……いいね?
深夜……と呼ぶような時間には少しだけ早く。
けれども誰しもが活動を終えようとしている時間帯。
そんな時間に、区切りがいいからと研究と開発を切り上げて。
アイマスクを装着して睡眠に突入後二時間少々。
ラボのドアをけたたましくノックされ、覚醒された意識に引っ張られたメイヤーは、欠伸を噛み殺しながらドアの向こうへと声をかける。
「ふぁ~い。……どちら様~」
平静に努めているが、これでドアの向こうからドクターが現れようものなら近くにいるミーボすべてと共に噛みつく予定だったのだが……。
「私。サイレンス」
どこか震えているサイレンスの声に、その考えは彼方へと飛ぶ。
急いでアイマスクを外し、ラボの鍵を回してドアを開ければ。
――そこには、血相を変えたサイレンスが立っていた。
*
「全く、どうしてあなたはいつも「そう」なんですか!!」
作戦へと出ていたサリア。
そのサリアが帰還したのは、日没よりも遅い時間。
一目でボロボロであるというのが分かる格好もさることながら、そんな状態なのに他のオペレーターを担いで帰還したというのは後日知った話。
そんなサリアは、医療室に寄らずに真っすぐサイレンスの宿舎を訪れていた。
突然のノックに驚きながらドアを開けたサイレンスは、ドアの向こうに立つボロボロのサリアに再度驚愕。
満身創痍を体現する様な状態でありながら、それでも医療室に向かわなかったわけは、サイレンスには理解できる。
恐らく、作戦部隊の隊長でも任されたのだろう。
その隊長が、満身創痍で医療室に居た場合、士気の低下の恐れがある。とでも考えたのだろう。
だから私のところに来た。
一人で、十分以上に医療行為を行うことが出来る私のところに。
そして、もう一つの事実に気付く。
――彼女は、自分どころか味方すらも回復させることが出来る術を持っているはずだ。
……なのに、自分に使っていない。
その事に気付いた瞬間、サイレンスは、サリアの状態のことなど忘れ、怒鳴っていた。
自分を粗末に扱いすぎだ、と。
「とにかく、入ってください」
突き返すことなど出来ようはずもなく、自分の部屋へと招き入れようとするが、その言葉を聞いた途端にサリアは崩れ落ちかける。
咄嗟に気が付き、彼女を支え、腕を肩に回させて何とか地面に寝ることだけは防いだが。
ここまで消耗したサリアを見るのが久しぶりなだけに、サイレンスはパニックになりかける。
――が、肩にかかるずっしりとした重さと、伝わる温かさに平静を取り戻し。
何とか部屋の中に運び入れると。
ベッドに寝させ、回復ドローンを――、
「って、今充電中!?」
予備機含め、業務を終えてから全てを充電に回してた事実を思い出し、頭を抱える。
……しかし、サイレンスはふと思いつく。
医療ドローンを開発したメイヤーが、先日予備バッテリーの話をしていたことを。
選択肢は――無かった。
「サリア、私は今からラボに行き、メイヤーから予備のバッテリーを貰ってきます。ですので、戻って来るまで眠らないでください。いいですね!?」
そうベッドに横たわるサリアに声をかけるが、それに対しての反応がない。
まさか……と思ったが、ベッドから垂れた手がサイレンスの手を探すように彷徨って。
手が触れると、その手を力強く握りしめてきた。
行かないでくれなのか、任せておけなのか。
迷いは一瞬。後者であると判断したサイレンスは、立ち上がって大急ぎでメイヤーのラボへと向かう。
扉が閉まる音が聞こえると、サリアの口角が僅かに上がったのだが、その事を知っているのはサリア本人だけである。
*
「なーるほど、また無茶したんだねサリアは」
「無茶の範疇を越えてます」
「まぁまぁ。事情は分かったから、予備バッテリー探してくるね。……ていう時間も惜しそうだし、そこらのミーボから抜いちゃうか」
「えっ!?」
「ん? 時間優先でしょ? 別にバッテリー抜いたって壊れるわけじゃないから大丈夫だって。3つでいい?」
「あ、はい」
流石にね。今にも泣きだしそうな顔してるの見ちゃうと、どうこう言ってられないって。
手身近の4、13、16番のミーボからバッテリーを抜き取り、サイレンスへと手渡して。
「ほーら走った走った」
お礼を言おうと口を動かしかけていたサイレンスに、そんな事よりサリアを、と手を振って向かわせる。
ほんの数秒の遅れも文字通り命取りになりかねない。
だったら、その数秒は無視するのが上策だろう。
「さて、と。私はもう一度寝なおしますか~」
バッテリーが抜かれ、動かなくなったミーボ三機を台の上に動かして。
ほんの僅かに感じた空腹感を、何故だか大量にある「独特の弾力のある食感が特徴のゼリー」を数個食べてアイマスクへと手を伸ばす。
(これで間に合ってなかったら私刺されたりしないよね?)
寝る寸前に思った恐怖の出来事が、今後この身に起きないように。
そう祈りながら、メイヤーは再び眠りの世界に入っていった。
*
カーテンの隙間から朝日が零れ、まるで長い時間沈んでいたかのような状態から目が覚める。
見慣れた天井。起きようとすると、ズキリと体が痛み、昨日……恐らく昨日の出来事を思い出す。
そうだ、私はサイレンスの部屋に……。
そう思って首を回すと、ベッドの淵に突っ伏すようにして寝ているサイレンスの姿を発見できた。
恐らく、大変な思いをさせてしまっただろう。
心配をかけてしまっただろう。
自分としては、一番頼れる存在を頼っただけなのだが、ひょっとすると迷惑だったかもしれない。
色々と口にしたい言葉はある。
弁明も、言い訳も、愚痴も、弱音も。
堰を切ったように溢れそうになる言葉を飲み込み、サリアは。
「ありがとう」
たった一言だけを発して、サイレンスの頭を、かろうじて動く手で撫でた。
普段強い女性が見せる弱い部分とか、可愛い仕草がエモいよねって話。
まぁ性癖にぶっ刺さったイラストを投稿された方に影響されて書いた話なので、みんなそのシチュをすこれ。