嘘つき探偵と幻想郷   作:kohet(旧名コヘヘ)

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帝釈天の化身

永遠亭で永琳との会話が終わった。

オオスは輝夜との約束は一先ず置いておいて鈴瑚達の様子を見に行った。

鈴仙はオオスと入れ替わりで永琳達の下へ向かって行った。

 

そこにはオオス達しかいなかった。

そこでオオスは鈴瑚から思わぬことを言われた。

 

「閣下は人里を、私達を使って統治しようとは思わないのですか?」

鈴瑚は純粋な疑問のようにオオスへ言った。

 

オオスは周囲に誰もいないことを再度確認した。てゐも含めていないとほぼ断言出来た。

…この際だから彼女達にオオスの基本方針を示そうと思った。

 

「思わない」

オオスは断言した。

 

「私が思うに人里を善くするのには、一番私人が適しているんですよ」

オオスはそう言って私人として動くことを宣言した。

 

…オオスが紙芝居屋をやるのもその一環だった。

 

だが、

「…何故でしょうか?」

鈴瑚は何故かオオスに食い下がる。

まるでオオスに上に立って欲しいと言わんばかりだった。

 

「辞めなよ。鈴瑚」

清蘭は鈴瑚を窘める。だが、オオスは気が付いた。…清蘭も疑問に思っていた。

 

…オオスはこれを放置するのは不味いと今のうちに意地の悪いことを言うことにした。

 

「いや、この際だから私が何故人里を統治しようと思わないのか言おう」

オオスは自身の行動の前提条件が変わっているのを鈴瑚が理解していると確信した。

 

これはイーグルラヴィの中で情報管理という役職の鈴瑚だからこその視点だ。

要するにオオスには武力がないから人里を統治しなかったと鈴瑚は思っているのだ。

武力があれば、妖怪にも対抗できる。…オオスの裁量次第で統治は確かに可能かもしれない。

 

「鈴瑚は自分達という武力を手に入れたから利用すれば可能だと言いたいのでしょう?」

オオスは鈴瑚の目を見て問いかけていた。

オオスはそれを確信している。だが、これから話すことの内容如何に関わることだ。

…念には念を入れて確認をしていた。

 

「…はい」

鈴瑚はオオスの問に同意した。…その目は純粋な善意だった。

 

「なるほど…」

オオスはどういったものか悩み、そして決めた。

 

オオスが沈黙で返すことは簡単だ。

だが、戦闘のエキスパートである彼女達を軽んじているように取られるかもしれない。

オオスは自身の考えの一端を述べることにした。

 

「この場合の統治とは、統治者が欲望に左右される人間の行動と心理を読み切らなければならない」

オオスは淡々と鈴瑚達へ説明する。理解されなくても良い。

…オオスは自分の考えをそのまま言葉にしていった。

 

「統治とは、一種の欲望計算です」

オオスは残酷なまでの真実を述べた。オオスからすればこれは風情がない。

 

「善き人の善き統治者はいません。私が断言します」

オオスは鈴瑚の幻想を壊すようなことを言った。

 

「情けない話ですが少なくとも私は貴方の望む善き統治者にはなれないでしょう」

オオスは断言できた。…オオスが統治者になればそうなってしまう。

 

「そ、そんなことはありません!」

清蘭が何故かオオスにそう言ってきた。

…何故か微妙に気になる反応だった。だが、オオスは言葉を続けることにした。

 

「宗教や道徳等の一切の伝統的価値は統治という計算に利用される変数にすぎない」

オオスは淡々と善き統治者の意味するところを語る。…全て計算なのだ。

 

「その統治での人間観は私の在り方とは相反します」

オオスはそう鈴瑚達へ自分の在り方を言わないでそう述べた。

 

「私は計算も計略もできるでしょう」

オオスは鈴瑚の見立ては正しいと同意した。

 

「鈴瑚の情報把握は正しいです」

敢えてオオスは言葉に出して言った。

彼女達から失望されようが言い切る必要があるからだ。

 

「だけど、それはもう私ではなくなる」

オオスは自らの我満で統治等しないと断言した。

 

「…」

鈴瑚達は黙り込んだ。

オオスは二人の意図が読み取れないが、やはりオオスへ失望したのかもしれない。

 

