Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
言峰綺礼は自身の武装を確認する。
告解の
『
もし下級の死徒を相手にするのならば充分な武装。
だが、目の前の『男』が相手では、倒しきれまい。
彼の手には、選ばれた代行者が持つという『聖典』クラスの武装がない。
『
目の前の男は『弾幕』を凌いだ。
言峰綺礼は動かない。
『短機関銃』を投げ捨てる。
弾切れ寸前であるし『
代わりに懐から取り出して指に挟んだ『柄』に魔力を流す。
それはやがて『刃』となり、『黒鍵』と呼ばれる、教会に属する代行者の獲物となった。
『ドメニコ』の周囲には『蒸気』がある。
そして、この場所は教会の『地下』である。
彼の直感が告げる。
最初に『短機関銃』で牽制したのも、その為。
一度、敵との間合いを保ち、冷静に観察をする。
一流の『代行者』には、必ず『切り札』がある。
これは魔術師同士での戦いにも言える事だが………
魔術戦において、真っ向からのブン殴り合いという事は、極めて稀である。
代行者の『切り札』は様々だ。
大抵は『概念武装』だとか『聖典』だとか。
主にそういう『武装』が多い。
実際、言峰の手にある『黒鍵』も『概念武装』だ。
『浄化』に用いる『摂理の鍵』
代行者たちの正式武装とされている。
刀身を太めにしたレイピアの様な形状で、切ることはできず刺すことに特化している。
重さは1kg弱、重心は切っ先に。
刃渡りは1m超で、柄が極端に短い。
剣というよりは手で投げる矢であり、扱いには熟練を要する。
上級者や選ばれた代行者が使う黒鍵は、普段は柄だけにして携帯性を上げ、必要に応じて刀身を魔力で編む仕様になっている。
それに対して、目の前の男は『無手』だ。
その代わり『人型のヴィジョン』が側にいる。
このヴィジョンは何か『蒸気』を噴射している。
間違いなく、この『蒸気』が切り札。
ヘタに突撃すれば『初見殺し』される。
故に、言峰綺礼は動かない。
───────────それが。
「……『アスベスト』って知っているか?」
「なに…?」
悪手だったとは気付かずに─────────
「『アスベスト』は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で『石綿』とも呼ばれている………その繊維は極めて細いから、研磨機や、切断機などの施設での使用で飛散して『吸入』してしまうのだ…………」
ドメニコの、さっきまでの憤怒に染まった表情が…唐突に変わる。
そしてまるで『講義』を行う大学教授のように解説を始める。
冷静に、ハッキリと、分かりやすく、無表情で。
「それは鼻腔、副鼻腔、咽頭、気管支、肺など、人体の中で狭く奥深いところまで侵入する…そして『アスベスト』は非常に高い硬度がある…そりゃあ当たり前だ……鉱物なワケだからな……」
言峰はドメニコが垂れる講釈を無視する事にした。
余りにも『
刃を得た『黒鍵』で以って、真っ直ぐ投擲する。
ガキンッ…!!
防がれる。
ここまでは予想通り。
だが、言峰は
「侵入すると、どうなるか…?『石綿症』になってしまうのだ……そして肺で『炎症』をひき起こす…息切れ、咳、胸痛の症状が出て、後々には肺ガン、中皮腫、肺性心疾患とかになる」
投擲された黒鍵と同じタイミング。
矢の様に直進する黒鍵と同じ速度。
そして黒鍵が『弾かれた』位置の手前まで来ると…
すぐさま真横に飛び跳ね、石壁に向かった。
あの黒鍵は『範囲』の『確認』の為。
『蒸気』は徐々に『範囲』を広げ始めている。
ドメニコが講釈を垂れているのは『時間稼ぎ』
そう判断した。
教会の地下は、そう広くない。
『蒸気』はやがて全域に散布される。
そうなれば『終わり』である。
そういう『想定』をしたのだ。
『蒸気』は広がっていく。
まだ広がっていないのは、壁際。
そして天井付近。
活路は『そこ』にある。
遠回りをしなければならない。
近道を選べば死ぬ。
そういう戦術。
そういう戦法。
目の前の男が悠長に喋っているのは、その為。
「ふんッ…!」
石壁を蹴り、天井スレスレまで高く跳び上がる。
射線に『蒸気』はない。
さっき投擲した方と反対の手を振るう。
放たれる黒鍵は5本。
まるで矢の様に直進する。
その発射速度はさっきとは、比にもならない。
