Fate/STEEL BALL RUN【完結】   作:石田たつを

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#75 ウェイティング・マン その②

話は少し前に遡る。

 

衛宮士郎は『試練』に打ち勝った。

かつての『運命の少女』を破り、勝利した。

共に戦った『騎兵(ライダー)』を背に、闇を抜けていった。

 

その数分後、『騎兵(ライダー)』は目を覚ました。

 

身体はボロボロ。

魔力の供給も殆どない。

回復はゆっくりと、だが時々途切れてしまう。

 

それでも、ライダーの心に『絶望』はない。

 

かつての旅路のように、希望を残せたのだ。

彼らは自分で『決着』をつけるだろう。

 

ライダーは、まだもう少しだけ眠ろうとして………

 

『オラァーーーーッ!』ブンッ

 

直ぐに飛び上がって、即座に戦闘態勢を構え、背後から聴こえる足音に向かって、攻撃した。

投げられたのは、回転する鉄球。

なんという反応速度か。

コンマ数秒の直感的判断。

力を抜き、壁を背に凭れかかろうと途端、咄嗟の判断で直ぐさま鉄球を投擲したのだ。

 

しかし──────

 

「ほう、流石は歴戦の英雄と言った所か」

 

その一撃は、いとも容易く防がれる。

弾き飛ばされた鉄球が天井にメリ込む。

パラパラと砕かれた岩の破片が舞い落ちる。

 

一体どうやって防いだのか…………?

 

本来、英霊(サーヴァント)が放つ攻撃というものは、魔術師を含めた大概の人間にとっては『必殺の一撃』と言ってもいい。

 

況してや『牽制』などではない『全力』の攻撃。

 

それは回避不可能。

そして防御不可能。

 

けれど、襲撃者は容易く防いだ。

いや、厳密には襲撃者『が』防いだのではない。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!

 

襲撃者の傍らには人型の『ナニか』が佇んでいた。

 

それは、ビジョン。

生身の肉体ではなく、霊体に分類されるモノ。

エネルギーの奔流。或いは純粋な力の塊。

その存在は様々な呼び方があるが……………

とある場所や、とある人物たちは、こう呼ぶ。

 

立ち向かうもの(スタンド)と。

 

襲撃者、言峰綺礼の側にはスタンドが立っていた。

 

そのスタンドの姿は、やはり奇妙である。

 

猫のような下半身。

しなやかで、獣の様に毛むくじゃら。

紅く筋肉質な上半身。

所々に刺青が、紅く淡く光っている。

胸には叫んでいる男の顔のような模様。

その表情は苦痛に歪んでいる様に見える。

手には鋼鉄の爪。

光沢があり、まるで刀身のように。

頭部が爆弾になっており、更に有刺鉄線が巻かれている。

その爆弾の見た目は『ナパーム弾』に似ている。

 

異常な霊体。

混沌の怪異。

禍々しい波動(オーラ)を放ちながら、ゆらゆらと宙を舞う。

 

「テメェ〜〜〜………『敵』かッ!」

 

「だとするのならば、どうするのかね?」

 

「ブッ飛ばす」

 

一瞬の交錯。

 

投擲されたもう一つの鉄球。

それを鋼鉄の爪で受け止める。

 

ギャルギャルギャルギャルッ!

 

火花が散り、暗い洞窟の中を照らす。

 

WRYYYYYYYYYYYY(ウリイイイイイイイイイイイイ)!!』

 

異形が吠える。

その胸にメリ込んでいる男の顔が雄叫びをあげる。

口を大きく開け、鼻の穴さえ広げて叫ぶ。

 

そうして、回転エネルギーを纏う鉄球を弾き飛ばし、間髪入れずにライダーに襲いかかる。

 

今、ライダーは無手。

要は丸腰。

されど、そこには『不敵な笑み』が。

 

正しく大胆不敵。

この不利な状況下でも、ライダーは動じない。

 

「随分イカしたマッスルしてるみてーだが、オレはそう簡単にはやられねーぜッ」

 

グルグルグルグルゥッ…!

 

何かが回る。

ライダーの手には、回転する何かが。

 

それは『石くれ』だった。

ごつごつしたタダの石。

けれども、それは『回転』している。

不完全で、不恰好でも、確かに回転していた。

 

GYAAAAAAAAAAA(ギヤアアアアアアアアアア)!』

 

鋼鉄の爪が振り下ろされる。

その狙いは首。

頭を刎ねるべく、振るわれる必殺の刃。

 

どこまでも疾く、どこまでも鋭い一撃。

 

「うおおおおおおおおおおッ」

 

咄嗟の本能的判断。

僅かコンマ数秒の猶予の間に、ライダーは両腕をクロスさせ、自身の頭を守る。

 

鋼鉄の爪が、その両腕に食い込んだ。

 

そう、()()()()()のだ。

 

そのスタンドによる一撃は、並の英霊(サーヴァント)でも痛手を負わせる事が出来るほどの破壊力(パワー)がある。

本来ならば腕ごと刈り取る死の刃。

 

されど、ライダーが右手に握り込んだ石くれが、その回転の力を以って皮膚を鋼鉄化したのだ。

それ故に、その攻撃は完璧にではないが防がれた。

 

刹那。

 

…シルシルシルシルギャルギャルギャルッ!

