Fate/Kaleid caster ドラまた☆リナ外伝・星を紡ぐ武器を求める者   作:猿野ただすみ

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Fate/Kaleid casterドラまた☆リナの番外編、始まります。


遭遇

私立穂群原学園初等部。調理実習も終わりに差し迫った頃。

 

「出来た!」

 

一切れのパウンドケーキ。それを食品用フィルムの袋に入れ、その口を何度もリボンを結び直しながら、ようやく納得がいった形で閉じ、ふぅ、と一息吐く金髪の少女。

名前は星見ミリィ。

 

「随分と熱心だったわねー」

 

そう言ったのは、今回同じ班でパウンドケーキを作った稲葉リナ。時々大人っぽい発言をする、少しだけミステリアスな赤毛の少女だ。またの名を、[身体は子供、心は魔王]の稲葉リナ。ただし怒らせなければ、ごく普通の元気な女の子だ。

 

「そんなに青川くんに食べてもらいたいの?」

「そうよ、悪い?」

 

リナがからかうように言うと、頬を染め、怒った表情でミリィは言い返した。

 

「何よ、つまんない反応ねー」

「さっき散々からかっといて、よく言うわね」

 

実はリナ、パウンドケーキ制作中に、ミリィと青川慧との関係について散々からかったのだ。

ミリィにとって、はとこに当たる慧は気になる存在。純粋に親族としてなのか、それとも恋愛感情なのかはわからないが、もっと近くにありたい。そう思える存在だ。

 

「……あー、ごめん。ちょっと行き過ぎだったか」

 

リナが謝ると、ミリィは嘆息し言った。

 

「もう、いいよ。おかげで踏ん切りがついたっていうのもあるしね」

 

最初、パウンドケーキを作り始めたときはどうするか迷っていたミリィ。しかし、リナのおかげで吹っ切ることが出来たのだ。結果論ではあるが。

 

「……ところでリナも、そのパウンドケーキ、誰かにあげるの?」

 

リナの手には、綺麗に包装されたパウンドケーキがある。

 

「ああ、これは士郎さん…、イリヤのにーちゃんにね。料理教えてもらってるお礼よ」

 

イリヤは本名、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンという銀髪に赤い瞳のハーフの少女だ。最近は従妹のクロエ・フォン・アインツベルンという子も転入してきて、クラスはさらに賑やかになっていた。

 

「ふうん…」

 

ミリィはリナの包装を見てから、自分が包装した物へと視線を移し。

 

はあ…

 

大きくため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

放課後。ミリィは、慧がいる3組の前までやって来た。とはいえ、これは別段変わった行動ではなく、先にホームルームが終わった方が終わらない方のクラスに赴き、一緒に下校するという一連の流れである。

これでまことしやかな噂が流れないはずはない。ないのだが、それに気づかないこのふたりは相当鈍感か、危機管理能力が欠如してるかのどちらかなのか。

 

「よっ、お待たせ」

 

教室の中から赤毛の少年が現れる。青川慧だ。

 

「さあ、帰ろうぜ。ばーちゃんとの稽古もあるしな」

 

慧は祖母アリシアから剣術を学んでいた。

それは別にいい。ミリィも祖父の妹、大叔母に当たるアリシアのことは好きだ。しかし慧のそれはただのお祖母ちゃんっ子というレベルではなく、グランドマザー・コンプレックスと呼ぶに相応しいもので、ミリィも少しヤキモチを焼くほどだ。

 

「何だ、ミリィ。何不貞腐れてんだ?」

「別に!」

 

ミリィはぷいっとそっぽを向く。そんな様子に思案顔になる慧だった。

 

 

 

 

 

いつもの帰り道。いつものごとく、ショートカットするために公園の中を歩いて行くふたり。

 

「……ねえ、慧」

 

ミリィが慧を呼び止める。

 

「どうしたミリィ。……トイレか?」

「なっ!? 何デリカシーの無いこと言ってんのよ!」

「わっ、待てミリィ、冗談だ! あまりにも真剣な表情をしてたから、和ませようとしただけだって!」

 

