Re:ゼロから始まる闇の道化生活   作:アーロニーロ

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fgoのイベントにのめり込んでいました。


獅子王とは

 

 

 フーリエの素性が明らかになり、クルシュはその場に跪いた。まあ、無理もない話だよな、俺もやらかしたけど王城に不審者が現れたと思って捕らえたら、それが王国の第四王子だったんだから。剣まで突きつけた事実を思えば、その心情は察して余りあるよ。俺はそう思いながらクルシュに向けて同情を含めた目線を送った。

 

「そなたの気持ちはわかる。だからといって、その責を問うような真似を余ができるか!頭巾を被って不審者と誤解させ、その罪で臣民を裁くなどと暴君にも劣る裁断であるぞ!?」

 

「ですが、殿下にあのような態度……許されてはなりません。どうぞ処断を」

 

「変に頑なであるな、そなた!潔いが面倒くさい!ええい、フィエゴ!そなたからも言ってやれ!」

 

「わかりました。いいでしょうか、クルシュ殿。どうしても裁かれたいと言うのであれば殿下の言うことに従ってはいかがですか?殿下に謝罪したいのであれば、殿下の気の済むようにする。これでどうでしょうか?」

 

 今にも自害しそうな勢いのクルシュを、俺とフーリエはどうにか必死で引き止める。その言葉に納得したのかクルシュは「わかった」と頷いた。

 

「どうか、殿下のお望みのとおりにお裁きください。どのような罰でもお受けします」

 

「む、どのような望みでも罰でも受けると言ったな?なんだこの胸の高鳴り……」

 

 再度跪きながら真剣な表情でクルシュがそう言うとフーリエは少し動揺した。まあ、気持ちは分かる。クルシュレベルの美少女になんでもするって言われたら国中の同年代の奴やロリコンどもがスタンディングオベーションだもの。うん、フーリエ君。君の気持ちは大いに分かるよ?だけども。

 

「殿下、鼻の下が伸びていますよ」

 

 鼻の下は伸ばすのやめよう?表情に出るとドン引きされるよ?幸いと言っていいのかクルシュは跪いている為フーリエの顔は見えていなかった。俺がそう少し呆れ顔で指摘するとフーリエは顔を赤くしながら隠して懊悩を振り払うように顔を振り払い、心を落ち着かせるように深い息を吐いた。

 

「では、罰を言い渡す。そなたには、そうだな……しばらく、余の暇つぶしに付き合うように命じる。余の気が済むまで、慰みに会話に付き合うが良い」

 

「は……?殿下、そのどこが罰……」

 

「待て!反論は聞かぬぞ!そなた、余に望む沙汰をせよと申したではないか。よって余は望む通りにした。そなたはそれに逆らえぬ!それで話は終わりだ。良いな?」

 

 腕を組みながらフーリエはふんぞり返って乱暴に話をまとめた。少し乱暴に纏めすぎては?と思いクルシュを見ると少々唖然としていた。しかし、少しして口元に手を当てる。そして、

 

「ふふっ」

 

 堪えきれないといった様子で、クルシュは笑い出していた。おー、なんていうか年相応だね。アニメじゃあ見れなかったけどあんな顔もできたんだなぁ。クルシュの見せた愛らしい笑顔に少し驚きながら蹴飛ばした短剣を回収しクルシュに渡す。

 

「クルシュ殿、先程は申し訳ありません。こちらをお返しします」

 

「む、卿が謝る必要はない。むしろ、さほど歳は変わらないというのに先ほど私から短剣を奪って見せた技量は目を見張ったぞ」

 

「はは、恐縮です。ああ、申し送れました。私の名前はフィエゴ・ファイオスと申します。以後よしなに」

 

「ん?ファイオス、だと?ファイオス家は4年ほど前に事故か何かで仕えていた者も含めた関係者が皆亡くなったことが原因で没落したと聞いていたが……」

 

 ……マジでなんなんだ?ファイオス家って。少なくともカルステン家のガキでも知ってるってことは結構有名な一族なのか?一回調べてみるか。心の中でそう誓いながら俺はクルシュの問いに答える。

 

「どうやら私は運良く生き残ることができまして、あの日何が起きたのかもわからぬまま今日まで生恥を晒していました」

 

「……なにやら過去に何かあったのだろうが詳しくは聞かないでおくとしよう」

 

