Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
賭けるものは互いの命。
黒き聖杯が誕生するまでの刻限がくる前に、ヤツを倒して、あの影を
地を蹴り、一直線に敵を討ちに迫る。
「、ああああああああ────!」
残り投影回数は───たったの『1回』だけ。
まだ出し惜しみはする。
完璧に敵を捉えるタイミングまで。
或いは、慎二の援護射撃が命中するまで。
まずは、俺のみの力で戦う。
「オラァーーーーーッ!」
振るうのは『無銘の剣』だ。
ほんの僅かな間だけだが、俺はセイバーと共に
渾身の一撃。
そういう感触があった。
あの時───セイバーを相手に振るった剣よりも、その何倍も『俺にしてはデキのいい一撃』
だが、それはいとも容易く躱され───────
「ぐ、っ─────!?」
衝撃を受けたのはこちらの胸元。
そして言峰の姿がない。
あの速度。
あの勢いで迎撃した敵は、一瞬で視界から消え去り、長身を折り畳むよう俺の左横に屈み、拳で腹を殴りつけ、迸る稲妻めいた左右の脚で、俺の身体を容赦なく蹴り上げた。
「は───────グ………!」
火を吐くような左右の蹴り上げ。
傷つけられた痛みで意識がトブ。
一体何メートル突き上げられたのか…?
胴から首を引っこ抜かれてもおかしくない衝撃。
「お、まえ──────」
知ってる。
初動作のない最短の軌跡。
円でありながら線。
外部はもとより内部を抉るそれは……………
「神父のクセに、中国拳法、なんて」
それも
今のは、見様見真似で出来る動きじゃあない……!
『
追撃。
男の低い
その
固まった関節を力ずくで曲げ、身体を起こす。
「衛宮ァーーーーーーーーーッ!!!」ブンッ
ギャルギャルギャルギャルッ!!
「厄介だな、回転とはこれほどまで」
『ナニか』が回転している。
それは、灰色の『鉄球』のようなモノ。
だが、それは鉄球ではない。
蟲。
団子虫のような蟲が、二体。
ピッタリと足を絡ませ、真球となっている。
これは慎二の『
回転の威力はライダーと同等くらい。
凄まじい勢いは、その分破壊力と同等。
俺の命を刈り取ろうとした『異形の死神』を、その力で以って退ける。
「だがイイ条件だ、おまえだけでは物足りん」
───────敵が迫る。
格闘技術においては、言峰綺礼は
俺ではヤツの拳は砕けまい。
「は……………ッ!」
目を背けず、火花じみた速度で迫る敵。
やるべき事は唯一つ。
前回より迅く、躱されても疾く、この『無銘の剣』で相手を切り裂くだけだ。
────────耳朶に響くものは己の心音のみ。
倒すべき敵は目の前にいる。
◆
戦いは、圧倒的だった。
衛宮の剣は躱され、弾かれ、引き込まれて、あのエセ神父クソ野郎の攻撃をまともに食らう。
クソエセ神父クソ野郎がッ、アイツまじなんなの?
いきなり突然しゃしゃり出てきやがってッ……
マジでキモいんですけどッ……!
「───────────おああああああッ…!」
衛宮は剣でエセ神父の拳を受け止める。
あの動きは八極拳。
中国拳法の中でも質実剛健。
最も実戦的な流派。
だが、それだけじゃあない。
あの野郎は他の流派とか動きも取り入れて、ただ只管に人間を破壊する為だけの技術として磨き上げてやがる。
そして、もう一つ。
ドドドドドドドドドドドドッ……!
き、きもちわりィ……
なんだよ、あれ………!
なんなんだ!?
頭はナパーム弾。
上半身はムキムキマッスル。
下半身は猫みたいな毛むくじゃら。
鋼鉄の爪がシャキンと伸びていやがる。
そう、衛宮が苦戦しているのはアイツのせいだ。
ぼくたちが『チーム』で攻撃しているように………
アイツも『異形』と共に戦っている。
「うああああッ!シルヴァー・ビートルズッ!」
ドンッドンッ!
