 

世界が崩壊した。

 

「────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────、あ」

 

風が吹いている。

秒速百メートルを優に超える超風。

人が立つ事はおろか、生命の存在そのものを許さぬ暴風が叩きつけられる。

既に風などではない。

吹き付けるソレは鋼そのもの。

風圧で肉体が圧し潰される。

 

「が」

 

眼球が潰れる。

背中が壁にめり込む。

手を上げるどころか指さえ動かない。

逆流する血液。

漂白されていく精神。

痛みなどない。

 

とける。

対抗する苦悶さえあげられない。

何もない。

抗う術などない。

 

白くとける。

身体も意識も無感動に崩れていく。

前へ。

なんのためにここにいるのか。

それでも前へ。

なんのためにこうなったのか。

あの向こう側に。

なんのためにたたかうのか。

この風を超えて、前へ。

 

─────────────消える。

身体が消える。

心も消えそうだ。

保た、ない

どんなに力をいれても動けない。

自分の全存在を賭けて右手を握り締める。

もう、とっくに、そんなものはないのに。

それでも、握り締めるフリだけでもいい。

実際に出来ていなくてもいい。

そう思うだけでいい。

 

左眼が潰れた。

風鳴りが鼓膜を破る。

薄れていく意識と視界。

その、中で、

 

ありえない、幻を見た。

 

立っている。

この風の中であいつは立っている。

立って、向こう側に行こうとしている。

────当然のように。

赤い外套をはためかせ、前へ。

 

顎に力が入った。

ギリギリと歯を鳴らした。

右手は、とっくに握り拳になっていた。

 

赤い騎士は俺など眼中にない。

俺に何の関心もない。

だというのに、ヤツの背中は。

 

“──────ついて来れるか”

 

蔑むように、信じるように。

 

俺の到達を待っていた。

 

視界が燃える。

風が吹いている。

けれど、俺は飛ばされない。

押し戻されない。

この暴風には流されない。

なぜなら、俺は『十字架』を背負っているから。

重くて、大きな『十字架』を。

かつて、全ての罪を背負った男のように。

あの約束(ゴルゴタ)の丘に向かって歩いた男のように。

 

何も感じなかった体にありったけの熱を注ぎ込む。

手足は、大剣を振るうかの如く風を切る。

ついて来れるか、じゃねぇ。

 

「てめぇの方こそ、ついてきやがれェーーッ!」

 

渾身の力を篭めて、赤い背中を突破した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「▇▇▇▆▆▆▅▂」

 

地上に踏み上がる。

風は途絶えた。

黒い巨人まで、距離にして三十メートル。

ヤツなら三秒とかからず詰める。

──────故に。

勝敗は、この三秒で決せられる。

 

思考は冴えている。

自身の戦力は把握している。

創造理念、基本骨子、構成材質、制作技術、憑依経験、蓄積年月の再現による物質投影、魔術理論・世界卵による心象世界の具現、魂に刻まれた『世界図』をめくり返す固有結界。

アーチャーが蓄えてきた戦闘技術、経験、肉体強度の継承。訂正、肉体強度の読み込みは失敗。斬られれば殺されるのは以前のまま。

 

固有結界『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』は使用不可。

アーチャーの世界と俺の世界は異なっている。

再現はできない。

複製できるものは衛宮士郎が直接学んだものか、ヤツが記録した宝具のみ。

左腕から宝具を引き出す場合、使用目的に最も適した宝具を『無限の剣製』から検索し複製する。

 

一部訂正、『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』は使用不可。

ただし、『無銘の剣製(リミテッドブレイドワークス)』は使用可能。

 

術者の心象風景を現実に具現化する結界。

それは俺の世界。

 

俺だけの『世界(THE WORLD)』がある。

俺だけの『固有結界(リアリティ・マーブル)』がある。

 

無銘の剣製(リミテッドブレイドワークス)』は俺だけの『世界』

それさえ理解(わか)ればそれでいい。

 

「─────────────────────」

 