 そう言いながらクルシュは短剣を受け取った。まあ、それはいいとしてあの憐憫がこもった目。ああ、腹が立つ。クルシュの目線に殺意を抱いているとフーリエは何かに気づいたのか喋り始めた。

 

「その短剣の彫刻……牙を剥く獅子の家紋であるな。そうなると、そなたはカルステン家の関係者……いや、メッカートの娘であるか!そうであろう!」

 

 フーリエは短剣の彫刻を指差しながらそう言った。すると、クルシュは観念したように吐息を溢し、「はい」と厳かに頷く。

 

「陛下のご慧眼の通りです。私はカルステン家当主、メッカート・カルステンの娘。クルシュ・カルステンと申します。殿下に先に名乗らせるなど、不徳の至りです」

 

「名乗ったのは余の勝手。顔を隠しておったのも余の身勝手。先の話はこれより掘り返す必要はない。それにしてもそうか。そなたがあのメッカートの娘であったか」

 

 クルシュの名前を聞いて感慨深そうに頷くフーリエを見て少し驚いていた。俺は家紋だけでどこの家のものなのか理解するのは難しいと思っていたからだ。

 

「クルシュ……良い名だ。そなたの凛々しく、気高い印象によく似合っておるな」

 

「勿体ないお言葉です。ですが、ありがとうございます」

 

「な、なに、世辞ではない。フィエゴ、お主もそう思うだろう?」

 

「はい。素晴らしい名だと思います」

 

 はにかむクルシュに見惚れたのか、フーリエは顔を赤くしながら感情を誤魔化すように咳払いをした。

 

「それにしてもその短剣はずいぶんと丁寧に手入れをされているのですね」

 

「……ああ、父上からの贈り物なのだ。誕生日の祝いに気をつけて扱うようにと」

 

 躊躇いがちなクルシュの声は、先程向ける相手を間違えたことへの反省だろう。フーリエはそれに気づいたのかあえて話題を変えた。

 

「娘の誕生祝いに短剣とは、メッカートにしては気の利かぬ贈り物よな」

 

「私が欲しがったのです何が欲しいかと聞かれ、当家に伝わるこの家紋入りの短剣を」

 

「気が利かぬこともないな!うむ、短剣良いな!あると便利、それが短剣!」

 

「お気遣いいただかなくとも大丈夫です、殿下。私も自分の嗜好が少し、普通の娘とずれているのは理解していますから」

 

 フーリエの必死のフォローに、クルシュはどこか儚げな微笑みを見せる。うわぁ、フーリエの奴綺麗にクルシュの地雷を踏み抜いたなぁ。ていうか、フォロー下手くそか。まあでも、女がそれも子供が短剣をねだるって確かに変な話だけどね。

 

「良いのではないか?刀剣類に心を奪われ、その収集に傾倒するとならばさすがに変わり者であろうが……そなたはそうではあるまい?そなたの執着は獅子の家紋。であれば余にとっても悪い気はせぬ。これでも一応、獅子王の子孫であるからだ!」

 

「ーーーーーー」

 

「どうかしたか?な、なあ、フィエゴよ。余はまた何か良くないことを言ってしまったか?」

 

「いいえ、殿下。殿下らしい、素晴らしい言葉だったと思いましたよ」

 

 うんうんとうなずいて話していたフーリエを、クルシュが唖然とした目で見ていた。そんなクルシュの様子を見て少し不安になったのか小声で俺に同意を求めてきたので俺はフーリエの言葉に同意した。男二人でコソコソと話していると、クルシュは「い、いえ」と口ごもり、

 

「私が家紋に執着していると……そう受け取られたのは初めてのことで、驚きました」

 

「なんだ、そんなことか。だが、事実であろう?」

 

「はい。そう、なのですが」

 

 確信を持ったフーリエの問いかけに、クルシュはその根拠を求めている。まあ、気持ちはわからなくはない。いきなり自分の本心を言い当てられたら不気味なことこの上ないしね。それに俺も気になるなぁ、どうやってクルシュの本心を言い当てたのか。内心、フーリエの答えに期待しているとフーリエは堂々と胸を張った。

 

「なぁに、余がそう思った理由は特にはない。根拠などない、ただの確信である」

 

