Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
話は少し前に遡る。
衛宮士郎は『試練』に打ち勝った。
かつての『運命の少女』を破り、勝利した。
共に戦った『
その数分後、『
身体はボロボロ。
魔力の供給も殆どない。
回復はゆっくりと、だが時々途切れてしまう。
それでも、ライダーの心に『絶望』はない。
かつての旅路のように、希望を残せたのだ。
彼らは自分で『決着』をつけるだろう。
ライダーは、まだもう少しだけ眠ろうとして………
『オラァーーーーッ!』ブンッ
直ぐに飛び上がって、即座に戦闘態勢を構え、背後から聴こえる足音に向かって、攻撃した。
投げられたのは、回転する鉄球。
なんという反応速度か。
コンマ数秒の直感的判断。
力を抜き、壁を背に凭れかかろうと途端、咄嗟の判断で直ぐさま鉄球を投擲したのだ。
しかし──────
「ほう、流石は歴戦の英雄と言った所か」
その一撃は、いとも容易く防がれる。
弾き飛ばされた鉄球が天井にメリ込む。
パラパラと砕かれた岩の破片が舞い落ちる。
一体どうやって防いだのか…………?
本来、
況してや『牽制』などではない『全力』の攻撃。
それは回避不可能。
そして防御不可能。
けれど、襲撃者は容易く防いだ。
いや、厳密には襲撃者『が』防いだのではない。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!
襲撃者の傍らには人型の『ナニか』が佇んでいた。
それは、ビジョン。
生身の肉体ではなく、霊体に分類されるモノ。
エネルギーの奔流。或いは純粋な力の塊。
その存在は様々な呼び方があるが……………
とある場所や、とある人物たちは、こう呼ぶ。
『
襲撃者、言峰綺礼の側にはスタンドが立っていた。
そのスタンドの姿は、やはり奇妙である。
猫のような下半身。
しなやかで、獣の様に毛むくじゃら。
紅く筋肉質な上半身。
所々に刺青が、紅く淡く光っている。
胸には叫んでいる男の顔のような模様。
その表情は苦痛に歪んでいる様に見える。
手には鋼鉄の爪。
光沢があり、まるで刀身のように。
頭部が爆弾になっており、更に有刺鉄線が巻かれている。
その爆弾の見た目は『ナパーム弾』に似ている。
異常な霊体。
混沌の怪異。
禍々しい
「テメェ〜〜〜………『敵』かッ!」
「だとするのならば、どうするのかね?」
「ブッ飛ばす」
一瞬の交錯。
投擲されたもう一つの鉄球。
それを鋼鉄の爪で受け止める。
ギャルギャルギャルギャルッ!
火花が散り、暗い洞窟の中を照らす。
『
異形が吠える。
その胸にメリ込んでいる男の顔が雄叫びをあげる。
口を大きく開け、鼻の穴さえ広げて叫ぶ。
そうして、回転エネルギーを纏う鉄球を弾き飛ばし、間髪入れずにライダーに襲いかかる。
今、ライダーは無手。
要は丸腰。
されど、そこには『不敵な笑み』が。
正しく大胆不敵。
この不利な状況下でも、ライダーは動じない。
「随分イカしたマッスルしてるみてーだが、オレはそう簡単にはやられねーぜッ」
グルグルグルグルゥッ…!
何かが回る。
ライダーの手には、回転する何かが。
それは『石くれ』だった。
ごつごつしたタダの石。
けれども、それは『回転』している。
不完全で、不恰好でも、確かに回転していた。
『
鋼鉄の爪が振り下ろされる。
その狙いは首。
頭を刎ねるべく、振るわれる必殺の刃。
どこまでも疾く、どこまでも鋭い一撃。
「うおおおおおおおおおおッ」
咄嗟の本能的判断。
僅かコンマ数秒の猶予の間に、ライダーは両腕をクロスさせ、自身の頭を守る。
鋼鉄の爪が、その両腕に食い込んだ。
そう、
そのスタンドによる一撃は、並の
本来ならば腕ごと刈り取る死の刃。
されど、ライダーが右手に握り込んだ石くれが、その回転の力を以って皮膚を鋼鉄化したのだ。
それ故に、その攻撃は完璧にではないが防がれた。
刹那。
…シルシルシルシルギャルギャルギャルッ!
