Fate/Kaleid caster ドラまた☆リナ外伝・星を紡ぐ武器を求める者   作:猿野ただすみ

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いわゆる説明回です。


天使の映し身

穂群原学園初等部。星見ミリィは教室の席で物思いに耽っていた。それは勿論、昨日の出来事についてだ。

自分と青川慧を襲った、謎の存在。そんな二人を助けてくれた少女。ハッキリ言って現実的ではない出来事であったが、幸か不幸かそれを証明する物を、ミリィは所持していた。

ミリィの学校指定の鞄の中には、助けてくれた少女が使用していた、アレにダメージを与えることが出来るエアガンが入っている。護身用にと持たせてくれたのだ。

ミリィは少女の、黒神神名の説明を思い出していた。

 

 

 

 

 

神名は決意の表情を浮かべ言った。

 

「わかった。それじゃあ話すよ。わたしとキャナルのこと」

 

それを感じ取ったミリィと慧も、真剣な面持ちで頷く。

 

「わたしは、民間陰陽道(おんみょうどう)黒神流の家に生まれたんだ」

「民間、おんみょうどう…」

「……って何だ?」

 

二人が首を傾げる。だが神名はこういう反応を予想していたために、別段気にする様子もなく説明をした。

 

「陰陽道は、古い時代からある学問だよ。中国発祥の陰陽(いんよう)説と五行(ごぎょう)思想を組み合わせたもので、地学、気象学、天文学、……そういったものを組み込んだ総合学なんだ」

 

妖怪退治、悪霊退治モノに登場する陰陽師(おんみょうじ)のイメージで勘違いされやすいが、陰陽道とは本来、立派な学問である。また陰陽師は、宮中の陰陽寮(おんみょうりょう)に所属する役人でもあったのだ。

 

「それで当時のその学問の中には、今で言う占いやお祓いなんかも含まれてたの。本来それは、宮中の(みかど)や貴族のために行われてたものなんだけど、江戸時代くらいに民間へと技術の一部、特に占いやお祓いといったものが流出したんだよ」

「つまり黒神流ってのは、その民間に流れた技術を継承している内のひとつって事か」

「うん」

 

短く肯定して頷く神名。

 

「わたしの家は所謂祓い師なんだ。お父さんもお兄ちゃん達も、立派な陰陽師。だけどわたしは、陰陽の技術(わざ)が上手に使えない。わたしにはお祓いなんて出来なかった。だから、わたしだけ家に残されるのなんていつものことだった。

……だけどそんなある日、いつものように家にひとりでいたとき、それは起きたの」

 

その時、今まで沈んだ表情だった神名に、笑みが浮かぶ。

 

「わたしが修練場でひとり術の練習をしていたら、突然目の前が輝きだして、白い翼を生やした女の人が現れたんだ」

「翼を生やした!?」

「それってまるで、天使じゃない!」

 

ミリィの言葉に、神名は笑顔になる。

 

「うん、言ってたよ。『私は天使キャナル』って。

キャナルは異世界の神様に遣える天使で、魔王を倒すための武器を回収するために来たんだって」

「魔王を倒す武器…」

 

やっぱり男の子、「魔王を倒す武器」などという、先程の状況がなければただの胡散臭い話に、好奇心を滲ませた表情で呟く慧。一方のミリィは、当然男のロマンなどわかるはずもなく、ただ疑問に思ったことを神名に尋ねる。

 

「ねえ、どうしてそんな異世界の武器がこの世界にあるのよ?」

「うん…、キャナルの説明だと…」

 

前置きをして神名は語り始めた。

 

「キャナルがいる世界では、漆黒の竜神(ナイト・ドラゴン)[ヴォルフィード]と闇を撒くもの(ダーク・スター)[デュグラディグドゥ]が戦っていたんだって。

闇を撒くもの(ダーク・スター)が望むのは、自分達を含めた統べての存在(もの)を虚無へと還すこと。漆黒の竜神(ナイト・ドラゴン)の望みは世界の存続。

その戦いは、闇を撒くもの(ダーク・スター)の勝利で決着が着いた、はずだった。だけど闇を撒くもの(ダーク・スター)は暴走して、自分を滅ぼせる力を秘めた五つの武器、[瞬撃槍(ラグド・メゼギス)][毒牙爪(ネザード)][烈光の剣(ゴルンノヴァ)][破神槌(ボーディガー)][颶風弓(ガルヴェイラ)]を作って、様々な世界にばら撒いたんだって」