それはそれで仕方がないとオオスは言葉を続ける。

 

「統治者の中での『人』は邪悪そのものだ」

オオスは統治者として相応しい考えを述べた。

オオスはそういう存在に成りたくないと言外に言う。

 

「生得の性向に流されやすく、目前の利害に左右され、現実を享受する以外になんの望まない実に単純な生き物となってしまう」

オオスは統治者としての人、民衆を淡々と述べた。

 

「民衆は、頭をなでるか、消してしまうかという賞罰で操れてしまう」

オオスはそう断言した。それならばオオスでも統治可能だからだ。

 

「私なら可能だと思ったのかもしれませんが、やりたくないんです」

オオスは鈴瑚に再度言い聞かせるように自らの我儘を言った。

 

「…だって、そうしたら私は貴方達まで利用する駒として見なければならなくなってしまう」

オオスは断言できた。だから、何も偽ることなく二人へ述べた。

 

だが、鈴瑚達へそう言いつつも、オオスは一時的に彼女達を利用することはあるだろう。

これは詭弁だとオオスは思った。

 

「それなら別に構いません!」

鈴瑚はなおも食い下がる。そして、何故か清蘭も頷いていた。

…オオスは本当に彼女達の反応がわからないので困惑した。

 

「…統治者というのは悪でなければならない。私はそれが嫌なんです」

オオスは改めて宣言した。自分の我儘でしないのだと何度でも強調した。

 

「彼の聖徳太子も私から言わせれば極悪人だ」

オオスは暴言を吐いた。

オオスは有名な統治者の一人を挙げる。…オオスからして怪しい人物だ。

民衆を導く以前にやる気があったかも怪しい仏教を広めた。

 

オオスからすれば聖徳太子は私欲で戦争を起こした大罪人だ。

…もし彼が現れたのならばオオスはその力を問答無用で無効化できるだろう。

 

「もし、彼が復活して人里を統治する等と言い出したら私はそれを許さないでしょう」

オオスは話を打ち切ることにした。これ以上、その誘惑に駆られたくはなかった。

 

だが、

「私が権力を握り、幻想郷を支配する等風情が無さ過ぎる」

オオスは思わず呟いてしまった。打ち切ろうとした言の葉を続けることにした。

 

「…貴方達は私に月の民のようになれというのですか?」

オオスは鈴瑚にそう言った。…オオスは彼女へ意地悪なことを言った。

 

「それは…」

鈴瑚は顔を蒼白にして黙り込んだ。清蘭もである。

…オオスは言い過ぎたと反省した。

 

「気にしなくて良いんです。…私のためを思って言ってくれたのでしょう?」

オオスは二人へ優しく声をかけた。

 

…彼女達なりにオオスの力になりたかったのだとは理解していた。

それが暴力を伴うだけであり、善意であった。

 

「それならば何故、怒ることがありましょう」

オオスは二人へ怒っていないことを強調した。

…寧ろ人気がなければ聞いて貰って構わない。

 

「私は確かに人々を救いたい。…統治者もその方法ではある」

オオスは鈴瑚達へ言った。…在り方が違うだけで望みはあまり変わらない。

 

「…この話は以上です」

オオスは話を打ち切った。

 

「すみませんが、これ以上待たせると我儘なお姫様が癇癪を起しそうなのです」

オオスはそう言うと踵を返して、いそいそと輝夜の下へ向かった。

…鈴瑚達の反応が気になるが、約束は約束だった。

 

 

 

オオスがいなくなり、鈴瑚と清蘭は二人で沈黙していた。

 

そして、

「…閣下は私達が思っているよりも遥かに慈悲深いお方だったわ」

鈴瑚は泣いていた。これほど自分達のことを思ってくれた人がいたであろうかと涙した。

 

「…ああ、そうだね」

清蘭は鈴瑚に心から同意した。オオスの言葉を他のイーグルラヴィの玉兎達にも伝える必要があると清蘭は確信した。

 

 

…オオスは相変わらず客観視が足りていなかった。

オオスは信仰や神を唾棄している。

だが、その言動と行動、在り方は誰の目から見ても『神』そのものであった。

 

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