「義体といえど、常日頃から超人的な力を発揮することはできない、と。」
義体の部屋で大ケガをした。義体の身体能力なら素手で人間を叩き殺せる。…それなのにシャーロットは病室で元気にリンゴを食べていたという。
「あぁ、訓練された軍人だって対応は不可能だろう。今回はシャーロットの注意不足から起きた事故だ。」
エルザを犯人と断定するような証拠も出ていない。部屋には争った形跡などなく割れた窓ガラスが落ちていただけだったという。
「わかりました。これで、こちらの課長も納得するでしょう。」
「外れた遊底にはシャーリーの指紋がベッタリだった。これを先に回収できたことは、本当に運が良かったとしか言いようがない。」
エルザの持つ拳銃を何らかの理由で取り上げようとして、エルザが抵抗。窓ガラスに叩きつけられた。多少の想像力が働けば、そんなストーリーを組み上げることは容易い。
「いずれにせよ、本人が転んだというのですから。そのようにしましょう。一課もそれで納得せざるを得ないでしょう。」
二課を面白く思わない連中も偶発的な事故などに対し、義体が柔軟な対応がとれないとすれば満足することだろう。
「あぁ、それとジョゼに休暇をとらせよう。この件が落ち着くまで、公社の外で過ごさせるんだ。」
「課長、あなたは相変わらずジョゼに甘い。」
一課のフェルミとガブリエリは、しばらく嗅ぎ回るつもりだろう。そこから遠ざけるためとはいえ、そこまでする必要があるだろうか。
「あいつは純粋だから、真実を知ったら酷く傷つくだろう。ああいうやつほど、周囲のやつが守らなければならない。」
シャーリーが怪我をしたという。
「いくらなんでも、変じゃないか?」
彼女は確かに鈍いところがある。階段を踏み外して転げ落ちて医務室に運び込まれたり、クラエスの畑を手伝っている途中でバケツを持ったまま転んでグレーテルと二人でびしょ濡れになっていたこともある。
しかし、彼女はグレーテルの担当官である。テロリストのアジトに乗り込んだり要人の護衛をしたりといった経験もある。そんな彼女が縫合が必要になるレベルの傷を負うようなことがあるだろうか。
「いや、あいつならあり得るだろう。」
兄さんは言う。
「ヘンリエッタだって薬莢に足をとられて転んだことがあるだろう。実戦でやったら死んでいるところだが。」
…確かに義体には鈍いところがある。しかし、彼女もまた同じなのだろうか。
「とりあえず、シャーロットの注意不足には過労の線も疑われている。彼女には仕事中毒気味な部分が少なからずあるからな。お前も少し休め。」