「そのひとつが、この世界に?」

「うん」

 

ミリィの疑問とも確認ともつかない言葉に頷いてから、神名は握ったままの棒、光の刃を生み出した剣の柄を二人に見せる。

 

「これもその武器のひとつ、[烈光の剣(ゴルンノヴァ)]だよ。レプリカだけど」

「レプリカ? そういやさっきのヤツも、そんなこと言ってたな」

 

慧は先程、神名…、いや、キャナルがアレに斬りかかっていったときのことを思い出しながら言った。

 

「本物は、キャナルが持ってるから」

「? キャナルがって、どういうことだ?」

「キャナルはあなたの前に現れたんだよね?」

「……話が、逸れちゃったね」

 

そう言うと、一つだけ、ただし深く息を吐いて、神名は話を続けた。

 

「わたしの前に現れたキャナルは、精神だけの分身みたいなものなんだ」

「分身?」

 

聞き返す慧に、神名は頷く。

 

「こっちの、魔術の世界の常識では、昔の英雄が死後、英霊として座に至るらしいんだけど、その英霊の魂が分身として召喚されたりするんだって。それを説明して聞いてみたら、それに似たものだって言ってたよ。向こうのキャナルは生きてるみたいだけど」

「な、なるほど?」

「ちょっと難しいけど、なんとか理解したわ」

 

頭を抱えながら応える二人。名誉のために記すが、二人とも学校の成績はそれなりに良い。ただしあくまで小学生。思考も、知識も。どこぞの、サブカルチャーに精通した銀髪ハーフ(イリヤ)の様にはいかないのだ。

因みに英霊の座には時間の概念がないので、必ずしも昔とは限らないのだが、ここでの説明においてはなんの問題もないことである。

 

「キャナルの分身は、本体が持つ[烈光の剣(ゴルンノヴァ)]の、そのレプリカを持ってこっちに来たんだ。闇を撒くもの(ダーク・スター)の部下、魔族も同じくこっちに来てる可能性があったから。……でも」

「でも?」

 

聞き返す慧。

 

「精神だけの状態だと、物質世界ではその存在をいつまでも保ってられないんだって。だから何か依り代が必要だったんだ。

……だから、わたしの身体を貸してあげたの」

「つまり、あなたの身体の中に[キャナル]がいるって事?」

「うん」

 

神名はこくりと頷いた。

 

(……寄生虫?)

 

かなり失礼なことを思う慧。そんな事は露とも知らず、神名は話を続ける。

 

「それに対して魔族は精神生命体で、精神世界面に実体があるから、ある程度の力がある魔族は物質世界でも存在を保ってられるんだって」

 

言ってしまえば、魔族は自力で第三魔法・魂の物質化が出来てしまうのだ。

 

「そんな魔族を攻撃するには、精神に直接ダメージを与えるしかないんだ。それが出来るのが、青川くんが今持ってる黒鍵とこのエアガン、そして[烈光の剣(ゴルンノヴァ)]のレプリカだよ」

「ああ、そうだ。エアガンと[烈光の剣(ゴルンノヴァ)]の説明は聞いたけど、()()()については聞いてなかったな。それで、こいつは一体なんだ?」

 

慧は手に持ったそれを、ゆらゆらと振りながら尋ねる。

 

「それは黒鍵って言って、聖堂教会の代行者、……教義に大きく反する存在を始末する人達が好んで使う武器だよ」

「……なんか今、物凄く物騒な言葉が聞こえた気がするんだけど」

「言うなミリィ。俺も思ったけど、ここは聞き流すんだ」

 

少なくとも、そっち方面に深入りしないのは正解である。

 

「えっと、黒鍵に魔力を込めると刃が出来るんだけど、キャナルが黒鍵を改良して、精神力で刃が出来るようにしたんだ。[烈光の剣(ゴルンノヴァ)]のレプリカを造ったときの応用だって」

「なんか天使って凄いわね」

「と言うより、異世界技術がすげぇ」

 

どこぞの異世界転生者も黒鍵を改良していたので、慧の意見もあながち間違ってはいない。

 

「キャナルは、[烈光の剣(ゴルンノヴァ)]と改造した黒鍵、エアガンを持って、毎日この冬木市で闇を撒くもの(ダーク・スター)の武器を探してて、そして今日、あの魔族とあなた達ふたりに会ったんだ」

