『北イタリアのジェノヴァです。連続モスク襲撃事件をはじめとした4件のテロに関与したとして指名手配されていた、アレッシオ・ルチアーノが海に浮いているのを発見されました。地元警察は…』
上からの指示通りに動き、偽装漁船から旧港に降り立ったところを射殺した。白髪の老人は、額と首筋を破壊されて海に落ちた。
「そんなに落ち込むことないじゃない。私たちは指示通りに動いて指示通りに殺した。そこに間違いはなかったし、結果として極悪人を仕留めた。」
…影武者だったのだ。アレッシオは、右派の活動家の中でも有名なナチ寄りであり、少尉の信奉者であったという。
「私もグレーテルも怪我をしていない。一般人も巻き込んでいない。上の勘違いで影武者を撃ち殺しただけ。マイナスになるようなことはないよ。」
落ち込むグレーテルを静かに抱き締める。身を任せてくるグレーテルの背中を撫でながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…でも、姉様。課長に呼び出しもらってた。」
「あぁ、そのことね。別に怒られていた訳じゃないのよ。ただ、自分が撃ち殺した相手の素性を教えてもらっただけ。むしろ、課長は誉めていたよ?真っ暗な旧港で護衛をつけたターゲットを一発で仕留めたんだから。」
まぁ、出迎えに来ていたマフィアの連中は護衛というよりは武装させたチンピラだったわけだが。それでも肉の壁くらいにはなるだろう。また、目の数が増えるということはスナイパーにとって非常に大きな障害になる。なぜなら、スナイパーにとって恐ろしいことは己の存在の露呈であるからだ。
「そうなの?」
「そうだよ。だから元気を出して。自信をもって大丈夫。貴女は自慢の妹よ。」
艶やかな髪を撫で上げ額に口付けを落とす。
「ありがとう姉様。」
頬を染めて私を抱き返してくる。そして、頬に口づけをするのだ。
「…何か、鳴っている?」
ケータイから着メロとして登録した『勇敢なるスコットランド』が流れてくる。
「ごめんね、ちょっと電話するよ。」
少し残念そうな顔をしながら、グレーテルは一歩下がる。その頭を撫でてから通話ボタンを押す。
「応援はもう来たんですか?」
ベッドの上で膝を抱えて座るヘンリエッタが訪ねる。
「ああ、本部からリコとトリエラにグレーテルを呼んだよ。色んなケースに対応できるようにしてある。」
5件のテロに関与した忌々しいパダーニャ、エンリコ。殺すだけなら簡単だが、拠点を襲撃して確保するとなると一組のフラテッロだけでは難しい。
「ご褒美のことを考えながら、少し眠りなさい。」
決行は夜。
「はい、ジョゼさん。実は、ご褒美はもう決まっているんです。」
銃の入った楽器ケースを退けて、ベッドに入るヘンリエッタ。
「おやすみ、ヘンリエッタ。」
…今夜は、大捕物になりそうだ。