Re:ゼロから始まる闇の道化生活   作:アーロニーロ

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Sallowさん権能の案ありがとうございます。

突然ですが、大罪司教のエピタフに対する好感度十段階評価チェックです。

・ペテルギウス→好感度8。勤勉に働く良き信者。
・レグルス→好感度5。役に立つ奴。
・カペラ→好感度4。エピタフのことをお菓子製造機だと思ってる。
・シリウス→好感度2。愛するペテルギウスにつく悪い虫。
・パンドラ→好感度7。似たもの同士であるが故に放って置けない。




 

 

 そこに広がっていたのは、『無』の世界だった。

 

 何も見えない。何も感じない。何も、意味がない世界。俺はそんな世界で、

 

 地獄を見た。

 

『もう戦いたくなんてない』『王よ、この身を委ねます』『殺す殺す、殺す!』『おまえのような男は生きてはいけないんだ!』『私は貴様らを許さない!』『ダメです、逝ってはいけない』『おかあさん、どこ?』『また、失敗か……』『やーい、おまえの父ちゃん人殺しー』『嘘つき』『こんな、こんなはずではなかった!』『この我の子を孕めるのだ、有り難く思え』『よくも、私の家族を殺したな!』『ひゅー! こいつらはいい奴隷になりそうだ!』『生贄は、あのみなしごにしよう』『こわい、こわい、こわい』『復讐してやる』『食い扶持を減らさないと今年は厳しいな』『お願い、貴方だけでも生きて!』

 

 聴き慣れてしまった怨嗟が聞こえる。

 

『おとうさ――』『誰か、誰か助けて』『ふざけるな、俺が一体何をしたってんだ』『騙される方が悪いんだよ』『かわいそう』『来るな、バケモノ!』『安心しろよ、おまえの奥さんは俺が可愛がってやる』『どうして、どうして私の作った道具が戦争に使われる?』『いやです! この子は、あのヒトと私の子です! 絶対に渡しません!』『あいつがいなければ俺が出世できたのに』『やっぱりストレス発散は狩りに限るな』『判決、被告は咎人である』『おまえも、おまえも私を裏切るのかぁ!』『愛していました』『やめてくれ』『一緒に死のう』『もっと早く来いよ、役立たず』『おまえ、生きているだけで他人の迷惑だよな』『金を寄越せ!』『神龍様がなんとかしてくれると思った』

 

 聴き慣れてしまった怒号が聞こえる。

 

『死ぬがいい、大馬鹿者め』『ほざいたな……!』『壊れちゃった』『私は、私はまだ戦え――』『おなか、へったよぅ』『彼女は、貴様の言葉を信じて戦ったというのに!』『友よ、妻よ、どこにいる?』『私は決して、このような戦いがしたかったわけではない!』『許さんぞ、魔女教徒!』『さあ、魔女サテラの為に死ぬのです!』『ちっ、これもう使えないな。おい捨てとけ』『組織のために死んでくれ』『醜い』『必要な犠牲なんだ』『アンタなんて産むんじゃなかった』『どうか私を恨まないでください』『違う、違う! わ、私はそんなことしていない!』

 

 聴き慣れてしまった悲鳴が聞こえる。

 

『たすけ、て』『おまえは今日から私の奴隷だ!』『今回の実験は失敗に終わったか。次の被験体を用意しろ』『恨むなら己の運のなさを恨むのだな』『下民風情が!』『飽きちゃった。ねぇ、貴方のと私の交換しない?』『ほお、随分と珍しい加護だ。これは我が王に献上しなくては!』『下僕は主人の言うことを聞くものだろう?』『気丈なものは心を折ってからが面白いぞ』『どうして彼女が異端となるのですか!?』『ああ、全部僕が仕組んだことなんだよ』『私は――死にたくない』『魔女と蔑まれる私が、他人を愛してはいけませんか?』『僕たちから奪った幸せの数だけ、死を刻め、異形ども……!』『父よ、何故私を見捨てたのです』

 

 何もないはずの世界の辺り一面に泥が広がる。怨嗟が怒号が悲鳴が俺の耳元で喚きたてる。それは凍えるような冷徹さを秘めていた、それは燃やし尽くされるほどの怨念に満ちていた、その激情に俺はのまれるそうになる。すると、ふとした時に暖かな光のようなものが見えた。それに手を伸ばし触れると指先から泣きたくなるほど懐かしいナニカが溢れてきた。