回転する『指』をブッ放つ。
それらは宙で卵となり直ぐに孵化、やがて半球みたいな蟲となり、ペアになって真球となり回転する。
既に三発。
両手の人差し指、中指、薬指。
ブッ放した指は、次第にニョキニョキ生え揃ってくるが、まだもう少し時間がかかりそうだ。
衛宮はブッ飛ばされていやがる。
ボコボコだ。
このままじゃあアイツは嬲り殺し。
どうする………!?
ぼくの指。
回転している。
その回転の軌跡は『黄金』に輝いている。
あの『蟲の鉄球』も、今までとは違う。
『シルヴァー・ビートルズ・リマスター』
指から産まれた蟲であっても、その黄金の回転エネルギーは健在だ。
だから、あんなクソキモい癖に無駄にクソ強えー謎のムキムキ爆弾頭を、なんとか抑えていられる。
つまり、ぼくはもう一度『切り札』を放てる。
ついさっき、アホの桜にブッ放してボコボコにしてやったように………!
だが、これを外せば『終わり』だ。
黄金の回転エネルギーの源は有限だ。
ぼくは、馬から降りてしまった。
そして『
今残っている回転エネルギーは、次の『切り札』で在庫切れになっちまう……!
そうなれば『
「う、うううう……!」
冗談じゃないッ!
あんな男、ぼくは名前すらうろ覚えだッ!
そんなヤツいたっけ…?って感じだッ!
そんな、そんなワケのわからんヤツにッ!!
衛宮の身体がブッ飛ばされた……!
あのクソキモい爆弾頭が、なんか喚きながら、無理やり鉄球をブチ当てられた箇所を切り落として、すかさず衛宮に襲いかかってやがるッ!
ダメだ……!
いよいよ限界が来るッ!
「終わったか、では頭を潰すぞ」
「うおおおおッ!『リマスター!!』────ッ」
ドオォンッ!!!!
ああ、クソッ。
ダメだ。これはダメだ。
直感的に判ってしまう。
感覚的に
ギャルギャルギャルギャルッ!!!
『回転』している。
ちゃんとビジョンもある。
本来なら正しく必殺の技。
これを隙だらけのエセ神父野郎にブチ込めたのなら、ぼくらは間違いなく勝利していた。
だけど…………………
クソォッ!なんなんだよその胸の顔面はッ!
デッケェーッ鼻の穴おっぴろげやがってよォッ!!
『オラオラオラオラオラオラオラ』
『
ドメギャァア!ドゴッズドズドンズドドンドゴッズドンズドンズドドドドズドドドドドッ!!!
『シルヴァー・ビートルズ・リマスター』よりも、あのワケわからんキモいヤツの方が押してるッ!!
ぼくの『
マズイ。
もの凄くマズイぞッ!!
「衛宮ァーーーーーッ!!」
ダメだ。
押し勝てない。
つまり、ヤツなら。
ああクソッ!クソックソッ!!!
決着を焦ってしまった。
ぼくが『一手』間違えたんだ……!
衛宮は、この後どうするか…?
◆
立てない。
終わる。
焼き切れる。
何も考えられなくなる。
「あ」
時が永遠に引き延ばされていく。
足音がスローモーションに。
誰かが叫んでいる。
目の前には異形同士が殴り合い。
最悪な光景だ。
どんな悪夢よりも最悪。
かなり最悪。
「あ、」
脳裏に『思い出』が蘇る。
この最悪な景色を塗り潰すように。
その思い出は、穏やかな日常の陽だまり。
平凡で、どこにも刺激のない、そんな日常。
「あ、あ」
何を誓った。
おまえは、誰を守ると誓ったんだ。
「あ、あああああ」
生きろ。
誰も死なせるな。
俺は、その誓いを一つだけ違えてしまった。
「あ、あああああああああああ」
何を失った。
おまえは何を失った。
あの『運命の日』を失った。
『共に試練を超えた仲間』を失った…!