「そうだったんだ」

 

紆余曲折しながらの説明に、ミリィはようやく、納得したと頷いた。

 

「だから、わたしは…」

「ああ、やっぱり黒神のお陰だな!」

「……え?」

 

慧の力強い言葉に、神名は驚き、目をしばたかせる。

 

「だって、黒神がキャナルに身体を貸してやったから、キャナルは存在していられるんだろ? そしてそのお陰で俺達は、あの魔族から助けられたんだ」

「そうね。確かに助けてくれたのは、キャナルかも知れない。でも、そのキャナルを助けてるのは黒神さんよ? だからやっぱり、黒神さんのお陰でもあるわ」

「あ…」

 

ふたりがかけてくれた言葉に、神名は感極まり泣き出してしまうのだった。

 

 

 

 

 

その後別れ際に、護身用にと慧に黒鍵、ミリィにエアガンを渡されて今に至っている。

 

(魔族に、魔王の武器かぁ…)

 

未だに信じ難いものの、魔族の手が自分の頭の上に置かれた感触は、今でもはっきりと憶えている。

 

「どうしたの、ミリィ。難しい顔して。愛しの青川くんにフラれちゃった?」

 

物思いに耽るミリィに、リナが声をかけた。しっかり弄ってくることを忘れない辺りがリナらしい。

 

「別にそんなんじゃないわよ。リナこそイリヤのお兄さんとは上手くいってるの?」

 

別に何か知っているわけでもなく、ただ、言われっぱなしが嫌だったので、たまに話に挙がるイリヤの兄を引き合いに出しただけだった。

 

「…………は? なんでそこで士郎さんが出てくんの?」

 

妙な間を開けて聞き返すリナ。頭と口が回るリナらしからぬ、微妙な間。しかし浮かべているその表情は、本当に心当たりがない様にしか見えない。

 

(あれ? もしかして、本当に…? しかもリナ自身は自覚してない?)

 

思わずニンマリと笑うミリィ。

 

「ちょっと、どうしたのよミリィ!?」

「んーん、別にぃ?」

 

からかいポイント発見、と内心でガッツポーズしているミリィだった。

 

 

 

 

 

放課後。慧とともに校門に差しかかると、そこには。

 

「青川くん、星見さん」

「「黒神」さん」

 

神名が門柱に背を預けて待ち構えていた。その衣装は、穂群原小の制服姿である。

 

「……当たり前っちゃ当たり前だけど、やっぱり穂群原小(ここ)の生徒だったんだな」

 

慧の問いに、こくりと頷く神名。

 

「改めまして、穂群原小学校5年2組の黒神神名です」

 

改めての自己紹介をし、ぺこりとお辞儀をする。

 

「……それで黒神さん、何か用事なの?」

 

ミリィが尋ねると、神名は再び頷き返す。

 

「キャナルが、しばらくの間は家の中でも、武器を肌身離さず携帯するようにって。魔ぞ…、アレは空間を渡って、どこにでも現れるから」

 

そう注意を促され、思わず自分の鞄に意識が行くふたり。

 

「うん。わかっ…」

 

そしてミリィが応えきる前に。

 

「あら、ミリィじゃない」

 

後ろから声をかけられ振り向くと、そこには三人の少女がいた。

 

「クロ、イリヤ、美遊…」

 

横文字苗字の三人だ。声をかけたのはクロこと、クロエ・フォン・アインツベルンだった。

 

「ミリィはアオガワくんと下校イベント中?」

 

イリヤこと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンがニヤニヤしながら尋ねる。どうやら昨日リナが言っていた「クラスのみんなには筒抜け」と言うのも、あながち間違ってはいないみたいだ。もっとも、ミリィは別に慧と付き合ってるわけではない。将来的にはわからないが。

 

「イリヤ、下校イベントって何?」

 

美遊・エーデルフェルトの疑問に、イリヤは有りもしない眼鏡をくいっと上げる仕草をして説明を始めた。

 

「下校イベントとは、男女ふたりで帰宅すること。それはギャルゲーにおける、お互いの仲を親密なものにするための、重要なイベントのひとつ。

①下校イベント!!

②連絡先の交換!!

③デート!!

④女子からの下校イベント!!

⑤ ③④の繰り返し!!