 ……はあ?ようは勘ってことか?しょうもなっ。いや待て、根拠無き勘ほど俺の権能の天敵となりうるのでは?内心であーでもない、こーでもないと自問自答しつつも会話は進んでいく。

 

「……殿下は本気でそうおっしゃっるのですね。ますます驚きました」

 

「余は基本的にいつも本気であるからな。とはいえ、余の規格外さはなかなか余人に計れるものではない。ふふ、余が怖いか?」

 

「いいえ。ただ、感服いたしました」

 

 クルシュは厳かに顎を引くと、俺たち二人にも見えるように短剣を持ち上げる。細い指先で彫刻を撫ぜながら、年相応に瞳を輝かせた。

 

「当家の……カルステン家の家紋が獅子である理由をご存知ですか?」

 

「ぬ……無論だ!当然知っておる。……知っておるが、念のためにそなたの口から話すがいい。余が自ら、合っているかどうか確かめてやろうではないか!」

 

「はい。殿下もご存知の通り、もともと獅子の紋章はルグニカ王家を示すものでした」

 

 フーリエが見え見えの嘘をつきながらもクルシュはそれを黙殺し獅子の紋章の説明を始めた。

 

 曰く、400年前に龍との盟約が交わされ、ルグニカが親竜王国を名乗る以前の話。

 

 曰く、ルグニカ王国には獅子の紋章を掲げ賢く、強く、万民を正しく導く国王がいて『獅子王』と呼ばれる時代だった。

 

 曰く、その呼び名が失われたのは、最後の獅子王が龍と盟約を交わし、ルグニカ王国において獅子よりも龍が尊ばれるようになったから。

 

「龍に守られる恩恵で王国は豊かになり、さらなる繁栄を得た。そして獅子王は必要とされなくなり、獅子の紋章は現在の龍の紋章にとって代わられるように」

 

「そうだ、思い出したぞ。その失われるはずの獅子の紋章を、当時の王家が重用していた家臣に与えたのだ。そのうちの『牙を剥く獅子』の紋章が」

 

「我が、カルステン家の家紋となっております」

 

 少し長めであったがクルシュは説明している間目を輝かせ続けていた。ていうかそういえばそういう内容だったなぁ。いやぁ、勉強になるなぁ。俺は割と使用するには用途が狭い知識に感心していた。

 

「全く、獅子王とは……」

 

「ええ、獅子王です」

 

 前者は少しうんざりとした様子で後者は親しみと憧れに満ちた声で獅子王の名を口にした。いい加減この状況に飽きてきた俺は欠伸を噛み殺しながら話を聞き続けていた。すると、

 

「あだーっ!」

 

「はっ?」

 

「殿下!?」

 

 いきなりフーリエが自分の顔に拳をたたき込んだ。この予想だにしない展開に俺は固まりクルシュは珍しく度肝を抜かれたような顔をした。いや、本当に何してんのよ。

 

「何かあったのですか、殿下?」

 

「な、何でもない。都合の悪いことなどこれっぽっちもなかった!ちょっと余の顔に虫が止まっただけだ!」

 

「だからといってお顔に拳をたたき込まないでください!」

 

 顔を赤くして涙目のフーリエに、クルシュは誤魔化された顔で「そうですか……」と納得して、俺は顔に拳をたたき込んだことを咎めた。それから改めて獅子王の話を戻し、

 

「察するにクルシュ、そなたは獅子王に並々ならぬ関心があるようだな。なぜだ?」

 

「大した理由では。それにこのようなことを、王城でお話しするようなことでも……」

 

「なんだ、誰ぞに聞かれては困る話か?ならば余とそなたとフィエゴの秘密にすればよい。余は決して口外せぬ。余は約束を違えはせぬぞ!」

 

「ええ、私も決して口外せぬよう誓いますとも」

 

 自信満々に言い放つフーリエとそれに便乗して同意する俺に、クルシュは少し毒気が抜かれたような顔をした後少し黙って笑った。

 

「時々、思うのです。自分の家の家紋の意味を知り、王国を守る龍の盟約を知って、この小さな体には過ぎたことだとわかっていながら」

 

「思うとは、何をだ?」

 

「獅子王の時代には、今ほどの安寧はなかったことでしょう。ですが、きっと今ほどの停滞もなかった。龍のゆりかごは安らかですが、あまりにも優しすぎる」

 

