村を燃やしてすぐ俺はペテルギウスに連れ去られた。
「ワタクシに何をするのですカァ?ペテルギウスサン?」
「簡単なことデスよ、エピタフさん。新しき大罪司教ができた事を皆に報告するのデス!」
ああ、なるほどね。確かにメンバーが増えたことを周りに教えるのは当たり前か。指先の1人に抱えられた状態で治療されながら運ばれている俺は人を殺した余韻に浸りながらうっすらとそんなことを考えていた。
あー、なんで言えばいいんだろうこの感覚。なんつーか、ヌいた時に似てるなぁこの感覚。賢者タイムって言えばいいのだろうか、これは?まぁ、何にせよ今となってはどうていいことだな。
……今の俺を見たらかつての俺は何て思うだろうか?
間違いなく軽蔑してくるだろうなぁ。薄ら笑いを浮かべながらそんなことを考えいると、いきなりペテルギウスが止まり、俺をその場に下ろした。移動の途中で治癒していたのか体の痛みがなくなっていた。
「おやぁ?到着しましたか?」
「ええ!到着したのデス!」
俺の問いにペテルギウスがそう答えた先に薄暗い洞窟があった。ただ、その洞窟は恐ろしく不気味な雰囲気を醸し出していた。何度か洞窟など訪れていた俺からして理由がわからなければ違和感を覚えるものだが、
「まさか、他の大罪司教の方々が此処に?」
「ええ!その通りなのデス!!さぁ!共に行きましょう、エピタフくん!新しき我らが同胞よ!」
やや、というかだいぶ興奮した様子で俺にそう言ってきた。ていうか口臭いから喋らないで欲しいなぁ。そんなことを考えながら洞窟の中を歩いていると三つの影が奥に存在していた。
「待たせたのデス!」
「本当だよね。あのさぁ、こんなこと当たり前のことだから言うまでもないから言おうとしなかったんだけどさぁ。僕のことを待たせるなんて何様のつもりなの?人のことを待たせてはいけないなんていい年した大人なら誰でもわかることだろ?今こうして待ってる時間も無駄だっていうのにさあ。それって僕の権利を侵害するってことだ。僕の僕に許されたちっぽけな僕という自我を、私財を、僕から奪おうってことだ。
――それは、いかに無欲な僕でも許せそうにないなぁ」
1人はあって早々いきなり罵倒してきた男。細身の体つきに、長くも短くもなければ奇天烈に整えられたわけでもない白髪。白を基調とした服装は特別華美でも貧相でもなく、面貌も整ってこそいるが特に目を引く特徴はない。いたって平凡で、どこにでもいそうでどこにでも溶け込めそうで、街中で見かければほんの十数秒で記憶から消えてしまいそうな、そんな凡庸な見た目の青年。( 噛み砕いて言って仕舞えば憑依前の俺同様どこにでもいるモブ顔)
「きゃはははは!相も変わらず器極小のヤローでやがりますねぇ!この男はぁ!」
もう1人の品なく笑う女は腰の部分に巨大な瘤のような器官が二つ付いている、右のモミアゲだけが異様に長いショートヘアに、下着同然の衣服を身につけている金髪の童女。
「コルニアス司教、エメラダ司教、2人共落ち着いて。ロマネコンティ司教、この度はお疲れ様です。そちらにいる子供が連絡にあった例の?」
そして、その2人の中央にそんな2人を諫める女がいた。長く透き通る白金の髪をもつ、見るもの全てが震えるほどの美貌をもった少女。
服装に至ってはたった一枚の白い布だけというかなり際どいものに身を包んでいる。
