Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

66 / 82
#66 スパークスライナーハイ その②

武の頂。

それは神域と呼ぶべきか。

人の手では届かぬ領域。

俺は、そこに足を踏み入れた。

肉体が(ひず)んでいく。

魂が捩れていく。

回転する『歯車』を、一つ落っことした。

筋肉が燃えている。

肺が焼けている。

魂が燃えている。

精神が焼けていく。

 

それでも、俺は戦う。

 

それが俺の『使命』だから。

それが俺の『宿命』だから。

それが俺の『覚悟』だから。

 

だから、だから、だから………!

 

「─────鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

あの『敵』を、俺は『超えて行く(go・beyond)

 

投げる。

左右から同時に、それぞれの最大の魔力を篭めて一投する。

狙いは敵の首。

弧を描く二つの刃は、敵上で交差するように飛翔する。

鶴翼は美しい十字を象る。

 

それを、当然のように敵は防いだ。

あまりにも容易く防いだ。

 

──────破られた。

 

防がれようと弧を描いて戻ってくるハズの双剣は、起動を狂わされて敵の背後へと飛んでいく。

これで無刀。

敵が間合いを詰めてくる。

それに自分から突進する。

 

「──────凍結(フリーズ)解除(アウト)

 

「同じ武器………!?」

 

敵の剣を受け止める双剣。

投影は既に済んでいる。

予め準備しておいた。

 

「無駄な事を……!」

 

振るわれる必殺の一撃。

右腕を失って尚、キレのある一太刀。

その直前…………………

 

「─────心技(ちから) 泰山ニ至リ(やまをぬき)

 

有り得ない方角から奇襲があった。

 

「なっ………!?」

 

未来予知じみた勘の良さで、敵は背後から飛翔した干将を躱した。

その絶対の隙をつき、莫耶を叩きつけ────

 

「っ、は────────!」

 

敵の剣の前に砕かれた。

背後からの奇襲と、正面から渾身の一撃を、同時に防がれた。

加えて、莫耶を打ち砕くという極悪さ。

バケモノじみた強さ。

 

だが。

 

「─────心技(つるぎ) 黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

 

バケモノでなれけば、布石を打った意味がない。

 

「もう一つ……!?」

 

二度背後から飛来する莫耶。

それは投擲した一度目の双剣。

 

干将莫耶は夫婦剣。

その性質は磁石のように互いを引き寄せる。

つまり………この手に干将がある限り、莫耶は自動的に俺の手元へと戻ってくる………!

 

「くっ……!」

 

神業めいた反応速度で、背後からの奇襲を避ける。

その、これ以上はない無防備な胸元へ、残った干将を叩きつけ────

 

最後の一撃さえ、この敵は打ち砕いた。

 

「─────────────」

 

二つの干将莫耶、四つの刃による前後からの同時攻撃すらも、セイバーの手によって防がれた。

 

されど…この手には、その先が用意されている。

 

「─────唯名(せいめい) 別天ニ納メ(りきゅうにとどき)

 

三度目を超えて、その先へ。

カラの両手に、再び双剣を作り上げる。

 

「─────両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)………!」

 

そして、その無防備な胸元へ、左右から双剣を振り抜いた。

 

「くッ!?……ぉおおおおおッ」

 

手応えは完璧だった。

干将と莫耶は容赦なく、胴を薙いだ。

爆撃めいた一撃。

 

俺は、セイバーから、確かに一本取ったのだ。

 

なのに残念だ。

身体が自動的に『一時停止(スリープ)』する。

膝をつき、大地に寝そべる。

心臓は動いている。

死神の鎌は見えない。

俺は、これで『終わり』じゃあない。

ちょっとすれば、俺はまた動ける。

まだ、俺たちは戦える。

 

『アイツ』がいるから。

 

あぁ、どうして一瞬だけでも忘れてしまったのか。

 

『忘れてはならない人たち』がいる。

 

他に忘れていいものは、沢山ある。

 

料理のレシピ。

 

調味料の場所。

 

冷蔵庫の中身。

 

最近観た映画。

 

面白かったテレビ番組。

 

弓道の射法。

 

ストーブの修理方法。

 

バイト先の住所。

 

学校の知り合いの名前。

 

好きな花の名前。

 

靴ヒモの結び方。

 

走り高跳びのコツ。

 

色々なものを忘れた。

 

でも『アイツ』の名前は忘れちゃいけないよなぁ。

 

だって、どうでもよくないんだから。

 

