負け犬狩人   作:MAMYU9

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プロローグ

 

 「おい雑魚。何しとる、はよう酒でも持ってきて注がんか」

 

 威厳と貫禄のある低い声が縁側まで響いて召使いどもを騒がせた。その次に決まって彼らは「あぁ、またあいつか」とため息をつきながら金髪の彼の後ろ姿を目で追う。

 老朽化の進む縁側の床をせっせと酒瓶抱えて声の主の居座る部屋の前まで急ぎ足で向かうと縁側と部屋を区切る障子の前で正座をして(こうべ)と向こうからは影で見えたのか「入れ」と一声寄越す。

 彼はその声を聞き入れると「失礼します」と一礼し、障子を開けて己の姿を晒し中へ恐る恐る入り酒瓶を抱えながら桶のように大きい(さかずき)をひょいと片手で持つ此処で働いている召使いの男よりも大柄な老人へと近付いた。

 

 「雑魚。お前は足も遅かったか?そうか逃げ足だけが取り柄だったのお」

 

 「申し訳ございません」

 

 そい言いながら彼は女のように長い金髪を垂らしながら床に額を付けて謝罪し、老人の持つ(さかずき)に焼酎を注ぐ。彼はこのお酒の臭いが大嫌いなのだが老人はそれを知りながら彼に注がせている。

 しかめ顔をしながら臭いを嗅がぬよう注いでいると老人は「儂の呑む酒の匂いがそこまで嫌いか」と静かながらも恐怖を煽った。

 

 「申し訳ございません」

 

 彼がそう言い放つと老人は「そうか」と一声。次の瞬間に彼は老人の拳とは思えない筋肉のついた手で思い切り顔面を殴られ障子を破り、縁側まで飛んでしまう。

 

 「なら、その鼻をへし折ってくれるわ」

 

 彼は一番痛い所を手で押さえる。一番痛いのは老人のへし折ると言った鼻だった。真っ赤に染まって鼻血を出しながら起き上がると乱れた服や髪を整えるのよりも鼻血を止めるのよりも彼は(こうべ)を垂れて謝った。

 

 「……申し訳ございません」

 

 周りでその事態を見続けている傍観者も居たが誰も彼を心配している様子は無く老人の前に置かれてた食器等の後片付けをしていた。綺麗に身だけ取られた魚。米粒一つも残っちゃいないお椀からはその老人の荒れっぷりは想像も出来ない。このギャップから大抵の新人は辞めていった。だから此処に残るのは精神も肉体も強い人間か彼のように行き場のない将来性ゼロの人間だった。

 

 「ふん。せっかくの酒が不味くなるわい。さっさそこの目障りな雑魚をどかせい」

 

 老人は周りの召使いどもに命令に命令すると未だ謝罪し続ける彼の腹に屈強な召使いが蹴りを入れて庭の方へと蹴り飛ばす。

 

 「まぁ、雑魚が痛めつけられてる姿を(さかな)に一杯やるのも良いもんだな。ほれ!もっと注がんかい!」

 

 彼はただ此処ではまともな扱いを受けず、今ではこの庭に落てる枯れ葉のように転がり服も髪も土だらけ、鼻血も出っぱなしのまま口の中は鉄の味が拡がる。

 周りの召使いどもには嘲嗤われて、主人の老人には酒の(さかな)にされながら彼は仰向けになりながら自由奔放と色を変える空を見つめる。

 空を泳ぐ雲に、空を駆ける鳥達に嫉妬する。自分もあんな風に自由に生きたいと願いながら、目を覚ましたら何処か広々とした永遠に続く草原に寝そべってることを祈りながら目を瞑って気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「君ってさ、何でそんなボコボコにされても此処に残るの?何にも無いじゃん。君の欲しい物なんてさこんな所には無いよ?」

 

 「お嬢様。早く木から降りて下さい。老師様(ろうしさま)にまた、叱られてしまいますよ」

 

 「けど私そんな怒られたこと無いよ?いっつも君がぶたれて皆から酷い仕打ちを受けてるだけじゃん」

 

 そう言いながら彼と同い年くらいの幼い少女が枯れ木からひょいと身体を降ろして軽々着地すると少女は彼の顔をぴしっと両手で左右の頬を押さえて彼の顔をまじまじと見る。

 彼の顔はひっぱたかれた跡があっちらこっちらににあって瞼は青く腫れて鼻には不器用な人の手で貼られたかと見てとれる医療用のテープがべろんべろんの状態で貼られていた。

 

 「これ、君が貼ったの?」

 

 「そうで御座いますが…目障りでしょうか私めのような者がこの様な贅沢品を使うのは。でしたら今すぐ外します」

 

 「君。そんな粗悪なの貼ってたら治り悪くなっちゃうよ?しかもガーゼも無しで…来て、私の部屋に良いヤツがあるから」

 

 そう言うと少女は頬から手を離して彼の腕を掴むとそのまま庭から屋敷の内部へと入り障子を開けて少女の部屋へと入る。

 少女の部屋はこれといって何か豪華な物が在るわけでもなく、部屋の中央にひかれている布団に戸棚が一杯ある洋服タンス。背の低い机の上には残り少ない墨汁と使い古された先端真っ黒の筆。