……うん、間違いなくレグルスとカペラとパンドラだわこいつら。言動と見た目が完全に一致してるもん。つーか、パンドラがエロいなぁ。俺、別にロリコンじゃねぇけど本当に美人って思わされるくらいには顔整ってるなぁ。そんなことを考えていると、
「おやおや?新入りちゃんは、パンドラ様みたいなメス肉がお好みでやがりますかねぇ?」
「あらあら、私のことを好いてくれるなんて嬉しいですね」
ニヤニヤと笑いながら揶揄うカペラと口元に手をやりながら上品に笑うパンドラがそこにいた。うぜぇ、ノリが完璧に男子高校生のそれだ。贔屓目に言ってもウザすぎるよ、殴っちゃダメかなぁ。でも、今は堪えよう。
「いやぁ、パンドラさん?でしたか?彼女の見た目が麗しすぎて見惚れてただけですヨォ〜」
俺がニヤニヤと笑いながらそう返す。すると、カペラが腹を抱えて笑い出した。
「きゃははははは!!その年で愛すべきものは見た目だけだと理解してやがるんですか!?素晴らしいじゃあねぇですか!あたくしは気に入ったですよ!」
うわ、意図せずして気に入られたなぁ、全然嬉しくねぇんだけど。こんな気持ちある意味で初めてだよ。俺が変態相手に気に入られたことにゲンナリしていると。
「あのさぁ、いい加減その茶番劇をやめてくれないかなぁ?人のこと待たせといてさらに待たせるってどんな了見なのさぁ!?時間の無駄なんだよ!これ以上待たせるんだったらこっちにも考えがあるよ」
おーっと、めんどくせぇのが癇癪を起こし始めたぞう。こいつに暴れられたら面倒だしとっとと済ませるか。
「確かに、そうですネェ。これ以上待たせるのは時間の無駄というもの。ワタクシは本日付で魔女教大罪司教『傲慢』の座に就かせていただきます、エピタフというものです。以後お見知り置きを」
「ええ、よろしくお願いしますね、エピタフ司教。私の名前はパンドラ。この魔女教の御目付け役とでも思ってください」
「あたくしは魔女教大罪司教、『色欲』担当のカペラ・エメラダ・ルグニカちゃん様でーす!よろしくねー!」
「僕は魔女教大罪司教、『強欲』担当。レグルス・コルニアス」
俺が自己紹介するとパンドラはにっこりと笑いながら、カペラは下品に笑いながら、レグルスは面倒くさそうに自己紹介をしてきた。
「では、自己紹介も済みましたし解散としましょうか。ああ、それとエピタフ司教はしばらくの間はロマネコンティ司教と行動を共にしてください」
「ええ、わかりました♪」
「了解したのデス!!」
パンドラが手を叩きながら解散を促し始めた。やっと、終わった。ていうかしばらくこいつと一緒かぁ。ヤダなぁ。でも、パンドラの命令だし、色んなことを知るためにもこいつと行動しなきゃいけないか。渋々ながら自分を納得させる。そして、カペラが去ったのを見て俺も帰ろうとした時。
「あのさぁ、何帰ろうとしてんの?」
面倒臭い奴に呼び止められた。
「どうかしましたか?」
「『どうかしましたか?』じゃないんだよ。何で謝罪がないのかなぁ」
謝罪?…ああ、なるほどね。ねちっこいって言うかなんと言うか。少なくとも面倒臭いって言葉は当てはまるな。
「ああ、遅れてきたことですね。申し訳ありませんでした」
「はぁ?なにその謝り方?本気で謝る気あんの?」
UZEEEEEEEEEEEE!!なんだこいつウザすぎるよ!!つーか、俺自身も自己紹介する必要があること自体、初めて聞いたんだよ!それくらい大目にみろよ!
