「ボス、さすがにナチと手を組むのは…。」
金のある五共和国派と手を組んだ。ただし、金があっても足りないものがある。具体的に言えば、テロに使う爆弾。そして、武器を扱うことのできる兵隊だ。
「俺の決定に逆らうのか?」
引き込むのは、元武装親衛隊の生き残り。“少尉”と呼ばれる男だ。顔を変え名前を変え、階級だけが残った男。彼の後ろには飢えた赤いプロイセン軍が控えている。
「東ドイツは消えてなくなったが、国家人民軍はなくなっちゃいない。」
この町も住みにくくなった。若者は都会へと吸い込まれ、時代に取り残された老人ばかりが残る。
「まだやり直せる。まだ負けた訳じゃないんだ。」
北部の独立?大いに結構。出稼ぎにいく親不孝者が減る。ついでに金まで落としていくのだから北部の活動家は面白い。口では『北部の血税が南部のマフィアに…!』なんて怒るのに。やっていることは何も変わらない。
「理屈はわかっちゃいるんですがね。…やっぱり信用なりませんわ。」
ここで“少尉”を引き込めたなら圧倒的な力を手に入れることになる。下らない抗争ともおさらばさ。
「カール、全員を正装させろ。兵隊には武器を配れ。」
…老兵の帰還を祝わねば。
「俺の生まれた町は、小さな漁港に山と海。それしかなかったのさ。」
東ドイツ軍は、西ドイツ軍に吸収される形で消滅した。その中で多くの将兵が職を失い、名誉すら奪われた。残留を許されたとして待つのは冷遇。軍人恩給の支給もなく満足な年金も与えられない。
「…ただ、今は懐かしいんだ。あの海の匂い、潮騒の音。調子外れな鐘を打つ教会。あの町のすべてが恋しい。」
同情してしまったのだ。馬鹿馬鹿しい。死体の身ぐるみを剥ぎ、文字通り人様の血肉を食んで生きてきたヒトデナシが。かつての自分と未来ある若者を重ねて見ている。
「少尉。恋をしておられるのですね。」
勝手に夢を見て飛び出して。必死に戦って戦って…。この手には、何が残ったんだろう。
「赤くなろうとドイツ人は詩人だなぁ。」
孫ほどに年の離れた新任軍曹の頭を撫でる。偽装漁船は進む。あの日もこんな夜だった。ムッソリーニのマフィア狩りが激しくなり、肩身が狭くなる日々。さらに私生児である出自をコンプレックスに思っていた俺は、幼馴染みと共にオンボロ漁船で町を抜け出したんだ。
ちょうど、軍曹くらいの年頃だった。
「こ、子供扱いしないでください!」
またオンボロ漁船に揺られている。一緒に町を出た幼馴染みは、無事に帰っただろうか。あいつの消息は不明だ。俺はあいつに誇れる生き方をして来られただろうか。血と泥に汚れて戦い、いつの間にか世界のお尋ね者になっていた。顔を捨てて名前を捨てて、そこには肩書きだけが残っていた。
「少尉、灯台です。灯台が見えました!」
あぁ、何もかもが変わってしまった世界で。理不尽と不条理で成り立つ世界で。ただ1つ変わらないものがあるとするならば、この海と空とを言うのだろう。