「どうかしたのですか?困惑」
いや、俺も困惑してます。俺はそう言いたくなった。どうしたものかと思いながら取り敢えず無難な言葉を言った。
「何か御用でしょうか?」
「ええっと、旦那様にフィエゴ様を呼び出すよう仰せつかっておりましたので探してみたら一心不乱に槍を振るって鍛錬に勤しむフィエゴ様を見つけ声をかけて今に至る、と言った感じです」
ああ、なるほどね。俺は内心納得しながら飛び退いた場所を見る。するとそこには水でもぶちまけたのかと疑いたくなるような量の汗が芝生の上にあった。え、ちょっと待てあの汗の量って。俺はハラハラしながらクリンドに尋ねる。
「つかぬ事を聞きますが、今何時ですか?」
「7時半ごろですね。ああ、後、敬語は使わなくて結構です。貴方様はむしろ敬語を使われる立場にありますから。無問題」
や、やらかしたあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!初日から主人放って鍛錬してたら遅刻してましたとかヤバすぎる!
「あの…本当に申し訳ありませんでした」
「いえいえ、すでに旦那様方には遅れることは説明済みですので焦らずにきてください。沈静」
ああ、恥ずかしい。クリンドの慰めの言葉を聞いた後俺はやらかした事に頭を悩ませながら自室へと戻った。
◇
「誠に申し訳ありませんでした、ロズワール様」
「いぃや、なんの問題もないとも。次からは気をつけてくれればいいともさ」
ロズワールの寛大な処置に安堵しつつも別の話題に切り替える。
「今後は私はどのように生活すれば良いでしょうか?」
「ん、そうだぁね。まずは今からニヶ月後に行われる試用期間の準備をしようじゃぁないの」
ん?試用期間?
「それはどういうものなのですか?」
「そうだぁね、言ってしまえば近衛騎士にふさわしいかぁどうかの入団試験のようなもんだと思えばいいよぉ」
まあ、予想はしてたけどさぁ。こっちに来ても試験って、嫌だなぁ。にしても。
「なぜ、入団試験ではなく試用期間なのですか?」
そうそれが疑問点だった。入団試験のようなものなら入団試験と言えばいいのにそう思いながらたずねると。
「単純な話、君はあまり期待されてないんだぁよ。簡単な話、期間中に君が使い物にならなぁければ入団の話はなしになるんだぁよ。その期間なら経歴にも傷は付かないというマーコス殿からの粋な計らいなんだぁよ」
俺はロズワールの話を聞き納得する。ははぁ、なるほどねぇ。つまりぃ、マーコス殿が遠回しに気を使いながら言いたいのはぁ、俺の実力では分不相応と!な〜る〜ほ〜ど〜ねぇ〜、HAHAHAHAHAHA!!
「舐められたもんだナァ、オイ」
一瞬だけ、ほんの一瞬だけエピタフとしての俺が出てきた。ハッと、そのことに気づいた俺はすぐに元に戻り前を見る。そこにはニヤニヤと笑いながらこちらを見るニヤケ面のロズワールがそこにはいた。
「なぁるほど。それがヴォラキアにいた頃の君のもう一つの顔なんだぁね」
「品のないものをお見せして申し訳ありません」
「あはぁ、いぃや、いや、何の問題はないとも。寧ろ部下となる君のもう一つの顔をしれたんだ。『知ることができた』という喜びを得た以上寧ろ感謝したいくらいだぁね」
「はぁ…」
俺は自分の迂闊さに腹が立ちながらもロズワールの見事な倒錯ぶりに少しドン引きしている。すると、ロズワールが「それに」と言葉を続けた。
「今の言葉を聞けば、毎年不幸面のマーコス殿も『いい度胸だ』とか言いながら獰猛な顔つきになるだろうさ」
フォローしてるのかしてないのかよく分からないことを言っているロズワールに内心訝しんでいると。
「さぁてと、それじゃあ今日はここまで次は遅れないよぉーに」
「……はい、大変申し訳ありませんでした」
幸先悪いなぁ、と思いながら出口のドアを開けると、
「あら、ベティーを待たせておきながら不遜にも堂々と遅れてきた恥知らずかしら」
見覚えのない書庫の中、こちらを見つめる巻き毛の少女の悪態を受けた。
◇
「ここは……」
そこはまさしく、『書庫』と呼ぶしかない部屋だった。
広いスペースは二十畳ワンルームの倍ほどもあり、壁際を始めとして至るところに書棚が設置されている。どの書棚にも本がみっちりと詰められていて、蔵書数はどれほどになるのか想像するのも難しい。そんな光景に戸惑い知らないふりをしながらも俺はここがどこでなんなのかを知っている。そして、少し興奮していた。ロズワール邸、そして書庫。間違えようがないこの部屋は。
「驚いたたぁね、まぁさか、初日から『禁書庫』に立ち入ることができるとは」
そうこの部屋の名前は『禁書庫』、そしてこのドアの真前にいるのは、
「まったく、ベティーの書架をずけずけ眺めて、おまけに挨拶一つなしとはやはり礼儀知らずは礼儀知らずのままかしら」
「まあまあ、初日な上に疲労し切ってたんだから見逃そうじぁないの」
このさっきから嫌味を垂れてるこの金髪ドリルロリは、
「ベアトリス」
ベアトリスだ。
ていうか、やっべー、ベアトリスだ、生ベアトリスだ。完全に余談なんだけどベアトリスとスバルのコントって個人的に好きなんだよね。そんなことを思いながらも俺はすぐに挨拶を実行した。
「これは失礼いたしました。私め今日よりこのロズワール邸にて働かせていただくフィエゴ・ファイオスと申します。以後お見知り置きを」