「ーーーー」

 

 ……なんつーこと考えてんだこの娘は。その歳で思いつくような考えじゃあないだろ。俺はクルシュという人間の思考に戦々恐々していると押し黙る俺たちを見て、クルシュはどこが大人びたものを感じさせる達観したような笑みを浮かべた。

 

「王国への不敬であると、殿下は咎められますか?」

 

「正直なところ、ここだけの秘密で良かったと思っておる。確かにこれは大っぴらに話して良いことでは無い。事ではないが……」

 

 フーリエはおそらくクルシュの言ってることがイマイチ見えていないのだろう。しかし、それは仕方のないことだ。人には人の生き方がある。出会ってまだ十数分程度の関係でクルシュ自体が抱いてきた疑問にあっさりと答えられるはずがない。寧ろ答えられるほうがおかしい。懊悩する俺たち二人を見て、クルシュは目を細めた。そして、肩の力を抜く。

 

「忘れてください。身の程知らずな娘の、単なる世迷い言です。兄弟がいないとは言え私は女。カルステン家の家紋に……獅子に見合った生き方は選べ「なぜ、できないと決めつけるのですか?」……なに?」

 

 俺はとっさにクルシュの発言に口を挟んだ。うん、長い。後めんどさい。自身の自虐だったら他所でやってほしい。だから、ちゃっちゃと話を終わらせよう。

 

「貴殿に私の何がわかるというのだ」

 

「さあ、それこそ知る由もありません。なぜなら、私は貴方様ではありませんから」

 

「ならば何故、今の発言を否定した」

 

 クルシュは少し鋭い目つきでこちらを見てくる。はあ、だるい。

 

「『魂の在り方が、その存在の価値を決める。己にとっても、他者にとっても、もっとも輝かしい生き方こそを、魂に恥じない生き方こそを人はするべきなのだ』」

 

「なに?」

 

「私が生きていく上で必要だと思ったことです。陛下はご存知の通り私には記憶がございません。私が目を覚ました時の私の状況は身体中に傷を覆い動くのがやっとな状況でした。そんな中必死に誰かに助けを呼ぶためにボロボロの体に無理矢理動かしていたところ私は奴隷商人につかまりヴァラキアに売り払われました」

 

 俺がそう言うとクルシュは目を見開き唖然とした。恐らく『風見の加護』でも嘘をついていないと分かったのだろう。まあ、この話は俺が適当に作った大嘘なんだけどね。実際のところは魔女教徒になって死なないよう日々戦場で必死に戦ってるだけなんだけどね。……うん、酷さで比べるとあんまり変わんねぇな。泣いてもいい?

 

 自分の境遇に心の中で半泣きになっているとクルシュが少し疑った目でこちらを見てくる。まあ、見なきゃ信じられないか…。俺は上着を少しまくり身体中に刻まれた生傷を見せる。すると、それを見たクルシュは顔を背けた。しかし、すぐに俺と向き直り問い詰めた。

 

「何故、それほどの仕打ちを受けて前を向ける」

 

「単純ですよ、私はやるべきだと思ったことをやり、そして自身の行動に一度たりととも疑問を覚えたことはないからです。右も左もわからない私にとって自身の行動こそが私の存在証明でしたから。自分の行いに疑問を持ってしまったら私は自分が誰なのかわからなくなってしまうのですから」

 

 これは本心。実際、自分の生き方とか行動に少しでも疑問を持ったら負けだと思ってる。じゃあ、負けないためにも後悔しないためにも自身の行動が最善であったと思えるようにやらなきゃね。ていうかクルシュめまだ理解しきれてねぇな。仕方ない。

 

「殿下からも言いたいことがあるのでは?」

 

「……ああ、あるとも。世迷言などと……誰に言われるにしても、自分で認めるほど屈辱的なことはないぞ。そなたが何を望み、何を直そうとしているのか余にはわからぬ。きっとそなたが願いに邁進した結果、今ここにあるそなたなであろう。そなたはその時間を、今を、どうやら無為なものだったと思っておるようだが…」

 

 フーリエが何を見て何を思ったのかは知らないが、今の話だけでもクルシュが諦めようとするのは大いに気にくわないということだけはわかる。

 

「きっとそなたはよよりも賢い。だが、余にとって賢さは関係ない。そなたは間違っている!余にはそれがわかるのだ!」

 

