海王神譚   作:川㟢

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第九話

 

 よく晴れた空の下、私の初のダンジョン探索が始まろうとしていた。

 

 「それでは行ってきますヘスティア様。」

 

 「うん、いってらっしゃいウミ君。くれぐれも大怪我なんてしないで必ず帰ってきておくれよ?」

 

 笑顔で私を見送ってくれるヘスティア様。家族の初冒険への期待と、心配や不安が半分ずつといった感じだろうか。

 

 「ええ。怪我なく帰ってきます。稼ぎには期待しないでくださいね。余裕が出てきたらパーティーでもしましょうか。」

 

 パーティーや外食をしたいところだが、それは当分先になりそうだ。

 

 上層部、それこそ一階層や二階層で稼ぐことのできるお金などたかが知れている。

 

 それは勿論ヘスティア様も知っていることだろう。当分はヘスティア様の稼ぎもあてにしなければならないかもしれない。

 

 「ふふふ。分かっているよ。じゃあウミ君は僕の稼ぎに期待していてくれよ?最近、ジャガ丸君の売れ行きが良くて、店長から僕への評価はうなぎ上りさ!」

 

 これは本当のことだろう。ヘスティア様ほどの美少女が、ジャガ丸君の屋台で看板娘として働いていたら売れ行きはかなり伸びそうである。まぁ、看板娘というよりかはマスコットみたいな感じだと思うが・・・

 

 「ええ。期待してますね。帰ってきたら楽しみにしてます。」

 

 早いうちに、ヘスティア様がアルバイトなどしなくてもいい環境が作れると良いと思う。怠惰な性格をしていると自分でも言っていたが、一ファミリアの主神が露店でアルバイトなどしていたら、ヘスティア様やファミリアのメンツが丸潰れだ。

 

 怠惰な生活を送るのは神としてはどうかと思うこともあるが、アルバイトをしているという事実よりかは、まだ多少はマシである。

 

 そう思いながら、私を見送るヘスティア様にいってきますを告げてから、廃教会を飛び出した。

 

 ー○○○ー○○○ー○○○ー○○○ー

 

 ダンジョン。冒険者たちが生活するための必要地であり、その全貌が知られていない神秘の地である。

 

 上層部はほとんど全て探索され尽くされており、危険と言える危険は少ない。予備知識や入念な準備、アドバイザーの言うことを聞いておけばまず命を落とすことがない場所である。

 

 対して中層や下層と言われる階層。未だ未探索の領域が数多く存在し、一流冒険者でも油断すると足を掬われる。

 

 そんな危険ながら神秘的なダンジョンを探索する私の生活が始まるのだ。

 

 まぁ、ダンジョンに潜るのはサポーターで何度か機会があったため、あくまでも冒険者として!というおまけがつくのだが。

 

 以前は何の力も持たず非力であった私だが、今の私であれば多少は戦えるだろう。

 

 とは言え、槍の扱いに関しては我流。ほとんどスキル頼みのような戦いだろう。

 

 また、モンスターであっても殺すという行為が伴う。メンタル的には自信云々に関して言えばありもしないし、ないわけでもない。つまり普通の精神力の強さである。

 

 人であれ、動物であれ、モンスターであれ殺すに伴い罪悪感や恐怖といった感情が芽生える場合がないわけではない。

 

 それを乗り越えることこそが、冒険者になるための第一歩と言えるだろう。これを乗り越えるための試練が、第一階層や二階層と言えるだろう。

 

 何故なら、この二つの階層は、上層部においても危険が少なく、命を落とすことはほとんどないからである。故に、殺すことへの罪悪感や恐怖心といったものを克服できない者の大半はこの階層で冒険者としての命は終わると言ってよい。

 

 さて、そんな第一階層、冒険のスタート地点とも言える場所に足を踏み入れた私であるが、早速モンスターを発見する。ゴブリンである。

 

 ゴブリン、恩恵を持った冒険者であれば、まず苦労をせず倒すことのできるモンスターの一体。多対一という状況にならなければ負けることはまずない。

 

 知能はほとんどないと言っていい、冒険者への警戒など皆無で常に自分たちが勝つとでも思っているような顔つきだ。

 

