Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
でもサブタイトルの話数は順行でいきます。
よろしくお願い申し上げます。
#69 チューズ・ライフ
『ラスト・フォー・ライフ』が流れる。
それは『イギー・ポップ』の曲だ。
ドンドンパン。ドンドドパン。
スネアのリズム。
『誰か』が言った。
『人生を選べ』と。
仕事を選べ。
キャリアを選べ。
クソデカいテレビを選べ。
高くて良い洗濯機を選べ。
車とかCDとかを選べ。
車は国産車に乗れ。
パンク・ロックは野蛮だから聴くな。
紅茶の銘柄とかも選べ。
ノンブランドのヤツは飲むな。
少なくともダージリンにしとけ。
アールグレイでもいい。
ソファに座り、クソ安いジャンク・フードをほおばりながら、退屈で気が滅入る知らねー芸人と女優が出演してるクソつまらねーお昼のバラエティ番組をボケッと眺める暮らしを選べ。
もうとっくに愛してもくれていない婚姻関係であるだけの妻が産んだ、ワガママでバカで鼻水を袖で拭いてるガキどもにとっては居心地が悪いだけの家庭で、自分を呪いながら朽ち果てる生涯を選べ。
ジジイになって、身体に変なくだをぶち込まれ、ベッドの上で可愛げのない子孫にゴミを見るような目で眺められながら死ぬ最期を選べ。
『誰か』が言う。
人生を選べ。
だが、ぼくは人生を選ばないことを選ぶ。
それを認めないと言われるのは、ぼくの問題じゃない。
でも、選ばなきゃいけない。
人生を選べ。
クソッタレみたいな言葉だ。
◆
2月14日。
午後十一時。
決戦の直前。
ぼくは、衛宮を呼び出した。
「いいか?ぼくたちは数的有利がある……もし誰かがはぐれても、必ずツーマンセルで動こう」
「わかった」
ぼくには『切り札』がある。
試してみたワケじゃあない。
けれど、この『切り札』は使える。
そういう、感覚がある。
そういう、確信がある。
「ぼくには『切り札』がある……いいか?必ずぼくも戦う、あの愚妹を必ずボコボコにしてベソかかせてやる」
「その『切り札』ってのは、なんなんだ?」
まぁ、聞かれますわな。
でも教えてやんねー。
「悪いが、企業秘密だ……何処に耳があるかわかんないんでね……ま!安心しなよ……結構使えると思うぜ」
「………………………………………」
おい、何だよその顔は。
オイオイオイ。
まさか、コイツぼくに文句があるのか…?
この、ぼくに?
「慎二、当ててやろうか…?」
「は?何が?」
「お前の『切り札』ってのは、お前の『命』を賭けないと使えないんだろ」
…………………………………クソが。
コイツ、普段は頭脳がマヌケな癖に。
ド低脳のクサレ脳みその癖に。
やっぱり、コイツ……………
クソが。
いつもそうだ。
普段はマヌケな癖に、時々ビックリするくらい鋭い時がある。
「やめろ慎二、絶対に使うな」
マジ、ムカつくな。
何様のつもりだコイツ。
あぁ〜マジムカつくぜ。
やっちまおうかな。
「今のお前の態度で気が変わった………やっぱり、この『戦い』は俺たちだけで『決着』をつける」
あ。
プッツーーーーーーーーンッ
キレちまったぜ。
「テメーッ!マジふざけんなよ……ここまで来て、このぼくを、えぇッ!?このぼくを『蚊帳の外』にするつもりかよッ!」
「お前が『切り札』を使わないと約束するなら、俺たちと一緒に戦ってもいい」
は?
なんだよその言い方は。
ぼくを、ナメてんのか?
マジなめてるだろッ!?
めちゃくちゃ上から目線じゃあねぇかッ
ムカつくぜェ〜〜〜ッ!
超イラつくぜぇ~~~ッ!!
コイツ何様のつもりだッ!?
戦いの神サマかテメーはよォ〜〜〜ッ!!!
「テメーだって『投影』とかいうワケのわからねェもん使ってんじゃあねぇかッ!!遠坂だって、あの『オモチャ』みてぇに安っぽくて、ヘボっちい剣を振り翳すんだろッ!?なのにぼくはクソガキとお留守番か!?冗談じゃあないぜッ!!『蚊帳の外』で戦場に赴く軍人の夫の帰りを待つメリケンの女みてーに、ガタガタ震えながら手でも合わせて『お願い神サマっ』って祈ってろッてか!?マジクソふざけるなよアホ衛宮ァーーーーーッ!!!」
あぁッ、クソがッ!
