というわけで期間が空いたので初投稿です。
こんにちは、皆さん。ポケモントレーナーのミョンです。忘れている方もいると思いますが、僕の名前はミョンです。久しぶりです。
さて、現在僕たちはオーカさんを先頭に、この森を抜けるべく歩いている。ちなみにオーカさんは若干涙目だ。オカルト関連で森に入るのは特に何も感じないけれど、そこに生息する虫ポケモンはどうにも苦手らしく、先ほどから草むらが揺れる度に小動物みたく震えている。
確かに巨大な虫が襲いかかってきたら死ぬほど驚くし、嫌悪感で気絶してしまうかもしれないけど、それはあくまで本物の虫だった場合だ。
……コロリ、と何かがオーカさんの足元へ転がってきた。
「ヒェッ、む、むむむむ虫ィ⁉︎」
「…………」
草むらから転がってきたのは、一匹のトランセルだった。
「大丈夫ですよ、オーカさん。ただのトランセルです」
僕が抱えて見せてあげるとオーカさんは飛び上がり、ポケモン顔負けの素早さで後退りした。
「その子も虫ポケモンじゃないですか‼︎」
「じゃあお尋ねしますけど、虫ポケモンの何が嫌なんですか?」
「あ、あああ脚がたくさんあるところですぅっ!」
「それなら大丈夫ですね。見ての通りトランセルに脚はありませんし、活発に動き回ることもないのでオーカさんに襲いかかることもありません」
「へ? そうなんですか……?」
オーカさんの身体の震えが少し弱まった気がする。畳みかけるなら今しかない。
「ほら、一度抱っこしてみてはいかがですか? 案外可愛いもんですよ?」
実際、僕もリアルな虫は拒絶反応が出てしまうくらい苦手だが、この子達はポケモンであると思うと存外可愛く見えてくる。それに、僕はトランセルが地味に好きなのだ。不動の姿勢がカッコいいと思う。
「う、う〜ん。じゃあちょっとだけ、だ、抱いてみようかなぁ……なんて」
「はい、どうぞ」
腕の中にいたトランセルをオーカさんに渡すと、恐る恐るといった様子で抱っこした。
「あっ、なんか可愛く見えてきたかも……」
「でしょ? どうせならゲットします?」
「いやゲットは勘弁してくださいお願いします」
……ものすごい早口で拒否されてしまった。野生のトランセルさんも若干涙目である。
「まあ、ゲットするかしないかは人それぞれですし、今回は虫ポケモンの可愛さを多少なりとも知ってもらえてよかったです」
「はいっ、ありがとうございま——」
——それは突然であった。
「頭の上に何か落ちてきて…………ヒェッ」
オーカさんの頭の上に落ちてきたのは、よりにもよってキャタピーだった。しかし、小さな悲鳴を上げたところでオーカさんは微動だにしない。
「あの、オーカさん? ……あれ、もしかして失神してる……?」
オーカさんは立ったまま意識を手放していた。
——弁慶のお知り合いかな?
失神したオーカさんを背負って移動しようにも道を知っているのは彼女だけだということを思い出し、とりあえず抱えて移動し、なんとか近くの木の幹に寄りかからせた。
メロンのような胸を有し、全身むちむちで大抵の異性なら興奮待ったなしの肉体は見た目より軽く、抱えにくいこと以外は苦労しなかった。……本当に、どうして意識の無い生物ってこんなに抱えにくいのか。
僕の傍にはいつの間にかエーフィが澄まし顔で座っており、かと思えば僕と目が合った途端、プイッと顔を背けてしまった。何か彼女が嫌がることでもしてしまったのだろうか。
「えっと、どうしたの? 僕が何かしちゃったのなら謝るからさ、何が悪かったのか教えて欲しいな」
しばらく僕とエーフィの間に静寂が漂う。——が、その空気を破ったのはエーフィだった。
「……ェフィー」
一つ溜め息を吐き出した後、呆れたような表情で僕を見つめ、次いで彼女はオーカさんのことを顎でしゃくった。
「えーっと、つまり……?」
「フィー、エーフィ」
「ふむふむ、なるほど……」
……エーフィ曰く、あなたがこんな駄目な人間に惚れてしまわないか心配だ、ということらしい。しかも、それはあなたの為ではなくあくまでもあなたと旅をする私たちの為だと言っているようだ。うーん、このツンデレ感。どうやらオーカさんに大好きな僕を取られるのではと心配していたっぽい。