 さて、ゴブリンは見つけたが、運の良いことに向こうはまだこちらに気がついていないようだ。階層を下っていくと、無闇な先制攻撃は寿命を縮めることもあるが、ゴブリンであれば大丈夫だろう。わざわざ、向こうのペースに合わせることはない。つまり、先手必勝。先制攻撃である。

 

 向こうが気付いていないのに、わざわざ向こうの間合いに入って攻撃する必要は皆無である。よって、槍ではなくスキルで攻撃することにする。

 

 「水鉄砲(ウォーターガン)

 

 指を銃の形にしてゴブリンを指し示してから、そう唱える。

 

 すると、指先から放出された水の弾丸が凄まじいスピードでゴブリンの頭を貫く。結構グロいですね。

 

 というわけで秒で初戦闘終了。魔石回収。お疲れ様でしたって感じ。

 

 それはともかく、水鉄砲(ウォーターガン)について。この技は、スキル海王帝(カイオーガ)の応用である。水の生成によって生成した水を流水操作で弾丸にして飛ばすというシンプルな技である。

 

 何も言わなくても使えるわけだが、誰に見られてもいいように魔法と偽るために使っている。詠唱の名前の理由としては、ポケモンの技、「みずでっぽう」にちなんでいる。尚、威力は想像以上である。上級冒険者なら見えると思うが、私と同じレベル1の冒険者では躱すことも容易ではないだろう。

 

 みずでっぽうを例に挙げるとポケモンの技って、名前がえげつなかったりするのに、実際はそこまで強くない技が多々ある気がする。ゆきなだれとか、技じゃなくて災害じゃないかと思う。

 

 当面はこの技を使っていくことにする。うまく使えば、遠距離から一方的に敵を倒せて安心安全だからだ。

 

 とは言え、そうすると槍の使い方が一向に上手くならない。程々にしようと思う。

 

 それと、ゴブリンを倒した時の感想についてだが、流石に気分は良いとは言えない。サポーターとしてダンジョンに潜った時には、他人が倒しているのを見ていただけだからかそこまで不快感は湧かなかった。

 

 だが、いざ自分の手でするとなると話は別だ。こればかりは慣れるしかないのだと思う。

 

 何はともあれ初戦闘は大成功と言えるだろう。流石に初戦闘とだけあって緊張以外にも不安やら何やらがあった。だが、次からは和らぐだろう。

 

 本物のカイオーガであるならば、こんな細かい戦い方などせず、力でねじ伏せるような一方的な戦い方をする。それはもはや、戦いではなく蹂躙であると思うが。

 

 だが、私はカイオーガではない。あくまでも、カイオーガの力を持った一人の人間である。自分の力を存分に使うことは構わないが、過信し過ぎて油断しないようにしなければ。人間はカイオーガと違って、些細なことで命を落とすのである。

 

   ー○○○ー○○○ー○○○ー○○○ー

 

 本日の探索が終了し、ダンジョンから帰還。割と長い時間潜っていたと思う。

 

 魔石とドロップアイテムの換金を済ませる。ドロップアイテムと言っても、流石にゴブリンやコバルトの物では大した金にはならない。何もないよりはマシであるが。

 

 換金ついでにエイナさんに帰還報告。結構心配性な人だから顔を見せないと死んだと思われるかもしれない。というか思うだろう。

 

 とりあえず第一、第二階層で討伐中心にして探索したことを報告。すると、エイナさんに冒険者としては優等生であることを告げられた。どうやら、言い聞かせても冒険する人が殆どらしい。なるほど、苦労しているわけだ。いつか過労で倒れなければ良いが。

 

 さて、エイナさんへの報告も済ませたところで我がホームへと帰還。ヘスティア様が待っているだろうと予想して。

 

 廃教会へと入る。まずは無事生きて帰ってきたことの報告が第一だ。

 

 「ただいま帰りました。ヘスティア様。」

 

 「おかえり!ウミ君!」

 

 可愛らしい笑顔で出迎えてくれるヘスティア様。私が男であれば、もう恋におちているだろう。

 

 とりあえずこの笑顔での出迎えのために、死なない程度に頑張ろうと思った。ダンジョン探索初日の夕方である。

 

 

 

 

 

 

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