呼吸を止め、全魔力を左腕に叩き込む。

把握するのは使える武装だけでいい。

もっと前へ。

あの風を超えて、俺は、俺自身を打倒する。

 

「──────投影(トレース)開始(オン)

 

凝視する。

ヤツの斧剣を寸分違わず透視する。

桁外れの巨重。

衛宮士郎では扱えない。

だが……この左腕ならば。

敵の怪力ごと確実に複製しよう。

 

「──────────────、ぁ」

 

パシ、という音。

壊れそうだ。

もうすぐ。

いずれ。

かならず。

壊れるだろう。

 

「──────『覚悟』はいいか?俺はできてる」

 

心配など無用。

壊れるのは今じゃない。

今じゃないなら、それでいい。

我が専心はヤツの絶殺のみ向けられる。

 

「▇▇▇▆▆▆▅▂▇▆▆▆▅▂!」

 

気付かれた。

収束する殺意。

黒い巨人の眼が動く。

黒い、凶つ星のようだ。

 

──────狂戦士。

憤怒のまま、巨人は変わっていなかった。

アレは、未だセイバーとの戦いの中にいる。

目は見えず、正気を失い、二度の死を迎え全身を腐敗させながら、尚、イリヤを守ろうと戦っている。

 

走りくる巨人は一撃では止まらない。

投影魔術(トレース)では届かない。

───────故に。

 

「──────投影(トリガー)装填(オフ)

 

…………………ダメだ。

足りない。

そんなもんじゃねぇだろ……!

自分の限界如きで、目の前の怪物を倒せるか…!

そんなもんじゃない。

自分の限界。

その先へ。

超えて行く(ゴー・ビヨンド)

 

「───────超過駆動(オーバードライブ)完了(オン)

 

脳裏に九つ。

体内に眠る二十七の魔術回路。

その全てを動員する。

 

直列接続。

 

例えるなら『タンデム・システム』

複数のコンピュータを直列に接続して機能を分担し、処理能力を高める。

『タンデムシステム』は1台でも『コンピュータ()』が故障すれば、他の『コンピュータ(左腕)』が正常でも『処理』が不可能となる。

けれど、それでいい。

冗長性なんて、いらない。

 

或いは『エフェクターボード』

アンプという名の肉体。

ギターという名の行動。

その間に『エフェクター』をセットする。

左腕からの余計な情報を制限する『濾波器(ノイズ・ゲート)

肉体の駆動を超過させる『過大増幅回路(オーバードライブ)

この二つのスイッチを踏み込む。

無銘(ザ・スミス)』は、どれに該当するのだろうか?

まぁ……そんなことは、どうでもいい事だ。

 

全工程投影完了(セット)─────是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)

 

振り下ろされる音速を、神速で以って凌駕する…!

 

「───────────────は、あ」

 

目前に迫る。振り上げられる斧剣。

激流と渦巻く気勢。

踏み込まれる一足。

 

()()()()()()()()()()()()

 

上腕。

 

鎖骨。

 

喉笛。

 

脳天。

 

鳩尾。

 

肋骨。

 

睾丸。

 

大腿。

 

「▇▇▇▆▆▆▅▂▇▆…▆▅▂──、……!」

 

倒れない。

全身を撃ち抜かれて尚、未だ健在。

身体の八割はこちらが持っていった。

なのに。

まだ蠢いている。

反則級の特権を全開投入して、なお生きている。

 

『対応』される。

 

二度は通じない。

この狂戦士は『それ』を許すほど甘くはない。

 

『対応』された。

 

もう二度とは通じない。

それが直感的本能で理解できた。

 

ならば。

使うしかあるまい。

 

『歯車』が回る。

俺だけの『世界』が構築されている。

一度で、一振りで、一足で砕けない。

ならば、百度、百振り、百足だ。

攻撃を飽和させろ。

剣の山を築け。

 

反撃はない。

ここしかない。

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

基本骨子、解明。

 

血潮は鉄で心は硝子(Steel is my body,and fire is my blood.)

