掲げた赤旗は煤にまみれて、俺をより一層惨めな生き物であると感じさせた。あの間抜けな五共和国派と共に活動してきたのが間違いだったんだ。
「おじさんたち、赤色が好きなのね。」
プラチナブロンドの少女は甘い声で問い掛ける。湖畔の別荘は死地となり、理想を語り合った同志たちは屍となって地面に転がっている。
「そ、そうだ…。」
愛銃であったトカレフも手元にはない。逃げるための足も機関銃で襤褸雑巾のようにされた。死ぬ、という実感がわかない。変に冷静でいられる。何だよ、これ。これ、夢じゃないのか?
「姉様が待っているから、そろそろいくね。バイバイ!」
「真っ赤じゃないの!アカのアジトを潰すっていっても…。あぁ、もう!着替えて!」
私の担当官であるシャーロットさんは、優しくて素敵な人だ。背丈がないことと、童顔なところがコンプレックスらしいが、私からすればすべてを見て愛しいと思える。少し派手に暴れて帰ってくれば、こうして優しくしてくれる。
「グレーテルの服、これ洗濯機で解決できるかなぁ。」
黒い日本車の中で着替える。デニムパンツにTシャツ。先程までのヒラヒラフリフリとは違うジャンルだ。
「この服、変じゃない?」
「あ、ごめん。寝巻き持ってきたかも…。」
お腹に大きく“桃缶”と書かれたTシャツ。…漢字は読めないけど、姉様からのリアクションからすると普通ではないらしい。姉様の東方趣味にも困ったものだわ。
「姉様からもらったものなら、何でも嬉しいわ!」
「そ、そう…?それならよかった。」
手早く着替えて助手席に座る。苦手な運転に四苦八苦する様を眺めるのだ。
行書で“桃缶”と大きく書かれたTシャツを着ているのは、私のフラテッロだ。兄弟、という意味を持つ言葉であり常日頃から共に動く私たちにはぴったりな言葉だ。
「さっき、私が着替えるのを見てたでしょ。」
「怪我してないか、心配だったんだもの。」
プラチナブロンドの長髪を揺らしながら笑う彼女はグレーテル。名付け親は私。ちゃんと帰ってこれるように、魔女に捕らわれるヘンゼルでなく、賢い妹の名前にした。グレーテル。普通の名前。しかし、定番ゆえに物語られる名前。
「もう、一緒にお風呂だって入るのに遠慮がちに見られたら反って恥ずかしいわ!」
「こらこら。女の子が誤解を招く発言をするんじゃない。」
可愛い盛りの子供に鉄砲を握らせて、身体中を弄くり回して…。やっていることは、完全に悪の秘密結社だ。私は、全身タイツの下級戦闘員というところだろうか。
「帰ったら、お風呂だからね。」
好評なら続きます。