Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#73 アイ・ニード・ユー

影の巨人が踊り狂う。

『ツイスト』のように腰をグイッと捻り、そのまま何処までも捻り続けては、やがて千切れ飛んで真っ二つになって斃れていく。

 

影の巨人が踊り狂う。

まるで『ブレイクダンス』のようにグルグル回り、『バレエ』のようにクルクルと廻る。

 

影の巨人が踊り狂う。

しかしそれは『踊り(ダンス)』と呼ぶには余りにも厳しい。

影の巨人たちに貌はない。

だが誰が見ても、苦痛にのたうち回っているようにしか見えない。

 

暗黒のダンスホール。

暗闇のディスコ。

その中央に『ヘアスプレイ・クイーン』はいない。

いるのは、ただ怯えている少女だけだ。

 

シルシルシルシルシルシルシルシル……

 

「か、影が……『回転』して……ッ!?」

 

白髪。

身に纏う影の衣装。

刻まれた刺青のような令呪。

それら全てが『回転』している。

 

頭を『起点』に髪が廻る。

関節を『起点』に四肢が廻る。

模様の中心を『起点』に令呪が廻る。

 

シルシルシルシル』と廻り続ける。

 

回転の勢いは止まらない。

寧ろ、時間が経っても尚益々勢いを増していく。

間桐桜は動かない。

間桐桜は動けない。

影の巨人たちも同様に。

 

その場でただ『立っている』だけ。

 

無限に回転し続けるエネルギー。

それは、潤沢な『魔力』を帯びた影の動きを完全に止めた。

 

ここでもう一度言わせて貰うのだが──────

『間桐桜の魔力貯蔵量は数億どころか兆に届く』

時代の一生を以ってしても使い切れぬ量。

それは無尽蔵の貯蔵と言える。

 

数兆。

凄まじい量だ。

魔術協会の一部門を永続させる事もできるだろう。

 

されど『数兆』と言う事は──────────

『数える事ができる』

つまり『限界がある』という事だ。

その限界に届くまでは、すごく長い。

すごく永いし、すごく遠い。

けれど、途中で止めない限りいつかは必ず届く。

到達するまでに何年かかるだろう?

百年?千年?万年?億年?

わからない。

けれども、いつかは届く。

そのいつかが、どこまで遠くにあろうとも。

 

ならば『黄金長方形の回転』はどうだろう…?

数億のパワー?数兆のエネルギー?

そんなもんじゃあない。

そんな『底のある』モノではない。

『無限の螺旋』

この世の凡ゆる法則。

『重力』とか『引力』とか。

それらを人類は決して覆せないように。

この『螺旋』もまた、覆せないモノなのだ。

 

「うああああああああッ……う、動けないッ!」

 

影の触手を動かす。

捩じ切れて千切れ飛ぶ。

腕を前に動かす。

肘が曲がり折り畳まれる。

逃げようと後退る。

腰が回転し、膝裏が前を向く。

 

回る、廻る、回る、廻る。

どこまでも廻り続ける。

 

終わりはない。

決して終わりはない。

 

痛みはない。

苦しみもない。

死にはしない。

ただ動けない。

影を動かして攻撃できない。

その場から逃げる事もできない。

 

そして、死んでしまう事もできない。

 

「い………やだ………こわい……こんなの…やだ」

 

そう、死ぬ事もできない。

影は死を許さない。

聖杯を通して、間桐桜に接続された…………

この世全ての悪(アンリマユ)』が許さない。

 

身体が捩じ切れる。

意思に反して弾け飛ぶ。

痛みはない。

身体も再生し始める。

けれど動けない。

 

影が捩じ切れ、そのまま事切れる。

何体も。何体も。何体も。何体も。

生まれては捩じ切れる。

生まれては千切れ飛ぶ。

そして皆、虚空に消えていく。

 

その繰り返し。

宇宙の果てまで昇り続ける螺旋階段。

今、間桐桜を襲っているのは『永遠の螺旋』だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

「い、いやッ!いやだッ!死にたくないッ!!」

 

叫ぶ。

心の底から叫ぶ。

彼女の中には恐怖しかない。

彼女は死ぬ勇気すら持てなかった。

最後の最後まで迷う事で、死ぬという選択から逃げ続けてきた。

選択を他者に委ねる事はできる。

そして、その選択に納得もできる。

しかし、自分で選ぶ、という事。

それだけはどうしてもできなかった。

 