なんなら『短機関銃』よりも早い弾速。
それら全てには強化の魔術『も』付与されている。
右腕に刻まれた『令呪』が紅い閃光を放ち、やがて朽ちて消えていく。
その圧倒的な力は───────
他の武器で例えるなら『対物ライフル』レベル。
それに匹敵する程の運動エネルギー。
それほどまでの破壊力。
それをドメニコは────────
「石綿症に対する『治療方法』はない………なってしまえば一生『対処療法』をし続ける必要がある…そして、もう一生『喫煙』とか出来なくなる」
ドメニコは避けられなかった。
だけれど彼には『覚悟』がある。
目の前の裏切り者は必ず『始末』する。
そう心に誓ったのだから、黒鍵を全て避けられないのなら、せめて身体をズラして致命傷だけ避ける。
超攻撃的姿勢による回避行動。
1本目、唇の端っこを掠める。そのまま耳の下までパックリと裂け、顎骨と耳たぶが砕ける。
2本目、右鎖骨を掠めるように被弾。
3本目、横っ腹に被弾。出血多量。
4本目、右膝に被弾。右脚が逆方向に向く。
5本目、右足に被弾。そのまま弾け飛ぶ。
一回の投擲で、これ。
常人なら掠めるだけで即死する程の威力。
身体強化の魔術を使った代行者相手でも、この圧倒的なまでの破壊力。
だが、なんとか耐え切った。
彼の『覚悟』に応えるように『蒸気』は、みるみる地下の中で広がっていく。
「すまない……今まで散々『石綿症』について解説しておいてなんだが……」
『蒸気』が広がる。
遂には石壁にまで辿り着いた。
天井スレスレにも。
言峰は下がらずを得なくなる。
「貴様が………今から…味わう苦痛は『石綿症』の
地に手をつくドメニコ。
その顔には不敵な笑みがあった。
『やってやったぜ』という顔。
言峰はせめて『息を殺そう』として─────
「ガハッ……ハッ!?」
口から大量の血を吐き出した。
その血の色は薄い。
そしてサラサラとしている。
「水蒸気の粒子は非常に小さく、約0.0004
口から血が吐き出される。
その勢いは止まらない。
ガボッゴポッ…ゴポポッ!
そして『呼吸』もできない。
地上にいるのに溺れている。
鼻で呼吸しようにも、今度は『鼻血』までも、冬のインフルエンザの時の『鼻水』のように、ズルズルと溢れて排出される。
この『鼻血』もまた、血の色が薄い。
「そのまま惨めに、自らの穢れた血で溺れ死ねッ」
人体における『呼吸』の重要性は高い。
その『呼吸』が今、止まっている。
脳に供給されるべき酸素をみるみる失っていく。
身体の内側で巻き起こる激痛。
まるで『体内に剣が生えている』ような痛み。
『フール・イン・ザ・レイン』
散布した水蒸気に『硬さ』を付与する能力。
その硬度は『ジルコニア*1』に匹敵する。
また、『靱性*2』も同様である。
一度でも蒸気を吸い込めば『終わり』だ、という…言峰の『想定』は正しかった。
『激痛』は肉体の行動を本能的に停止させる。
『呼吸困難』も同様に、動きを止める。
今の言峰は翅を捥がれた蟲も同然。
血の池で足掻くその姿は地獄の亡者にも見える。
『生まれるべきではなかった者』の末路そのもの。
それでも言峰は足掻く。
血の池を泳ぎ続ける。
ズルズルと血の跡が伸びていく。
やがて、血に染まった手は───────
『短機関銃』に届いた。
「…………………ッ!!」
ス……ッバババッ!!!
残り僅かに残っていた弾丸が吐き出される。
地に伏せながらの射撃。
にも関わらず狙いは精確であった。
『
的に当てるのは容易だった。
尤も────────────
「貴様ァーーーッ!『罰』を拒否するのかッ!?」
相手は『弾丸』如きで死ぬ程ヤワではないが。
『強化』された肉体は頑丈だ。
例えるならば『岩石』くらいの硬度。
被弾箇所から血は流れる。
しかし、それだけ。
致命傷にはならない。
『決着』はここに。
とうとう、言峰綺礼は斃れた。
これが『背信者』の末路。
『教義』に背き、『主』と決別した。
これが『裏切り者』の末路。
『悪徳』を愛し、『悪行』を重ねた。
そんな、一人の『外道』の末路。
ドメニコは自らに『治癒』の魔術を施す。
ゆっくりと、着実に、傷は癒えていく。
これで『神罰』は『執行』された。
『主』を信じる者が、『外道』を罰した。
たった、それだけの話。
長い歴史の中で、何度も繰り返された結末。
だが──────────────
ズルズルウウゥッ…!