蘇る鉄球の回転。
ライダーは、ついさっき
一つだけではない。
『二つ』回転させた。
片方は右手に握り込み『防御』の為に。
もうひとつは…………
彼は回転を自在に操る技術を持つ。
それは豪速球として投擲するだけでなく………
誰にも気づかれないよう、静かに壁を伝って、回転する石くれは鉄球に触れた。
そうして、かつての勢いが復活した鉄球は───
ドグシャアァッ!
『
自由自在に飛び回り、ビジョンを襲う…!
「ほう…魔術ではない、なるほど、私が今まで見た『技術』の中で最も奇妙なモノと言える」
「我が一族秘伝の技術だぜ?公民館で教室開かれてるとでも思ってんのかよ」
「だが汝は既に罪人」
「は?」
状況は覆された。
ビジョンには鉄球がメリ込み、それは回転によって削られていく。
痛恨の一手。
致命の一撃。
その鉄球は、確かに勝利へ導く風。
けれど、そのビジョンの能力は…………
メラメラメラメラ……!
ただ、鋼鉄の爪を振るうだけではない。
「な、なにィーーーッ!?」
炎。
それは『ドス黒い炎』だ。
ライダーの身体が、黒い炎で燃えている。
「罪の支払う報酬は死である*1」
その炎は罪人を焼き払う業火。
かつて主が『
「うおおおおおおおおおッ!?」メラメラメラッ
形勢は、クルクルと変わる。
風に揺られる風船のように。
ライダーが勝機を手繰り寄せる度に、また新たなる『試練』が益々厳しくなって訪れる。
かつて彼が『とあるレース』を走った時のように。
「この炎の勢いは……………おまえは、まず数人は殺したな…?いや、数十人といった所か……そして
「て………てめぇ………!」メラメラメラッ!ボッ!
「主は『罪』を許さない、例えどれだけぬきさしならない理由があろうともな……故におまえは罪人であり『罰』を受けなければならない…『みだらな行いにふけり、愛すべき隣人を殺した者は、永遠の火の刑罰を受け、見せしめにせねばならぬ』のだよ」
その炎は、まるで黒き竜だ。
竜が天を駆けるように、その勢いは凄まじい。
次第にライダーの皮膚が火炙りにされていく。
それは、純粋な苦痛だと言える。
この世の凡ゆる刑罰、拷問、処刑、死刑。
それを遥かに上回る苦しみ。
肉体だけではなく、その魂までも焼かれていく。
「…………………ガ………ぁ…ッ」
「喜びたまえ、これでおまえの罪は清められた」
黒い炎が燃えている。
それに焼かれ死んだ者が、大地に斃れる。
かつての戦争で、ナパーム弾で焼き払われた市街地の罪なき子供たちのように。
死を産む種。
火葬する薪。
それは、己を見失った者の尽きる事の無い欲望。
◆
【
漢字表記は『二十一世紀の精神異常者』
または『
言峰綺礼が『遺体』の殆どを取り込んで発現した。
これは『スタンド能力』と『
全てが混ざり合った『ナニか』である。
その力は『悪の心を
触れた者の悪心、そして悪しき行いを重ねた肉体を燃やす黒い炎を振り撒く。
外見は、非常に奇妙。
猫のような下半身。
紅く筋肉質な上半身。
胸部には叫んでいる男の顔がメリ込んでいる。
手には鋼鉄の爪。
頭部がナパーム弾になっており、尚且つ有刺鉄線が巻かれている。
【ステータス】
破壊力 - A
スピード - C
射程距離 - E
持続力 - C
精密動作性 - C
成長性 - E
名前の由来はイングランド出身のプログレバンド。
『キング・クリムゾン』のファースト・アルバム。
◆
息が苦しい。
遠坂が倒れている。
遠坂は血塗れだ。
辛うじて呼吸はしている。
その細く薄い身体が脈打っている。
生きてはいる。
けれど、生きているだけ。
呼吸が苦しい。
胸が苦しい。
首元がチリチリと、まるで火炙りだ。
「衛宮ァーッ!