「あ、あああああああああああああああッ」
冗談じゃない。
このまま、俺は当然のように敗北するのか…!?
俺は負けない、あの男には目的なんてない。
誓いも、誇りも、信念すらもないッ!!
けど、俺にはある。
目的がある。
誓いがある。
誇りもある。
信念もだ…!
こいつをぶちのめす理由が、勝たなくちゃいけない理由がちゃんとある───!
「うおあああああああああああああああッ!」
どのくらい泣かせてきたのか判らない。
俺の知らないところで、桜はずっと泣いていた。
どのくらい耐えてきたのかも判らない。
俺の知らないところで、慎二は誰よりも戦ってた。
だからこそ、守らないと。
桜が犯した罪、桜を責める罪、桜が思い返す罪。
その全部から、守るんだ。
この世のあらゆる残酷さから、守るんだ。
俺の前で笑ってくれた少女。
未来のない身体で、俺を守ると言った彼女が………
いつか………………そう、きっといつの日か……
『桜自身が…この大地と空の下で、生まれてきた事を感謝するように』
そのためには、おまえが邪魔だ。
「おッ────おお、オ────」
失せろ。
おまえが
『
慎二は『切り札』を出した。
なら、俺も頑張らなくっちゃあな…………
カッコ悪くて、顔向けできねーぜ。
刹那、迸る紫電。
俺の肉体が超人的に躍動する。
爆発的筋肉増強剤。
殺人的運動能力。
俺の肉体が、
「うおおぉオオオオオオッ!!!」
一撃。
二撃。
三撃。
四撃。
五撃。
六撃。
七撃。
八撃。
九撃──!
殴る、殴る、殴る、殴りまくる……!
これが最後、ここを逃したら本当に後がない、この奇跡、この絶好の
投影はできない。
『無銘の剣』でさえも。
そんな暇はない。
そんな猶予は一つもない。
ガムシャラに肉体を強化し、殴る。
あのビジョンは、慎二がどうにかした。
ならば、俺は『本体』であるコイツを倒す。
「ぬ、貴様、まだ…!」
燃える。
殴る。
これは比喩ではない。
殴る。
俺の身体が燃え始めた。
敵を殴る。
黒い炎で燃え始めた。
仇を殴る。
なぜ急に燃え始めたのか…?
殴り続ける。
俺には見当もつかない。
殴る。
熱い。
殴る。
前が見えない。
殴る。
呼吸すらできない。
殴る。
肌が溶けていく。
殴る。
皮膚が爛れていく。
殴る。
炎が身体を蝕み、体内を犯していく。
殴る。
死ぬ。
殴る。
俺は死ぬ。
これは比喩ではない。
俺はきっと、誰かにガソリンみたいなモノをぶっかけられ挙句、ナニかで火をつけられた。
それもただの火ではない。
呪いだ。
呪いの火だ。
呪いによって燃えている。
それでも、俺は殴った。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。
殴る。
気が遠くなってきた。
言峰は、動かない。
まるで大木だ。
動かない、倒さなければ………
殴る。
殴る。
殴る。
いや、待て。
なぜ、反撃してこない。
「…………どうやら時間切れか」
「は?」
「なに、おまえにもわかりやすく言うとしたら……少しばかり『
?…………何を言ってるんだ、こいつ………?
「喜べ衛宮士郎、おまえの勝ちだ」
「
「……やはり、おまえはつまらん……あれほどの時を待ち、あれほどの旅路を終え、それでも待ち続けて、この
マジでうるせえな。
やっぱり、俺はコイツが死ぬほど嫌いだ。
この先、どんな人生を送ろうとも。
コイツより嫌いになる人間は現れない。
そういう確信がある。
「『さよなら』だ、言峰綺礼」
「衛宮士郎、先に地獄で待っているぞ」
…………………………………最悪な気分だ。
最期に縁起でもねえ事言いやがって。
わざわざ言われなくても、わかってるさ………
だから、精々、先に地獄で足掻いてろ。
◆
スタンド名──『
名前─────『言峰綺礼』(