 

『おかえり、■■』

 

『遅かったじゃねぇの、バイトか?』

 

 俺の帰りを祝福する夫婦の声が。

 

『お兄ちゃん!この勉強教えて〜』

 

 俺を兄と呼ぶ女の声が。

 

『おやおや?まぁた、居眠りかな?まったく、お前は寝るのが好きだなぁ』

 

『まあ、そう言うなって昨日は俺と遅くまでオンラインでゲームしてたんだから。ていうか、お前もコイツと一緒に授業中に寝こけてて二人仲良く教師に叱られてただろうが』

 

 俺を揶揄う声とそれにツッコミを入れる声が。

 

『おお!朝早くから頑張ってるなぁ。流石はあの人の子だ』

 

 何かに感心したように俺を褒める声が。

 

 俺の、いや俺が■■であった頃の記憶が俺の中に流れ込む。ああ、何一つと覚えがないというのになんて懐かしく美しい記憶なのだろうか。あの当たり前の日々があまりにも美しく、遠く感じる。ああ、そうだ。この世界に転生する前の■■が普通に送っていた日常。あれこそがこの憎悪を否定できるほど美しいものだったんだ。

 

 でも、もうあの暖かな日々には戻れない、だけどこの暖かな光を味わっていたい。そう思いその光に近づこうとした俺だったが、足が前に進まない。泥から這い上がってきたかつて俺が踏み台にしてきたであろう人間が俺の足首を掴んでいた。

 

『……ふざけるな』

 

 泥の中から生き物はどんどん増えていく。足だけじゃなくて腰や肩まで掴んで、俺のことも泥に引きずり入れようとしてくる。途方もない怨嗟を吐きながら。

 

『私たちは奪われたのに!』

 

『他ならないお前が奪ったと言うのに!』

 

『どうして、私が奪われなければならなかったんだ!』

 

 泥に飲まれかけた俺を襲うのは無限の怨嗟。

 

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!』

 

『死んでしまえ、無責任な化け物め!』

 

『お前ほど強ければ他に選択肢があっただろう!』

 

『なんて悪い奴なんだ!』

 

『殺せ』

 

『そうだ殺してしまえ!』

 

『お前を殺して私がお前になってやる!』

 

 泥で出来た手が俺の首に掛かる。やめろ、どうして俺が責められるんだよ。俺は関係ないじゃないか。だって、他に選択肢がなかったんだ。あの日、あの場所で俺はあのクズを殺して魔女教徒になるしかなかったんだ。この過酷な世界で生きるには皆を踏み台にしないといけなかったんだ。だから、消えるんだったら。

 

「お前らが消えろ」

 

 俺がそう言い泥で拘束された腕を振り解き腕を払うと泥が退いた。しかし、また近づいてくる泥を見て、これがその場しのぎにしかならないことがすぐに分かり再度腕を振るおうとする。すると、

 

『随分と面白いことになってるじゃないか』

 

 憐れんでいるようでいないような、聞いたことがあるようでないような声が俺の耳元に聞こえた。俺は迎撃すべく咄嗟に飛び退き後ろを振り向き構える。しかし、後ろには誰も聞こえない。

 

『おいおい、そんな反応すんなよ。傷つくじゃないか』

 

 また、耳元で声がする。俺はその声を聞く度にえもしれぬ不安が俺を襲う。何故だろう、俺はなんでこの声を聞くたびに俺は普段の怨嗟の声よりも何千倍と何万倍もの恐怖に襲われるのだろう。俺はそんなことを思いながらも決して警戒を解かない。だというのに一向に声の主の姿は見当たらない。すると、あることに気づく。あれ程あった泥が見当たらないのだ。まるで、この空間には始めから泥などなかったかのように。

 

『くく、偽物』

 

 再度声がする。しかし、さっきと打って変わって体が動かなくなる。

 

『偽物、お前は偽物。あの取るに足らない日常を送っていた■■とフィエゴ・ファイオスの魂が混じりあったが故にできた、残り物、紛い物、贋作、出来損ない。わかってんだろ?理解してんだろ?自分が全てが嘘偽りなことくらい』

 

 何故だろう、何故普段言われてもなにも響かないはずなのに何故この声に否定されると腹立たしさが出てくるのだろう?

