Re:ゼロから始まる闇の道化生活   作:アーロニーロ

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長めです。


無茶振り

 

 

「シャア!」

 

「シッ!」

 

 二つの声と武器と魔法がぶつかり合う音が洞窟内に響き渡る。音の発生源を見ると黒いピエロのような見た目をした男が2人そこにいた。

 

 2人は見た目が全く同じだったが、片方は身の丈を超えるほど大きな槍を持ち飛来する紫紺の鋭い結晶を一弾残さず撃ち落とし、もう片方は槍持ちからある程度離れた距離から魔法を放ち槍持ちを翻弄し続ける。均衡状態が続く中、槍持ちが縦横無尽に飛来する魔法を撃ち落としながら魔法使いに向けて突貫する。瞬きの間に空いた距離を詰めると同時に振り下ろされる槍、頭に刃が叩き込まれ様とした瞬間、

 

「ムラク」

 

 魔法使いが詠唱すると同時に槍使いの身体が浮いた。身体の重心を崩すことで魔法使いの頭に当たるはずの刃を回避される。

 

「ハァイ、チェックメイト♪」

 

 その言葉と同時に魔法使いの拳に括り付けられた短剣をアッパーの要領で喉に向かって放つ。バキッという音が響き渡る。そして、魔法使いは避けようのない攻撃を避けた槍使いを目を見開き見つめた。なんと槍使いは槍を棒高跳びの要領で使うことで当たるはずの攻撃を無理矢理回避したのだ。バキッという音は拳が槍の持ち手の部分を砕いた音だった。二つに分かれた槍の刃の部分を持ち、振り上げる。拳を振り切り身体が硬直した魔法使いは回避できるはずもなく。

 

「ザァンネェン、アナタがチェックメイト♪」

 

 その言葉と同時に天高く首が宙を舞った。

 

 

 城塞都市ガークラを攻め落とし、マキアを部下にしてから四年が経った。あれから俺は福音書からこれといって指示も無かった為、ただひたすら特訓を続けた。初めのうちは何度か心が折れそうになるほどキツい修行だったが強くなっていく実感があった為そこまで苦ではなかった。

 

 因みに俺の魔法の属性は『陰』で適性も相当高いらしくガークラの兵士の記憶から考えるとこのまま血の滲むような努力を重ね鍛えていけば世界的に見ても最高峰の使い手になれる程度にはいいらしい。

 

 まあ、実際普段から自身の腕が腐り落ちる寸前まで身体を鍛えたり体内のゲートが暴発一歩手前になるまで魔力操作してるから原作前までにはせめてルグニカの『黒』の称号を得られる程度には使いこなせる様になりたいなぁ。まぁ、それはさて置き。

 

「ハァイ!ザンネン、ワタクシの勝ちですネェ!?」

 

「…エエ、そうですネ。鬱陶しいから少し口を閉じてはいかがですか、ワタクシ?」

 

「イイエ、黙りませんともワタクシ!先日は散々煽られましたからネェ!ネェネェ、どんな気持ちぃ!?昨日煽りまくってた相手に負かされた負け犬のアナタは今どんな気持ちなノォ!!??ネェったらァ!!」

 

「死ね」

 

「クヒヒ、返答アザースw」

 

 俺こと身体担当は今魔法担当を死ぬほど煽っていた。側から見れば双子か兄弟が喧嘩して負かした方を煽ってるように見えるが本当は自分で自分を煽っているのだから知っている人間からしたらさぞ不気味に写るだろう。仮に俺がこの光景を側から見たら関わり合いたいとは思えない。

 

 ああ、それと一応あれから他の大罪司教が入った。加わった大罪は『憤怒』で大罪司教の名前はシリウス・ロマネコンティという。見た目は頭部を左目を除いて包帯で乱雑に覆い、サイズの合っていない魔女教徒特有の黒いコートを羽織り、両腕には長く歪な鎖を縛り付けフック状の先端を常に地面に引きずっている。 「怪人」としか呼びようがない不気味な人物で普段から