慎二が桜に駆け寄り、直ぐに覆い被さる。
今の桜は無防備だ。
そして遠坂も。
俺はここを動くべきか。
それとも遠坂を守るべきか。
判断が必要だ。
選択が必要だ。
「おまえ何をやっている衛宮士郎ォーーーーッ!?早くライダーを連れてきやがれェーーーーッ!!」
……………………いや、ダメだ。
俺は、動いてはならない。
もう、ダメなんだ。
俺はここで、遠坂を守る。
そして、必ず連れて帰る。
それが必須となってしまった。
「何をノンキにッ……………ハッ!?」
慎二の傍らで佇む馬。
ライダーのヴァルキリー。
今まで俺たちを何度も助けてくれた。
そんな、ライダーの相棒が………………
「ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ」
ダメだ。
これは、ダメだ。
おそらく、
彼が死んだら馬も死ぬ。
そういう
桜の傍らには、慎二がいる。
桜は気絶しているから、完全に無防備。
慎二に死ぬ気で守ってもらうしかない。
ならば、誰が
言うまでもなく、俺だけだ。
そう、俺が戦うしかない。
轟音が鳴り響く。
大地が揺れている。
影が揺らめく。
遠くから、誰かが歩いてくる。
しっかりとした足取りで、力強く大地を踏みしめて。
「─────ッ」
一瞬の砂嵐。
俺の視界が遮られる。
マズイ。
俺の身体にもガタがきてる。
致命的なまでのガタではない。
今直ぐに死んでしまう、というワケじゃあない。
けれど、確かに、静かに、蝕んでいる。
俺の身体に『ナニか』が侵入し始めている。
俯いた顔を上げる。
誰かが、赤黒い炎に照らされて、立っている。
ソイツは………そいつの名は…………!
「──────言峰、綺礼」
「ああ」
強い意志に満ちた声。
俺たち以外に生きているモノのいない世界で、その男は『宿命』のように、俺たちの目の前に立ちはだかっていた。
「何のつもりだ言峰、今更おまえの出る幕はない、サッサと帰ってサッカーでもしてろ」
「何のつもり、などと判りきった事を訊くな…私の目的はただ一つ、この呪いを誕生させる事のみだ」
「──何を…おまえにそんな事はできない、そいつはおまえの物になんてならない」
「当然だ………私はこれに干渉する事はできんし、これに干渉する気もない、だが私は誕生するモノを『祝福』する、コレは今、まさに産まれようとしている、ならばその誕生を阻む外敵から守ってやるのは当然ではないかな」
「もうしゃべるな、話がかみ合わねえ」
言峰綺礼は動かない。
何やらゴチャゴチャ言っている。
あいつはあの場から退かず、ヤツがいる限り、俺は最後の投影を試みる事さえできない。
投影には時間を要する。
そんな隙を見せれば、俺か慎二のどっちかが死ぬ。
あの、つまらなさそうなツラしてるヤツに。
許さねえ。
あんなヤツに、殺されてたまるか。
アイツは、ずっとゴチャゴチャ言ってやがる。
アレは半ば独り言みたいなもんだ。
俺の目なんか見ちゃいねえ。
俺に語りかけてもいねえ。
ただ、ずっと何かを言っている。
罪科があーだ、産まれがこーだ。
善があーだ、悪がこーだ。罰がどーだ。
クソどうでもいい事をベラベラと。
うるせえ。
もういい。
もうしゃべるな。
テメーとは話がかみ合わねえ。
さっきそう言っただろうが。
「もういい黙れ、御託は充分だ、かかってこい」
「………おまえは、つまらん」
踏み出してくる。
ヤツは入り口付近にいる。
位置的に、入り口に近いのは……………
言峰→遠坂(重症)→俺→慎二→桜の順番。
遠坂は不意打ちでやられた。
そして重症だ。
ここで俺が戦わなければ、そのまま死ぬ。
今はゆっくりと回復し始めている。
あいつの魔術刻印が、そう易々と殺させはしない。
だが決着は迅速にしなければ。
遠坂も桜も、間に合わなくなる。
「行くぞ、慎二」
「OK牧場」
俺が前線で戦う。
慎二は
大丈夫。
きっと大丈夫だ。
今までずっと一緒に戦ってきた。
そしてこれからも一緒に戦い続ける。
これが初めての、本当の意味での共闘。
対等で、平等で、真に互いを信じ合う。
初めてだ。
だけど、これだけは判る。
きっと俺たちは、無敵のコンビだぜ。