Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#70 クレイジー・トレイン その①

闇が見える。

 

それを踏破する。

 

通路を抜けた先、大きく開けた空洞。

横幅は学校のグラウンドほど。

天井は十メートルくらいだろうか…?

 

そこに、絶対の殺気を纏う者───────

『セイバー』が、静かに来訪者を待っていた。

 

『セイバー』

黒き剣士。

光なき黄金の瞳。

衛宮の『元サーヴァント』

しかし、その姿は以前とは違う。

その『右腕』が違う。

()()()()()

セイバーは再生能力が高いという。

普段であれば、数分とかで回復して、ドラゴンボールのピッコロ大魔王みたいにニョキニョキ生えてくるのかもしれない。

なのに、右腕がない。

生え始めては、きている。

だけども…………………

 

ギャルギャルギャルギャルッ…!

 

腕が伸びる前に『回転』によって、捩じ切れて、消し飛ばされていった。

 

話に聞いていた、ライダーの『宝具』の効果。

無限の回転は、未だ止まらず。

静かにセイバーを蝕んでいた。

 

「最初に宣告しておきます、凛、そして慎二………私は貴方たちと争うと、桜の命令に背いてしまう…通りなさい」

 

へ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

つまり、アホ桜は兄妹喧嘩アンド姉妹喧嘩がご所望ってワケか。

 

「じゃ、お先に失礼(し・トゥ・れい)ィィィィィ~~」

 

そんなワケで、ライダーの『(ヴァルキリー)』に跨る。

顔を寄せてもらってから『グルウウン』とすれば、あらほらサッサでご覧のとおり。

一回でコツ掴んじまったよ。

ぼくの才能(センス)って、やっぱりスゴイぜ。

 

「………………ただし馬に乗るのは許可しません」

 

「だって、間桐クン」

 

詰んだわ。

 

「サービスしてくんね?メシ作ってやったじゃん」

 

「拒否します」

 

「……………………………………………」

 

じゃあ、ぼくが取れる手段は『コレ』しかないや。

 

「じゃライダー、4()6()4()9()

 

「ニョホホホホホ……オラアアアアアアッ!!

 

ギャルギャルギャルギャルッ!!

 

ナイスボール。ナイスライダー。

やはり不意打ち。

不意打ちが一番効果的。

しかもセイバーは『負傷』している。

ライダーと衛宮のコンビネーションに『対応』するには、ケツまくって逃げるぼくたちを無視せざるを得ない。

 

「遠坂ッ!今のうちに逃げるんだよォーーッ!」

 

「はぁ!?アンタちょっとそんな引っ張っ」

 

ボケッとしてる遠坂の回収は完了した。

じゃ、衛宮とライダーは、後よろしく。

 

「行くぜ遠坂ッ!元、全日本ジュニア障害馬術大会最年少チャンプのぼくをナメんなよッ!!」

 

「アンタそんな肩書きあったのッ!?」

 

あったんだよボケッ

マジでチャンプだったんだよッ!

ぼくがまだ『8歳』の頃の話だけどなッ

だから、『乗馬』なら誰にも負けねぇッ!

特にアホの桜なんかにはな………………

 

 

 

 

その堅固さ、苛烈さは黒い太陽を思わせる。

近づけば燃え尽きる巨大な恒星。

それは宙を駆ける『流星(回転する鉄球)』を容易く弾き返す。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

今、ここで俺にできる事。

それは、ライダーの『鉄球』を投影し、投げ渡す。

 

俺の投影は『宝具』レベルなら『歯車』を回す必要があるが………『無銘の剣』やライダーが投げる『鉄球』のような『無銘の武具』であるのなら……わざわざ『歯車』を回す必要がない。

 

それに、ライダーの本当の『武器』は、鉄球の硬さとか強度ではなく『回転』にある。

 

今の俺にできる事は、セイバーの射程距離外で、ライダーの為に投影し続ける事。

そして、セイバーからの『間合い』を保ちつつ投擲による攻撃を行うライダーの『支援』だ。

 

「は───────、ッ─────」

 

しかし、それでも実力差は明確だった。

ライダーの投擲は何度投げても命中しない。

目にも止まらぬ『鉄球』による攻撃。

いとも容易く振るわれる必殺の剣を……ギリギリで回避し続ける超人的戦闘センス。

ライダーは攻め続ける事で、セイバーの攻撃を防いでいる。

セイバーが攻撃に転ずれば、俺たちは二人まとめて瞬殺されるかもしれない。

故に、ライダーは走り続ける。

故に、俺も鉄球を投影しつつ、この目まぐるしく変わっていく戦場を駆け回る。

 