喉がクソ痛てーぞックソックソッ。
しかし、コイツが全部悪い。
ぼくを憐れんでいるのか…?
いつからテメーはそんなに偉くなった。
いつからぼくの行動を選べるようになった?
ぼくをコントロールしようってか?
ふざけるな。
ぼくは誰の指図も受けない。
「慎二、お前がいなきゃ桜は笑えない」
「……………………………………は?」
「俺たちは、全員で生きて帰る」
「…………………………テメーは…ッ」
「慎二も遠坂もイリヤもライダーも、そして俺も、誰も死なせないという『覚悟』を決めろッ!!」
…………………………………覚悟、か。
フンッ。
言うようになったじゃあないか。
ぼくに怒鳴るなんて、これが初めてなんじゃない?
過去を振り返ってみる。
どれもこれも、仏頂面。または困り顔。
あぁ、クソジジイの所業にキレてた時はあったな。
しかし、今……目の前のコイツ。
キレてやがる。
このぼくに、キレてやがる。
………………………マジで初めて、見たな。
コイツが、ぼくに対して本気でブチギレてる顔。
「…………怒鳴ったりして悪かった、俺、ちょっと頭を冷やしてくる……でも、お前が結論を変えないというのなら、俺は…お前をボコボコにブン殴ってでも、
衛宮は、それだけ言って、どっかに行った。
………………………………どうしようか。
ぼくの『切り札』は使えない、らしい。
本当にのっぴきならない状況に、なれば使う。
誰になんと言われようと。
けど、もし『切り札』を使わないとしたら。
ぼくは、
「シンジ」
「……………………なんの用だよ」
どうしたよ、カウボーイ野郎…………
いきなり出てきてんじゃあねぇぞ。
ぼくは、今機嫌が悪いんだ。
『ジャンプスケア』みてーに現れやがって……ッ
シュミ悪いピカピカの金歯見せつけんなッ!
「『
「……………………え?何?」
「オレはかつて
『一番の近道は遠回りだった』
『遠回りこそが俺の最短の道だった』
何………?
急に何を喋っているんだ…?
『
なぜ今頃そんな事を言う……?
「おまえさんの『切り札』は『近道』というヤツだ……しかし、そーいうのは得てして重い『代償』を支払うハメになる……例えば、『命』とか……」
『遠回り』だと…?
切り札を使わずにいろって事か?
「じゃあ、このまま『お荷物』のままついて行って足だけ引っ張りまくって死ねってか……?ぼくは、下半身不随だぞ」
「なら『馬』に乗ればいい」
おい、マジ何言ってんだ。
下半身不随のヤツが乗馬できるワケないだろ。
そんなこと…………できるわけがない。
「『馬』には必ず乗れる」
「何を根拠に言ってんだボケッ!」
「オレの『ダチ』も下半身不随だったからだ………けれど、そいつは『116日間』のレースを馬と共に走り切った」
何だとォ〜〜〜〜〜〜〜ッ!?
ふざけるな。
ぼくは『シルク・ドゥ・ソレイユ』のダンサーでもなければ『中国雑技団』でチャリ漕いでるヤツの上に乗っかってるヤツでもないんだぞッ!
ぼくは、そんな変態曲芸超人マンじゃあない。
そんなこと…………できるわけがない。
「いいか?必ず乗れる………そして馬に乗れる事ができたのなら、オレたちは『必ず勝てる』」
「……………それは……マジなんだな…?」
「ああ、故に我が
は?
「本当なら我が愛馬『ヴァルキリー』には例え誰であろうと乗せたくねぇ…それが『大統領』だろうが『教皇』だろうがな……だからその最後の『令呪』で、オレに命令しろ…!」
待て。
待て待て待て待て待て。
最後の『令呪』を使え、だって……?
『令呪』ってのは、スゴイ『効力』があるんだぞ。
瞬間移動させたり『宝具』の威力を高めたり。
ただでさえ『回転について教えろ』と『妹を守れ』で使っちまった、ぼくの最後の『令呪』を、そんな事の為に使うのか…?
「…………で、できるわけが……!」
「シンジ、おまえさんが持っている『武器』とか『技術』で最も『信頼』できるのは何だ…?身体のどっかから出てくるキモい蟲か?それともつい最近オレから教えてもらった…所詮はまだ付け焼き刃の『鉄球の回転』か?」
「…………………………………………………」
「オメーが
で、できるのか……?