 

「人と人は分かり合える、思い合い、通じ合うことができるのです。優しさに優しさを、慈しみに慈しみを、愛には愛を以て! そうすることにこそ、幸せがあるのです」

 

 と言っているがはっきり言ってキモいし不気味だ。小説を読んでいて原作を知っている身だったから人物像は知っていたつもりだったが。いざ目の当たりにするとストーカー気質も相まって普通に嫌悪感がすごかった。後、俺はめっちゃ嫌われている。

 

 大罪司教になり魔女教に入ったのは2、3年前。魔法の暴発かなんかで全身を燃やされていたところペテルギウスに助けられてその行動に惚れたらしく。それ以来、シリウスは自身の姓を捨ててロマネコンティの姓を名乗るようになったとのこと。ここだけの話、惚れた理由がまともだと思った。

 

 因みに『なったとのこと』と判断した訳は一時期余りにも嫌われすぎてペテルギウスにどのような理由で自信を嫌っているのか知っているか?と尋ねた際にもしかしたらその理由が過去にあるのでは?という理由で過去を聞いたからである。

 

 そして、嫌われている理由だが、話を聞いていくにつれてすぐに分かった。どうやらペテルギウスが事あるごとに俺のことを褒めちぎっていたのが主な理由だ。あの時思わずペテルギウスの顔面に拳を叩き込んだ俺は悪くないと思ってる。ペテルギウスも「何をするのデス!!」と言って怒ってきたからペテルギウスとも仲を悪くするのもあれだと思い素直に謝った。いざ振り返ってみるとペテルギウスは本気で悪いことしたと思ってる。とはいえ、原作崩壊を避けるためとはいえこれ以上目の敵にされるのも厄介だと思っていた。

 

 そう思う理由はシリウスの権能にある。権能の能力は「感情の共有」文字通りシリウスやシリウスが指定した人物の感情を周りにいる人物にも共有させる。

 

 例えばシリウスが大喜びしていれば周りにいる人間は殺される直前まで大喜びし続けるし、シリウスに恐怖している人物がいれば周りにいる人間もどんなに気を強く持っていようが無条件で恐怖する。

 

 一種の洗脳のようなもので、初めはシリウスを警戒していたとしても彼女が友好的な態度を保っていればこちらも彼女を好意的に感じてしまう。

 実際にスバルは彼女と初遭遇の際、記事冒頭のようにシリウスに対する警戒と敵意を失ってしまい、違和感を感じることもなく無抵抗に殺害されてしまった。

 

 また共有化によって伝染した感情は共振するように増幅していく特性も持つ。

 

シリウスにAが恐怖する→その恐怖心をBが受ける→

Aが元々の恐怖心に更にBの恐怖心を上乗せされる→

Bの恐怖心にAの上乗せされた恐怖心が上乗せされる→Aが上乗せされた恐怖心にBの上乗せされた恐怖心が更に上乗せされる→Bの…

 

 といった具合に感染して時間が進むほど症状が悪化していってしまう。これは悲しみだろうと怒りだろうと同じ。感染者の精神はやがて強制的な感情の奔流に耐えきれなくなり、最終的には発狂死という末路を迎えてしまう。

 

 応用として、シリウスの相手に対する敵意を他の人物達に共有させ、傀儡として操ることも可能らしい。

 

 感染してしまう条件は不明で、発症に至るまでには個人差があるようだが少なくとも作中最強であるラインハルトですら防ぎようがない模様。

 

 他にも「感覚の共有」といったものもあり。シリウスやシリウスが指定した人物が受けた感覚を周りの人物にも共有させる。

 

 例えば少年が高所から墜落死すれば周りにいた人物も全員墜落と同じダメージを受けて死亡するし、シリウスが真っ二つにされて死亡すれば周りの人間も全員真っ二つになって死亡する。