そう……俺たちは『チーム』で攻撃している。

 

俺はひとりじゃあない。

それを忘れるな。

 

「オラオラオラオラァァッ!」

 

投擲。

投擲。

回避。

移動。

補充。

投擲。

 

ペースを握っているのはこっち。

手綱を握っているのは俺たち。

この戦いの『リズム』に乗れている。

イニシアチブは俺たちにある。

 

セイバーは『負傷』している。

未だ右腕は癒えず。

本来の剣術を満足に操れないでいる。

これはライダーの『宝具』による効果。

かつて前哨戦で与えた『痛恨の一撃』によるもの。

 

僥倖。

この『負傷』がなければ、今頃俺たちは『万全』のセイバーに細切れにされて影の海にバラ撒かれていただろう。

 

「グ…………うおおおおおおおッ」

 

しかし、それでも刻一刻と失われていく体力。

対して、セイバーはまったくの無傷。

不動で迎撃するセイバーに衰えはない。

 

技量、体力、魔力。

 

その三点においては、未だ頂点。

ライダーを圧倒している。

依然変わりなく。

故に、ライダーが現状では唯一勝っていると言っていい『殊更戦闘における勘』が鈍った瞬間、セイバーは容赦なくライダーの命を刈り取るだろう。

 

ライダーの速度は下り坂に入っている。

セイバーが捉えるのは時間の問題。

あと数秒。

おそらく次の攻撃が防がれたら。

ライダーの息が上がる。

 

だが、それは既に予測していた事実。

そろそろセイバーに捕えられる。

チャンスを無理やり手繰り寄せられる。

 

けれど、()()()()()()()()()()()()()

ピンチはチャンス。

セイバーが正面から、無理やり捩じ伏せてくる機会をずっと待っていた。

 

実は………………

俺たちは最初から『真っ向勝負』を捨てていた。

なぜなら、それでは『勝てない』からだ。

勝てないのなら、してはいけない。

意味がない。

だから真っ向勝負は最初から捨てる。

 

『卑怯千万』上等だ。

大切なのは『怯防勇戦』だ。

 

徹底的に真っ向勝負から逃げる。

逃げて逃げて逃げまくる。

絶対に打ち合ってはいけない。

絶対に『間合い』に入ってはいけない。

インファイトから離脱し、アウトサイドへ。

そうすれば、セイバーは苛立つ。

そして勝負を急ぎ始める。

当たり前だ。

真っ向からやれば簡単にブチのめせる相手。

そんなヤツに遠くからペチペチペチペチ。

鬱陶しいったらありゃしないだろう。

 

戦術は完成した。

戦略は確定した。

戦法を実行する。

 

息を殺す。

戦況を冷静に観察する。

 

ライダーがセイバーへと仕掛けた。

 

「なッ──────!?」

 

仕掛けた、と言っても鉄球の投擲ではない。

ただの『突進』だ。

真っ直ぐに直進する行動。

ついさっきまでと真逆の行動。

蛮行。

自殺行為。

この『意表を突く』行動。

それだけでセイバーにコンマ1秒の隙が生じる。

 

俺は、それを既に予期していた。

直前に練り上げた連携。

故に、俺は既に『投球姿勢(フォーム)』を形成している。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

『歯車』が静かに回り出す。

火花は散っていない。

この投影は『過負荷』ではない。

俺でも操れる領域。

まだ俺如きでも御しきれる段階ッ!

 

手には鉄球が。

身体の芯には一筋の閃光。

肉体の全てを『強化』し、ついでに鉄球にも。

 

脳裏に思い浮かべるは『メジャーリーガー』

日本が誇る最高峰の投手『野茂英雄』

その『投球フォーム』を『投影(トレース)』する。

トルネード投法。

その動きを徹底的に『真似(トレース)』する。

 

でも、所詮これは素人の『猿真似』に過ぎない。

技術と技量が足りない。

しかし、俺には肉体の強化がある。

純粋な膂力。

それが俺の武器だ。

目指せ100マイル。

狙うは『完全試合(パーフェクト・ゲーム)

 

甲子園球児を遥かに凌駕する豪速球。

プロ野球選手の最高記録をも超える速球。

 

脳裏に思い浮かべるはそういう投擲だッ!!

