一瞬、意識が飛んでた。
「エルザ、元気そうでよかったよ。」
手痛い反撃は受けたものの、銃を奪い取ることには成功した。
「あ、ああっ…。シャーリー、シャーリーの手が。手が!」
投げ飛ばされた拍子に左腕が窓ガラスを突き破ったらしい。ざっくり切れて血が出ている。
「落ち着いて。大丈夫。」
血塗れの腕で抱き締めるのは気が引けるので、右腕で抱き締める。もしかしたら、ガラスの割れた音で職員が飛んでくるかもしれない。
「大丈夫だから。私は、転んだだけ。エルザは、悪くないよ。」
間に合ってよかった。今度は間に合った。
「いっぱいいっぱいだったんだよね。わかるよ。」
エルザは悪い娘じゃない。ただ、純粋で一生懸命なのだ。冷たい訳じゃない。人との関わり方を知らないだけなのだ。
「でも、鉄砲はダメ。自棄になっちゃダメだよ。」
どうして、ここまで追い詰められてしまったのか。
体の中身を人工物に置き換えても条件付けを押し付けても。彼女たちは繊細な少女なのだ。それを忘れちゃいけない。そんなことは許されない。
「私はエルザの味方だよ。」
外から吹き込む風が冷たい。胸の中で嗚咽するエルザの声。扉越しにバタバタと足音が聞こえる。
「もし誰かに何があったか聞かれたら、シャーリーが転んで窓ガラスを割ってしまった。そう答えてね。」
戸惑うように顔をあげるエルザ。職員に手を出したとなれば、彼女がどんな目に遭うか…。それにラウーロさんとの関係だって悪くなるかもしれない。
「またたくさんお話をしようね。おやすみ、エルザ。」
本当だったら、抱き締めて朝まで話を聞いてあげたい。でも、それは無理だ。騒がしい足音と強いノックの音が聞こえる。
「ええ、転んだ勢いで窓を突き破ったんです。本当にすみませんでした。今度からは横着しないで照明を使います。」
事情聴取に来たジャンさんが怖い。いや、うん。嘘をつくのは得意じゃないから余計に怖いのだろう。
「そうか。あまり、怪我をするなよ。グレーテルが目に見えて不安定になる。」
今まで一人部屋だったエルザは、グレーテルの部屋に入ることになった。窓が直るまでの相部屋だ。…喧嘩とかしてなきゃいいけど。
「それと、あとでラウーロが来るはずだ。病室から抜け出したりしないで、今日くらいは安静にしていろ。」
「了解です。」
抜糸は1週間後くらいだろうか?見た目は派手だし、けっこうな出血だったが、幸いなことにそれほど重症でもなかったらしい。
「…義体に入れ込むのもいいが、ほどほどにしろよ。」