「謝り方もロクに出来ない餓鬼が、調子に乗るなよ!!」
怒り狂ったレグルスが俺に向けて手を大きく凪いだ。瞬間、俺の体が文字通り消し飛んだ。それと同時に目の前が真っ暗になった。
◇
え?マジで?マジでアイツ俺のこと殺したの?うわぁ、ないわー。せっかくの残機が減っちゃったじゃん。腹立つわー、流石に1発だけ殴り飛ばそ。そう心に誓いながら俺は意識は浮上した。
◇
遠くで何か騒ぐ声が聞こえる。恐らく俺のことを殺したことをペテルギウスかパンドラが攻めているのだろう。そんなことを考えながら目を開けて声をかけた。
「あのー、なーに、言い争ってるんですカァ?」
すると、三人が信じられないものを見たかのような目でこちらを見てきた。まあ、何となく驚いた理由はわかる。
「なんで、お前が生きてる?」
「ワタクシが権能を発動させたからですヨォ」
そう言うとレグルスは納得したのか落ち着いた。それと同時に嘲笑うようにこちらを見てきた。
「復活が君の権能?随分と弱い権能だなぁ」
ひっでぇ言いよう。復活も十分凄いと思うんだけどなぁ。まあ、権能は復活じゃないんだけどね。そう思いながら、レグルスに向けて俺は全力で踏み込み駆けた。あまりの速さに景色が後ろにいったような錯覚を覚えた。権能を用いた自分の全速力にビビりながらもゼロ距離までレグルスの元まで詰めたと同時にレグルスの手を握りつぶした。
「ぎゃああああぁぁぁ!!」
「おお!いい声で鳴きますネェッ!!」
「がぁっ!」
俺はとどめと言わんばかりに加減しながらレグルスを蹴飛ばした。ヒュー!超気持ちー!!いやぁ、本当に紙屑みたいに飛んでったなぁ。加減したから大丈夫だと思うけど。
「あああ!!」
あ、無事だ、残念と言うべきか、よかったと言うべきかわかんねぇなぁ。口から血反吐をぶちまけながらレグルスは問うてきた。
「お、お前!何で僕を傷つけることが出来るんだ!?」
「んなもん、単純ですよぉ。ワタクシがアナタの権能を使えなくしたんですヨォ〜」
「なっ!何だよそれ復活がお前の権能じゃあ!?」
「そんなこと一言も言ったことないですよ」
「じゃあ、一体どんな権能だっていうんだ!」
「そんなことどうでもいいでしょう?だって今からアナタは」
死ぬんですから。そう言い切ると俺は再度拳を構え踏み込み突貫しようとする。すると、
「お二人ともそこまでです」
俺とレグルスの間にパンドラが現れた。まあ、止めんのは当たり前か。俺はその指示に従い拳を下ろした。しかし、
「……なんですか、パンドラ様。僕は今、権利を侵害されて心の底から怒りに震えてるところです。そんな僕に、何の御用ですか? 何のつもりで、止めるんですか? 言葉に気を付けて、今すぐに、答えろ……」
レグルスの怒りは止まらなかった。
「怒りを収めてください、レグルス司教。彼を、この場で殺害することは許しません。新しき大罪を埋める信徒を見てもどうも思わないのですか?」
「今の僕の様子を見て、どうも思ってないように見えるんですか? ――僕が下手に出てやってれば、調子に乗るなよ、女がぁ!」
そう言うとレグルスは全力で腕を凪いだ。しかし、俺が権能とレグルスを『分けて』いるため何の意味のない行動に終わった。
「はぁ、話になりませんね。では私の方で。『レグルス司教が、ここにいるはずがない。彼は自分の屋敷で、妻に囲まれて過ごしている』」
「ま――」
次の瞬間、何かを叫ぼうとしたレグルスの姿が忽然と消えた。本当に忽然と、その場から消失したのだ。彼のいたはずの場所には、俺が殴り飛ばした際に流れた血液も存在していなかった。
まるで、『ここにいるはずがない』というパンドラの言葉を肯定するように。
……知ってるとはいえ。いざ実際に見てみるとマジでヤバイ権能だよなぁ。
「これで騒がしい方は退場されましたね」
「ええ、ありがとうございました。イヤァ、助かりましたヨォ、ホントに♪」
「ふふ、あえてどちらの意味で言ってるのかは問いません」
賢明だなぁ。この場で戦っても勝つのは向こうだろうけど確実に痛手は負わせられるからね。さてと、では今度こそ。
「では、これに「申し訳ありません、エピタフ司教。少しだけ聞きたいことができました」」
ああああ!!もう今度は何!?
「あなたの権能について教えてくださいませんか?嫌ならば結構ですが」
ああ、そんなこと。教えると弱点も露呈するけどまあ、信頼を得るためにも教えるか。
次回は主人公の権能の説明です。