 

「オラァーーーーーーーッ!!!」

 

投げた。

風を切り、螺旋の回転を宙に描く。

ジャイロボール。

けれど、それは『回転』ではない。

()()()()()()()()()に過ぎない。

 

けれど、一瞬思考が乱れたセイバーには─────

 

「ライ、……いや、これはシロ」

 

乱れた。

幸運。

最高の幸運。

理論値そのもの、そんな反応。

俺たちが思い浮かべた理想的な流れ。

 

第二波に移る。

ここで終わりにしてはいけない。

今のセイバーの反応は『もう二度とはないもの(リミテッド・エディション)

ここを凌がれたら、俺たちは絶対に勝てない。

勝機を手繰り寄せよ。

我が専心はそれだけに向けられる。

 

うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!

 

突進したライダー。

至近距離。

近接の間合い。

振るわれる双腕。

投げられた『二つ』の鉄球。

一つは、セイバーに。

セイバーは剣術で以って『対応』する。

では、残りの()()()()は……?

 

『俺の鉄球を迎えに回りこむ』

 

バリイィッ!

 

()()()()()()()()()()()

そして散らばる。

バラバラになって砕ける。

けれど、散らばった『破片』は───────

 

…シルシルシルシルギャルギャルギャルッ!

 

連鎖反応。

静止していた鉄球。

壁や天井にメリ込んでいた鉄球。

それが『回転する破片』によって……………

()()()()()()()()()()()()()()ッ!!

 

「ッ!?」

 

そう。

セイバーは、鉄球を()()()()()()()

勿論、セイバーは鉄球を砕き壊すつもりで剣を振るっていたのだろう。

けれど『回転』による強度の上昇。

それは、俺の『強化』をも上回る。

そして、鉄球は回転しているのだ。

つまり、空手とかの『廻し受け』みたいな………

勢いを殺し衝撃を逃す効果があるッ!

 

「くらえッ!鉄球の包囲網をッ!」

 

セイバーに襲いかかる『9つ』の鉄球。

上から。右から。左から。下から。

四方八方。縦横無尽。

叩き落とした鉄球。弾き返した鉄球。

それが全て蘇り、益々勢いを増して逆襲するッ!

 

ここだ。

ここが正念場。

ここから先は俺の『アドリブ』だ。

決めていない。

ここまでは決めていた。

けれど、ここから先は未知の領域。

ライダーと練り上げたのは、ここまでだった。

 

俺の脳内には、幾つか選択肢がある。

まず、俺の『投影』だ。

セイバーを鉄球の包囲網のみで倒せるのか……?

五分五分だ。

普通なら『9つ』の回転する鉄球。

それも殆どが死角から飛来する。

ただでセイバーは『負傷』している。

そう容易く対応はできない。

 

ならば、ここで決着を見届けるか…?

…………………いや、ダメだ。

()()()()()()()()』がする。

セイバーを、これで斃せる…?

冗談じゃない。

アイツはそんなに弱くない。

アイツはそんなにヤワじゃない。

例え『負傷』していても、『右腕』がなくても。

ライダーが弱いとか、そーいう話じゃあない。

単純な話。

シンプルにセイバーが強すぎる。

硬すぎる。

巧すぎる。

たった、それだけのこと。

 

ならば、どうする。

衛宮士郎では『擦り傷』すらつけられない。

ライダーでは『致命傷』に届かない。

 

ならば、どうする。

決まっている。

俺が考えうる中での、最高火力。

それを叩き込む。

 

『歯車』を見る。

『三つ』ある。

つまり、これは『無銘(ザ・スミス)』が、俺の投影の負担を()()()()してくれる回数。

これ以上使うと、一体どうなるのか…?

考えるな。

そんな事は考えるな。

戦いの邪魔だ。

ノイズだ。

 

『覚悟』を決めろ。

左腕を、完全に解放する。

そして『超過駆動(オーバードライブ)』させる。

 

ライダーは必ず仕留め損ねる。

ならば、今、動くしかない。

間に合わない。

セイバーは必ず耐え凌ぐ。

今、ここで動き始めなければならない。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

我が二十七の魔術回路。

それに渾身の魔力を込める。

肉体に迸る閃光。

いや、それはもはや光線。

束ねられた閃光が、肉体を焼きながら疾走する。

脳裏に思い浮かべるは最強の剣。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

刹那。

俺の中で『何か』が溶け消える。

だけど。

俺はそれを、無視した。

きっと、取り返しはつかない。

それでいい。

俺はもう、ずっと前から取り返しのつかない選択を選び続けてきた。

これでいい。

これでいいんだ。

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