俺の背中を任せられる男なのだから。

 

俺に『兄貴』としての生き方を教えてくれた。

 

俺を助け、信じてくれた。

 

だから、後は任せたぜ…………………

 

()()

 

「ガッテン承知だ、アホ衛宮」

 

 

 

 

左右から繰り出される双剣。

それを予知していながら、彼女は防ぐ事ができなかった。

肉体が思考に追いつかない。

敵が放った二度もの奇襲を防いだ彼女であっても。

この徹底的なまでの、偏執的なまでの『格上殺し』の技に、終ぞ対応できなかった。

 

「っ、ぁ───────…………!」

 

背中から倒れこむ。

……………今の一撃は、致命傷ではない。

けれど、痛恨の一撃ではある。

 

「は、あ、ぐっ…………!」

 

激痛に苦悶を漏らす。

彼女には自然治癒の力が備わっている。

強力な再生機能と、無限大の魔力供給。

 

かつて、ライダーから食らった『宝具』がなければ、今頃には半分以上は『回復』していただろう。

 

あの森の中。

ライダーが放った『宝具』は、未だに彼女の右腕を蝕んでいる。

 

無限の回転。

爆発的エネルギーの螺旋。

再生を促す度に、その勢いが増す。

 

少し、野暮な事を言うが………………

衛宮士郎は、本来なら敗北していた。

無銘(ザ・スミス)』は、本体の『命』を必ず守るように、自動的に駆動する。

つまり、『本来』よりも凡ゆる力が『制限(セーブ)』されている。

 

その為、さっき衛宮士郎が放った『鶴翼三連』は、実は『不完全』だったのだ。

 

だが──────幾つもの『奇跡』が重なった。

 

一つ、ライダーによる『負傷』

二つ、慎二がいた事による『超過駆動(オーバードライブ)』の躊躇

三つ、『無銘(ザ・スミス)』が限界まで力を引き出した事

 

衛宮士郎は死んでいない。

つまり、これは『相打ち』ではない。

 

「最期に言い残す事はあるかい…?」

 

セイバーは『深手』だ。

致命傷ではない。

しかし、身体は動かない。

目の前には間桐慎二。

ライダーの(マスター)

衛宮士郎の仲間。

いや…………衛宮士郎の『友人』がいる。

 

「では……『強くなりましたね、シロウ』と」

 

彼女は目前の、少年の『親友』に声をかける。

 

「…………いえ、それは違いましたね……貴方(シロウ)は、初めから強かった」

 

苦しげな呼吸のまま、彼女は独白する。

勝敗は、既に決した。

衛宮士郎の『勝利』で、戦いは決着した。

 

「さぁ、決着をつけてください」

 

「悪いが『手加減』できないぜ?」

 

「構いません」

 

彼女はハッキリと応える。

敗者は敗者らしく、己の死を受け入れる。

それが、誇りある生き様だから。

それが、騎士としての在り方だから。

 

彼女は最期まで『気高く』あろうとした。

例え、どうしようもなく『変貌』しても。

 

─────────────故に。

 

「ぼくもマジでやらなくっちゃあなッ!」

 

間桐慎二は『もう二度とはないもの(リミテッド・エディション)』を放つ。

 

ギャルギャルギャルギャルッ!!!

 

『回転』している。

間桐慎二が懐から取り出したモノ。

それは『鉄球』だった。

無骨なデザインの鉄球。

色は藍色で、ライダーのとは違う色。

 

されど、その『回転』に違いは非ず。

 

その『回転』は無限の螺旋を描く。

 

そして彼は、その『鉄球』を─────────

 

ガシイィンッ!ビッ…ギシギシギシ……ギュッギュッギュッ…ブワッ!ブワアアァ

 

自らの身体にメリ込ませた。

 

「人体の70%は『水』なんだぜ………そして、我がクソッタレ間桐の『魔術属性』も『水』なんだ」

 

鉄球が回転する。

その度に、皮膚が捩れていく。

まるで『ねじれの発作』と言うべきか…?

慎二の肉体が回転によって『絞られていく』

まるで水に浸した雑巾を絞るように…………

肉体から大量の『水』が滲み出てくる。

 

「…………なるほど、それが貴方の『切り札』」

 

セイバーは、それを静かに見守る。

受けた傷は、まだ深い。

まだ動けない。

それでも、ゆっくりと『再生』し始めている。

ゆっくりと、ゆっくりと、傷が癒えていく。

それでも、セイバーは静かに見守る。

 

「ぼくが必ず殺してやるからよォォォォ………」

 

『水』が溢れる。

それは『体液』なのか……?