 

 こちらも感染に個人差があるようだが、 ただ存在しているだけでも厄介な存在なのに、何も考えず仕留めてしまえば全員同じ末路を辿ることになってしまうという非常に意地の悪い能力。

 

 この『憤怒』の権能は範囲型攻撃のようであり、適用範囲に入った者は自動的に感染してしまう。ただし自身の意思で特定の人物を範囲外に除外することも可能とかいうクソ厄介すぎる権能。

 

 しかし、何故俺がこの問題を2、3年も無事であったかというと俺の権能が主な理由だった。簡単に言ってしまえば仮にシリウスが俺自身に権能を発動させたところで俺がシリウスとの繋がりを『分離』させてしまえばシリウスの権能は不発に終わってしまうからだ。

 

 ただ、厄介なことにこのことに腹を立てたシリウスが激昂しながら何度も何度も俺に権能を発動させ続けてきた為、ぶち切れた俺がシリウスを半殺しにしてしまったという過去があった。因みにその時ペテルギウスとパンドラが俺のことを止めたのがさらにシリウスの傍迷惑な愛情が拍車をかけいつしかストーカー属性にさらにヤンデレ属性まで追加されて俺とシリウスの仲は「目があったら殺し合い」というどこぞのマサラ人かのような物騒な関係になった。

 

 魔法担当を身体に混ぜ直しある程度、過去に想いを馳せていると。懐かしい感覚が全身に走った。福音書からの命令だ。

 

 俺はすぐに福音書を開き内容を確認した。そして、全力で福音書を地面に叩きつけた。

 

「フッザケンナヨ!アアッ!?クソ魔女がァ!」

 

 思わず普段の戯けた口調が崩れてしまった。だって、仕方ないと思うだって内容が酷すぎた。内容は

 

『ルグニカ王国で騎士になれ』

 

 といったものだった。

 

 

 ある程度落ち着いた後、もう一度自身を分けて魔法担当と俺の大声に反応したパンドラと思考と情報を共有すべく相談した。取り敢えず結論。はっきり言って今回の福音書の内容は酷すぎるというか無謀だ。

 

 あんまりな内容に普段は飄々としているパンドラですら口を濁したほどだった。福音書が命じたことは遠回しの自殺と言っても過言ではない。何が悲しくて俺は敵の本拠地でごっこ遊びをせねばならんのだ。さめざめとしながらパンドラに今回の福音書の命令は無視していいか許可を取る。すると、パンドラはニコリと花が咲いたように笑い答える。

 

「ダメです♡」

 

 ああ、やっぱりね、予想してたけど逆らえないのね。俺は魔法担当と向き合いお互いに覚悟を決めた顔で勝負を始める。

 

「「最初はグー」」

 

 その言葉と共に俺と魔法担当は拳を引き中腰になる。

 

「「ジャンッケン」」

 

 お互い言葉の一言一言に全身全霊の意思をこめ、

 

「「ポオオオオォォォォォォォォンンンーー!!」」

 

 吠えた。結果は魔法担当がパーなのに対して俺は、グーだった。

 

「ヒャッハーーーーーー!!!」

 

「チクショオオオォォォォォォォォ!!」

 

 拳を振り上げ心の底から喜ぶ魔法担当。地面に拳を打ちつけ全力で悔しがる俺。後から振り返ってもここまで勝負事で盛り上がったことは無かったと断言できる。

 

「サァテ、今後は頼みますヨォ、騎士様♪」

 

「エエ、わかりましたヨ。やればいいんでしょ、やれば」

 

 若干はふて腐れながらも俺はすぐに話を切り替えた。

 

「早速で悪いですガ、魔法担当。今すぐ「ゲートをアナタに譲渡する、デショ」流石、ワタクシ話が早いですネェ〜」

 

