セヴァストーポリより愛をこめて   作:横澤青葉

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プロローグ 父上へ

拝啓 父上へ

 

 私はあきつ丸、という名前で艦に登録されました。地元の大宮を離れるのは心許ないですが、日本の誇りをもって業務に励みたいと思います。

 私は現在、*イスタンブルにいます。 本来ならイスタンブルから黒海を渡ってセヴァストポリに着くのですが、なんでも、現在はセヴァストーポリでのデモによって交通機関が封鎖されているそうで、私はイスタンブルから動けないのであります。

 *ウラジオストークからシベリア鉄道に揺られるのも飽き、*エカテリンブルクからイスタンブルまでの道のりも長かったため、イスタンブルで観光をしていますが、やはり東ローマ、オスマン帝国と続く千年都市は見る価値がります。

 なぜ遠回りをしているかというと、陸路は列車が爆破されるかもしれないから、だそうです。

 弟の治療はうまくいっているでしょうか。それだけが気がかりです。

 おそらく九月にはいったん日本に戻れるそうです。お土産の指示がついたお返事、お待ちしています。

 

敬具

 

 

 

「はぁ……」

 

 私はため息をそっとついた。 イスタンブルの高級ホテルでセヴァストーポリのほとぼりが収まるのを待つだけで大本営から給料が入るなんて、なんともおいしい話だ。 しかも、観光費用は経費で落ちるらしいじゃないか。これは豪遊待ったなし……と言いたいところだが、私は仮にも帝国軍人。竹取物語の冒頭を覚えられず、周りから白い目で見られ泣きながら暗唱した小学生時代とは違う。

 

しかし、やはりこうも退屈である。シベリア鉄道で本は読み終えてしまったし、話すような人もいない。ただ一人での観光も、楽しいものは楽しいのだが、なんだか物足りない心地がする。

 

こうしてぼーっとしてみる。21時。日記も書くことがなくなってきた。「○○日に出発」というわかりやすい表記があれば、私も多少、心にゆとりが持てるのだが。

 

「イスタンブル 観光」

 

 私はスマホで調べてみる。 やはり、どこも行ったところばかりだ。さすがに18日もイスタンブルにいると、なんとなく物寂しい心地がする。

 

「明日は、ギリシャでもいっちゃおうかなーーーーーー」

 伸びをしてそう呟いてみる。誰もいないが。

 その時、スマホから着信がきて、私は思わず身構えてしまう。 着信先は……

 

「ミシェル・ブライユ……?」

 

 聞いたこともないフランス語に困惑しながら、恐る恐る出てみる。

 

「もしもし」

 

「あぁ、こんにちは、ミシェル・ブライユといいます」

 

「はぁ」

 

「あなたの提督です」

 

「はぁ……え?」

 

 え? 

 日本人とかじゃないの? 若干訛りのある日本語で彼は話し続ける。

 

「だいたいデモが収まったので、1週間後、セヴァストーポリで会いましょう」

 

「い、1週間後、はい」

 

「では」

 

切れてしまった。 不愛想な提督だな。 でも、まぁいいか。

 

「ギリシャ回ろう!」

 

 私はそう呟いて、ベッドへと潜り込む。 これから始まる戦火も知らずに。




*イスタンブル:人口の約一割が集中する、トルコ共和国最大の都市。
*エカテリンブルク:ロシア南西部、ウラル連邦管区本部がある都市。近年、経済政長が著しい。
*ウラジオストーク;ロシア極東部にある都市。日本語訳すると「東へ突撃せよ」。ナメた名前してますね。東って、日本しかないじゃないですか。
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