 少女はこれでもこの屋敷の主であるあの老人の孫娘という身分は高い筈だがそれに似合わぬ質素な部屋作り。洋服タンスを開けても似た柄の着物しか入っておらず戸棚一つ一つ開けても空っぽの戸棚もあれば壊れかけの髪止めが庭の砂利のように密集して収納されているだけ。

 少女は入り口付近で正座したままの彼を手招きして中へ入らせると押し入れのふすまを開けて中から木製の粗悪な作りの箱を取り、中から彼が貼っている医療用のテープよりは幾分品質の良いテープとふわふわした綿毛のような真っ白のガーゼを取り出してべろんべろんのテープを取ってガーゼを置こうとすると少女は何やら難しい顔をして「ちょっと待っててね」所には言って何処かへと行ってしまった。彼は何が起きたのか分からぬままポカンと誰も居ぬ部屋で一人かしこまって正座を続けた。

 幾ら待っただろうか少女が此処からでも聴こえるくらいドタドタ足音を立てながら縁側を歩いて戻ってくるとその手には少し濡れているガーゼを握り締めながら戻ってきた。ガーゼから溢れている水滴は少女の手のひらから甲をつたり畳へと垂らしながら彼に近付いて行く。

 

 「お嬢様、一体何をされたのですか?」

 

 「冷たい方が気持ちいかなと思ってさ、そうだよね?多分」

 

 わざわざそんなことまでと彼は思ったがせっかくのご厚意なのだからと言葉を飲み込んで少女に感謝する。

 

 「ありがとうございます。しかし、この様な時期ですから縁側を通るだけでも寒かったことでしょう。何か温かいお飲み物でもご用意致しましょうか?」

 

 彼は少女の震える手を見て気を利かせる。季節は冬を迎えて日々寒くなる一方。庭の緑も無くなりあるのは茶色の骸。紅葉も消え失せ目に映る目新しい物も無くなるこの時期は少女にとって憂鬱な期間であり屋敷は衣替えを済ますのに大忙しで未だに済んでいない所もある。

 

 「大丈夫だよこれぐらい。ほら、顔寄せて」

 

 彼は言われるがままに少女の指示を受けると痛む鼻に冷たいガーゼがよく効いて和らげていく。そのままテープでガーゼを固定して随分、立派な処置になった。

 

 「君さ……此処から脱け出そうよ。協力するからさ」

 

 何を言うかと思えば少女は信じられない提案を出してきた。彼は口を開けたまま終始その言葉を聞いていたが一回で理解する。不可能だ。

 

 「無理ですよ。このお屋敷の警備は夜までも厳重で蟻一匹も入れない程です。それにたとえ出れたとしてもお金を稼ぐことも出来ません」

 

 「けど、此処に残っても楽しいことなんて無いよ?人生って楽しいこと苦しいことありきで人生。苦しいことだけじゃつまらなすぎるよ?」

 

 少女の言うことは彼も合ってると思うが努力だけでそんな人生を歩めるとは思ってはいない。彼は自分でもこの屋敷で努力をしている人間界だと思っているが悉く裏切られ努力は無意味なものだという認識に堕ちていた。

 少女は何やら考えた顔をすると口を開く。

 

 「じゃぁさ!お祖父様から流儀を盗んじゃえばいいじゃん!そうすれば〈ハンター稼業〉でも食ってけるよ!」

 

 〈ハンター稼業〉、命を懸けてクエストをこなすハンター達。自由奔放とした生き方は人とは思えず。何処か自然に棲んでいるようなイメージを彼は持っている。そして時にはモンスターという大自然を相手に闘う危ない仕事にも恐れぬ勇敢な人々。

 けれどそんな危険には技術と経験が必要でとても彼には出来ないことだった。

 彼は夢物語だと、聞き流そうとした時だった。彼が少女の言葉に耳を疑ったのは。

 

 「お祖父様に頼んじゃおうよ!大丈夫。奥の手を教えてあげる!」

 

 それから日が暮れるまで少女の作戦を聞いた彼は次の日に作戦は実行に移すことに決まった。これも全部決めたのは少女の判断であった。

 夜が明けて日が真上まで上り詰めた時が決行の刻であった。

 

 

 

 

 

 

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 「雑魚。儂の部屋に一礼もせず入ってきた罰を受けたいか」

 

 まだ夜より幾分マシだが肌を凍らすような風が障子を開けっ放しのせいで入って来るので身震いが止まらなかった。

 老人はゆっくりと何かを思い出してるように長い白髭を擦りながら口を開く。

 

 「前にもあったな。あの時は確かルミが木から落ちてお前が慌てて報告をした時だったな。よく覚えてたなと思ったらそういえばお前に罰として木刀で殴らせたんだったな。そらお前が一ヶ月近くもの間寝たきりになるまで痛めつけたら印象に残るわな」

 

