「あぁ、何てことだ…。」
結局のところ、目撃者となってしまった不運な少年はリコの放った銃弾によって倒れた。噂のボーイくんは、好意を抱いた少女によって呼吸を止められたのだ。
「シャーロット、何を嘆いているんだ。」
ジャンは知らない。幼い少女と少年の間に芽生えていた小さなモノを。どうして、少女がトリガーを引くのを躊躇ったかを。
「いいえ、何でもありません。」
任務は成功した。目的は達成され、討つべき目標は倒れた。これで、あとは勝手に事実が作られる。五共和国派の連中が暗殺を決行し、そこに居合わせてしまった哀れな少年エミリオは口封じの為に殺されてしまった。…こういうストーリーが作られるのだろう。
「姉様、帰りましょう?」
男の子と、どうやって話せばいいのか。昨晩、私に訪ねた少女。リコは泣いている。
「…うん、帰ろうか。」
条件付け。少女たちを殺戮者に変えるために施されるもの。殺人への忌諱感をなくし、主人に忠実な人形にするための手段。あぁ、これは紛れもなく悪鬼羅刹のごとき所業だ。許されざる罪だ。
「グレーテル。今日は、疲れちゃった。」
グレーテル。君も例外じゃないんだろう?
「まったく、しょうがないわね。」
今も昔もグレーテルは私を慕ってくれている。こんなに汚い女を、何も知らない彼女は“姉”と呼び慕うのだ。そして、私の為にと短い寿命を擦り減らして銃を握り、手を汚すのだろう。
私には、彼女に彼女たちに何ができるだろうか。いいや、そう思うことさえも傲慢な思い上がりかもしれない。私には、何もできない。紅茶を入れて、話を聞いて茶菓子を添える。その程度のことしかできない。彼女たちの代わりに銃を扱うことも、負担を肩代わりしてやることも…。
「帰りに甘いものでも買って帰ろうか。」
「本当!?じゃあ、私はガトーショコラが食べたい!」
それでも、思うのだ。少しでもいい。少しだけでも彼女たちが幸せを感じられるようにしたいって。短い時間しか生きられないとしても、在り方が人間として破綻しているとしても、私は思うのだ。こんな私が少しでも役に立てたなら。一瞬でも長く笑顔にできたなら。そう思わずには、いられない。
「個人的には、プリンタルトが食べたいなぁ。」
銃器を納めた楽器ケースを床に置き、シートベルトをする。彼女がちゃんとしたかを確認するのは、過保護かもしれないが昔からの癖だ。
「少し寄り道とかしていいですか?」
運転手さんに問いかければ、いい笑顔とサムズアップが返ってきた。