 

蘇る鉄球の回転。

 

ライダーは、ついさっき()()()を回転させた。

一つだけではない。

『二つ』回転させた。

 

片方は右手に握り込み『防御』の為に。

もうひとつは…………

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

彼は回転を自在に操る技術を持つ。

それは豪速球として投擲するだけでなく………

 

()()()()()()()()()()()()()…!

 

誰にも気づかれないよう、静かに壁を伝って、回転する石くれは鉄球に触れた。

 

そうして、かつての勢いが復活した鉄球は───

 

ドグシャアァッ!

 

GYA(ギャァ)ッ!?』

 

自由自在に飛び回り、ビジョンを襲う…!

 

「ほう…魔術ではない、なるほど、私が今まで見た『技術』の中で最も奇妙なモノと言える」

 

「我が一族秘伝の技術だぜ?公民館で教室開かれてるとでも思ってんのかよ」

 

「だが汝は既に罪人」

 

「は?」

 

状況は覆された。

ビジョンには鉄球がメリ込み、それは回転によって削られていく。

痛恨の一手。

致命の一撃。

その鉄球は、確かに勝利へ導く風。

 

けれど、そのビジョンの能力は…………

 

メラメラメラメラ……!

 

ただ、鋼鉄の爪を振るうだけではない。

 

「な、なにィーーーッ!?」

 

炎。

 

それは『ドス黒い炎』だ。

ライダーの身体が、黒い炎で燃えている。

 

「罪の支払う報酬は死である*1

 

その炎は罪人を焼き払う業火。

かつて主が『堕落した都市(ソドムとゴモラ)』を炎で罰したように、その永遠の業火は、益々勢いを増していく。

 

「うおおおおおおおおおッ!?」メラメラメラッ

 

形勢は、クルクルと変わる。

風に揺られる風船のように。

ライダーが勝機を手繰り寄せる度に、また新たなる『試練』が益々厳しくなって訪れる。

かつて彼が『とあるレース』を走った時のように。

 

「この炎の勢いは……………おまえは、まず数人は殺したな…?いや、数十人といった所か……そして屡々(しばしば)姦淫も行ったようだな………人妻と寝たりでもしたのかね…?」

 

「て………てめぇ………!」メラメラメラッ!ボッ!

 

「主は『罪』を許さない、例えどれだけぬきさしならない理由があろうともな……故におまえは罪人であり『罰』を受けなければならない…『みだらな行いにふけり、愛すべき隣人を殺した者は、永遠の火の刑罰を受け、見せしめにせねばならぬ』のだよ」

 

その炎は、まるで黒き竜だ。

竜が天を駆けるように、その勢いは凄まじい。

次第にライダーの皮膚が火炙りにされていく。

 

それは、純粋な苦痛だと言える。

この世の凡ゆる刑罰、拷問、処刑、死刑。

それを遥かに上回る苦しみ。

 

肉体だけではなく、その魂までも焼かれていく。

 

「…………………ガ………ぁ…ッ」

 

「喜びたまえ、これでおまえの罪は清められた」

 

黒い炎が燃えている。

それに焼かれ死んだ者が、大地に斃れる。

かつての戦争で、ナパーム弾で焼き払われた市街地の罪なき子供たちのように。

 

死を産む種。

火葬する薪。

それは、己を見失った者の尽きる事の無い欲望。

 

 

 

 

21th(トウェンティーワン)センチュリー・スキッツォイド・マン】

漢字表記は『二十一世紀の精神異常者』

または『破綻者(スキッツォイド・マン)』とも。

言峰綺礼が『遺体』の殆どを取り込んで発現した。

 

これは『スタンド能力』と『この全ての悪(アンリマユ)』の融合体であり、厳密にはスタンドでも魔術でも霊体でも呪いでもない。

全てが混ざり合った『ナニか』である。

 

その力は『悪の心を()にして燃やす』能力。

触れた者の悪心、そして悪しき行いを重ねた肉体を燃やす黒い炎を振り撒く。

 

外見は、非常に奇妙。

猫のような下半身。

紅く筋肉質な上半身。

胸部には叫んでいる男の顔がメリ込んでいる。

手には鋼鉄の爪。

頭部がナパーム弾になっており、尚且つ有刺鉄線が巻かれている。

 

【ステータス】

破壊力 - A

スピード - C

射程距離 - E

持続力 - C

精密動作性 - C

成長性 - E

 

名前の由来はイングランド出身のプログレバンド。

『キング・クリムゾン』のファースト・アルバム。

 

 

 

 

息が苦しい。

遠坂が倒れている。

遠坂は血塗れだ。

辛うじて呼吸はしている。

その細く薄い身体が脈打っている。

生きてはいる。

けれど、生きているだけ。

呼吸が苦しい。

胸が苦しい。

首元がチリチリと、まるで火炙りだ。

 

