白浜が見える。メイリンはその白浜を埋め尽くす勢いで散らばっている貝殻を集めていた。この白浜に似てる白い物、茶色を少し帯びている物、ピンクの模様がついてる物と海なんぞ一度も訪れた事の無いメイリンを魅了していた。そう、彼は貝殻達の逆ナンを受けていたのだ。
それをせっせと泥棒のように集めている彼にも高値で売れるのはないかなと商売目的で集めてたりもしているが貝殻はメイリンにとって新鮮に感じる。
手のひらは貝殻で溢れかえり、周りからは不審者を見るような痛い視線を送られているが貝殻がメイリンへ反射するのは日光だけで周りからの視線の閃光は対象外だったのでメイリンは気付かぬまま、空っぽになってしまった巾着袋に気に入った貝殻や売れそうな物を積めていく。その様子はもうもごうことなき泥棒のそれだった。
「ふー。拾った拾った」
季節は春の筈なのにひたりひたりと額から頬を伝って零れゆく汗を腕で拭う動作をさっきから何度も繰り返して忙しい。油っこい汗だからベトベトした感触が気持ち悪くて仕方ない。
メイリンは何とか目的地の港のある町に着くことに成功して、これから午後に出航予定の連絡便に乗ってまずはタンジアに向かうことになっていた。
既に受付も済ませて彼の懐は軽くなりすぎてしまった。残念なことに昼飯を済ませるお金も着替えを買うお金も無い。流石に着物姿ではいつかは暑さで倒れてしまうがメイリンには今はこれしか服がないのだ。
浜辺に着物姿の男が一人。確実に異様な光景だ。しかも着物も汗で濡れてきている。このままでは倒れそうだった。
何か、新しい代わりの服を手に入れなければならないだろう。
しかし、疲れきってる今の状態のメイリンではこのそこそこ広い町を探索する体力も残っていないし代わりを買う金も無い。そうだった昨日から飯の一つ摂ってなかった事を思い出す。最悪、船上で飢え死にするかもしれない。
「あぁ……腹、減ったー」
今、居座ってる場所が食事処というのももどかしい気持ちだった。金があれば比較的涼しい服装にも飯にもありつけたのに。
メイリンは懐に手を潜り込ませて巾着袋を取り出す。あの夜と違って硬く、分厚い感覚は感じられず、重みも無い。もう一ゼニーも無いのだ。
メイリンは椅子の背もたれに背中を預けて天を仰ぐ。神にもねだるような気分だった。どうか金の方から自分へと寄ってきてくれないかと夢のまた夢の話を妄想していた。
その時だった。
「ねぇ…キミ。もし良かったら私達から一つ“頼まれてくれないかな”?」
そこにはメイリンよりも年上の三人の女性がメイリンの顔を覗き込んで頼んだ。
~~~~~~~~~
「キャーッ!!こっち向いてー!!」
「この服もイケるんじゃない!?」
「やっぱり頼んで正解だったわー!!」
メイリンは今、あの三人の女性組に頼まれて“モデル”をしている。何やらやましい仕事でも頼まれるんじゃないかと思っていたが営んでいる服屋を繁盛させる為、メイリンをスカウトして売り子として店に客を呼ぶ気らしい。
最初は断ろうとしたメイリンだが昼食代とその時。売り上げ次第で報酬も出すと言われたのでメイリンは仕方ない、仕方ないと言い聞かせながら浮き足でこの店に向かったのはいいが、かなりこの状況は過酷なものだった。
振り回されて、あっちゃこっちゃ。目がくるくる回り始めたら最後、いつの間にか女物と思われる、やや脚がスースーする服も着せさせられたりとメイリンを休みはさせなかった。消え行く羞恥心を取り戻すことも叶わなくなりただこの受難を耐えていた。
この後、気も休めない程の短い休憩を貰った時に食した〈黒ユリ餡蜜〉というこの地域限定の菓子をメイリンは頂いたのだがこれがまた美味で、こいういった形式の食べ物が意外にも好物なメイリンにとっては堪らない一品であった。
束の間の休息が終われば店の前に立ってゾロゾロ集まってくる客に対応して次々に店に足を運ばせる。過密により臭ってくる汗の臭いがメイリンの鼻をついてしかめ顔をしそうになってしまうが表情には出ささせまいと堪えた。
「そろそろ終わりか…だいぶ堪える仕事だったが…まぁこれで報酬が入るのならいい話だったな」
メイリンの頭には金のことしか入っていない。文字通り現金な男である。
しかし、あることを頼んだせいで報酬を少し減らされてしまったのが痛いところであったと後悔していた。
「はあぁーい、メイリンくーん。お願いされてた服、動きやすいようにしといたよー!」
奥から服を両手で地面につかぬよう上げながら三人の女性の一人が持ってきた。まるで巫女が着るような服であったがメイリンが頼んだのはそれだった。というにもメイリンは些か動きにくい着物で旅をしていたので、その着物を使って新しい服を安く作ってくれないかと頼み込んだもだった。(ただ、一言も巫女服等とは言っていない)