「あら、今更この場で態度を改めてもお前に抱いた印象はそう簡単には拭えないかしら」
「はい、全くもってその通りでごさいます。ですので、これからはベアトリス様への印象を払拭するために精進していきたいと思っています」
「……フン、多少は口が良く回るかしら」
少し、気に入らないものを見たような顔をした後すぐに手元の本に目線を移した。俺はそんな様子を見ながらまさかこんなあっさりこの屋敷に来た目的の一つであるベアトリスに会えることに驚きながらも内心歓喜していた。
当然だが、ファンだからという理由ではない。理由は単純、それはベアトリスが最高峰の陰魔法の使い手だからだ。『扉渡り』や失われた術など様々な魔術を使いこなし、あまつさえ、屋敷内など禁書庫の影響下ではあのロズワールとも渡り合えるほどの力を発揮できる。まあ、一方でそこから外に出ると大幅に弱体化してしまうんだけどね。
まあ、もう何が言いたいのかわかってると思うけど一応答えるね。俺がやりたいことはベアトリスから陰魔法の指導を頼みたい。これにつきる。俺が原作のリゼロで読んだのはあくまでも途中までもしかしたらこの先、まだ出てきてなかった陰魔法の数々を知ることが出来るかもしれない。そう思い、良い印象を深めようと思ってたんだけど……。
「いつまで見てるかしら」
「あのぉ、折り入って、ご相談が「消え失せるかしら」……はい」
取りつく島もないじゃないですか、ヤダー!!まあ、そうだよね!そうなるよね!俺だって時間にルーズな奴にそうするもん!なんだったらレグルスにはいつも拳を叩き込んでるもん!オロローン!と内心さめざめと泣いていると。
「そぉんな、意地悪しないの。ベアトリス、この子陰魔法の使い手でねとぉっても、才能があるんだよぉ。こんなところで潰れるのは惜しいんだ。なにより、子供の頼みくらい聞いてあげるのも大人の役目でしょ?」
ロズワールが助け舟を出した。思わぬ後方支援に驚き、少し子供扱いされたことに腹を立てながらも少し期待していると。
「老い先短いお前の寿命をさらに縮めてやろうかしらロズワール。そもそも、時間にだらしないやつ、ベティーは嫌いかしら。というか、お前がベティーの扱う魔法の属性を教えたかしら」
辛辣ながらも至極真っ当なことを言いながらベアトリスは助け舟を撃沈させた。だよね〜、諦めて鍛錬に勤しもうとすると。
「と、言いたいところだけど。特別にチャンスをやるかしら」
ベアトリスが突然チャンスをやると言い出した。へ?どゆこと?
「おぉやおや、どうゆう風の吹き回しだい?」
「そのままなのよ、こいつの姿があんまりにも惨めだったから特別にチャンスをやると言ったのよ」
こ、この、ドリルロリ。ベアトリスの言い分に腹を立てながらもすぐに動揺した演技をしながら聞き直す。
「ほ、本当によろしいのですか?」
「ベティーの寛容さに感謝するかしら」
ない胸をはりながらベアトリスは誇らしげになった。
「ああ、なんて素晴らしい」
背後から聞こえる
「当然ですが簡単に教える、というわけではないのでしょう?」
「あら、少しは頭が回るかしら。ま、やることは単純なのよ」
まあ、だよね。そう悟ると俺は跪き声を発した。
「はっ!ベアトリス様の言うことならば暗殺から豊胸までなんでもいたします!」
「お前!どんだけベティーが物騒なやつだと……いや、ちょっと待つのよ。お前今ベティーに対してとんでもないこと言わなかったかしら!?」
「さぁ、何のことやら。それはさて置き何をなさるのですか?ベアトリス様」
「お、お前、あくまでもすっとぼけるかしら。まあ、いいのよどうせお前にはベティーの難題は解けないかしら」
なんか随分と自信満々だなぁ。原作のポンコツ具合から考えるとそこまで警戒しなくてもいいのでは?
「さっきも言ったけど単純なのよ。今からベティーは隠れるからそれを見つける、それだけなのよ」
————なるほど、それは厄介だ。俺は内心苦虫を噛み潰しながらも惚けた顔で尋ねる。
「えっと?それだけで良いのですか?」
「ああ、始まり方はお前がドアを開けた瞬間。後間違えていいのは一回だけなのよ。はい、じゃあ、初め」
そう言うとドアが勝手に閉まった。さて、どうするか。策をいろいろと練っていると後ろからロズワールが声をかけてきた。
「まいったぁね」
一応惚けたふりをする。
「何故ですか?ロズワール様」
「ベアトリスは『扉渡り』という魔法を使えてね。わかりやすく言えば扉が違う部屋同士繋がっているんだぁよ」
「……つまり?」
「見つけるのは困難だってことだぁよ」
やっぱり、そうだよね。全力でため息を吐いた。申し訳なさそうなロズワールの顔を見て「自業自得だから安心して欲しい」とだけ告げた。
さてやるか。そう思いドアを開ける。するとそこには、
「ムフフ、探しても探してもベティーのことを見つけられないアイツのことを笑う準備をしてやるかしら」
あくどい顔で本棚の本を取ろうとしているベアトリスがそこにはいた。
ネタバレになりますが原作スタート時の強さはラインハルトの実力と比較するとゴジラとカマキラスくらいの差があります。
どれくらい強いかと言うと本気の状態で怠惰の魔女セクメト以上レイド以上で権能抜きでも少なくともヴォラキア最強のセシルス以上三大魔獣以下といったほどです