「つまり、こういうことですか?
お偉いさんの娘とクラエスは似てる。クラエスに娘さんの服を着せて誘拐させる。携帯電話に忍ばせた発信器で場所を特定して五共和国派のアジトを見つけ出して、どっかーん。合っていますか?」
何だこの作戦。クラエスが偽物だってバレたらどうするのさ。そりゃあ、クラエスだって義体だよ。あのラバロ大尉の教え子だよ?でも、彼女は戦闘経験に乏しい。というよりも、データ集めの仕事ばかりやらされていたじゃないか。
「残念ながら爆破はしない。だが、簡単に表現するとそうなる。」
あまりにもリスクが高い。そこまでテロリストたちは間抜けだろうか。
「…ここで成果を出さないと、コストの高い義体を使役している我々を疎ましく思う連中に攻撃のチャンスを与えることになる。予算は有限だからだ。」
多少リスクがあっても、実行するに足る理由があるってことね。
「この作戦には、動ける義体をすべて投入するつもりだ。アンジェリカを含めてな。」
なるほど。アンジェリカは、このところ入退院ばかりで成果がなかったから。これは、彼女を守るための作戦でもあるのだろう。恐らくは、この作戦に貢献させることで、“彼女も強力な戦力である”と認めさせるつもりなのだ。
「あぁ、もう大丈夫だろう。」
マルコーさんは低い声で呟く。あの怪我から復活したアンジェリカは念入りに基礎トレーニングをしている。走ったり撃ったり大忙しだ。
「…マルコーさん。」
アンジェリカにとっては、久しぶりの仕事になるだろう。…誰も怪我をしなければいいのだけれど。
理解はした。納得はしていない。
「クラエス、ちょっと暇?」
私は、彼女の担当官だったラバロ大尉に拳銃の取り扱いを習ったりしていた。つまるところ、私は彼女にとって姉弟子のようなものなのだ。だが、大尉は交通事故で亡くなり、彼女は大尉に関する記憶を削除された。
今の私たちは普通の友達だ。
「ええ、暇よ。」
メガネをかけた少女は言う。義体にメガネは必要ない。視力を含めて五感もまた調整されるからだ。彼女はメガネをしている。大尉がどんな理由で彼女にメガネを渡したのか。それはわからない。彼女も覚えてはいないだろう。だが、そこに何かがあったのは間違いないのだ。
「借りた本なら後で返すわ。」
「うん、それは読み終わったらでいいよ。」
…作戦はもう聞かされているのだろう。しかし欠片も動揺しているようには見えない。
「次の作戦、頑張ってね。」
“怖くないの?”なんて聞く資格はない。私にできるのは、お茶を入れて茶菓子を添えることくらいだから。
「いきなりどうしたの?まぁ、でも心配してくれてありがとう。」
小さな友人は微笑んだ。