 

『その容姿も嘘、力も嘘、感情も嘘、性格も嘘、今ある関係も嘘、快不快も喜怒哀楽さえも嘘。ああ、なんて可哀想』

 

 誰だ、誰なんだお前は。

 

『今まで、この場に至るまでの道のりすらも嘘』

 

 そう言われた瞬間目の前が赤く染まったように感じた。うるさい、黙れ。否定されてなるものか俺が歩んできたものを選択してきたものをパッと出てきた奴如きに否定されてなるものか。

 

『歩んできた?はは、おかしなことを言うなぁ』

 

 後ろから再度声がした。しかし、先程とは打って変わりまるで俺を嘲笑うような声になる。すると、いつの間にか身体の自由を縛っていた何かは解けて動けるようになっていた。俺は声の主に攻撃を加えるべく後ろを振り返る。すると、『そいつ』は俺が振り返るのをわかっていたようにタイミングよく俺の顔を手で挟みこむ。それでも、攻撃しようとするがまた身体の自由は効かなくなる。俺の顔を掴んだ者は、まるで影に包まれたように黒い者は告げる。

 

『だって、お前……。最初から存ないんだから』

 

 その言葉と共に視界が歪み、意識が外に引っ張られた。

 

 

「—————カヒュッ

 

 息ができない。夢から覚めて真っ先に起こった現象に俺は一瞬パニックになる。しかし、すぐに状況を把握し息ができるように自身を落ち着かせる。

 

「プハッ、ハーハー」

 

 10秒程してようやく息ができるようになった。身体中汗まみれなことに気づき顔をしかめながら辺りを見渡すと見慣れない景色だったため一瞬警戒したが昨日からロズワール邸で過ごすことを思い出し肩の力を抜いて落ち着いた。

 

「なんだったんだ、アレは」

 

 ふと、夢に出てきた黒い影のような者を思い出す。黒い影といえば嫉妬の魔女サテラを思い出すが、あの時見た影の体型は見たところ男のようだったことを思い出しこの考えを否定する。ならばアレはなんだったのか、俺は必死に頭を回していると。

 

《おい、騎士担当》

 

 頭の中に声が響いた。ん?これって権能をつかった連絡か?一体なんで。いきなりきた連絡に驚きながら応答する。

 

《どうした、魔女教担当》

 

《どうしたもクソもあるか。何があった》

 

《……質問を質問で返すようで悪いけどなんかあった?》

 

《なにって、自覚なかったのか?いきなり、お前とのつながりがブレたもんだから死にかけてんのかと思って連絡したんだが……》

 

 ああ、なるほどね。

 

《なんか今日さ、変な夢見たんだ》

 

《夢?夢が理由ってこと?どんな夢見たら死にかけたと錯覚するくらいリンクがブレるのさ》

 

 俺の言い分に少し呆れたように安心したように話しかける魔女教担当に苦笑いしながらも話を続ける。

 

《事実なんだからしょうがないだろう。まあ、何にせよ悪いな心配させて》

 

《んー、まあ、わかったわ。で、今どこにいんの?》

 

《え?メイザース領のロズワール邸》

 

《は?マジで!?え、ちょっ、その話詳しく!》

 

 俺は魔女教担当の言葉を聞きながら時間を確かめる。すると、朝の4時半を指していた。

 

《OK、移動しながらでいいか?》

 

《うんうん!全然問題なし!》

 

 魔女教担当に王城での出来事を話しながら自分の格好を見て俺は着替えずに寝ていたことに気づき着替える手間が省けたと思いながら部屋を後にした。

 

 

《とまあ、俺の方から報告できるのはこれくらいかなぁ》

 

 俺はいつものように鍛錬をしながらルグニカの近衛騎士団に拾われてからの出来事を一から説明した。

 

《……取り敢えず、今後の行動としてはクリンドにいかに怪しまれずに行動するかだな》

 

《ああ、やっぱりそう思う?》

 

《当たり前だろ。なあ、本当にボロだした覚えはねぇんだよな?》

 

《あるはずがねぇだろ》

 

《だよなぁ……》

 

 俺と魔女教担当はクリンドの扱いに頭を悩ませた。一応、対策という対策は考えては見たがあまりいいものとは思えなかった。

 

 アイデアとして一つ目は、クリンドの記憶から昨日の出来事を『分離』することだ。これはハッキリ言って意味のないものだ。理由としては会った瞬間に俺のことをどこか理解したような奴の記憶を『分離』したとしてもまたすぐに俺の本質をついたようなことを言う可能性がある以上、これは無意味な行動であると思ったからだ。

