シチリアに来るのは久し振りだ。昔は家族と一緒に遊びに来ていた。
「また、連れてきてくださるのですか?」
嬉しそうに問いかけるヘンリエッタに。
「ああ、何度でも来られるさ。」
そう答えた僕の顔は笑えていただろうか。ヘンリエッタは年相応の少女のように美しい海に風景に目を輝かせていた。どこか、今はもう会えない妹の面影を感じてしまうのは仕方がないことだろうか。
「それは、ここじゃ必要ないだろう?」
不服そうな顔をするヘンリエッタから武器を取り上げる。今は仕事中じゃない。武装している必要もない。敵もいない平和な島。たまには普通の少女のような幸せを感じてほしい。鉄臭い銃は傍らにおいて羽を休めてほしかったのだ。
ヘンリエッタは、クリスマスにプレゼントしたカメラを構えて写真を撮った。
ヘンリエッタは“忘れっぽいところがある”から。大切な思い出を切り取っておけるように選んだプレゼント。彼女は何をもらっても喜ぶから難しかったが、こうして喜んで貰えるなら本望だ。
わざわざ、休みを取って話を聞きに来た一課の捜査官にエルザのことを訪ねられた。
「変だとは思わないのか、そこそこ優秀な担当官と親しい間柄の義体。前者は転んで大ケガ。」
義体だって映画のスーパーヒーローじゃないのだから、それほど万能ではない。彼女たちの身体能力だって優れた五感だって集中してなきゃ使えない。
「陰謀論かい?シャーロットはよく転んだりするタイプだから怪我をするのも珍しくないよ。」
「…友達の部屋で窓を突き破るような勢いで転んだりするものだろうか?」
部屋には遊底の外れた拳銃が転がっていて、割れた窓ガラスが散乱していたという。
「義体の能力だって集中しなくちゃ使えない。それにシャーリーと仲良しでも担当官はラウーロだ。不意に起こった事故には対応しきれなかったんだろう。」
「気に入らんな、どうして条件付けが絶対だと納得できるんだ。」
「最初、俺は義体なんて気持ち悪いと思った。体の半分以上が炭素繊維だの炭素フレームだの。だが、蓋を開けてみればトリエラもヘンリエッタも思春期の子供に過ぎない。料理の下手なただのガキだよ。」
二課で出された答えに彼はどうにも不満なようだった。
…夜、ヘンリエッタは答えを出した。
『ねぇ、ジョゼさん。ラウーロさんはエルザに優しくしていましたか?』
ヘンリエッタは問いを投げる。
「…いいや、仕事以外はまともに取り合わなかった。」
ラウーロは義体に明確な線引きをしていた。
『そうですよね。たぶん、真相はこうでしょう。』
シチリアの暗い海を背景にヘンリエッタは語り始める。
『誰かを好きで好きでしかたがないのに相手は自分を愛してはくれない。それが、永遠に満たされないものだと思えてしまったなら。』
『こうします。』
そういいながら、彼女はガブリエラが預かっていた彼女の銃を目に宛がった。
「ヘンリエッタ、昼間はあんなに無邪気だったのに。」
彼女たちは銃使いであり、少女なのだ。
「無邪気だから、手に負えないのさ。」
少女でありながら花を愛でる目で照準器を覗き込み、花冠を結う手で引き金を引くのだ。
「…ここまで想われると、大変だな。普通の神経じゃ勤まらんね。あれじゃあ、無意識の脅迫だ。」
銃を奪われ、押し倒されたところで彼女は口を開く。
『死にませんよ、だってこんなにも思ってくださっているのですから。』
そう幸せそうに言うのだ。
「愛してくれなきゃ、死ぬといっているようなもんだ。」
恐らくは、シャーリーも同じようにエルザの拳銃を奪い取ろうとしたのだろう。そして、窓に突っ込んだ。
「いつでも、彼女の尊敬に値する人間でいなくちゃいけない。でも、そのくらいはしてやらないとな。」