「衛宮ァーッ!騎兵(ライダー)を呼んで来てくれェーッ!」

 

慎二が桜に駆け寄り、直ぐに覆い被さる。

今の桜は無防備だ。

そして遠坂も。

俺はここを動くべきか。

それとも遠坂を守るべきか。

判断が必要だ。

選択が必要だ。

 

「おまえ何をやっている衛宮士郎ォーーーーッ!?早くライダーを連れてきやがれェーーーーッ!!」

 

……………………いや、ダメだ。

俺は、動いてはならない。

もう、ダメなんだ。

俺はここで、遠坂を守る。

そして、必ず連れて帰る。

それが必須となってしまった。

 

「何をノンキにッ……………ハッ!?」

 

慎二の傍らで佇む馬。

ライダーのヴァルキリー。

今まで俺たちを何度も助けてくれた。

そんな、ライダーの相棒が………………

 

()()()()()()()()()()()()()()()…!

 

「ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ」

 

ダメだ。

これは、ダメだ。

おそらく、()()()()()()()()()()()()()()

騎兵(ライダー)(ヴァルキリー)は人馬一体。

彼が死んだら馬も死ぬ。

そういう仕組み(メカニズム)で、できている。

 

桜の傍らには、慎二がいる。

桜は気絶しているから、完全に無防備。

慎二に死ぬ気で守ってもらうしかない。

 

ならば、誰が()()()()敵と戦うべきなのか。

言うまでもなく、俺だけだ。

そう、俺が戦うしかない。

 

轟音が鳴り響く。

大地が揺れている。

影が揺らめく。

 

遠くから、誰かが歩いてくる。

しっかりとした足取りで、力強く大地を踏みしめて。

 

「─────ッ」

 

一瞬の砂嵐。

俺の視界が遮られる。

マズイ。

俺の身体にもガタがきてる。

致命的なまでのガタではない。

今直ぐに死んでしまう、というワケじゃあない。

けれど、確かに、静かに、蝕んでいる。

俺の身体に『ナニか』が侵入し始めている。

 

俯いた顔を上げる。

誰かが、赤黒い炎に照らされて、立っている。

ソイツは………そいつの名は…………!

 

「──────言峰、綺礼」

 

「ああ」

 

強い意志に満ちた声。

俺たち以外に生きているモノのいない世界で、その男は『宿命』のように、俺たちの目の前に立ちはだかっていた。

 

「何のつもりだ言峰、今更おまえの出る幕はない、サッサと帰ってサッカーでもしてろ」

 

「何のつもり、などと判りきった事を訊くな…私の目的はただ一つ、この呪いを誕生させる事のみだ」

 

「──何を…おまえにそんな事はできない、そいつはおまえの物になんてならない」

 

「当然だ………私はこれに干渉する事はできんし、これに干渉する気もない、だが私は誕生するモノを『祝福』する、コレは今、まさに産まれようとしている、ならばその誕生を阻む外敵から守ってやるのは当然ではないかな」

 

「もうしゃべるな、話がかみ合わねえ」

 

言峰綺礼は動かない。

何やらゴチャゴチャ言っている。

あいつはあの場から退かず、ヤツがいる限り、俺は最後の投影を試みる事さえできない。

 

投影には時間を要する。

そんな隙を見せれば、俺か慎二のどっちかが死ぬ。

 

あの、つまらなさそうなツラしてるヤツに。

 

許さねえ。

あんなヤツに、殺されてたまるか。

アイツは、ずっとゴチャゴチャ言ってやがる。

アレは半ば独り言みたいなもんだ。

俺の目なんか見ちゃいねえ。

俺に語りかけてもいねえ。

ただ、ずっと何かを言っている。

 

罪科があーだ、産まれがこーだ。

善があーだ、悪がこーだ。罰がどーだ。

 

クソどうでもいい事をベラベラと。

うるせえ。

もういい。

もうしゃべるな。

テメーとは話がかみ合わねえ。

さっきそう言っただろうが。

 

「もういい黙れ、御託は充分だ、かかってこい」

 

「………おまえは、つまらん」

 

踏み出してくる。

ヤツは入り口付近にいる。

位置的に、入り口に近いのは……………

言峰→遠坂(重症)→俺→慎二→桜の順番。

遠坂は不意打ちでやられた。

そして重症だ。

ここで俺が戦わなければ、そのまま死ぬ。

今はゆっくりと回復し始めている。

あいつの魔術刻印が、そう易々と殺させはしない。

 

だが決着は迅速にしなければ。

遠坂も桜も、間に合わなくなる。

 

「行くぞ、慎二」

 

「OK牧場」

 

俺が前線で戦う。

慎二は後方支援(バックアップ)だ。

 

大丈夫。

きっと大丈夫だ。

今までずっと一緒に戦ってきた。

そしてこれからも一緒に戦い続ける。

これが初めての、本当の意味での共闘。

対等で、平等で、真に互いを信じ合う。

初めてだ。

だけど、これだけは判る。

きっと俺たちは、無敵のコンビだぜ。

*1
ローマ人への手紙6章23節

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