 

 二つ目は、このまま昨日の出来事がなかったように過ごすこと。この行動は無難だが問題を先送りにしている以上いずれぶつかる問題となるためあまりいい案とは言えない。

 

 三つ目は、クリンドを殺害すること。これに関しては魔女教担当から話題にはなったが論外とさせてもらった。理由としては現状、一般市民であれば隠蔽することが出来るが流石に下男とはいえロズワールの従者に手を出すのはいい手とはとてもじゃないが言えない。何よりクリンドの実力がどれほどのものなのかわからない。よって、この案はボツ。

 

 取り敢えずまとめてみたけども、

 

《やっぱり、現状維持かなあ》

 

《そうしようか。それにしても、羨ましいなぁ。ロズワール邸で働けるなんて》

 

《ん?何故そう思った?》

 

 あんだけ騎士ごっこは嫌だってごねてたのに。

 

《いやぁ、だってさぁ、あのスバルの絶望顔が間近で見れるんだぜ?》

 

《まあ、ぶっちゃけた話それ以外に騎士になった唯一の利点だと思ってるよ。正直スバルの絶望顔が間近で拝めると想像したとき勃起したもん》

 

《うわぁ、ないわぁ》

 

《いや、引くなよ。ていうか、俺はお前なんだからこの気持ちはわかるだろうよ》

 

《……まあ、そうだけどさ》

 

 いや、理解できるんかい。さてと、俺からの報告は終わったことだし。

 

《そっちの調子はどう?》

 

《良い話しと悪い話どっちから聞きたい?》

 

《…不穏すぎるんだけど。ええ……じゃあ、悪いほうから》

 

《OK、改造人間の作成が全然進んでません》

 

《ああ、悪いことってそう言うこと》

 

 心配して損したわ。ていうか改造人間の作成についてかぁ。なら問題ない、ハッキリ言って全然期待していないからな。

 

《一応、今日も村一つ使って実験してみたけどさぁ。『混ぜて』みて形を保つ個体が現れるまでは良いんだけどね》

 

《やっぱり、自我が保てず命令を聞いてくんない?》

 

《うん》

 

 ああ、やっぱりか。そうここ4年間での改造人間の作成での問題点は命令を聞いてくれない、ということだ。

 

 俺の権能を使えば他者に魔獣などを『混ぜる』ことでマキアのような改造人間を作ることができる。当然、欠点が存在する。欠点としては人間同士を『混ぜる』ことは出来ず、仮に魔獣を『混ぜた』としてもせいぜい3〜5体でそれ以上『混ぜる』と肉体が耐えきれず自壊する。仮に耐えたとしとも人格を失う。

 

 何度も権能を使うことで権能の扱いに慣れてきた俺は別の生き物同士を『混ぜる』ことが上手くいくようになり今では十体中三体は成功するようになった。

 

 え?全然ダメだって?……いや、これでも前は一体も耐えることが出来ず自壊するとかあったくらいだからだいぶ進歩したんだよ?

 

 まあ、とにかく、誰が何と言おうと成功する確率は上がったのだ。ただし、ここで大きな問題が生じた。それが自我の喪失だ。これが恐ろしく厄介で自我を喪失した改造人間が行う行動がある。一つ目は、まるで木偶人形のように命令を聞くことはおろか動くことも出来ないもの。二つ目は、命令を聞かずにとち狂ったように暴れまくる。これが厄介で複数体の魔獣の力を持った改造人間を仕留めるのはそこそこ手間がかかるのだ。問題点はこの二つだ。こればっかりは今でもどうにも手がつけられない。まあ、それよりも今は。

 

《良い方は?》

 

《ああ聞いて驚け、必殺技が完成した!》

 

 ……は?

 

《マジで?》

 

《うん、マジで》

 

 うおおお!マジかぁ!これは本当に良いことだ。この世界で生き残る可能性が確かに高くなった。まあ、でも。

 

《完全には、じゃあないんだろ?》

 

《まぁね、欠点としては発動までに十分もかかる》

 

 ああ、なるほどね、確かにそれは欠点だわ。だけど、

 

《そこまで形作れただけでも大金星だから。他に報告ある?》

 

《え、そうだなぁ》

 

 魔女教担当がなにか言い出そうとしたその時。

 

「ここにいたんですか、探しましたよ。疲労」

 