鬼のような形相でワナワナと震えるミリィに、慌てて言い訳をする慧だが、冗談にしてもデリカシーが無いのは間違いない。

 

「まったくもう…。雰囲気なんてあったもんじゃない…

……はい!」

 

ミリィは鞄から出した物を、慧に投げて渡す。

 

「うわっと…。これは、パウンドケーキか?」

「それ以外の何だっての。

今日の調理実習で作ったのよ。慧にもあげる」

「そうか。サンキューな」

 

突っ慳貪な態度のミリィに、慧はお礼を言う。ミリィはそっぽを向いたままだが、耳が赤くなってたりする。慧は気づいてないが。

 

「ところで、また鍋を爆発させたり、電子レンジを黒焦げにしたりしてないだろうな?」

「そんなことしてないわよ」

 

慧の疑問をハッキリと否定するが、実はおたまを一つ使用不能にしている。まあ、嘘は言ってないのだが…。

 

「ならいいんだけど…。

まあ、ミリィの料理が美味いのは確かだし、これはありがたく頂くよ」

 

そう言ってニカッと笑う慧を見て、ミリィは少し、心がホワッとする気がした。

 

「さ、行こうぜ」

 

慧が促して一歩踏み出した瞬間。ふたりに得も言われぬイヤな予感が走る。

咄嗟に飛び退くふたり。

次の瞬間には、ふたりが立っていた場所から黒い何かが噴き上がる。

 

「な…に?」

「何が起きてんだ!?」

 

ふたりが呟くと。黒い何かの中心から、真っ黒な身体に顔だけが美形な青年の、ナニモノかが現れた。

 

「随分と勘の鋭い人間ですね」

 

ソレはニタァと笑いながら言った。背筋が凍る思いがするふたり。それでも慧は、そいつに言葉をぶつける。

 

「お前は、何だ? 俺たちに、何をしようとしたんだ!?」

「私が何者かなど、どうでもいいでしょう?

何をしようとしたのかと問われれば、食事、でしょうね」

「食事? ……まさか!?」

 

ふたりは、その想像に戦慄する。するとソレは、その笑みをさらに深くする。

 

「そうですね。貴方方のその四肢を引き裂き、苦痛に歪むその表情を見ながらの食事というのも、なかなかに乙なものでしょう」

 

ソレの言葉によって、ふたりは恐怖に支配されていく。

 

(せめて、ミリィだけでも…!)

 

そうは思うものの、慧自身が恐怖によって言葉すら発せられない状態である。

 

「さあ、どちらが先に…」

 

ソレが一歩、踏み出そうとしたその時。

 

カッ!

 

地面に突き刺さる、柄の短い剣。その剣はソレがいた場所を通り過ぎ突き刺さったもの。そう、いた場所を。

ソレは一瞬にして姿を消し、剣を躱していた。

突き刺さった剣は、ふっと刃が消え柄の部分が落下し、カランと音を立てる。

 

『やれやれ、不意討ちとは美しくないやり方ですね』

 

姿を消したままソレが言うと、植え込みの木の後ろから長い銀髪の可愛らしい、ふたりと同い年くらいの少女が姿を現した。

 

(……イリヤ?)

 

ミリィは一瞬、クラスメイトのイリヤと見間違えたが、瞳は赤くないし、何より顔だちは東洋人寄りだ。イリヤが西洋人形だとすれば、彼女は銀髪の日本人形。そんな感じである。

 

「不意を突いてそちらのふたりを襲うあなたに、言われたくはありません」

 

少女は、先程までソレがいたところを見つめながら言った。

 

「それにあなたの言う食事とは、生命が放つ負の感情のことでしょう?」

『貴女は、何者ですか?」

 

姿を現しながら、ソレが尋ねる。

 

「私の名は[キャナル]! この身体を依り代として、この世界に舞い降りた者!!」

「まさか、[ヴォルフィード]の手のものですか!」

 

少女の名乗りに驚愕の色を浮かべるソレ。

少女は、羽織っていた夏物のジャケットから拳銃を取り出し発砲する。

 

パシュッ! パシュッ!

