海王神譚   作:川㟢

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第八話

 「それじゃあ改めまして、ウミ=キオーグル氏の迷宮探索アドバイザーとなったエイナ=チュールです!よろしくね!」

 

 エルフの職員さんの名前は、エイナさんというらしい。私の担当アドバイザーとなることが決まったそうだ。

 

 冒険者を統制するギルド職員であるため、どんな人がアドバイザーになるのかと思っていたが、素直にエイナさんで良かったと思う。

 

 「それじゃあ今から数時間で、ウミちゃんの頭に冒険者についてのイロハやダンジョン内で最低限持っておきたいと思える知識を詰めるだけ詰めることにするね!」

 

 ビシッとしたギルド職員の制服にメガネをかけたエイナさん。何だろう、エイナさんには家庭教師や教員が似合っている気がする。

 

 「まず冒険者についてのルールなんだけど・・・・・」

 

 

 

   ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 あれから3時間、想定時間より多くエイナさんからいろいろなことを学び講習会が終わった。

 

 講習会での教えっぷりを見る限り、エイナさんのいうことを無視してダンジョン探索をするならばこっぴどく叱られるのは間違いない。

 

 (「冒険者は冒険してはいけない」か。)

 

 エイナさんはこの言葉を忘れないようによく言い聞かせていたが一つだけ思うことがある。

 

 (エイナさん、冒険しない冒険者なんてそれはもはや冒険者じゃないですよ。)

 

 安全にダンジョン探索を行い日々を過ごす人からすればありがたい助言であることは間違いない。

 

 だが、このオラリオという地にいる冒険者のほとんどが、夢やロマンを求めて冒険者になった者たちだ。

 

 エイナさんのこの名言?は、ほとんどの冒険者には馬の耳に念仏だろう。

 

 冒険、すなわち自分の確保している安全よりも一つ上のレベルのことをすること。

 

 冒険をしない、すなわち安全ばかり気にかけてダンジョン探索など行っていることだ。そうなれば、レベルが上がることはおろか上質な経験値(エクセリア)を入手することも難しいだろう。

 

 冒険者の多くがLV1のままなのも冒険をしない、もしくは無謀な冒険をして再起不能な傷を負うか死亡することが原因だろう。

 

 つまり、冒険をすることにおいて、無謀かそうでないかの判断が出来ることこそ一流冒険者へ上がるために必要なことであると言える。

 

 私にも海王帝(カイオーガ)というスキルがあるが、このスキルに頼り切りではいつまで経ってもレベルアップはしないだろう。一流冒険者など夢のまた夢だ。

 

 ダンジョン探索において初めのうちはスキルに頼り切りでも問題ないかもしれないが、いずれスキルに頼り切りな戦い方にも限界が来るだろう。

 

 来るべきその時に備えて、前衛であれば剣術や槍術や体術など、後衛であれば、弓術や魔法などが必須になってくるだろう。もっとも、私はしばらくソロで潜る予定になっているため前衛の技術が必要になってくる筈だ。

 

 そうなると、剣、ナイフ、槍、斧など何でもいいが前衛に必要な武器も自ずと必要になってくる。

 

 また、ポーション類を筆頭に自分を回復するための道具も必要となる。

 

 何事も始めた後よりも始まる前の準備が肝心であり大変という人がいるが、冒険者などはその通りかもしれない。

 

 道具、装備、ダンジョン探索における知識、冒険者のマナー、ファミリアのことなど、事前に覚えなければならないことが冒険者は多い。

 

 この準備を必要経費と思うか思わないかは個人の自由であるが、ダンジョンで生き残る上で準備は欠かせない気がする。

 

 そうなると私が今することは、装備を整えることが第一だろう。

 

 冒険者ギルドを出たら、ヘファイストスファミリアに行く旨をギルド内で待っているヘスティア様に伝えることとしよう。

 

 

 

   ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 案の定、ギルド内で待っていたヘスティア様にヘファイストスファミリアのテナントで装備を探す旨を伝えて、バベルへと向かう。

 

 バベル。迷宮の真上に悠然とそびえ立つ白き摩天楼。前世の世界では、旧約聖書に登場する巨大な塔に付けられた名前である。神々が住むと言われていた天に近づくために、人間たちが作り始めた建物であり、その後、神々の怒りを受けて破壊された建物と言われている。

 

 このオラリオにおいては、トップクラスの高さを持つ建物であり、とても目立つため、待ち合わせや目印などにもよく使われる建物である。

 

 五十階建てであり、装備品を取り扱うヘファイストスファミリアのテナントのほか、換金施設などの公共施設や他ファミリアの商業施設、高層部にはオラリオでも名のある有数の神々が住み着いている。