 後ろから声がした。咄嗟の出来事に俺は全力でその場を飛び退いた。今の発言の最後に熟語を付ける特徴的な喋り方は。

 

「……どうかしたのですか?困惑」

 

 俺の動作に目の前にいる男、クリンドは困った顔でそう言った。

 

 

「あれぇ?騎士担当、騎士担当?聞こえてルゥ?って、連絡が切れた。なんかあったんですかネェ」

 

 俺は一つの村の中心でそう呟く。いや、『元』村の中心でそう呟いた。その村の辺りには死体が大量に積み重なっていた。

 

 しかし、死体は一様に異常な形をしていた。ある者は筋肉繊維が剥き出しになり目が至るところにある数メートルにも及ぶ巨漢、ある者は顔に大きな穴が空き右側に筋肉質な腕を複数本生やし左側には小さな鳥の羽のようなものを生やした男、ある者は背中と右手に大量の武器を生やし下半身がハエの顔があるケンタウロスのような女、異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形異形の山だった。これらの失敗作の上でこれらをどうしたものかと悩んでいる。そして、

 

「マ、ワタクシが全部混ぜれば良いんですけどネ」

 

 俺はそう言うと異形の死体に触れる。すると、異形は初めからそこにいなかったように消えて無くなる。それを黒い道化は何度も何度も繰り返していると。

 

「ヒィ!」

 

「オヤァ?」

 

 そこには口を押さえた女と目を見開いた子供がいた。

 

「おやおやおや、まぁさか、生き残りがいましたカァ。いや、今偶然帰ってきたってところですかネェ。だとしたら、相当ツイてない」

 

 流石に自身の姿を見られた以上こいつらを消すしか無い。何より権能を見られた。俺の言葉から自分が殺される事を察したのか女の方が子供の手を取りその場から逃げようとする。しかし、

 

「逃しませんヨォ〜」

 

 その判断は遅すぎた。いや、仮に早かったとしても一般市民ではとてもじゃないが逃げ切ることは出来ない。俺は子供と女に手を伸ばす。すると、

 

「お願い!」

 

「ん?」

 

「この子だけは、この子だけは見逃して!」

 

 女は子供を背中で庇うとそう訴えかけてきた。子供の方を見ると泣きじゃくっていた。その様子を見て親子なのだろうかと思いながらも言う事を聞く必要はないと思いながらそのまま殺そうとする。しかし、ふとある事を思いついた。

 

「いいですヨォ」

 

「!本当ですか!?」

 

「ええ、約束は違えませんとも。ただし、条件があります」

 

 俺の提案に女は希望をまたかのような顔をして条件があると言った時身構えた。

 

「なん、ですか」

 

「やることは単純ですヨォ。今から行うことに自我を保ってくださいナ。出来なきゃアナタも死んでそこにいる子も死ぬ。出来ればアナタも生きれてそこにいる子も生きることができる。ネ、単純でショ?」

 

「……わかりました。やります」

 

「オッケー、交渉成立です、ヨ♪」

 

 そう言うと俺は女に触れて数体の魔獣を『混ぜた』

 

「あぎっ!? やい゛、い゛い゛い゛ぃい゛い゛い゛ぃぃい゛ぃっ――!?!?」

 

 女の体が変質し変貌する。少しずつ異形に成り果てていく。子供はその様をただ茫然と眺めていた。数十秒もしない内に変異は止まった。そこにいたのは先程の女とは似ても似つかない怪物がだった。さて、どうなるかそう思いじっと見ていると体がピクリと動きそして、

 

「ア」

 

「お母さん?」

 

「オヤァ、まさか?」

 

 これはいけるか?子供が母であったものに近づく事を無視しながらそう思い様子を見る。すると、まるで子供と視線を合わせるように身体を屈ませた。そして、鋭い歯を備えた口を大きく開き子供を丸かじりにした。辺りに血飛沫が飛び散る。

 

「アア、やっぱり失敗ですカァ。マ、急がず焦らずに頑張っていきましょうカ」

 

 俺は女だった怪物が子供を喰い切るのを見届けながらそう言うと異形に触れて自身に『混ぜた』。そして、実験を終えた村を後にした。

 




権能を使った念話方法……権能を使った念話方法についてですが。肉体を二分割しても根本的なところでは繋がっているため「騎士担当」と「魔女教担当」はこうして遠距離でも連絡しあうことができます。一応、権能の主導権は「騎士担当」が握ってるため念話を切りたいときは強制的に切ることができる。

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