「大丈夫、僕が心から愛しているのは君たちだけだから。それにここだけの話、僕はコミュ障で人見知りだから他人が好きじゃない。だけど利用出来るものは利用するってだけ。だから心配しないで」
そう言っていつも通り頭を撫でてやると、エーフィは渋々といった様子で撫でられてくれた。でも目を細めて喜んでいるのは明らかなので、僕としては嬉しい限りだ。
☆☆☆
数分もすればオーカさんも目覚め、僕たちは改めて森の中を進み、ようやく森を抜けた頃には夕方になっていた。
「ありがとう、オーカさん。あなたは間違いなく僕たちの命の恩人です」
夕陽に照らされながら僕はオーカさんにお礼を述べた。うちの子たちは誰も森を出る手伝いをしてくれなかったので本当にありがたかった。…………いや、まあ、森だから視界が悪く、多少激しくイチャイチャしてたところでバレないという利点を理解していたから手伝ってくれなかったのは知っている。けれど、彼女たちは木の実だけでも充分満足出来るだろうが僕は違うのだ。パンだってシチューだって食べたい。人間は欲望に忠実なのだよ。
「ひゃいっ、い、いえいえ! あの森は比較的小さな森だったので……」
「そうだったんですか? まあ、そうだとしても感謝しています。そういえばオーカさんはもっと先の町に住んでいるんですよね。なら、ここでお別れですよね」
「そ、そうですね………………ぁ、あのっ!」
「はい、どうしました?」
オーカさんは意を決したように真剣な表情で凝視してきた。往々にして引きこもりとは他者との会話に不慣れで、いざ人間を目の前にすると焦って突飛なことを口走るものである。この引きこもりは一体どんな奇天烈なことを言い出すのだろうか。
「れ、連絡先を交換しませんか……?」
「……連絡先、ですか」
どんな面白いことを言うのかと思って期待していたのに……。
ちょっとがっかりしていると、それを嫌悪と捉えたらしいオーカさんが泣きそうな顔で頻りに頭を下げる。
「しゅ、しゅみましぇん……っ! 嫌ですよねっ、こんな無職の喪女と連絡先を交換するなんてッ!」
「いやその身体で喪女は無理があるでしょ」
「へ……⁉︎」
おっと、つい思ったことが口に出てしまった。
「なんでもないですよ」
「さ、さすがに無理があると思いましゅ……」
顔をマトマのみより真っ赤にしたオーカさんが咎めるように僕を軽く睨み、自身の身体を抱いて後退る。
「それでは、またどこかで会いましょう」
「連絡先の交換は⁉︎ してくれないんですか⁉︎」
「だって面倒そ——連絡無しに偶然会う方が運命的だと思いませんか?」
「先ほどから本音がダダ漏れですよ⁉︎」
「良いツッコミです。お笑い芸人になれますね。これで晴れて無職脱却ですよ」
「お笑い芸人なんて私には無理です! 人を笑わせる才能なんてありません!」
「僕は才能なんて言葉が大嫌いだ! 見えないところで頑張る人の努力を無かったことにするなんて許さない!」
「どういうノリですか⁉︎」
「オーカさんはツッコミ名人ですね。憧れます」
「そちらは今までの物静かな青年像をぶち壊すようなボケを連続しますね⁉︎ 別に憧れませんけどね!」
「はっはっは! 照れるな照れるな! しょうがないから僕がコンビを組んであげますよ!」
「どんだけ私をお笑い芸人に仕立て上げたいんですか⁉︎」
互いに息を切らして肩を上下する。プフッとどちらともなく吹き出し、哄笑が辺りに響いた。
「——ふぅ、随分と笑いましたね」
「ふ、ふふっ、そうですね」
「じゃあ連絡先を教えますね」
「ほ、本当ですか?」
「はい、本当ですよ」
「ありがとうごさいますっ!」
オーカさんと互いの連絡先を交換し、僕たちは今度こそ本当の別れの時を迎えた。
「オーカさん、やっぱりあなたはお笑い芸人に向いていると思いますよ?」
「まだ言うんですか⁉︎」
オーカさんは最後に盛大なツッコミをして、僕の姿が見えなくなるまで何度も振り返っては手を振っていた。
さて、自称喪女さんもすっかり見えなくなったので僕たちの旅を再開しようかな。
——僕たちの旅はこれからだ!(漂う打ち切り臭)