その結果、彼女は選ぶ事すら許されなくなった。

 

永遠にこのまま。

痛みはない。

苦しみもない。

視界がグルグルしているが吐き気はない。

乗り物酔いみたいな不快感もない。

 

だけど、動けない。

間桐桜は、このまま、一生涯動けない。

 

「い、いやだッ!そんなの……そんなのって…!」

 

廻り続ける視界。

グルグルと。

くるくると。

視界の隅はブレている。

だから、彼女は視界の中央を見た。

 

『誰かが立っている』

 

視界のブレが収まる。

身体は未だに回転している。

だが顔面や頭部の回転は治った。

 

「ッ!に、兄さん…!?」

 

視界の中央。

立っていたのは『間桐慎二』だった。

そう、()()()()()

脚はプルプルと震えている。

産まれたての子鹿のように震えている。

 

けれど、両の脚で立っていた。

 

「おまえ、もう、ぼくの事ナメてないだろ…?」

 

「…………………………………………え?」

 

「これでもう、ぼくのスゴさがわかった筈だ………だから、そのご褒美にひとつだけ、『ワガママ』を叶えてやる…」

 

さっきまでの、漆黒の炎。

それはもう、消えている。

瞳の中で燻ってはいる。

けれど火柱は立っていない。

 

間桐桜は、唐突に過去を思い出す。

 

 

 

 

なぜ、自分は苦しんだのか…?

なぜ、こんな目に合わなくちゃいけなかった?

 

勿論、それは『お爺様』のせいだ。

そして『元お父様』の、せいだ。

『お義父様』のせいでもある。

 

対して、自分はどうだろうか。

悪い事をした覚えはない。

イタズラやイジワルをした覚えもない。

もし、わたしが悪い子だとしたら……

兄は何になるのだろう………

極悪人?死刑囚?

わからない。

 

けれど、もしもわたしが悪い子なのだとしたら、兄はもっと悪い子という事になって、直ぐに誰かに裁かれていただろう。

 

じゃあ、わたしは悪くない。

 

なのに、わたしは目一杯苦しんだ。

なのに、わたしは無茶苦茶に苦しんだ。

 

こんなの不公平だ。

こんなの理不尽だ。

こんなの不条理だ。

 

そう言えば、兄は『ナニか』にキレていた。

たしか、『ナメる』『ナメない』の話だ。

それも、すごく理不尽な話だ。

『ナメる』『ナメない』で、わたしにあんなにブチギレるなんて。

あんなに怒らなくってもいいじゃない。

そんなに許せない事、だったのかな?

じゃあ、しょうがないのかもしれない。

 

それにしても────────────

わたしって兄さんを『ナメてた』のかな……?

 

尊敬は、していたと思う。

イヤなところもあったけど。

好きな所も沢山あった。

 

でも、わたしは……………………………

 

……………………………そうか。

わたし、兄さんを『ナメてた』んだ。

 

だって、兄さんよりも『お爺様』の方が怖かったから。

『お爺様』の方が強そうだと思ってたから。

だから、わたし言えなかったんだ。

ずっと、ずっと、ずっと、言えなかったんだ。

 

今になって気づいた。

兄さんは、あの修行を三年間も耐えた。

そして悪い子になっちゃったわたしを、ブッ飛ばせるくらい、強くなっちゃった。

 

だったら。

そうなのだとしたら。

そっか。

最初から、こう言えば、良かったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にいさん、たすけて」

 

「いいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体が硬い。

関節が鋼になった気がする。

うまく歩けない。

足に痛みがある。

歯を食いしばる。

まだ、俺は動ける。

徐々に身体が慣れてきた。

もう、うまく歩ける。

痛みはそのままだが。

トチ狂っちまいそうな痛みでもない。

 

「ライダー」

 

ライダーは健在だった。

ただ、体じゅうボロボロで、魔力も殆ど尽きてる。

意識もない。

俺がセイバーを討つ瞬間。

その時まで、ずっと前線で戦ってくれていた。

こうなるのも当然だ。

寧ろ、よく生きてたってもんだ。

四肢のどれかを切り飛ばされたって、おかしくはなかったのだ。

すぐには動けないだろう。

ライダーには休んでもらった方がいい。

 

「先に行ってる」

 

