今更な話ではあるが、オオスは金持ちである。
紙芝居屋の副業として文筆業に霧雨商店からの美術修復家、妖怪達との取引に、人が近寄れない危険地帯の珍しい物品、最近では永遠亭の薬草を売る等々。…無駄に金があった。
そんなオオスが自宅付近の土地を買いたいと言っても不思議ではない。
しかし、そこは様々な土地の所有者がいた。
大概持て余しているのでオオスが買いたいと言えば二束三文で売るような土地である。
だが、所有権が相続の関係で曖昧になり、誰が所有者かそもそもわからない土地もあった。
そのため、オオスは自宅の地下を改造していた。土地を買うよりも面倒がなくて良いからだ。
核融合炉や自作のスーパーコンピュータ等が設置されており、最早中々引っ越せない。
オオスの自宅は人里から離れた一軒家である。
人里から離れた土地ということもあり大きい土地とそこそこ大きい家である。
具体的な場所は人里から見て妖怪の山の反対にあった。魔法の森に近くにあり、しばらく歩くと川があり、そこを過ぎれば人里である。
要するにオオスの家の周囲には人気がない。だから射命丸文もお構いなしに全力でオオス家に突撃したりできるのだ。
話は変わるが妖怪の山は聖域である。超自然の妖怪達が人間の侵入を拒み、里の人間にとって異世界、立ち入っていけないという場所、聖域となっていた。
守矢神社の立地は人の参拝という面では最悪だが、信仰という意味では霊験ある場所に存在した。
オオスの家も冬を一瞬で春にし、犯罪を行えば謎の磔、泥棒は地の底まで追いかけるオオスという謎の生命体が住んでいた。当然人気もない。
…実は自宅の周りも聖域となっているが、その事実をオオスは知らない。
今回、オオスは冬にある物を盗んでくると阿求へ言った。そして、土地の買収を厄流し祭の時に阿求から報告を受けていた。
稗田家の力のゴリ押しでオオスは自宅周辺の土地を買い占めたのだ。
そして、塩屋敷の主人の一件である。塩はどこから持ってくるのか。
…オオスは端的に言うと海を自宅周辺に創造した。
八雲紫と別れ、月の賢者の稀神サグメのお宅訪問を済ませた翌日の朝。
オオスの自宅周辺は広大な湖へと変貌していた。
まるで鬼が年単位で掘り進めたかのように底が深い塩湖である。
オオスはそれを気にもせずに自分剣、春の剣春季光星で海の気候を冬から春の温暖なものへ変えた。
そして、妖精達がオオスの招きに答えて続々集まって来た。
「どうも妖精さん達見事でしょう?前々から言っていたでしょう?…これが海ですよ」
オオスは妖精達へ自作の海を指し示して言った。
…オオスは彼女達に海を見せると約束し、この日に遊びに来るように誘っていたのだ。
「霧の湖程ではないけど広いな」
チルノが率直な感想を言った。
「どこかから持って来たと言ってたからこれくらいの大きさなのかもね」
サニーミルクはそう言いつつも海に興味深々だった。
「これ持って来たとかそういうレベルではないんじゃあ…」
スターサファイアは大きすぎることに思わずツッコみを入れた。
持ってくるとかそういう次元ではなかった。
「考えるだけ無駄よ」
ルナチャイルドは自身の持つ知識から妖精だろうがオオスへツッコんだら負けだと理解していた。
「しょっぱいわこれ」「川みたいだけど何もいないね」「紙芝居だと昆布とかあったよね」
妖精達はそれぞれオオスの海について感想を述べた。
「海水しか持って来られなかったので何も住んでいないんです」
オオスはそう言って嘆かわしいという表情をした。
…オオスは事前に海について妖精達に様々なことを吹き込んでいた。
「ちょっと寂しいのですが、何か生やしたりできないものですかね?」
オオスは妖精達に菓子を取り出して何でもないように言った。