「な、なにィーーーーーーッ!?」
例えどんな人物であろうとも、『奇跡』というモノは平等に訪れるものだ。
地に広がっていた言峰の血溜まり。
それは水蒸気を含んでいた。
つまり『
故に、その総量は増えている。
流れ出る血は、徐々に広がっていく事で────
ドメニコの足元にまで『到達』したのだ。
その血溜まりから、『紅い腕』が伸びる。
その『紅色』は、あまりにも血の色に似ている。
動脈を通る鮮やかな紅色ではない。
静脈を通るドス黒い紅色だ。
その腕はドメニコの首を掴み、『ギチギチ』と音を立てる。
『このままじゃあ絞め殺される……!』
ドメニコは『本能的』に言峰の体内に残っている『蒸気』の『硬度』を解除した。
言峰綺礼は既に『罰せられた』と思っていたから。
この『謎の紅い腕』に対応しなくてはならない。
ドメニコは、そう思ってしまった。
だから『解除』してしまった。
この『紅い腕』の周りの『蒸気』の硬度を上昇させ、ほんのチョッピリ動かすだけでも、硬質化された粒子でバラバラに八つ裂きにしようとしたのだ。
─────────────刹那。
ダァンッ!!!!!!
1発の銃声が、地下に鳴り響いた。
言峰の内ポケットから取り出されていたのは、銀色の拳銃。
コルト・シングルアクション・アーミー。
1874年製。装弾数6発。
かつての刺客『ディエゴ・スティール』の遺品。
回転式シリンダーに込められた『.45コルト弾』には『銀』がコーティングされている。
残されていた弾丸は、たったの1発。
しかし、それが勝負の『分かれ目』となった。
言峰綺礼の右腕。
かつて刻まれていた『令呪』は全て消えていた。
『令呪』の使い道。
1つ、負傷の回復。
2つ、弾丸の強化。
3つ、弾丸の強化。
4つ、弾丸の強化。
半ば『硬質化』が始まっていたドメニコの『周囲』
それを突破するには『最大限』の強化が必要。
その直感的判断は正しかった。
即死。
ドメニコは即死した。
頭を撃ち抜かれて即死した。
遺言の一つも残さずに死んだ。
彼は神の教えを信じ、多くの死徒を屠った。
表の世界でも、出来る限り周囲の人々を救った。
裏の世界では、罪を犯したモノを裁いた。
罪なき者の為に涙を流せる男であった。
罪を犯した者を許せる人間でもあった。
2002年2月10日。
ドメニコ・ブルーマリンは死んだ。
彼の
そこにはロケットがあり、中に写真があった。
一人の女性の写真。
名は『ペルラ』という。
ドメニコが生涯愛した女であった。
「人の子を裏切るその人は禍いである……その人は生まれなかった方が彼の為によかったであろう*3」
言峰綺礼は、そう呟いた。
誰もいない教会の地下で。
その真意は誰にも判らない。
◆
【フール・イン・ザ・レイン】
『ドメニコ・ブルーマリン』のスタンド。
人型のビジョン。
身体は半透明で、清流の様に透き通っている。
身体のあちこちには『雫型』の加湿器のようなモノが、メリ込んでおり、そこから『蒸気』が噴出している。
上半身は人型だが下半身は異形。
腰から急に『三脚』が伸びている。
その『能力』は『蒸気の硬さを操る』能力。
空気中に散布した『蒸気』を吸い込ませた後、その蒸気に『硬さ』を加える事で、相手の鼻腔、副鼻腔、咽頭、気管支、肺など、人体の中で狭く奥深いところを攻撃する。
この時、相手はアスベストによる『石綿症』に似た症状によって衰弱する。
そして最終的には『肺ガン』や『中皮腫』になる。
ドメニコはこれを『静かなる時限爆弾』と呼ぶ。
また『硬度』は最高で『ジルコニア』並にできる。
この際、硬度だけでなく『靱性』も付与される。
相手の体内に吸入された『蒸気』の硬度を上昇させ、そのまま『石綿症』にするのがメインの戦法。
だが、他にも相手を拘束したり『障壁』を作る事もできる。
ただし、『蒸気』の硬度を維持できるのは、体内か体外のどちらかだけ。
【ステータス】
破壊力 - A
スピード - E
射程距離 - D
持続力 - B
精密動作性 - B
成長性 - E
名前の由来は『レッド・ツェッペリン』の曲。
『フール・イン・ザ・レイン』
感想か!?
長い感想ほしいのか?
『感想』…イヤしんぼめっ!!
うおおう、うおっ(懇願)
作中の小ネタやサブタイトルの元ネタについて解説は必要?
-
どちらも必要。
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小ネタだけ必要。
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サブタイトルのみ必要。
-
どちらも必要なし。