汗とか、涙とか、唾とか、小便とか。

そういう『体液』のどれにも該当しない『水』

身体から絞り出され、清流のように透き通っている水。

 

間桐慎二の体重は、僅か『37kg』しかない。

 

しかし、絞り出された水の量──────

 

その重量は『7,421.3グラム』

7,400グラムは慎二の体重の20%の水分。

 

では残りの21.3グラムは一体……?

その答えは誰にもわからないが…………

もしかしたら『魂の質量』なのかもしれない。

 

「人間は『20%以上』水分を失うと死んじまうらしいがよォォォォッ!!テメーをブッ殺すには!まだまだ心許ねェーくらいだぜェェェーーーッ!!」

 

水が滴っていく。

それが水溜まりを形成していく。

水が滴っていく。

その水溜まりが蠢き始める。

水が滴っていく。

水溜まりが、光を帯びる。

 

やがて、水溜まりが『人型』になる。

 

透き通る人型の『ビジョン』になっていく。

 

それは痩せ細った聖者のような身体に、機械仕掛けの蟲の頭部という、グロテスクな外見をしていた。

 

だがそれは、人体の『水』と輝く『エネルギー』によって構成されている為、そのビジョンは清流の様に透き通っており、黄金の光を帯びて、薄く発光していた。

 

間桐家の魔術属性は『水』

生命と変化の象徴とされ、何かを『変質』させる魔術と相性がいい。

 

そして間桐家の魔術特性は『吸収』

成果が必ず自分の体に返る。

なので呪詛には適さない。

 

間桐慎二は自らの体液という『水』を以って、黄金に輝く『回転エネルギー』を『吸収』させた。

 

これは厳密には()()()()()()()()

あくまで()()()()()()()である。

 

しかし、それにはスタンド並みの『(パワー)』がある。

 

「うおおおおおおおおおあああああああッ!!」

 

吠える。

喉が張り裂ける程に。

叫ぶ。

消えゆく命に、最期の『火』を灯す。

燃やす。

燃え盛る『生命』の火に、ガソリンをブッかける。

 

『オラオラオラオラオラオラオラ』

 

ラッシュ。

怒涛の拳撃。

ガムシャラに、デタラメに、ヤケクソに。

拳が振るわれる。

その一撃一撃が、岩をも砕ける威力。

衛宮士郎が放つ『剣撃』とは真逆。

下品で、野蛮で、荒々しい。

技術も、技量も、型もない。

ケンカ殺法。

我流のパンチ。

チンピラが出鱈目に繰り出す『ブン殴り』

 

けれども、その威力は─────────

 

「お見事です、シンジ」

 

『最強』の英霊にさえ、届きうる力だった。

 

 

 

 

【ロング・ジョン】

別名:『のっぽの男(ロング・ジョン)

慎二が鉄球の『回転』によって自身の身体のうち20%の『水分』を絞り出した事で発現した、人型のビジョン。

身長が『ジョン・レノン』と同じくらい高い。

つまり、大体180cmくらい。

 

これは厳密には()()()()()()()()

あくまで()()()()()()()である。

 

鉄球の『回転エネルギー』と『間桐の魔術』の融合体なので、スタンド使い以外の人間であっても触れるし視認できる。

 

その重量は『7421.3グラム』

7400グラムは慎二の体重の20%の水分。

残りの21.3グラムは『魂の質量』である。

 

痩せ細った聖者の身体に、機械仕掛けの甲虫の頭部という、グロテスクな外見をしている。

だが人体の『水』と黄金に輝く『エネルギー』によって構成されている為、そのビジョンは清流の様に透き通っている。

 

間桐家の魔術属性は『水』

生命と変化の象徴とされ、何かを『変質』させる魔術と相性がいい。

 

魔術特性は『吸収』

成果が必ず自分の体に返る。

なので呪詛には適さない。

 

人間は体内の水分の『20%』以上を失うと必ず死亡する為、このビジョンは『もう二度とないもの(リミテッド・エディション)』であり、発現すれば『()()()()()()』運命にある。

 

【ステータス】

破壊力 - B

スピード - A

射程距離 - E

持続力 - E

精密動作性 - C

成長性 - E

 

名前の由来は『ザ・ビートルズ』の旧名。

「ロング・ジョン&シルヴァー・ビートルズ」

 

ラッシュ時の掛け声は『オラオラオラオラ』

 

 

 

 

目が覚めた。

ほんのチョッピリだけ、寝ていた。

 

………なぜ、ここで寝ていたのだろう?

