「…了解。」
姉様が無線に返事をする。遠くで銃声。あっちは、もう始まったようだ。
「よし、準備はいい?」
「大丈夫です。姉様。」
拳銃の安全装置を解除する。姉様の手にもブルームハンドル。目標はガレージ。車やバイクなどを破壊して逃走手段を潰してしまうのだ。
姉様は爆弾を投げ込んで纏めて吹き飛ばしてしまいたいと主張したけど、攻撃手段として派手すぎることや建物にダメージを与える危険や捕獲対象を巻き込む可能性などから却下されたらしい。
「大丈夫。力まなくても、平気。あなたは、私の剣。私は、あなたの鞘。」
肩に力が入っているところに優しい声。そうだ。私が構えて姉様が撃つ。私達はフラテッロ。二人で一人。いつもと同じ。姉様と一緒なら何も心配することはない。
「…よし、こんなものかな。」
ガレージは詰所ではない。確かに人はいたけど、純粋な戦闘員ではなかったのかもしれない。まぁ、テロリストに練度を求めるのは、お門違いかもしれないが。
「怪我はなかった?」
姉様は優しい。腕が立つとは思えないけれど、その在り方は温かくて柔らかくて…。
「はい、大丈夫です!」
いつまでも、ずっと一緒にいたい。そう感じる。
「ねぇ、グレーテル。車を動かしてドアを塞げないかな?背中で押すと、効率的に動かせるんだけど…。」
小柄な姉様の力じゃ厳しいみたい。
「わかった。あのドアを塞げばいいのね?」
こういう時は、自分の身体に感謝する。義体化される以前の記憶は持ち合わせていないし、義体となったことに何も感じない訳じゃない。それでも、今は姉様と一緒にいられることが一番の幸せ。
「ありがとう、グレーテル。」
「ガレージを制圧しました!」
移動手段となる車やバイクのタイヤに銃弾を撃ち込んで、見張りの男を殺害した。川の中洲に位置する建物。ここから町へ出るには、橋を通る必要がある。徒歩で逃げ出したとして、狙撃銃を構えたリコの目を逃れることはできない。爆弾職人との取引を控えていたらしく、ガレージは全開。心配になるほど簡単に制圧できてしまった。ガレージみたいなところで使うには取り回しが悪いことを理由に拳銃を使わせているが…。
『了解した。』
「ずいぶんと激しいノックをするのね。」
グレーテルが言う。そう、先程から塞いだドアの向こう側がうるさい。シャッターのある出口側から回ろうとすれば、リコの狙撃に晒されることになる。だから、頭を低くして車庫に向かって逃げてきたのだろう。そして必死に逃げて辿り着いたものの、ドアが開かない。…こんな状況だろうか。
『標的は、南塔の三階にある角部屋だ。今、西からトリエラを登らせている。』
『これからヘンリエッタと突入する。挟み撃ちにしよう。』
…よし、ならばOK。ドアの向こうには誰もいない。いるのは、人間に似た獣だけ。
「グレーテル、機関銃で元気よく返事してやりなさい。」
背中に背負っていた機関銃を下ろし、腰だめに構える。機関銃に使われるのは、フルサイズのライフル弾。この距離で使えば、ちょっとした壁や人間なら一発で貫通する。そんな武器である。
「はい、姉様。」
先程まで煩かったドア向こうからの銃声は途絶え、聞こえるのは悲鳴と水っぽい音。
…双方の銃声が消えるのに時間はかからなかった。
「…大丈夫?冷えてこない?」
階段に座り、ジェラートを食べる。何の意味も持たない行為。しかし、それがスペイン広場なら特別になる。美しい町並み。長い歴史。
「姉様は大丈夫ですか?」
そして、古い映画の1シーンに起因するこの行為は多くの人の憧れになった。
「あ、ヘンリエッタだ。」
せっかく、ジョゼさんと二人きりなんだから邪魔しちゃダメよ。
「そうね、邪魔しちゃいけないわ。」
楽器ケースを手に立ち上がるグレーテル。そのまま、反対側の手を差し出す。その手を取って立ち上がる。
「少し、寄り道してから帰りましょう?」
パンフレットを手に楽しそうに提案するグレーテル。特に予定はないし、スケジュールにも余裕がある。
「いいよ、どこにいく?」
彼女は笑顔で答えて私の手を引いていく。