メイリンは一目見て、予想の物とは随分違っていたことを驚くが着物よりマシだろうと言い聞かせた。
「悪いね、こんな事を頼んでしまって」
「いいのよー。こっちも色々手伝ってもらったし!」
メイリンは店内の壁に立て掛けていた刀袋を手に取り肩に掛けると「試着室、借りるよ」と呟くように入っていって数分後、着るのに手間取っていたかのような疲れた表情をして出てきた。その右だけ異様に長く伸びていたサラサラのもみあげが乱暴に崩れていた。
「うん。やっぱり似合ってるよー」
「そうかい?人に言われると恥ずかしいものだな…」
そう会話を続けながらメイリンは差し出された報酬金の入った巾着袋を受け取り店を後にした。
外に出てから真っ先に感じたのは懐が軽い。いくら増えたといってもあれほどの量じゃこれからがキツくなる。
あと残り少ししかない出航までの短時間で何か手っ取り早く稼ぐ方法はないかと模索していた、その時だった。
「ちょっと離してください!!」
「まぁーまぁーお姉さんべっぴんさんだし特別に此処案内するよ!俺らお金は沢山稼いでる方だからー!」
明らか達の悪い男達に観光客の女性だろうか、その女性の腕を無理やり掴んでいる光景が自然にメイリンの目に留まった。
「ふーん。明らかに……」
メイリンは自分にしか聞こえないような独り言を呟くと男達の方向へ足を進めた。
そして男達の後ろに立つと少しばかり相手らの方が背が高いので手を伸ばして肩を叩いた。
「やぁ!お兄さん達!もし良かったらそこのお姉さんの代わりに僕を案内してくんないかな?」
そうやって満面の笑みで言った。
▽▽▽▽▽
「金、もう少し持ってないの?少ない気もするけどなぁ」
メイリンはごみ山のように積もった男達の上に、どっしりと腰を下ろしながらゼニーを上に投げて落ちてきたところを取る動作を繰り返していた。
「その袋の中には五千ゼニーも入ってるんです!!だからどうか!許してくだせぇ!!」
「まぁー当分は飯も食ってけるだろうし足りるかな」
メイリンはパッと山から飛び降りて土が付いて汚れてしまっていた服をはたくと気力の無い手の振り方をして去っていった。
「あっちに着いたら焼き肉だな」
さっき絡まれていた女性もメイリンが男達を片付けてる合間に何処かへ消えてしまっていたから少しばかり寂しさも感じながら急ぎ足で船着き場になかった。
歩きやすさは段違いなものであり、異常であった。着物の時より腕も振りやすく快適で通気性も優れていた。文句の一つもつけようが無い程完璧。急ぎ足浮き足が交互に混ざる。
「そろそろ出航時刻でーすう。お乗りのお客様はお急ぎくださあーい!!」
するとセーラー帽を凹ませた船乗りが停船場に降りてその華奢な体つきから出せるとは思えない声を張り上げながら乗船する客を呼んだ。その声はメイリンの元まで届いて足を更に急がせた。
「やっべ!」
メイリンは刀袋の紐をぎゅっと握りしめながら走り、隣には同じく焦るようにカモメ達が日の暮れ始めた紅の空を泳いでいる。彼は何だかんだでカモメを見るのは初めてだった。
カモメの白が徐々に山吹色にへと染まる。少し遠くに見える海は空からの光を吸収してマグマのように変色してゆく。鳥達の鳴き声が、海のさざ波が音色豊かな曲を奏でてメイリンの出航を祝っている。
ずっと奥は此処に居る誰にも見えない。けれども今は、この瞬間はこの曲だけで歩みを、活力を生み出してくれた。
今、生命のパレードが活気を溢れさせる。欲張りも許されて誰かと愛し合うことも許される。束の間の“自由”が平等に与えられた。
この町に居る人々全員がこのパレードを何にも邪魔されること無く堪能出来る。
メイリンは停船場まで走りきると少し歩みを止めて乗る船とは真逆の方向を眺める。
目の前の光景は絵であった。何にも例えられない絵である。残るのは感想だけ。
メイリンは朝拾った貝殻を一つ、巾着袋から取り出してまじまじと見つめると思い切り海の方へ投げる。
ぽちゃん。小さな貝殻が海面を割って深く底へ潜り込む。黒に隠れて貝殻の色は溶けていき、気付けば見えるのは海面に流れる波紋だけ。
メイリンは振り返ると大股で船上へと駆け乗った。
今、出航の時──下ろされた錨は水浸しの鎖ごと引き上げられ大海原を進んだ。
帆を広げ、追い風が吹き荒れる。
目指すはハンター集う港、タンジア。彼はまた一歩、大きく前進したのであった。
いや、本当に遅くなってすいません。
導き星の方に力を入れてたからってのもあるけど…次からはもう少し早く出せるように精進します。
あと町の名前が載ってるのはサブタイトルだけです。