「……殿下も、やはり私の見るものは間違っているとおっしゃるのですね」

 

「知らん!何が間違っているのかはわからん!でも、何かが間違っておるのだ!」

 

 みもふたもないフーリエの言いがかりに、クルシュはあっけにとられた顔をした。今までの言い分から察するにクルシュにとって自身の考えを否定される機会は幾度とあったのだろう。それが理由で自分が正しくないのではと思わされたはずだ。ただ、フーリエの否定はそれまで彼女が浴びせられてきた否定とは、芯が違う。

 

「諦めた顔で勝手に笑うな!世迷い言でもそなたの言葉よ。余やフィエゴは笑わぬし、笑うようなものとて結果は見えてはおらぬ。どんな結果に……そう、どんな花が咲くかわからぬ。そなたはまだ蕾であるのだ!つぼみにどんな大輪の花が咲くか、花が開く前にわかるものか!」

 

 フーリエは花壇に振り返り、咲き乱れる花々の隅で蕾のままの一輪を指差した。おお、フーリエにしては良いこと言うなぁ。ドヤ顔じゃなきゃ百点満点だったよ。

 

「そなたが何を見ておるのか、余にはよくわからぬ。わからぬが、あのつぼみを見たときのソナタの気持ちはわかる。それはきっと、余と同じであるからだ!」

 

「ーーーーー」

 

「なるほど。つまり人に違う違うと自分を責めるのはやめたほうがいい。そんなことには意味がないし、大した事でもない、と仰りたいのですね」

 

「おおとも!同じものを見て、同じものを美しく思えるのであれば余たちはうまくやっていけよう!」

 

 拳を振り上げて熱弁すると、フーリエは「どうだ!」とクルシュに意気込んで見せる。クルシュはそのフーリエの勢いに圧倒されて、すっかり目を丸くしていた。ただ、彼女は黙ったまま、フーリエに釣られるように花園にあるつぼみの1輪を見る。

 

「……今日は、そのつぼみが花をつけたかどうかがみたくてここへ来たんです」

 

「であろうな。そなたは随分、興味深げに蕾を見ておった故にな」

 

「?殿下はここで私を見るのは、初めてではなかったのですか?」

 

「あ!いや、初めてであるぞ!今はなんだ、そう、勘である!嘘ではない!」

 

 余計なことを言って話の腰を折るフーリエに、クルシュは追求せずに笑った。

 

「同じものを見て、同じものを美しく思えるなら……」

 

 小さな声で、クルシュはそう口にする。それから彼女が少し吹っ切れたような顔で、

 

「殿下にフィエゴ・ファイオスこのつぼみが花を咲かせたら、ご一緒させていただいてもいいでしょうか?違っている私でも、、2人と同じものを同じように感じるか確かめるために」

 

「お、おう?かまわぬ!うむ、構わぬぞ。苦しゅうない!なあ、フィエゴ!」

 

「ええ、もちろんです」

 

 薄く微笑むクルシュに誘われて、フーリエは首から上を赤くして有頂天で答える。すると、対話鏡から声がした。

 

『おぉーい、フィエゴ君。必要な書類は全て書き終えたぁから、戻ってくるといいぃよ』

 

 随分とタイミングがいいな、どっかで見てたか?俺は軽く周りを見るが周りには誰もいなかったため勘違いだとわかり直ぐにクルシュとフーリエに向き直る。

 

「すみません殿下。ロズワール様に呼び出されましたのでこの辺で」

 

「うむ!よいぞ、フィエゴ。また会えたらその時はまたこの三人で話し合おうとも!」

 

「ええ、それはいいですね殿下。では、また会おうフィエゴ・ファイオス。私は貴殿と話せてよかった」

 

 二人からそれぞれ言葉を受け取った後、俺はムラクを使用して城の壁をつたってフーリエが落ちた柵まで登った。その後、柵に体を乗り出し再度礼をしてから駆け足でロズワールの元へと向かった。

 

 

「今日はどうだったぁかな?」

 

「はい、とても有意義な時間になりました」

 

「そぉれはよかった。私も新しい部下を簡単に退屈させるよぉうではこの先うまくやれるとは思えないからねぇえ」

 