 

その軽い音からもわかるように、彼女…、キャナルが扱うのはBB弾式のエアガン。一見巫山戯ているように見えるが、その内の一発がソレの腕に当たると。

 

ばじゅ!

 

「!?」

 

いやな音を立て、その部分から煙のようなものが立ち上がる。

 

「……発射管の内側に魔術処理を施して、弾に聖属性の加護が付加されるようにしてあります。

あなたたちには、痛いでは済まされないでしょう?」

 

そう言いながら、銃を構えるキャナル。しかしソレは、にたりと笑う。

 

「……そうですね。確かに思った以上のダメージを受けてはいます。

しかし数発程度なら問題ありませんし、何より、ここから動かなかった私に何度も撃ち込んで、実際に当たったのはたったの一発。

貴女にその武器は合っていないようですが…?」

「~~~!」

 

キャナルは悔しそうな表情になる。

 

「それに…」

 

ソレはスッと消えたかと思うと、次の瞬間にはミリィの後ろに現れ、彼女の頭に左手を乗せる。ミリィは恐怖のあまり青ざめ、その身を震わせる。

 

「こうすれば貴女も、下手に手出しは出来ないでしょう?」

「くぅっ…!」

 

人質を取られ、自分の不甲斐なさに奥歯を噛みしめるキャナル。

 

「いいですね。この人間の恐怖の感情。そして貴女が感じている慚愧の念。それと…」

「ミリィから離れろォ!」

 

慧はミリィを助けんと、ソレに向かって体当たりをしようとするも、右手の一振りであっさりと吹き飛ばされてしまう。

 

「この怒りの感情。大変美味ですね」

 

ソレがまた、にたりと笑う。

 

「くそっ…!」

 

慧が手をつき身を起こす。

コツリと、指先に何かが当たる。

 

「ミリィから…」

 

慧はそれを掴みながら立ち上がり。

 

「離れろって…」

 

ソレに向かって駆け出し。

 

「言ってんだろぉっ!!」

 

叫んだ瞬間、手に掴んだそれ…、剣の柄から刃が形成される。

 

「何!?」

 

ソレは驚き一歩下がるが、慧が振り抜いた剣がソレの左腕を切り落とす。切り落とされた腕は、黒い霞となって空間に溶けていった。

一方ソレの左腕は、瞬く間に再生されていく。

 

「大丈夫か、ミリィ!?」

「う、うん…」

 

駆け寄り声をかけた慧に、ミリィは小さく頷いた。

 

「……おのれ」

「「!?」」

 

その小さな呟きに、ふたりはソレを見る。

 

「……おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!」

 

怒りの隠った眼差しで慧を見つめながら、呪詛のように同じ言葉を繰り返す。

 

「……死ね」

 

右手に魔力の塊を生成するソレ。しかし。

 

「させませんっ!」

 

キャナルは右手に、変わった飾りが両端に付いた棒状のものを取りだし駆けだした。

 

「!? それは…!!」

「光よっ!」

 

キャナルのかけ声と共に、棒…、柄の先端に光の刃が現れる。キャナルは剣をソレに向かって振り抜くが、今度は大きく後ろに飛び退いて躱した。

 

「……どうやらレプリカの様ですが、さすがにそれに斬られるのは不味いですね。

仕方がありません。ここは引かせてもらいましょう」

 

そう言ってソレは、空間に溶け込むようにスウッと消えていった。

 

「……どうやら、本当に引いていったようですね」

 

キャナルは呟き、ふぅ、と息を吐く。

 

「あんた、一体…」

「私は…」

 

慧の洩らした言葉に応えようとするも、キャナルは急に膝をつく。

 

「おい、あんた、大丈夫か!?」

 

慧が慌てて駆け寄ろうとするが、キャナルは右手を突き出し静止をかける。

 