倒れ伏したライダーに呟いて、奥へ向かう。

ここでライダーに無理はさせたくない。

俺の心情的な問題もあるが、ここで無理をして立ち上がってもらうより、確実に回復してから動く方が効率的。

 

ならば俺がぐずぐずしてちゃしょうがない。

身体が硬い。

足が痛い。

頭が痛い。

吐き気がする。

左腕の無銘(ザ・スミス)が、どんどん錆びていく。

赤錆色の塗装ではない。

本物の錆

手で擦れば、ボロボロと何かが溢れ落ちる。

俺は、それを見ないフリした。

 

───────近い。

 

生暖かい風が身体を撫でる。

 

「よし、行くぞ」

 

ぱん、と頬を叩いて走り出した。

 

闇を抜ける。

視界には、いつか見た事のある荒野。

いや、違う。

ここは見た事のある風景ではない。

以前……イリヤの記録にあった荒野に……あんな『モノ』は存在しなかった。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!

 

『アレ』が。

この、ふざけた戦いの元凶。

俺から桜をとっていったヤツ。

 

全身に叩きつけられる威圧と不快感。

常世全ての生命を冒涜せん、と蠢く。

気持ち悪い。

歪な胎児。

それが身体から出たがっている。

こんなモノ、この世にあっていい筈がない。

 

「────────………?」

 

それにしても、静かだ。

やけに、音がない。

さっきまでは『ドカーン』とか『ドゴーン』とか。

そういう轟音が鳴り響いていたのに。

 

不思議とイヤな予感はない。

むしろ、なにか、心の中で、動くモノがある。

それは不安とか恐怖とかではない。

 

それは。

 

それは………………!

 

「もしかして、もしかしてなのかッ!?」

 

走る。

崖を登る。

音はない。

静かだ。

あの歪な胎児は大人しいまま。

地響きはない。

地割れもない。

 

そして、影の躍動もない。

 

登る。

痛みが消える。

岩壁を掻く。

胸が躍る。

 

「……………………ま、まさかッ!!」

 

登りきった。

目の前には────────────

 

「遅せェーぞッ!このタコッ!!」

 

()を抱えた兄貴(慎二)が、プルプルと足を震えさせながら立っていた。

 

 

 

 

【シルヴァー・ビートルズ・リマスター】

 

間桐慎二が発現した『人型のビジョン』

『馬の力』を利用する事で、自らの両手に完全なる黄金の『回転エネルギー』を纏わせ、それを射出する事で発現する。

ちなみにこの際、両手は手首を起点に回転する。

失った両手は、『身体のどこかの肉』が肩代わりすることで再生する。

 

これは厳密には()()()()()()()()

あくまで()()()()()()()である。

なので、スタンド使い以外の人間であっても触れるし視認できる。

 

ビジョンの色は紺色。深い紺色。

身長が180cmくらいある。

体格は力士の様に大柄で肩幅が広い。

身体には白い文字で『The Beatles』と小さく無数に書いており、まるで奇妙な紋様みたいに見える。

顔面はまるで何かの『獣』の絵のよう。

『セイウチ』にも『ウサギ』にも見える。

もしかしたら、人によっては『カバ』とか『鳥』と答えるのかもしれない。

間桐慎二はこれを『ラリッてるヤツの絵みたい』と思っている。

 

その能力は『対象物』を回転させ続ける能力。

右手で殴れば『右回り』、

左手で殴れば『左回り』で回転する。

このビジョンに殴られた物体は殴られた箇所を起点に回転し始める。

この回転の速度は徐々に速くなっていく。

この回転を止める方法は、本体に頼み込んで殴られた回転と『反対方向』の回転になるように殴ってもらうしかない。

 

この回転は『物理的な回転』でもあるが、その物理法則では捉えられない『因果』すらも回転させる事ができる。

 

また、この『回転』による『痛み』や『苦しみ』は一切ない。

 

チュミミィィ〜〜ン」と鳴く。

 

【ステータス】

破壊力 - B

スピード - B

射程距離 - E

持続力 - A

精密動作性 - C

成長性 - E(完成)

 

スタンド名の由来は『ザ・ビートルズ』の旧名

「ロング・ジョン&シルヴァー・ビートルズ」

 

『リマスター』の由来は『デジタルリマスター』

デジタルリマスターとは、過去の映画や音楽などを、最新のデジタル技術を用いて、再度マスタリングを行う作業のことである。

 

ラッシュ時の掛け声は『オラオラオラオラ』

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