「そんなに酷いの?」
顔色も悪いし、全身から“調子悪いです!”ってオーラが吹き出している。
「うん、すごく辛い…。」
残念ながら私の身体には残っていない機能なので羨ましくもある。
「あと一人で全員揃うね!」
熊のぬいぐるみを数えていたヘンリエッタは、今日も元気。異常なし。
「いいなぁ、私もほしいなぁ。」
「そんなにいいものでもないわよ。毎回、同じものばっかり。」
口ではそんなことを言うけれど、一人一人に白雪姫に登場する小人の名前をつけて可愛がっている。
「いや、本当に大丈夫?長距離を全力疾走したあとの姉様と同じくらい顔色悪いんだけど…。」
姉様は長時間の激しい運動に対して、ドクターストップをもらっている。それを無視して無茶な運動を続けると、酷く苦しむことになるみたいだった。
「市販の薬ってダメなんだよね。」
そう。お医者さんの許可が必要なのだ。それがなければ、風邪薬だって飲めない。
「二人とも、心配してくれてありがとう。でも、これも生きてる証だからね。…頑張って耐えるよ。」
「あ、こんな時間だ。そろそろ出掛けなきゃ。」
今回の任務は狙撃。そう聞いている。前回の“見せしめ作戦”よりも手間がかからないし、安全な任務だ。ドイツから来た“ちょび髭ファンクラブ”の“プレミアム会員”さんを撃ち殺すこと。つまりは、狙撃による暗殺。ここで頑張ったらクリスマスがもっと豪華になるかもしれない。
「それじゃあ、二人ともまたね!」
私は姉様の剣。姉様の盾。さっさと済ませて少し早いクリスマスデートといきましょう。姉様は根っからのインドアだから少しは外に出た方がいいわ。
「あ、そっか。これからお仕事なのね。頑張ってね、グレーテル。」
「気を付けてね!」
元気に手を振るグレーテルを見送る。
…条件付けと愛情は似ている。どこまでが本物の自分の感情なのか。ヒルシャーさんが私に何を求めているのか。私にはわからない。どうせなら、条件付けで決めてくれれば悩まなくていいのに。
グレーテルはシャーリーの妹。ヘンリエッタはジョゼさんの妹。リコはジャンさんの仕事道具。…じゃあ、ヒルシャーさんは、私に何を演じてほしいのだろう。
ノックの音がした。
「どうしたの?わすれもの?」
そういいながらドアを開けるのはヘンリエッタ。
「ううん、トリエラに伝言があってきたの。」
扉の先にいたのはリコ。片手にはウェットティッシュの入ったケースを持っている。側面には、極太の油性ペンでシャーロットさんの名前が書いてある。
「どうしたのそれ?」
ヘンリエッタが訪ねる。
「さっき、ジャンさんに叱られて少し血が出たの。別に痛くもないし、気にしてなかったんだけど。廊下ですれ違ったシャーリーが気づいて箱ごと渡されたんだ。」
…あの人の鞄。本当に何でも入っているのね。
「そうなんだ。」
時折、整理整頓と称した大粛清を行っているらしいが、気がつけば元通りになっているらしい。
「そういえば、伝言は?」
「ヒルシャーさんが呼んでたよ。」
私は、重い腰をあげた。