 

 初めて見たときの感想としては、さながら前世における巨大ショッピングモールのような施設のようであった。

 

 私の目的であるヘファイストスファミリアのテナントは、バベルの四階から八階層にある。

 

 ヘファイストスファミリアというブランド名は、このオラリオだけでなく世界全体に広まっており、売られている武具の性能は言わずもがな、値段も高いことで知られている。

 

 だが、私たち下級冒険者でもヘファイストスファミリアの鍛治士の作った武器を格安で手に入れることができる。

 

 各ファミリアに駆け出し冒険者がいるように、ヘファイストスファミリアにも駆け出しの鍛治士が作った武具が売られているテナントが存在している。そこで売られている武具は私たち駆け出し冒険者向けの武器が数多く揃っており、まだ無名の鍛治士の作品や花芽を見ない鍛治士の作品が所狭しと並んでいる。

 

 駆け出し冒険者は、格安でヘファイストスファミリアの鍛治士の武具を手に取ることができ、鍛治士たちは自分の作品を買ってもらえることで鍛治士としての名を広め生計を立てる。

 

 つまり、両者の間でWin-Winな関係を築くことができるわけだ。こうすることで、駆け出し冒険者は成長し、鍛治士たちも技能を高めることができる。人材育成としては、良い循環を持つ環境が作られていると言えるだろう。

 

 そんなことを考えているうちに白き摩天楼、バベルへと到着する。お目当の装備品は目の前だ。

 

 

   ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 上級冒険者が利用するようなテナントは煌びやかな装飾が施されており、いかにも稼ぎの良い冒険者だけが利用することを許されるような空間だ。

 

 対して、新人鍛治士が作った作品が数多く存在するテナント、対照的に装飾品などほとんどない。装備品が数多く並べられており、現役鍛治士の工房の中といった感じだ。

 

 私の目的とする装備品があるのは後者の方。数多くある装備品、否、鍛治士の作品から私に合う、否、私の武器(相棒)を見つけに来たのだ。

 

 身体づくりも兼ねてバイトをしている際、ヘファイストス様から売り物にならなくなった武器や修復不能になった武器を無理を言って譲ってもらい自分に合う、合わない武器を区別した。

 

 その際、剣系統は壊滅的に使えないことが明らかになった。対照的に槍系統の武器は私の手によく馴染んだことを覚えている。

 

 

 戦闘素人ではあるが、近接戦闘において重要なのは、動きと間合いであると私は考えている。私の場合、動きについてははっきり言ってダメだ。元々、魔道士よりのスキルであり、動くことがそこまで得意というわけではない。

 

 対して、間合い。武器、そして魔法における戦闘どちらにも間合いが存在する。剣や槍などの武器であれば、相手を傷つけることができる範囲内、魔法や弓であれば射程など。これらを間違えることがなければ、相手に対して的確にダメージを与えることができ、反対に攻撃を見極め躱すことができる。

 

 槍は剣に比べて間合いが広く、剣ほど距離を詰める必要もない武器と言えるだろう。本来の立ち位置が後衛と言える私にとっては、間合いを図る武器である槍が扱いやすいのは必然かもしれない。

 

 そのため、槍を中心に私に合いそうなものを探していく。重量、長さなど自分の身体に合ったものを選んでいく。

 

 あれでもないこれでもないと次々と手に取っていく、装備品の数は多いため、いつかは自分に合う武器が見つかる。そう信じて。

 

 そこから店内を物色すること数十分、ある槍が私の目に入ってきた。

 

 刃先以外は黒くてやや青みがかっているごく普通に見える槍。

 

 その槍を手に取ってみる。不思議と私の手に馴染んだ気がする。私と共に冒険してくれるのはまさにこの槍だろう。

 

 製作者はヴェルフ=クロッゾ。銘は突丸(つらぬきまる)。少々、銘にセンスを感じられないが、それを気にしなければかなり良い武器であることは間違いないだろう。

 

 これと一緒にダンジョン探索用のローブと、その中に着込む革の鎧、ナイフと、槍で反撃できないくらいの至近距離に入られた時に備えて短刀を一本買っておく。

 

 槍のほかは、これだ!と思う物に出会うことはなかったが、使う機会が限られているため問題ないだろうと思う。

 

 さて、あとはミアハファミリアでポーション類を調達すればダンジョン探索前の事前準備は粗方完了だ。

 

 ヘスティアファミリアに潤いを与えるためにも、私自身の生活をより良くするためにも、命大事にを忘れずにダンジョンに挑んでいこうではないか!

 

 

 





 準備はこの辺で終わり。次回からダンジョンに潜っていきます。
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