こうやって恋愛は高まっていくものなの!! ゲームでは!!」

「あなたはどこの落とし神よ?」

 

呆れ顔でツッコミを入れるクロエ。

 

「大体、連絡先の交換も何も、わたしと慧は親戚なんだから、元から連絡先知ってるし。二番目で破綻してるわよ」

 

ミリィ自身も冷静に突っ込む。と、そこへ。

 

「あの、青川くんと星見さんって、お付き合いしてるの?」

 

神名が興味半分、驚き半分で尋ねてきた。

 

「いや、親戚同士で仲が良いから、周りがそんな事言ってくるだけだって」

「ホント。なんでみんな、くっつけたがるのかしら?」

 

と言いつつも、あっけらかんと答えた慧にモヤモヤを募らせるミリィである。

 

「……それじゃ、わたしでも」

 

ぼそりと呟く神名。若干意識が内にいっていた為に聞き逃したミリィだが、耳聡い銀髪擬似姉妹は聞き逃さなかった。

 

「ところで、貴女はどちらさんかしら?」

「アオガワくんのお友達?」

 

神名に詰め寄るクロエとイリヤ。ミリィではなく、慧の名前を出す辺りがミソである。あからさまでもあるが。

その勢いに押されて、神名は門柱にピッタリと背中を預ける。

 

「あ、あの、わたし、黒神神名って…、!?」

「ええっ!? 『黒神』って、黒神めだかと同じ『黒神』!?」

「え、黒神めだかって…?」

 

イリヤのオタク発言大爆発である。残念ながら神名は、【めだかボックス】を知らなかったみたいだが。

 

「ほら、ふたりとも。黒神さんはちょっと内気だから、あまり捲したてないで」

 

見かねたミリィが止めに入ると、ふたりは「ちぇーっ」と言いながらも引き下がる。

 

「美遊、ふたりの監視、お願い」

「わかった」

「「美遊ううう!?」」

 

美遊の対応にショックを受けるイリクロだった。

 

 

 

 

 

じゃあ、と三人が去っていった、その後。

 

「あの、青川くん、星見さん、ちょっと…」

 

神名は声をかけて歩き出す。ふたりは訳もわからず着いていくと、昨日の公園までやってきた。

神名は辺りを見渡し、他に誰もいないのを確認すると、黒い髪がすうっと銀髪に変わる。

 

「……キャナルか?」

「はい」

 

慧の問いに、キャナルが頷いた。

 

「わざわざキャナルが出てくるなんて、何かあったの?」

「何か、と言うか、私と神名が気になったことがあります」

 

どちらか片方ではなく、ふたりが気になったと聞いて、少し緊張する慧とミリィ。

 

「先程の、小麦色の肌の少女は何者ですか?」

「うん? クロの事? クロエ・フォン・アインツベルンって名前のクラスメイト。イリヤ…、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンっていう一緒にいた、顔がそっくりで色白の子と従妹同士って話だけど」

 

ミリィの説明に、キャナルは軽く曲げた人差し指を顎に添えて考え込み、そして。

 

「おそらくそれは、作り話ですね」

「「えっ!?」」

 

キャナルの発言にふたりが驚いた。

 

「彼女、クロエさんからは、私に…、いえ、むしろ魔族に似たものを感じました」

「「魔族!?」」

 

更に驚くふたり。

それ程親しいわけではないが、それでも曲がり形にもクラスメイト。魔族扱いするキャナルを、ミリィは恨みがましく睨む。

 

「……別に、彼女が魔族だと言っているわけではありませんよ。ただ、あの身体は本物の肉体ではないように思えます。それこそ魔族のように、精神を物質化している、そんな感じがするのです」

「精神の、物質化…」

 

予想外の事に、今度は戸惑うミリィ。

 

「で、結局どうすりゃいいんだ?」

「どうもしません。クロエさんが物質化した精神体というのは、あくまで私と神名の推測に過ぎませんから。

ただ、クロエさんがどのような存在かわからない今、もしもの時の為にも知っておいて貰いたかったのです」

「……そっか。心配してくれたんだ。

そうだね。知り合いを疑いたくはないけど、念のため注意しとくわ」

 

 

キャナルに感謝をし、でも、と思う。

 

(もしもクロがキャナルの言うとおりだったら、イリヤも何か関わってるって事?)

 

イリヤにまで疑念が浮かび、自己嫌悪するミリィだった。




この作品のイリヤは、自分が神のみが好きなせいもあって、神のみが好きです。

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