Fate/STEEL BALL RUN【完結】 作:石田たつを
太陽の日差しが眩しい夏の日。
でも爽やかな風が心地いい夏の日。
冬木市から結構離れた場所にある牧場。
馬を駆る音が小気味よく聞こえてくる。
友だち…間桐慎二が大きな黒鹿毛の馬に跨って、大地を疾走している。
カチッ
ストップウォッチには、キッカリ17秒。
隣で彼の妹…桜が1周ごとにタイムを計っている。
1周目の200メートルは17秒…『宣言通り』だ。
素人目にも走りにブレがないと分かる。
カチッ
カチッ
次は23秒。その次は19秒。
全て宣言通り走っている。
0.0000001秒の狂いもない。
きっとアイツの中に「時計」があるのだろう。
その技術は何度も馬に乗って重ねた努力と訓練の賜物だと分かる。
「やっぱり…すごいですね」
普段はあまり感情を表に出さない桜が、眩しそうな顔をしている。
それは、きっと太陽のせいだけではないのだろう。
アイツ…慎二は何をやっても上手だ。
勉強だってそうだし、運動も。
センスってのがあるのだろうか?
歌(洋楽だって歌える!)も上手いし、いつも余裕たっぷりな感じだ。
けど…殊更『乗馬』に関しては、いつもよりもなんというか…スゴイ真剣で…『情熱』のようなものを感じる。
馬が好きなんだろうな……
どことなく馬も楽しそうに見える。
そして最後の1周を終えて、徐々に減速していく。
人間が走った後と同じように、軽く流すようにもう1週して、俺たちの前にやって来た。
「フンッ!見たか?衛宮…これが『馬術』だッ…ただ馬を走らせるんじゃあないんだぜ…馬をキッチリとねじ伏せて『正確』に走るんだよ…分かるか?」
鞍から無駄にスタイリッシュに飛び降りてドヤ顔しているが、その『キッチリねじ伏せた馬』に頬っぺたをレロレロ舐められている。
なんか、イマイチ締まらないっていうか…いや、これは馬から懐かれているって事なんだろうけど…
「あァ〜ん?なんだよその目は?」
「い、いや…それよりその
目敏く内心を見透かされかけた。
慎二は
『地雷』ってヤツだ。
少し強引に話題を変えてみようとすると、今度は呆れ果てた顔になった。
「おっと、アホがひとり登場〜〜〜『ビートルズ』を知らないのか?マヌケ」
ビ、ビートルズ…?
「
ちくしょう。これも『地雷』か。
はてな顔になっちまったが為に、コイツのスイッチを押してしまった。
「いいか?『敬意』を払え…
チラリと横目で桜を見ると、「また始まった……」みたいな顔している。
家でもこんな感じなんだろう…ウットリする兄の隣で困った顔して聴いている姿が容易に想像できる。
「ビートルズの名曲…『ゲット・バック』の歌詞が由来なんだよッ…バーーーーーーカッ!」
さ、流石に言い過ぎだろッ
いや、もしかしてこれってマジで一般常識なのか?
