CLANNAD ~IF~   作:皆笠

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07 杏編2

この話を顔文字でまとめるとこう。

(|| ゜Д゜)?

ったく、酷い話だよ、本当。

それと、便座カバー。

 

…………………………………………………

 

藤林杏は自主認めるお人好しだ。

自他じゃなく、自主である。たしかに、普段の荒くれ者としての彼女を知ってしまえば、そう思うことは困難だ。だが、一応事実である。

例えば、ふと関わり会いを持ってしまったとあるヴァイオリン好き(超絶下手)の演奏会をわざわざ計画したり、また別の所では廃部した部を再建するのを手伝ったりしている。また、本当は好きな相手であっても妹や友人のために譲り、サポートする様なことまでしていた。

だからこそ、と彼女は考えた。

(今ってチャンスじゃない?アイツ、今は実質的にフリー。しかも、彼の亡き嫁からのメッセージでは私を勧める様なものもあったらしいし。それに、どうやら嫌われてもいないみたいだし。……そろそろ我慢せずに伝えても良いわよね)

と、極めて利己的なことを考えていた。

そう、前にサポートした友人は一度は結ばれたが、亡くなってしまった。妹は妹で勝手にいつの間にか結婚してた。

なら良いじゃない、と。

だが、彼女は知らない。

彼女の好きな相手『岡崎朋也』を想っている人はまだまだいるという事を。

 

…………………………………………………

 

汐と会ってから三日が過ぎた、だが、俺はアレから一度も汐と会ってない。

仕事が忙しい?んなもんは言い訳にしかならない。

では何故か、大元となる理由は単純かつ明快だ。

「どうすりゃ良いんだよ……」

方法が思い付かないからだ。

仕事終わり、スーパーでテキトーに選んだ惣菜を手に取る。

「あっ、朋也」

声を掛けられた気がするが、それどころではない。

今はそれよりも汐をどうするか、だ。

「ちょっと……」

そもそも子供の相手自体苦手なんだ。

いや、子供だけじゃなくて人の相手、だったか。

「こんなとき、杏でもいればな」

保育士だか何だかをやってたはずだ、それに汐の担任でもあるらしいし、杏は適任だとは思うんだがな。

「呼んだ?」

だが、俺は学んだ。

人生上手くはいかない、と。

「おーい」

このさっきから聞こえる杏に似た声も気のせいだ。

そんな都合の良い話なんて無い。

「ちょっと!!」

ガツンっ!!

「いてぇっ!!」

後ろから頭を叩かれた。

しかも、保育士の心得なんつうどこぞの魔法使いの分厚い小説サイズだ。

そんなに心得あんのかよっ!!、いや、それよりも

「よぉ、奇遇だな」

頭を擦りながらの言葉だったが、杏のことだ、どうせ気にも留めないだろう。

「何で前とおんなじように無視して考え事続けんのよっ!!」

「何か、お前の時はそうしちまうんだよな~」

「なごむなっ!!」

「んで、何だ?」

漫才を続ける意義を見出だせぬ俺は早々に切り上げることを決意した。

「私がいれば、ってどういう意味よ」

どうでもいいけど、顔赤いぞ。

「ほっといて、まさにどうでもいいじゃない。それで?」

「ん?……ああ、それがな」

事の顛末を杏に説明した。

 

最後にはこう付け足して締め括る。

「頼めんのはお前くらいなんだ、力を貸してくれ」

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

杏はとてつもなく大きく溜め息を吐いた。

「んだよ」

「いや、なんでもないわ……。ったく、仕方ないわね、手伝ってあげるわよ」

それから場所を移し、またもや飯を共にし、杏先生の抗議が始まった。

 

「結論を着けるわよ」

杏先生はじっと俺を睨む。

「アンタ、子育てとか向いてないわ」

「それじゃ困るんだっての」

「仕方ないじゃない。覆しようの無い事実よ」

「ま、分かってたけどよ……」

俺ははぁっと大きく溜め息を吐いた。

「んで?」

「んで?」

杏は聞き返してきた。

「何か考えはあるんだろ?逆転の秘策とか」

コイツのことだ、そういうのを用意しておいての言葉だろう。今までだって何度もそう言いつつ助けてくれた。そういう意味では強く信頼を俺はコイツに抱いてる。

「ま、なくはないけどね」

ほらな。

「勿体振らず教えてくれ、頼む」

「仕方ないわね……」

それから杏先生の秘策が伝えられた。

……オイ、本当に良いのか、それで。

 

 

杏と会った次の次の日、俺は古河家に来ていた。

理由は簡単、杏先生の秘策を試してみるためだ。

店に入るなり、おっさんはしたりがおで、ようやく来たか、と言う雰囲気を漂わせていた。

「チャレンジに来たぜ」

 