 

構成材質、補強。

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)

 

製作技術、検索。

 

ただ一度の盲信もなく(Unaware of blind faith,)

 

憑依経験、完了。

 

ただ一度の背信もなし(Nor aware of betrayal.)

 

蓄積年月、完了。

 

担い手はここに独り(Withstood pain to create weapons,)

 

戦闘情報、検索。

 

約束の丘で鉄を鍛つ(waiting on the hill of Golgotha.)

 

戦闘経験、該当。

 

ならば我が生涯に意味は不要ず(I have no regrets.This is the only path.)

 

仮定完了(オール・カット)

 

この体は(My whole life was,)

 

是、即無也(クリア・ゼロ)

 

無銘の剣で出来ていた( "Limited blade works".)

 

俺だけの『世界』

星と満月。

剣と十字架。

荒野。

 

それだけでいい。

 

『投影』するのは『無銘の剣』

ただし、それは『テクスチャ』だけ。

ガワは何でもいい。

所詮は『うわっ面』

大切なのは中身。

『ポリゴン』の方だ。

凡ゆる剣。

常世全ての剣。

そのどれかに該当する情報。

それを詰められるだけ詰める。

ありったけの情報。特徴。長所。

零れ落ちてもいい。

完全再現なんて目指さなくてもいい。

ただ、そのどれかに近づいているのなら。

それは、それでいい。

 

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

『投影』する。

 

全て『無銘の剣』

その剣に『物語(ストーリー)』はない。

『神話』はない。

『逸話』はない。

『伝説』はない。

『伝承』はない。

『想い』もない。

『怒り』もない。

『嘆き』もない。

『呪い』もない。

『祝福』もない。

 

全て『無銘の剣』

だからこそ、俺は『投影』ができる。

 

この無数の剣。

何万、何億、何兆あるのか…?

 

俺には到底数えることもできない。

 

だが、それでいい。

これが『俺の世界』

俺だけの『世界』

 

 

 

 

──────戦いは一瞬。

本当に一息の間に、決着はつけられた。

 

少女が地上に出たのは、少年を止める為だ。

離れていく背中を、どう止めるべきか迷って、言葉など思いつかず、耐え切れなくなって外に出た。

それは時間にして、十秒もなかったと思う。

だが、そのわずかな躊躇いが明暗を分けてしまった。

 

「シロ───────」

 

少年の後を追うように地上に出る。

戦いは終わっていた。

広場には風が吹き込む。

少女の視界には、その背中だけが残された。

 

「─────────」

 

戦いは終わった。

少年は自らの力で、自らの死と戦い、打ち勝った。

 

聖骸布を解放し、巨人を倒した少年の姿は雄雄しかった。

もう迷いは見られない。

彼はあらゆる煩悶を落とした。

灰色のプレートが弾け飛ぶ。

左腕。

肘と肩にあたる部分。

灰色のプレートの下から『歯車』が現れる。

それは『回転』している。

 

「───────────シロウ」

 

その背中を、少女は悲しげに見守る。

別人のような姿、別のものになってしまった体。

彼は、『ナニか』を背負った。

それを一生『背負う』事を選んだ。

愚かで尊い、ある一つの結末。

少女の脳裏に『彼とよく似た誰か』が現れる。

 

「────────────イ、イエ」

 

言えなかった。

少女には言えなかった。

ただ、あまりにも似ている。

外見ではない。

その魂が似ている。

 

彼は決して『救世主(メシア)』ではない。

寧ろ、その逆。

多くを見捨て、僅かな人間を救う。

『正義の味方』とは真逆の在り方。

 

なのに、どうして………………

『十字架』を背負っているように、見えるのか。




これから『感想』を書いてほしいんだが
それってどの辺に停めているのかな?(錯乱)

作中の小ネタやサブタイトルの元ネタについて解説は必要?

  • どちらも必要。
  • 小ネタだけ必要。
  • サブタイトルのみ必要。
  • どちらも必要なし。
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