妖精達は菓子を食べながら思い思い感想を口にしていた。大概は海に驚いた反応だった。
だが、
「…ここまで何もいないと寂しいよな」
チルノは海の閑散具合に呟いた。
「竜宮城のタイやヒラメが舞い踊りも期待できないわね」
サニーはオオスの紙芝居を思い出して呟いた。海の話であれは面白かった。
「紙芝居を元に演劇してみましょうか?」
スターはそう提案した。取り敢えずあるもので楽しもうという妖精の発想だった。
「良いね」「私、昆布の役やるわ」「花咲か爺さんみたいにぱぁっとできないかな」
妖精達は思い思い自由気ままにオオスの作った海で遊ぶことにした。
オオスはそれを微笑ましく眺めていた。
オオスは妖精の持つ自然な生命の力に期待していた。
生命とはオオスに取っては全ての源であり、月の民に取っては穢れとなるものだ。
だから、月の海には何もない。オオスはそれを悲しく思った。
そんなオオスの内心等知らない妖精達は無邪気に遊んでいた。
…早速何かが生えて来た。それはオオスもわからない未知の植物だった。
塩に耐性があることは間違いない。海で生えて来た謎の植物だ。
ここは勇儀の力で間接的に掘り下げた地である。
衝撃は月へ送った。それが地震となった。
力はオオス家の周辺に分け、押しつぶすような形で塩湖を形成していた。
だから、何もないわけではない。海の底には植物の痕跡がある。
…だと言ってもこれ程規格外の成長とはオオスも思わなかった。
春季光星で後押ししているとはいえ、妖精の滅茶苦茶さを目撃したオオスは唖然とした。
…オオスは前に花咲かじいさんを妖精達に演劇指導したら本当に桜が咲いたことがあった。
冬に近く、オオスも何もしていないに桜が咲いた。
それに近いものを期待して妖精達を招いたのだが想定外の早さである。
妖精は興奮すると植物を一気に成長させたりする。酒によって自宅を植物に覆われて出れなくなった等偶にある。
成果に喜んだ妖精達は遊びまわってドンドン成長させたりして自由に遊びまわっていた。
オオスはそれを微笑ましく見ていて、妖精達が遊び疲れたら飲み物やお菓子をあげていた。
「今日は私が海を作った記念日なのでサービスです。気にせず食べてください」
オオスはそう妖精達に言った。オオスは誰かに見てもらいたかったのだ。喜んで欲しかった。
妖精達は無邪気にオオスの差し出したお菓子を食べて休憩したらまた遊んでいった。
謎の植物は勿論、何故か海藻まで生えたりしていた。…オオスとしても非常に興味深い。
その日、オオスは微笑ましい妖精達の遊びに付き合っていた。
妖精達は日が暮れるまで遊んで帰って行った。
妖精達へいつでも遊びに来るように言って、オオスは彼女達を見守っていった。
オオスは月の民に海割りの異変で気を取らせ、月から莫大な量の海水を盗んできた。
それでも月の海はまだまだ満ちていた。
…オオスが多少盗んだところで変化は気が付かれないと確信していた。
オオスは何かあればこの海を月へ逃がしてあげようと考えていた。
…生命の穢れに満ちた海水を月へ返すのだ。
オオスは地獄で採って来た針地獄の針を取り出して一本だけ海に放り込んだ。
何の意味もない行為であるが、オオスは海の生命が増したような気がした。
「誰にも知られず、こっそりと。かつ大胆に隠れない」
オオスは呟いた。…これで終幕であった。
ふと、オオスは妖精達の去った方角を見渡していた。様々な方角へ妖精達は帰って行った。
何せ幻想郷中の妖精達である。魔法の森、迷いの竹林、霧の湖等々。
幻想郷中の至る所、様々なところに住んでいた。…オオスは幻想郷中を見つめていた。
オオスは誰も見ていないのにも関わらず、観客に答えるように優雅な礼をした。
オオスの月面戦争第三幕。最後はオオス一人で幕を閉じた。