軍警察のパトロール隊に所属していたマルコ・アントニオは死んだ。元同僚であるジョゼさんと食事にいった数日後のことだった。…いや、正直に言おう。私が殺した。
【山道で待ち構えて市街に突入される前に決着をつける。】
細い山道で爆薬や鉄砲を満載したトラックを仕留める作戦だ。この山道なら誰にも見られる心配はないし、痕跡を消すのも簡単だからだ。参加するのはグレーテルとエルザ、トリエラ。
<良いか、警告にしたがった場合は逮捕だ。>
やや撃ちたがりの傾向のあるメンバーに釘を刺すようにラウーロさんが言う。エンジン音が近づいてくる。
【例え全員を射殺したとしても、現場さえ押さえたなら立派な証拠になる。】
…あぁ、やっぱり怖い仕事だな。
どうしてか他人事のようにそう思った。
森の中に銃声が鳴り響く。荷台の幌の中から行われたデタラメな応射もトリエラの持つショットガンによって悲鳴と怒号に変わっていく。如何に軍用といえど、所詮は非装甲車両。フルサイズのライフル弾に耐えうるはずもない。運転手を射殺され、タイヤを潰されて…。戦意を喪失したのか反撃のためか外へと転がり出てきた男にも容赦なく弾丸は降り注いだ。
細い山道に大きなトラック。機動力を早々に喪失した獲物。惜しみ無く叩き込まれる鉛弾。それはもはや銃撃戦ではなく一方的なマンハントだった。
<よし、エルザ。いってこい。>
ラウーロさんからの指示を受けて、銃剣を取り付けたライフルを持ったエルザがゆっくりと近づいていく。腐っても相手は軍人。それも平和維持活動の経験を持つ軍警察(カラビニエリ)。欠片の油断も許されない。それこそオンボロ中古トラックごと大爆発なんてことも考えられるのだから。
乾いた音が二発。
血塗れの死体がまた増えた。
「ん?」
カメラを用意して歩を進めようとした私の足に当たったのは、助手席から転がり落ちた男の手帳だった。男の顔は残念ながら判別がつかないレベルで赤く染まっている。しかし、この手帳は無事だったらしい。間に挟まっていた写真が落ちる。
…そこで気づいたのだ。
マルコ・アントニオは死んだ。死因は“交通事故”だとされている。彼は唯一の肉親である母を亡くし、独身で妻子もなかった。故にその葬式の参列者は数えるほどしかいなかった。
『…お袋は死んだよ。一昨年の市民デモで警官隊が放った催涙弾が頭に直撃したんだ。』
あの日、そう語った彼にとって己の家族を奪った敵は警察官であり、国家だったのだ。
「いいのか、ジョゼ。休んでいてもいいんだぞ?」
武器の横流しをしていたガニー大佐の暗殺が許可された。必要な証拠が揃ったのだ。今日、オペラの観劇に来る男を一人殺す。
「…大丈夫さ。それにいつまでも悲しんでいられないからね。」