智代を送り届け、少しボーッとしつつ自宅の扉を開けた。
ガチャッ、聞きなれた音だ。
………ん?
「あ、おかえりなさいなの」
何で鍵掛かってないんだ?
あ、どうせ誰も来ないだろうと思ったからか。
それは俺自身の失態だな。
だが、何で部屋の明かりがついてんだ?
「って、えぇっ!?」
部屋に居たのは藍色の髪の少女。
ちゃぶ台に温かな飯があり、その匂いは食欲を大いに誘っていた。
メニューは至って普通の米に味噌汁、それに白身魚の開きを焼いたもの。
「何でことみがこんなとこにいんだよ」
「朋也くんがまともになった、って聞いたから飛んできたの」
ああ、確かにアメリカくんだりから来たんだから、まさしく飛んできたの、だな。
いや、そうじゃなくて。
「?」
ことみは何を不思議なのだろう?とか思ってんだろうな、それは俺の気持ちだっつの。
「とりあえず、だ。分かるよな?不法侵入」
「鍵は開いてたの」
「いつからいたんだ?」
「ほんの少し前、四時間くらい前なの」
智代と桜並木に行ってるときかよっ!!
「んで、その飯は?」
「そろそろ夕食の時間だと思ったから作っておいたの」
「………そうか」
「もしかして気に入らないものでもあったの?それとも……もう食べてきた?」
泣きそうな目で見るなよ。
本当、変わってねえな。
「いや、夕飯はまだだし、旨そうだとも思ったよ」
ことみは哀から喜へと表情をあからさまに変化させた。
「良かったの」
「はぁ…もういい」
これ以上いっても伝わらないもんは結局伝わんねえな。
それより、ことみお手製の飯でも頂くことにしよう。
いただきます、から始まる夕飯。
「旨い」
ことみの料理スキルの高さは学生時代に理解してたつもりだったが、更に腕を上げたな。
「とってもとっても嬉しいの」
「そ、そうか」
イマイチ捉え所がないようなのもかわんねえか。
俺は変わらないことみにホッと安心した。
夕飯も食べ終え、ことみと幾らか話をした。内容は他愛の無い、ただの世間話だ。最近のことみは何をしているのか、とかな。
俺がふと時計を見ると時刻は11時を過ぎていた。
「もうこんな時間か。ことみ、今日は
泊まってけ。これから帰すのもなんだしな」
布団は渚の使っていたのを使ってもらおう。
「良いの?」
「ああ、遠慮すんな」
「じゃあ、遠慮せず泊まらせていただくの」
「布団の用意とかすっから、シャワーでも浴びてきてくれ。渚の着てたパジャマ貸すからさ」
俺はタンスから記憶を呼び起こしながら、パジャマを引き当てた。
「うん」
本当に素直だよな、コイツ。
渚の布団を下ろすと、渚の匂いを感じた。安らぎのある暖かな匂い。……なんか、日に干した後の布団とおんなじこと言ってんな、俺。
「さて、と」
感慨深くなんのもそこそこにして、用意しないとな。
ことみとは入れ替わりに俺もシャワーを浴びた。
シャワーの後は電気を消し、布団へと潜り込む。
あらかじめ窓を開けておいたので、月明かりが辺りを密かに照らしている。
「ねえ、朋也くん」
「どうした?」
「朋也くんはまだ渚ちゃんのことを想っているの?」
「……まあな」
俺の渚への想いはそれこそ一生モノだ。
無くしたりなんかしない。
「それなら、汐ちゃんは?」
「汐も俺の大切な娘だよ。今まで構ってやらなくて、酷いことしちまったけどな」
「そっか」
ことみの声は安心したような口調だった。
ことみはゆったりと付け足す。
「それなら良かったの」
「そっか」
俺も疲れてるのか、その声を最後に寝ちまった。
…………………………………………………
ことみは朋也の安らかな寝顔を見て、
「……本当に、良かったの」
と、呟いた。
朋也が復活したことを聞いたとき、ことみは正直信じていなかった。
渚ちゃんへの想いを無くしてしまったのか、汐ちゃんはどうしたのか、と思ったから。
最悪の想像をしていたからこそ、ことみの安堵は大きかった。
……だけど、とことみは思う。
「少しだけ、少しだけ胸がチクチクするの……」
ことみの中の朋也への想いも変わらず残っていたのだった。
こっちはオチの考えてないまま書いてます。
考えていたとしても、ひとまず汐との和解を描ければ、と、その程度です。
かなりの短文ですが、今回はこの程度で。
ではまた。