 

まず、杏はこう言いやがった。

「アンタって笑顔とか苦手でしょ?」

む、否定は出来ん。

「そもそもアンタの顔って怖いのよ。いっつもしかめっ面と言うかなんと言うか。確かに、学生時代の一時期に比べればマシだとは思うけど、それでも相当よ。私とかなら慣れてるし、その程度は無視出来るけど……ほら、子供だと特にそういうのに敏感だから」

ひでぇ言いようだな。

「事実でしょ?汐ちゃんは怯えてるわけだし」

「いや……それは……」

俺が言い淀むと、杏はコホン、と咳払いをした。

「確かに、怯えてるのはそれまでのアンタの行いがアレだったのもあるし、そもそも汐ちゃんが人見知りってのもあるけどね」

でも、と杏は続ける。

「アンタはそっからの修復を上手く出来てないのよ。だから、ひとまずどんな子とも仲良くなる鉄則があるから、それをしっかり覚えなさい」

人差し指を立て、その一、と言う。

「さっきも言ったように、笑顔って大事なのよ。仲良くしましょうしょって見せるのが大切なの。アンタだって、いっつも睨み付けてきてた生徒とか嫌いだったでしょ?」

……まあな。

中指も立て、その二、と見せる。

「次に、相手と目線を合わせること。これも、あなたとは対等ですよー、って意思表示になるの。上から見下ろされるのを人はあんまり好きじゃないのよ。怖いしね。身長3m越えの覆面プロレスラーとか相手にしたくないでしょ?」

それは誰でも嫌だろう。

今度は薬指を立て、その三。

「次、褒めたり、一緒に楽しみなさい。どんな些細なことでもね。私たちにとってはそうでも、子供にとってはそうじゃないかもしれない。ほら、価値観の相違ってやつよ」

ふむふむ。

小指で四。

「次は最初から無理しすぎないこと。グイグイっと強引なのはアンタも得意じゃないでしょ?……って、何よその目は」

グイグイ強引担当のお前が言うな。

「いてっ!!」

急に殴るな。

……辞書じゃない分、まだマシとか思えた自分が怖くなってきたぜ。

 

「んで、それで終わりか?」

怪訝な目を向ける杏から逃れる形になってしまったが、そんなことより、だ。

「ううん、最後に一つ」

杏はいやらしい笑みを浮かべる。

悪い顔だ、コイツのこういうことの後はいつだってろくでもない目に会ってきたから、少なからずの嫌な予感が……。

「所詮は子供よ。物で釣りなさい」

……ああ、常々思ってたが、

「サイッテーだな、お前」

「そんなサイッテーに頼ってるアンタは更にサイッテーね」

へいへい、お前には敵わねぇよ。

 

杏は続ける。

「貢ぐって大事よ、人は贈り物に弱いんだから」

「はいはい、分かってるよ」

コイツの誕生日は9月9日だったっけな。

一応覚えとくことにしておくか。

「ほい、んじゃ、さっさと行って何とかしてきなさい。さっきの五ヶ条、忘れるんじゃないわよ」

「へいへい、ありがとな」

 

…………………………………………………

 

「はぁ……」と、岡崎朋也が行ったのを確認してから、藤林杏は大きく溜め息を吐いた。

「ほんっとうに鈍いんだから、私は便利屋じゃないっつのっ!!」

彼女は怒りの矛先をどこかに向けようとキョロキョロと周りを見渡した。

 

そして……

「みつけた」

大きく振りかぶる。

その片手に辞書はない。

あるのは、

「えっ!?杏さん?何でそんな鬼みたいな顔で分厚い本を握りしめながら、思いっきり振りかぶってるんですか?」

そう、厚さのおかしい保育士用の本。

本来、コントロールはそれほど良くはないのに、こういう時に限っては必中を語る高校時代からの伝家の宝刀、『辞書投げ』。

手から離れたソレは空中で回転を重ね、加速し続ける。

速度が頂点に達する時、吸い込まれるように黒髪の男の頭に直撃していった。

「ひでぶっ!!」

男は数m吹き飛んで、地面に突っ伏す。

「僕……今回は何かしましたっけ……?」

男は気を失った。

 

ようやくハッと意識を取り戻した杏は、無我夢中でやっていたことを思いだし、倒れた男に駆け寄った。

「大丈夫!?」

つい、何となくやってしまった。

体が自然に……って……

「なんだ、アンタ……」

杏は何故体が動いたのかに納得した。

 

…………………………………………………




なんか久しぶりですね。
データの奥底にあるのを発見したので投稿することにしました。
待たせて申し訳ありませんでした。

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