グレーテルと私   作:バイオレンスチビ

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不安

お姉様は泣き虫だ。私が怪我をすれば泣き、私たち義体が傷つけば傷付いてしまう。

だから、防弾鞄を背中に背負ったまま飛び出してエルザの盾になったりもする。本当はとっても怖がりの癖に銃剣をつけて鉄砲を振り回したりもする。

「ねぇ、お姉さま。」

きっと、私が思うに姉様は鉄砲を持って大暴れするようなタイプじゃないのだ。

「ん、どうしたの?」

私は、お姉さまが好きだから。傷付いてほしくないから。ずっと笑顔でいてほしいから。…もっと、貴女を知りたいの。それは、わがままなのだろうか。どうして、涙を流すほどに悲しむのか。不意に遠い空を見上げて泣きそうな顔をするのか。その寂しそうな顔の理由を教えてほしいの。

 

 

「…アンジェリカの具合はどうだったの?」

あぁ、アンジェリカの心配をしていたのね。友達の安否は確かに気になるもの。

「やっぱり、足を変に捻ったみたい。でも、それだけだから足を取り替えたりとかはしないらしいよ。…グレーテルも気を付けてよね。盛り上がると歯止めが効かなくなるのは悪い癖なんだから。」

昔からそうだった。活発で利口な彼女は時々、突っ走ってしまうことがある。“やるからには徹底的に”そんな彼女だ。たとえば、私が暇になるタイミングと職員の巡回の隙を突き、星座早見板を談話室から盗み出して“眠れないから星を見よう”なんて言われたときは笑ってしまった。そこまで努力しなくたって、私より上の人の許可をとれば簡単なのに。今思い出しても可愛らしい完全犯罪だった。

「姉様こそ、現場で転んだりしないでよ?」

「はいはい。」

妬いてくれているのかな?他の娘と仲良くしすぎると、嫉妬してくれるみたいで。その少し不機嫌そうな顔すら可愛らしいと思ってしまう。

「心配してくれて、ありがとうね。」

軽く頭を撫でる。利口な彼女のことだ。きっと、今回のアンジェリカの件で私が思い悩んでいることを察してくれたのだろう。

マルコーさんとアンジェリカ。公社初のフラテッロだ。ただ、アンジェリカには条件付けや投薬の副作用が大きく出ていて、今は記憶障害という形で彼女を蝕んでいる。マルコーさんが教えたことも。一緒に体験したことも。まるで手で掬い上げた水のように零れ落ちてしまうらしい。

それは、きっと苦しいことだ。記憶を失う恐怖は体験したことがないからわからないけれど。

それは、悲しいことだ。愛情と時間が零れ落ちていくのを止めることも叶わない。

…私は、彼女の友人で彼の同僚だ。それでも、どうしたらいいのかわからない。どうしようもない、と片付けてしまえばいいのだろうか。あぁ、これは正解のない問題だ。

そして、いつか。きっとそれはグレーテルを蝕むのだろうか。

 

 

 

「もう少し、このままでいさせて。」

私は強く抱き締めた。

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