「そんなことないです」
今度は妹の方に見透かされた…
そんなに顔に出てたのか…い、いや…2人の洞察力が鋭いだけだろう、うん。
やっぱり兄妹だな。
そう…2人は兄妹だ。
一見すると、大人しい
とにかく口が悪くて偏屈だが、なんだかんだで妹とセットで遊びに誘ってくれるし、今もこうしてインストラクターに頼み込んでまで牧場に入れさせてもらっている。しっかり俺たちの乗馬体験の許可を貰ってきてまで。
「フンッ…ほら、次は桜の番だぜ…このぼくが直々に『指導』
鼻を鳴らしてから、自信たっぷりに、ちょっぴり見下すように、だけどやっぱり笑顔で顎をしゃくる。
それに対し桜は、少し困ったように…だけど満更でもなさそうに微笑んだ。
これだからキライになれない。
所謂『
結局コイツは素直になれないだけで、ちゃんと妹を可愛がっているのだ。
◆
血塗れになって今にもくたばりかけてやがる衛宮とセイバーをその無駄にデカい家にソッコー担ぎ込んで、適当な部屋にブチ込む。
ライダーには『医療』のスキルがある。
コイツに死なれたら困るのだ…
あの馬鹿デカい大剣でぶった斬られたってたのに、まだ生きてるのは衝撃だが、だからといってこのままじゃあ、
ライダーが「『医療器具』になりそうなモノを持ってこいッ」と指示を飛ばす。
一応何度かこの家に来たことあるので、ヘトヘトになりながら必死こいてかき集める。
まず長机を処置台代わりにして、それからピンセット、タオル、ハサミ、針、糸、キッチンペーパー、マスク、使い捨てゴム手袋、アルコール消毒液、包帯、沸騰したお湯が入っている
なし崩し的に遠坂と協力して、できるだけ代替品になりそうなのを持ってきた。
これでぼくに出来ることは終わった。
ライダーは集中する必要がある。
1人にならなければならない。
あとは『祈る』しかない。
居間でクタクタになりながら、一回横たわる。
かき集める時に『強化』の魔術を使い過ぎた。
腕が痛い。パンパンだ。
無駄に長い廊下を腕だけの
ぼくは下半身不随だが、腕に『強化』の魔術を使えばそれなりに俊敏に動くことができる。
腕立て伏せするみたいに
マジ疲れるので緊急事態の時しか使わんがね。
「アンタの
「ああ…ぼくはもうここで寝るよ…」
「…ハァ…色々と話したい事はあるけど、明日まとめて話すわ……バックレないでよね」
あの遠坂でも流石に限界が来たのだろう。
端正な顔が過労で窶れきっている。
そしてそのままノロノロと帰って行った。
それにしても、なんだかやけに寒いな。
いや、やっぱり暑いかも。
なんだか頭が痛い。
吐き気もだ。
なにかが喉に迫りあがってくる。
ちょっと苦しいな。
肌寒い気がする。
頭が痛い。
頭がいたい。
あたまがいたい。
さむい。
あつい。
いたい。
…くッ………まずいかも……
くそ……
ちくしょお〜っ……ッ…
ぼくは……やっぱり………
いきが。
いきをしなくては…
息をしなくては。
息をしなくては…!
クソッ!
もしかして……
これからまいにち……こんな目に……
よるの度に……
ちょっとガンバる度に…
こんな目にあうのか…?
これが…
さくらを救うための……
心のどこかで…
そう思っていた。
間違いだった。
それでも…
そうだ……
こんな、とるにたらない…このぼくに…
生きる目的が出来た事に本当に感謝したんだ…!
桜を見捨てれば…ぼくはただの負け犬に成り下がる
『途中で逃げ出すただのクズ』になんて……
まっぴらだ…!
◆
人間はたった一点の傷で死に至る……
だが多くの場合、生命力はとても強靭なものであり、人を確実に死に至らしめる行為にはそれなりの技術が必要である。
人間の急所はどこなのか?
骨などに邪魔されずどこを切ればよいのか?
死刑執行人は人間の肉体を知りつくしていなくてはならない。
決して2度目の打撃は許されない…ミスることのない一点への処刑のために、彼ら…『ツェペリ一族』は医術を学び、戦闘術を体得した。
肉体を平静の状態にあるように…
鉄球の回転を生み出した。
そのため
鉄球が回転する。
それが身体に押し当てられる。
すぐ側には水の入ったトレー。
回転の力によって生じる『波』が水に伝わり、その『波紋』がソナーのような役割を担う。
何度目を疑っても、それが水面に映る。
強いて言えば千切れかけていた肉体を、糸で接合しただけ。
にも関わらず、ソナーが映すのは肉体の中身…つまり切断された筈の神経が勝手に
『
その時ふと、自らの右眼が微かに『反応』しているのを感じた。
それは痛みとかではない……痒みとかでもない…
どちらかと言えば、眩しさ…だろうか。
「…ッ!?……さ、鞘…?」
一瞬、水面に荘厳な装飾の鞘を幻視した。
それは確かに得体の知れないモノ…だが、同時に『神聖さ』も感じ取れる。
この少年は
第一印象としては……『普通』の少年だ。
あの
この少年は…はたして『この鞘』のことを自覚しているのか?
それとも無自覚なのか…?
だが間違いないのは、これは彼の『秘密』だ。
思考している間に、とうとう傷が完全に塞がった。
後は抜糸して包帯を巻くだけ。
ジャイロ・ツェペリは医者でもある。
『
この事は一度、胸の中に仕舞っておこう…
『鞘』はもう、見えなくなっていた。