この、ぼくに………本当に………
そんな事が……………
まだ回転を習って1年すら経ってないんだぞ…!
「そうなれば、もう付け焼き刃なんかじゃねぇ……本当の『回転』だ…いいか?順番間違えんなよ……『回転』ありきの『馬術』なんかじゃあねぇ……『馬術』ありきの『回転』の力だ……!」
『馬術』ありきの『回転』だと…………
それを、ぼくが……………………………
この、最後の『令呪』を使って…………
たしかに……………………
今更この『令呪』を温存した所で、じゃあいつ使うんだって話ではある。
それはスゲーよくわかる。
でも、ぼくが馬に乗るのには……どうやって………
「オメーは既に
!?
こ……こいつ……『
室内に……しかも和室に馬が、いきなり……!
き、奇妙な光景だ…………
朝になっても覚えているヘンな夢みたいだ……
『
つまり『回転』か……?
回転……『全ての希望』は…………
「ぼくの…顔をなめてくれ…ヴァルキリー…!」
グイン…ッ…グワアァァ!
『間桐の魔術』
『回転』
『人生の選択』
『馬術』
『本当の武器』
『
『切り札』
なるほど…………………………………
見えてきた。
『進むべき道』が。
「ライダー」
「おう」
「
─────ぼくに、もう一度、馬に乗らせてくれ。
◆
全ての時計の針が頂点を指した。
『決着』をつけにいく。
その時がきた。
『選択』の時だ。
人生を選べ。
昔、レンタルして観た『映画』がある。
『トレインスポッティング』という映画だ。
その冒頭。
主人公たちが万引きして逃げる場面。
その後、主要人物を紹介していく場面。
『ラスト・フォー・ライフ』という曲。
あの曲名、日本人のみんなは勘違いしがちなんだ。
ぼくは
最初の『ラスト』ってのは『Last』じゃあない。
『最後の』って意味じゃあないんだ。
『Lust』なんだよ。
つまり……『渇望』って意味だ。
あの曲名は………………
『人生への渇望』って意味だ。
◆
洞窟の入り口。
その中へ進んでいく。
真っ暗闇の世界。
それでも往く。
一寸先は闇。
だから遠坂が明かりを灯す。
水が滴る音が
イヤな音だぜ。
「士郎、今のうちにハッキリ言っておく」
………なんだァ?唐突に。
「わたしはこの先でアンタが行方不明になったり、負傷しても
「……………………………………」
「冷酷な発想だけどね、わたしは桜を倒すつもりでここに来た………アンタたちの方も、もしわたしがやられたり、はぐれたりしても……助けないという事を約束して……ひとりを助けようとして全滅するのだけは、避けなきゃいけない」
正論だ。
基本的に、遠坂凛という女は正論しか言わない。
ムカつく奴だ。
スゴく癪に障る。
しかし、正論は正論だ。
言ってる事は、確かに正しい……………
「遠坂の言ってる事は、正しい」
「………?」
衛宮。
急にどうした。
「実際、戦場では『スナイパー』は敵兵をヘッド・ショットして殺さずに、的のデカい胴体とか脚とかを撃つらしい…勿論それにはヘルメットがあるから防がれるとか、胴体の方が命中しやすいとか、そういう理由もあるだろうが……一番は、負傷した仲間を救助しようとする『同じ部隊』のヤツらを誘き寄せる為らしい」
「なんだ……判ってるじゃない」
「遭難者を助けようとして山に入ったボランティアの人が、そのまま一緒に遭難しちまって亡くなったケースもある…『ミイラ取りがミイラになる』ってヤツだろう」
あぁ、全く以って『
言ってる事は、確かに正しい。
「ぼくも、そー思うぜ」
「なら、これで『全会一致『だが断る』
……………………………………ヤバい。
「ブホッ……グ…ブッハハ……サイコー、その顔」
あー、ダメだ。
腹いてー。
ヤバい、完全にツボッちまったよ。
ヤバい。マジヤバい。
早くも今年最大のヒット更新。
見ろよ、あの『ほへ?』みたいなツラ。
『ほへへ〜?』って顔ッ!!
あーマジ最高。
けど、ひとつだけ文句があるんだな。
『だが断る』ってセリフ、ぼくが言いたかったぜ。
ぼくのがもっとカッコよく言える。
なんせ、ぼくって『イイ声』してるから。
だから、ぼくが言いたかったぜ。
絶対もっとカッコよく言えたから。
これは間違いない。