 コイツ今絶対部下のところ駒ってルビをふっただろう。竜車に揺られながら約半日、今ではすっかり空が暗くなっていた。ロズワールのニヤケ面に腹立たしさを覚えると同時に出会った時と同じような疑問が芽生えた。なんでコイツは普通に立っていられるのか、と。ここ四年で魔獣を含めたら十万体に届くほど生き物を殺してきた俺だからわかる。ロズワールは長くても後一週間もすれば死ぬ、ということが。ロズワールのタフさに疑問を覚えていると。

 

「どぉやら到着したみたいだぁね」

 

 外を見るロズワールに釣られて俺も外を見るとそこには、

 

「でかっ」

 

 馬鹿でかい豪邸がそこにはあった。え、嘘でしょ。デカすぎない?流石に王城に比べれば小さいけどここまでデカいとは思わなかった。このデカさの屋敷って某ネズミの国ぐらいしか見たことないんじゃね?いや待て、こっちきてすぐに見た屋敷もこれくらいあったな。……嫌なこと思い出した。ふとした時に思い出したことに顔をしかめそうになったがロズワールに出てくるよう指示されたためすぐに元の真顔に戻り竜車から降りた。するとそこには一人の執事がいた。

 

「おかえりなさいませ、旦那様」

 

「ああ、今戻ったぁよ」

 

「そちらの方は?質問」

 

「ああ、新しい部下のフィエゴ君だぁよ」

 

 ん?この特徴的な喋り方。どっかで聞いたこと?いや見たことがあるな。

 

「あの……貴方は?」

 

「名乗るのが遅くなりました。私、このミロード家にて下男として働かせていただいております。クリンドと申します。恐縮」

 

 ああ、そうだクリンドだ、思い出した。潜在的変態ロリコン執事、クリンドさんだ。外見ではなく内面でもなく、相手の魂を見てロリか否かを判断するアルティメットにハイスペックな変態さんである。変態不審者さんだ。原作のほうでは名前くらいしか出てこなかったから覚えてることってこれくらいだから扱いに困るなぁ。

 

「さぁて、フィエゴ君。今日はこの通り夜も遅い、だから自己紹介とかはまた次の日にしようじゃあないか」

 

「わかり、ました」

 

「うんうん、じゃあまかせたぁよクリンド君」

 

「わかりました、ロズワール様。承認」

 

 そう言うとクリンドは「ついてきて下さい。懇願」と言うと先に進んでいった。俺は少し慌てながらクリンドの後をついていく。屋敷は広く道を覚えるのが大変そうだと、憂鬱になっていると。

 

「ここが貴方の今後過ごしていただく部屋になります。説明」

 

「ああ、わかりました」

 

 俺は相槌を打つと部屋に入る。すると、

 

「眠る前に一つよろしいでしょうか?質問」

 

 クリンドが声をかけてきた。なんだ、と思いながら振り返る。

 

「?はい、なんでしょう」

 

「これは個人的な質問なのですが。今貴方が見ている世界……どうですか?」

 

 俺はその言葉を聞いた瞬間とっさに権能を発動させそうになった。まさか俺が大罪司教のこと言ってんのか?俺はその結論にたどり着くとクリンドをこの場で殺すか殺さないか考えたが、やめた。考えてみればクリンドという男が権能を発動させてるとして俺が大罪司教であったとわかったとしても根拠がない以上誰も言及しないか、と思ったからだ。そう考えたら後は簡単。

 

「世界?なんのことでしょうか?ロズワール様がそう質問せよと?」

 

「いえ、身に覚えがないのであればよいのです。ああ、この質問は忘れていただいて結構です。後、ロズワールは関係ありませんよ。あくまで、同じ時代を生きた者としての、ほんのちょっとした好奇心からの質問です」

 

 俺はクリンドに対する警戒レベルを跳ね上げながらそれを決して外に出さないよう努める。

 

「では、おやすみなさい。ここまでありがとうございました」

 

「いえいえ、執事として突然の務めをしたまでです。恐縮。この後、ご主人にもこの屋敷での出費について説明がありますのでこの辺で。ああ、憂鬱」

 

 そう言うとクリンドは今度こそその場を去っていった。俺はそれを見送ると今後の生活が一筋縄ではいかないことにため息を漏らしながら襲いくる睡魔に身を委ね意識を落とした。




クリンドさんてめっちゃ謎ですよねー。
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