『…それは、違うと思う。彼女たちは鉄砲じゃない。ちょっと特別なだけの女の子だよ。』
シャーリーは、グラスを傾けながら続ける。
『私は、グレーテルのことを家族だと思ってる。私は名前をつけた親であり、一歩先を歩く姉でありたいと思ってる。…これは私の価値観だけど、それでもエルザに冷たくするのはかわいそうですよ。』
シャーリーは変人だ。施設で懐かれた一人の少女のためにライフルと銃剣をもってマフィアを襲撃した女。
アルコールで口の滑りのよくなった彼女は、己の理想と価値観を語った。
「俺たちだって人間だ。あいつらが大変なのもわかるが、同情したって過去が変わるわけでもないし、余計な情を抱いたりすると、やりにくいと思うんだよな。」
俺は冷たい人間だろうか。でも、俺には彼女を一人の人間として扱うことはできない。
「まぁ、これは俺の考え方。そっちはそっちのやり方で、やっていけばいいのさ。」
俺が歪んでいるのか、彼女が歪んでいるのか。答えはでない。この問い掛けに答えられるやつなんているはずがないのだ。
「…本当にすまなかった。」
病室のベッドに座る彼女は、出血の影響か顔色も悪く普段の活力も感じられず、人形のようですらあった。
「別に大丈夫ですよ。…まぁ、さすがに意識がブラックアウトした時は死ぬかと思いましたが。」
エルザの条件付けは強化されなかった。義体が職員に暴力を振るったとなれば、一課による二課への格好の攻撃材料となるからだ。だから、今回はシャーリーが勝手に転んで大ケガをしたことになった。
「ただ、エルザとちゃんと向き合ってあげてください。きっと、必要なのは投薬や洗脳じゃなくて向き合う時間だと思うんです。だから、一方的に怒ったりしないで話を聞いてあげてください。たぶん、本人が一番わかってますから。」
「あぁ、そうするよ。」
医者であるビアンキにエルザは言う。俺を好いているのだ、と。それは、条件付けによって施されたニセモノの感情だというのに。
「前にもいったかもしれませんが、嫌ですよ私は。あなたの生首にキスして恋を語るエルザなんて見たくありませんから。」
戯曲【サロメ】。ヨカナーンという男に恋をした王女のサロメが、躍りの褒美に男の首を王にねだるのだ。そして、その生首にキスをする。サロメの行いを見た王は、サロメを殺させる。
王女を拒絶した男、口づけを誓う王女、王女を殺させる王。
…彼女は忠告しているのだ。
「わかったわかった。」