「連日の捜索の無理が祟った様です。まさか、これを起動するだけでこの様になるほど、力を消費しているとは思いもしませんでしたが…」

「捜索? あんた、一体何を…」

「済みませんが、表に出ていられるのも限界です。後は神名(かな)に聞いて下さい…」

 

それだけ言うと、キャナルは(こうべ)を垂れる。そして。

 

「髪の毛が黒く…」

 

ミリィが小さく呟いた。

彼女が言うとおり、キャナルの銀色の髪の毛が黒く染まっていく。

やがて、髪の全てが黒く染まり、再び彼女は(おもて)を上げる。その表情は先程までの気の強さを滲ませたものではなく、年相応のあどけないものだった。

 

「……あんたは?」

 

慧が再び尋ねると、少女はニッコリと微笑む。

 

「わたしは、黒神(くろかみ)神名(かな)っていいます」

 

少女…、神名の自己紹介に、ミリィは少し首を傾げ。

 

「黒髪?」

 

と言うその発言に、今度は神名が首を傾げ、やがて言ってる意味に気づきクスリと笑う。

 

「黒神は髪の毛の髪じゃなくって、神様の神だよ」

 

それを聞き、ああと頷くミリィ。

 

腹五社(はらごしゃ)神社の埋没鳥居がある、あの黒神ね」

「……え? 腹五社神社、知ってるの?

私は苗字の関係で知ってたけど…」

「お前、神社仏閣なんて詳しかったか?」

 

以外な知識の出所に驚くふたり。

 

「違う違う。今、お祖父様が神社仏閣の参拝にはまってて、この間九州を巡った内のひとつがそこだったのよ。神社も地名も変わってたから、それで覚えてただけ」

 

ゲイザーコンツェルンの会長、渋い趣味である。ちなみに会社名は、ミリィの祖父が日本に帰化する前の名前、アルバート=ヴァン=スターゲイザーから取られている。現在は星見貴光という日本名を名乗っているが。

閑話休題。

 

「そうだったんだ。

……あの、それでふたりは誰ですか?」

 

言われてふたりはハッとする。

 

「すまん、自己紹介がまだだったな。

オレは青川慧。穂群原学園初等部の5年生だ。

さっきは助けてくれて、ありがとな」

「わたしは星見ミリィ。同じく穂群原学園初等部の5年生。慧とははとこ同士で幼馴染みよ。

あなたのおかげで、ふたりとも無事でいられたわ。ありがとう」

 

ふたりの自己紹介とお礼に、しかし神名は表情を曇らせる。

 

「わたしは、何もやってないよ。ふたりを助けたのは、キャナルだから」

「え…?」

 

神名の、自虐的なニュアンスを含んだ発言に、ミリィはどう言葉をかけたらいいのかわからずに戸惑ってしまう。すると。

 

「んなこたぁ知るか!」

「ちょっと、慧!?」

 

いきなりの暴言に、思わず非難の声を上げそうになるミリィ。だが。

 

「オレたちは、まだ何にも聞かされちゃいねぇ。そんな状況で、『わたしは何もしてません』って言われて、『ああ、そうですね』なんて言えるわきゃねーだろ!」

 

そのとおりだった。神名の言い分は、彼女の中での自己完結でしかない。

 

「[キャナル]…、だったか? アイツが言ってたとおり、まずは説明してくれ」

「でも…」

 

何かを言おうとする神名の、その言葉を遮って慧が言う。

 

「言っとくが、『巻き込みたくない』てのは無しだかんな。オレたちは充分に巻き込まれてるし、何よりオレが首を突っ込みたいんだからな」

「わたしもだよ!」

 

ミリィも激しく同意する。あんな怖い目にあったというのに、芯のとても強い子である。

自分の気の弱さを知っている神名としては、二人が見せるそんな強さもコンプレックスなのだが、同時に憧れでもある。だからこそ、神名の中にはキャナルがいるのだが。

 

「……わかった。それじゃあ話すよ。わたしとキャナルのこと」

 

神名は、決意を込めた表情で二人に言った。




神名とキャナルの性格モチーフは、某落とし神の一方通行幼馴染みと、その子に宿っている女神様です。
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