姉様の後ろに乗せてもらう。姉様のバイクは街乗りに便利な49CC。二輪車の多いイタリアでは普通の光景だ。背丈の低い姉様にはプリシッラちゃんの乗るようなベスパは大きすぎるらしく、小さめのホンダに乗っている。車の運転が苦手な姉様がちょっとした移動の足として使うにはピッタリのアイテムらしい。
「仕事でもなければ、二人で観光できるのに…。」
ローマ市民デモ。そして、この騒ぎに乗じた爆弾テロを企てている人がいるらしい。
「大丈夫。ローマは逃げないよ。仕事が一段落着いてから少しバイクで寄り道しよう。せっかく二人っきりなんだから満喫しなきゃ損ってものだもの。」
退院した姉様は仕事復帰の前にナポリ観光につれていってくれた。公社の本部はローマだから目的地までは車で移動したけれど、公社からの運転手さんがついた。姉様の負担が減るのは嬉しかったけれど、やっぱり二人きりで回りたかったなんて思うのは私の我が儘なのかしら。
それにローマ市内ならバイクでも十分に回れる。きっとナポリと違って近場だから手続きも簡単なはずだわ。
決められたコースを周回する。プラカードを持った人たちが物々しい雰囲気で練り歩いている。もっと楽しいことをすればいいのにね。
「何の騒ぎです?」
「たぶん、前方の集団が警官隊と衝突したね。大丈夫、これはテロじゃないよ。まったく、石なんか投げないでオレンジでも投げてりゃいいのにさ。」
遠くで爆発音。
「…はい、わかりました。灰色のバンですね。」
どうやら動きがあったらしい。
「しっかり掴まっててね。鉄砲はまだ出さなくていいから心の準備だけしておいて。」
姉様の声色が変わる。今回は市街地ということで携行性に優れたブルームハンドルを忍ばせている。さすがに白昼堂々と軽機関銃を振り回すわけにはいかないから。
「了解です。」
ぐんぐんと加速していく。ヘルメットに仕込まれた無線機から指示を受けて姉様は先へ先へと急ぐ。そして、街中から郊外に向かって走らせているようだ。きっと今回は街中で荒事を起こすことはないだろう。非公式機関である公社にとって目立つことは好ましくないし、“自称”活動家にとっても市民を敵に回すことは避けるべき事態である。だから、鉄砲の出番にはまだ早い。
「…さぁ、飛ばしていくよ。」
お姉さまが半分自分に言い聞かせるように呟くのを聞いて、姉様が潰れてしまわない程度に抱きつく。お姉さまは相変わらず暖かくて甘い香りがした。