 

頭が痛い。

身体中が痛い。

全身に剣が刺さっているみたいだ。

 

「はッ……そうだ、慎二ッ!」

 

痛みで逆に頭が冴えてきた。

 

状況を確認しなければならない。

 

洞窟の先。

闇の奥。

『ドカーン』とか『ドゴーン』とか。

とんでもない音が聞こえる。

 

おそらく『遠坂』と……えっ、と………

そうだ、『ライダー』が、いる。

『遠坂とライダー』が戦っている。

 

戦っている……?

 

一体『誰』と……?

 

「っ…ぐ……、お……思い出せ…バカヤロウ…ッ」

 

バカヤロウ。

俺は、一体、何のために、ここに来た…?

 

忘れるな。

決して、忘れるな。

あの日の『誓い』を忘れるな。

あの日の『覚悟』を忘れるな。

 

………あれ、俺はまず、『誰』を最初に……?

 

「…ッ!そうだ、慎二ッ!何処だッ!?」

 

ノイズがうるさい。

頭の中に『砂嵐』がある。

『ザーザー』『ピーピー』うるさくって仕方ない。

視界が割れている。

一瞬でも気を抜けば、視界が割れて前が見えない。

 

嗅覚がない。

なんの臭いも感じない。

鼻で呼吸しているのに、鼻の感覚がない。

 

壊れている。

俺の身体は『過熱状態(オーバーヒート)』していた。

それでも、俺は生きている。

 

生きているのならば『使命』を果たせ。

 

「何処だァーーッ!!返事をしろォーーッ!!!」

 

急に叫んだから、喉が痛い。

やっぱり痛い。

全身が痛い。

けれども、歩ける。

俺には脚がある。

歩く事ができる。

 

まだ、戦える。

 

……………?

 

一体、誰と………?

 

「慎二ィーーーッ!ど…………ハッ!?」

 

見えた。

斃れ伏す人影。

気づかなかった。

結構、近くにいたのに。

俺は、マヌケな事に、ずっと遠くを見ていた。

こんなにも、近くにいたのに。

 

「慎二」

 

斃れ伏すのは、慎二だ。

思い出した。

俺の仲間。

俺の友達。

俺の親友。

 

俺の大切な人の『兄貴』だ。

 

斃れている。

流血はない。

外傷もない。

骨折とかアザとかもない。

 

けれど、斃れている。

 

なぜなら───────

 

「ぇ………み…や………か……?……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、俺だよ……ここにいる」

 

声をかける。

けれど、もう聴こえていないようだ。

眼は虚ろ。

光がない。

肌は枯れ木のように。

髪に光沢はない。

 

目は窪み、頬は痩せ、肌に生気もない。

 

「……ゃ……さ、…と……ぃ………け…………」

 

慎二は死ぬ。

もうすぐ死ぬ。

助からない。

もう絶対に助からない。

治療はできない。

俺には見える。

黒いチリの様な『ナニか』が、漏れている。

きっと、それは『生命力』なのだろう。

 

もうすぐ、慎二は死ぬ。

志半ばで。

もう手遅れだ。

だったら………………

 

「桜は必ず助ける」

 

たったの、それだけ。

本当は、もっと、言いたい事があった。

けれど、時間がない。

 

ならば、せめて『安心』できるように。

 

「…………………………ぃ……………け………」

 

慎二が振り絞った最期の願い。

俺は、それを叶えるべく、歩き出す。

振り返らない。

でも、必ず連れて帰る。

『桜』と一緒に連れて帰る。

 

そうだ。

俺は『桜』の為に、ここまで来た。

 

忘れかけていた、俺の『使命』

それを、思い出させてくれた。

 

ありがとう。

本当に、それしか言葉が見つからない。

 

必ず、俺はお前の願いを叶える。

お前が、安心して眠れるように。

 

だから、ここで待っていてくれ。

 

 

 

 

スタンド名──『のっぽの男(ロング・ジョン)&(アンド)銀甲蟲(シルヴァー・ビートルズ)

名前─────『間桐慎二』(再起不能(さいきふのう)

作中の小ネタやサブタイトルの元ネタについて解説は必要?

  • どちらも必要。
  • 小ネタだけ必要。
  • サブタイトルのみ必要。
  • どちらも必要なし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。