 老人の口から少女の名が出て言葉から次は無いと圧力を掛けさせていた。それでも彼は圧力に堪えて口を開く。まるで言葉が通じぬ鬼に命懸けで頼み事をしたような気分だった。

 

 「ご無礼をお許し下さい。今回、此処へ参ったのはお嬢様から命であります」

 

 「ルミから…?雑魚め、あやつから何を頼まれた」

 

 彼は頭を下げて老人の肝すらも抜く言葉を放つ。

 

 「私めをどうかこの道場の弟子にしてください」

 

 老人は目を見開いたがだんだんと細めていき、(さかずき)ではなく瓶ごと焼酎を呑み始め言う。

 

 「儂の流儀を馬鹿にするつもりか…?」

 

 

 半分程呑み干した瓶の先端は老人の握る力が強すぎて弾けるように割れて破片が部屋中飛び散った。

 我を忘れた様子ではないが完全に彼は老人を怒らせてしまった。老人は自分の足元に落ちてる破片を拾い上げてまじまじと見つめると彼の方へ投げた。まるで投擲物かのようにして。

 破片は彼の頬を少し切って畳へと刺さる。

 

 「尊敬しています。だからこその頼みであります。それに私めを弟子になれと薦めたのがお嬢様であります」

 

 「ルミめ、やはり絡んでおったか。だがいくらルミの提案とはいえお前のような雑魚を弟子にとる気は無い」

 

 そう言いながら老人は体の半分を失った瓶に僅かに残っている酒を(さかずき)に注いで口に入れようと瞬間、彼は口を挟む。

 

 「お嬢様が仰っておられました。老師様(ろうしさま)は私めの願いは必ず聞き入れてはくれないと。それは何故か。それは───老師様(ろうしさま)のお弟子方よりも私めの方が優れていると知らないからであると」

 

 「………何?」

 

 老人は(さかずき)を落としてしまう。すぐに酒は畳に吸収されてシミになって独特な臭いが辺りに充満し始める。

 睨む目は血眼で刀でも握らせれば今すぐにでも彼の首をはねてしまいそうで危なっかしい状態だった。

 

 「儂の流儀を愚弄する気かっ!!雑───」

 

 「このまま私めをいたぶりお認めになりますか?その行為は後に後悔になりませぬか?」

 

 彼の言葉は確実に老人を煽っている。むしろこれが狙いだった。勿論、危ない橋だと承知の上で挑んだものだったがこれ程まで怒り荒ぶった老人を彼は始めて見る。

 

 「ぐぬぬう……!!クソッ。認めてやる。お前を弟子として」

 

 「ありがとうございます」

 

 彼はこの言葉を待っていたと言わんばかりに顔を上げて感謝する。老人は気に食わぬ顔でこの皮肉な光景を拝んでいた。

 

 「だが、もしこの流儀に泥を塗るような真似をしてみろ。その時は腹を斬って、死んで詫びろ」

 

 彼はその言葉に頷き一礼して部屋を出た。

 老人は破片散らばる静寂に包まれた部屋の中で一枚の紙に目を向ける。その紙には老人にとってついさっき、忌々しい生意気なヤツという認識に成り上がった彼の名前が載っている。

 その名で呼んだことがあっただろうか?いや一度だけ確かに老人は呼んだことがあった。その一度は一人、雨に打たれながら何処かの集落をさ迷っている時。そう老人が彼を拾った時に名前を付けた時に呼んだのだった。

 また老人の脳裏にあの勝ち誇ったかのような忌々しい彼の顔がよぎる。正確には彼は普段から無表情で顔に出すタイプではないのだが今の老人には勝ち誇っていたように見えていただけだった。

 老人は床に置かれてた紙を手に取りそれを力任せに乱暴に千切る。理性を少しずつ取り戻しているとはいえ召使いにあの様な態度をとられれば水槽の半分にも満たない理性では堪えるのにも限界があり、物に当たることがこの怒りの解消方法だった。

 

 「馬鹿にしてくれおって……!!」

 

 老人は千切った紙切れの中から彼の名前が載った部分を見つけるとそれをひらりひらりと地面へ流し捨てて思い切り踏んづけた。

 その後、老人は未だ気に食わぬ顔をしたまま部屋を後にした。老人の踏んづけた紙切れはガラス細工のように線が何本も伸びていてくしゃくしゃになってしまっていたが彼の名前は辛うじて読めた。

 “メイリン”、それが彼が老人から貰った名だった。

 これはメイリンの目指すようなハンターになる物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました‼️
ツイッターの方でも報告はしたんですが知らない方もいると思うので手短に説明を。
本作品は導きの青い星と蒼い絆の物語の派生作品となっております。本作を読んでる方も誰やねんってなると思われます。
一応、この作品の主人公は本作に登場予定のキャラの物語となっております。なので本作を読んでくれてる方は近い内に「あぁ!このキャラ!」となると思います。
色々と説明しましたが結局何なの?思われてることでしょう。
つまるところこの作品は本作を知らなくても楽しめる二次創作となっております。投稿頻度の方も検討中ですので楽しみお待ちください。
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