「マルコーさん、ちょうどいいところに!」
アンジェリカの担当官である彼に渡さねばならないものがあるのだ。
「どうした、シャーリー。」
今夜は流星雨が来る。一人で過ごすのは味気ないし、マルコーさんは、そんな寂しいことはさせないだろう。
「これ、音楽プレーヤーです。ほら、話し相手がいなくちゃアンジェリカも暇でしょう。私はこれから書類仕事を手伝うことになっているので、渡しておいてください。」
何か理由があった方がいい。その方が、彼女に会いに行きやすいだろうから。
「…てっきり、今夜は一緒にいてやれと言われるかと思った。ヘンリエッタにも言われたけどな。」
ヘンリエッタ。優しい彼女らしい発言だ。
「そうですか。実は私も今夜はグレーテルと一緒に過ごすつもりなんですよ。」
音楽プレーヤーに入れたのは、メジャーなクラシック。アンジェリカが気に入ってくれると嬉しいな。
星空の下で少女が歌う。交響曲第九番『歓喜の歌』、あるいは『第九』。
「…歓喜の歌、か。」
流れていく星。冷たい風。少女たちの歌声。
ここにいるのは、リコにトリエラ、クラエスにヘンリエッタ、そしてグレーテル。世界は争うには狭く、支配するには広すぎる。そして一度武器を手にした者が生きられる世界は驚くほどに狭い。そんな世界で誰も欠けることなく生きている。生きているのだ。
冷たい風が美しい歌声が流れる星が、今この瞬間を形作っている。それはとても美しく尊くて奇跡的なこと。
「普段、テロリストたちを薙ぎ倒しているような娘たちが、今度はこのクソ寒い中で第九ですよ。…本当に、義体にしておくのがもったいない。」
運転手のアルフォンソが言う。
楽しそうに歌う少女。かつて、星座早見板をもって私の部屋の戸を叩いた彼女はここにいる。ここにいるのだ。
公社を留守にするわけにはいかない、そんな理由をつけてラウーロさんはエルザと二人で公社の屋上から見るらしい。入院中のアンジェリカはマルコーさんと一緒に見るのだろう。
…皆、同じ空を見上げているのだろう。
あぁ、そうだ。地に這う者も這わせる者も。老人も幼子も。きっと今ばかりは同じ星空を眺めているに違いない。だってこんなにも美しいのだから。
あぁ、星の彼方に住まいし神よ。諸人を見下ろす創造主よ。世界はこんなにも美しくて残酷で。
…もし、願うことが許されるのなら。
この祈りが空の果てに届くというのなら。
ただ、1つ。1つだけ私は祈るだろう。
“彼女たちの行く末に幸多からんことを”と。