「…姉様、しっかりしてください!」
砂埃がひどい。目を開けられない。耳がガンガンする。身体中が痛いし、誰かに引きずられていることしかわからない。
何があったんだっけ?
「当たった、当たった!見たか、政府の犬め!」
M8装甲車。こちらの切り札として用意された装甲車両だ。最大の特徴は砲塔に搭載された37㎜砲。軽戦車並みの主砲と路上では時速90kmの快速を発揮する足の速さ。まさに戦車と装甲車のハイブリッドだ。現在、イタリアに配備されているチェンタウロの先祖とも言えるM8は、第二次世界大戦中にアメリカが作ったもので現代でも一部地域では使われることのある傑作装備だ。
「やりましたね、ボス!」
正面装甲は12.7㎜弾を側面装甲は7.62㎜弾を受け付けない。そんな強固な装甲を持つコイツを撃破するには、歩兵の持つライフルなんかじゃ足りない。
戦車相手にやりあうなら力不足だが、歩兵を蹂躙するなら十二分の戦力だろう。
「こちら一号車、目標を発見。攻撃を開始した。」
『二号車、了解。』
本部からの兵隊は死んだ。連絡の着く部下も少ない。昨日まで酒とタバコを楽しんでいた男が見るも無惨な姿になって地面に打ち捨てられていた。ピックアップトラックは大破し、本部からの兵隊も壊滅している。ビルに残してきた部下からの連絡も途絶えた。
ここまで来て、俺だけ装甲車で逃げ出すなんて真似はできない。これだけやられて、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。これだけの装備があるんだ。奴等のパーフェクトゲームなんかで終わらせてやるものか。
「…これは、捻挫かな。」
ブルームハンドルのストックを添え木代わりにして粘着テープで固定してもらう。防弾鞄は私の身代わりに原型を留めないレベルで破壊されて転がっている。
「すみません、カーレンさん。こんなことまで頼んでしまって。」
「問題ないわ。ただ、応急処置の訓練をこんなところで使うとは思わなかったわ。」
後ろから私が動かないように押さえてくれているグレーテルの手を撫でる。
「大丈夫。大丈夫だよ、グレーテル。」
「な、何が大丈夫なんですか!あれを見なかったんですか、あの怪物を。あの切り札を!M8グレイハウンドですよ!?…しかもあれが二つも。それに私だけならまだしも、こんなにたくさん巻き込んじゃった…。
もし、もしもできるなら。私を捨ててでもいいから逃げてください。」
M8か。イタリア軍の倉庫で埃を被っていたのが流れたのだという。
「私が助命嘆願すれば、たぶんだけど助かります。」
グレーテルの使う軽機関銃だって装甲に阻まれてしまうだろう。先に渡された資料を読んで大体のスペックは頭に入れてある。
「…静かにしてください。見つかったらどうするんです?」
残るのは予備の手榴弾や発煙筒。身体中が痛む。呼吸は苦しいし、グレーテルには泣かれるし。このままじゃ走れそうにもないし。
「私たちは命を懸けて君を守りに来たんです。だから、君も命を懸けて守られてください。」
…さぁ、考えろ。やつを月まで吹っ飛ばす方法を。こんな路地裏に転がり込んだところで、きっとすぐに見つかってしまう。
「…手伝ってほしいことがあります。」