 そうやるべき事とは言ってしまえば俺を権能以外元の状態に戻す、という事だ。いつまでも混ぜているゲートを使っては間違いなくルグニカの最高位の治癒魔導師に怪しまれる。あんまり認めたくないが俺の権能自体、話から虚言や違和感などを取り除ける為潜入とかにはうってつけだと思っている。そう考えているうちに俺は魔法、いや魔女教担当からゲートを移してもらった。さてと後は潜入方だけど。

 

「パンドラ様ァ」

 

「なんですか?エピタフ司教?」

 

「この時期、白鯨って何処にいますかネェ?」

 

「そうですね、この時期だと白鯨はリーファウス街道ですね、それがどうかしましたか?って、ああ、なるほどそういうことでしたか」

 

 本当にパンドラは話が早くて助かる。度々、手を借りてるからなんか借りを作ってるみたいでやだけど。そんなことを思いながら割と覚悟を決めて俺はもう一度魔女教担当に向き直った。そこには満面の笑みを浮かべ拳を構えた魔女教担当がそこにはいた。

 

 

「ヒュー、ヒュー、ヒュー、ヒュー」

 

 ま、魔女教担当の奴マジで躊躇なくやりやがった。クッソ、全身がめちゃくちゃ痛い。ここ4年でどれくらいやれば死ぬか死なないかが互いにわかってきてたからか全部急所は外れてる。代わりに両手両足がへし折れてたり肋も何本かへし折れてるせいで目がチカチカして死ぬほど痛いけど。

 

 痛みに耐えること早数十分。今俺は満身創痍の状態でリーファウス街道にいる。別に自分を使ったSMプレイというわけではない。じゃあ、なんでこんなことしているのかというとこれは俺自身を使った囮作戦だったからだ。

 

 今日この日はルグニカ王国で白鯨討伐が行われようとする日だ。ルグニカ王国はほぼ間違いなく白鯨がリーファウス街道に現れることを察知している。俺はその討伐作戦を通して自身を保護してもらうために魔女教担当に死ぬ一歩手前までボコボコにしてもらった。お人好し集団の騎士たちならば確実にボコボコにされた子供を助ける。その精神を利用してルグニカ王国に潜入する。我ながらいい作戦だ、痛いけど。そう考えていると遠くから多くの竜車の足音が聞こえてきた。

 

「っ!止まって!これは……誰か!医療班を呼んで!」

 

 よし来た。って、この赤い髪に青い目。剣聖か?『剣鬼恋歌』が広まってまだ短いし、まさかテレシアか?まあ、なんにせよ俺は白鯨が来るまで足止めするぞー。

 

「………ちが」

 

「血?うん、わかってる今すぐ血を止めるっ!」

 

「……ちがっ」

 

「うん、大丈夫だよ心配しないで君を傷つける存在はいないよ」

 

 そう言うとテレシア?は俺をそっと抱きしめた。……うん、柔らかい。何がとは言わないけど柔らかい。さてと、そろそろいいかな?魔女教担当オッケー?『オッケーだよー』よし、じゃあここ!

 

「…ぢっ…が…ゔ」

 

「えっ」

 

「ごれば………わ…な」

 

 すると、いつのまにか辺りが霧に包まれていた。よしよし、作戦成功!うん、周りから「いつの間にっ」て声も聞こえるしかなりの数も巻き込めた。白鯨の誘導ご苦労様、パンドラと魔女教担当。これならなんの違和感もなくルグニカ王国に潜入できる。

 

「ねえ!」

 

「はっ、はい!なんでしょう!テレシア様!」

 

「この子の保護をお願い!」

 

「はっ、了解しました!おい、1人でいい医療班俺について来い!」

 

 俺はテレシアから名も知らないモブに受け渡されると治癒魔法の光を浴びた。身体に暖かい光が包んでいく、その暖かさに包まれると同時に眠くなる。さあて、後は野となれ山となれだ。この後の展開は起きた後の俺に任せよう。そう思いながら俺は深い微睡に落ちていった。




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